3年魏組張遼先生




ドリーム小説
この国の年越しは自分がいた世界とは違ってかなりの盛り上がりのようだ。
念入りに正月の準備が行われており、いったいどんな正月になるのやらとは一人のんびりとしたものだった。

今までのは、暮れになると自分の部屋の大掃除。
親に言われて家中の大掃除、それが終われば家族で正月用の買い物に行ったり
馬鹿馬鹿しすぎるお笑い番組や、恒例の歌番組を見ながら年を越した。

子どもの頃は年を越すというのは、なんだかドキドキする出来事で。
眠いのを我慢して必死で起きていたこともあった。
それも段々と薄れて、今では平気で夜更かしができてしまう。

あぁ、大人になったな自分…となんだか変に感傷にふけってしまう。

さて、先も言ったとおり、今現在は曹操の治める魏にて生活をしている。
正月の準備に忙しい城の者と違っては何もすることがない。
あるとすれば、自分に勉強を教えてくれている張遼の出した課題を解くぐらいなのだが

「やる気にならんしょ?」

と言って、一個も進んでない。
夏と同様、張遼から出された宿題はそこそこあるのだが。
これはまた、あとで一人で慌ててやることになりそうだ。

「……………」

大晦日の晩は特に何も変わった事はなく、はいつも通りに過ごした。
ちょっとこの国の正月がどんな物か楽しみだったので、早く起きるようにと早くに寝てしまった。

だが、日も出ていないような、が今だぐっすりねていた時間。
それは突然、あちこちから鳴り響いた。

パン、パンと破裂する音。
一向に静まることなく鳴り響く。

「な!なに!?え?…?」

あまりの煩さに目が覚め飛び起きる
だが、あたりは暗い。
ほのかに松明に明かりが見えるのだが。

「う、うるさい〜眠たいのに、眠れない〜」

耳を押さえ布団に包まるも、全然効果ない。
その後、多少静かになったものの、賑やかな人の声などでぐっすり眠れなかった。



***



半分、眼が閉じられた状態のまま起き、曹操らに挨拶をする。
朝からお殿様の下には大勢の者が新年の挨拶に来ているようだ。
自分も会う人、会う人と挨拶したり話をする。

徐晃にも会った。

殿」

「あ〜徐晃さん、おめでとうございます〜今年もよろしくお願いします〜」

「拙者の方こそよろしくお願い申す…眠そうでござるな、殿」

「眠いっす〜朝方からうるさくて…こんなに騒がしい物だって知らなくて」

「そうでござったか、今日はもうゆっくり休んだ方がよろしいでござるな」

「できれば、そうしたいです」

それでも徐晃の前で欠伸をしないように我慢したりする。

殿、もう行かれた方がよろしいでござるよ。あちらの方ではすでに宴が始まってすごい騒ぎですから」

「え、もうですか?早いですね…じゃあ、酔っ払いに絡まれたりしないうちに私は退散します」

「気をつけるでござるよ〜」

徐晃に見送られ、は自室へ戻る事にした。
新年の宴じゃ、さぞかし豪華な食事が出るのだろうなと羨ましく思いつつ、今の自分が参加すれば、ちゃんと眠れてない事と、場の雰囲気の所為で妙なテンションになって馬鹿なことをしでかしそうで怖いのだ。
新年早々馬鹿はしたくない。
曹操に挨拶しただけでも十分だろう。

部屋まであと少しの所で物凄い睡魔に襲われた。
人の波から脱出できた開放感のせいだろうか?

「ね、寝ちゃえ…」

その場に座り込んでしまう。
膝を抱えてうずまって寝てしまった。

それから数分後、その場を通りかかったのは、の家庭教師でもある張遼。
新年早々、生徒の意味不明な行動にため息がでる。

殿。どうかされたか?」

「………」

殿?…ね、寝てる」

二、三肩を揺するがは反応しない。

殿、廊下なんぞで寝れば風邪を引きますぞ。と言うよりみっともない」

「………」

「仕方ありませんな。少し失礼しますぞ」

張遼はひょいとを抱き上げる。
部屋に運び、寝台へと寝かせる。

何に疲れて寝ているのやらと張遼は思う。
部屋まであと少しって場所で座り込んでいたのだから。

「…黙っていれば殿も…あ」

の寝顔を見て自分は今何を言おうとしたのか。
気づいて口をふさぐ。
誰かに聞かれてはいないだろうか、内心焦る。

はたまに冗談か、本気かはわからないことを言うから張遼としても対応に困る。
張遼自身は女性の扱いはそこそこだと思う。
一般的に紳士な人なのでちゃんとした線引きはできるのだが、は一般女性とは感覚が違う。
違うと言うか、住んでいた世界の影響なのだろう。
言動や考えている事がこの国の女性と違うので上手く線引きができていないらしい。

ふと、卓に置かれた問題集が目に付いた。
夏同様、休みをくださいなんて言ってきた。
張遼も自分の執務の都合で忙しかったので今回も認めた。
そして、一冊の問題集を与えたのだが…。

「また、殿は…やってないじゃないですか」

夏も溜めすぎて、夏侯惇に手伝わせた。
また今回もそうなるのだろうか?
普段は真面目にやるのに、どうして長い休みを挟むとこうなるのだろうか?

「…私の後任になった方は大変でしょうな」

なにやら意味深な発言をする張遼。

「さて、いつまでもいてもしょうがないですし」

「う〜遼さん?」

部屋を出る前にの方が起きてしまったようだ。

殿、起こしてしまいましたか?」

「あ〜なんで私部屋で寝てたの?…」

軽くまぶたを擦りながらは起き上がる。

「遼さんに運ばせちゃったのかな?新年早々ご迷惑をおかけしました」

「いえ、廊下で寝ていれば風邪を引いてしまうでしょうし」

「うしっ、なんかようやくすっきりしました」

「ようやくとは?」

ぴょんと寝台から降りてくる

「朝方すっごく、うるさかったじゃないですか、あれでゆっくり眠れなかったんですよ」

「あぁ、爆竹ですか」

「まだ日も昇ってないのに〜」

「このあたりの風習では鶏鳴に鳴らすのですよ」

「ん?けいめい?」

「鶏が夜明け前に鳴くことですよ。爆竹は年が改まると鳴らされるのですが
時代によっては平旦(夜明け)夜半(真夜中)と時間帯がそれぞれ違ったのですよ」

「でも、そんな時間帯に鳴らさなくても…昼間ならいいじゃないですか」

殿、別に新年になったから鳴らすって訳じゃないですよ?
ちゃんと意味があるのですからね。それにその時間起きてる人間の方が多いですよ」

「夜明け前ですよ!そんな時間は起きてないです、普通」

「ははは、そうですか」

「何故爆竹を鳴らすかと言うと…」

張遼は途中まで言って止めてしまう。

「どうしました?」

「今日は止めておきましょうか。殿も勉強したくないでしょうし」

「えー、そんなこと無いですよ〜。途中まで言っておいて止められるとなんか気になります」

「では、ご自分で調べると言う事に」

「遼さん!」

早く教えろ〜とはせがむ。
いつもこうならいいのに。

「でも、正月ですよ?ほかに色々楽しんだ方がよいですよ」

「そうなんですけど。私は遼さんのお話聞くの好きですし。ね?早く教えてください」

「では、少しだけお話しましょうか」

張遼は椅子に腰掛ける。
も向かいに座る。

「色々な話があるのですがね…そうですね、では…」

―昔々、ある凶暴な【年】と言う野獣に人々は、つねにおびやかされていた。 
その姿は牛に似て、獅子のように猛々しく、吼えると山も大地も震う。
この獣はいつもは山深くに隠れていて、百獣を捉えて食らっているが、餌の少ない厳寒の頃となると人里に現れ、人や家畜を食らう。
  
ある年の瀬、例年のようにその【年】が現れ一つの村に入ろうとした。その時、たまたま村の一牧童が鞭をもてあそんでいて、パンパンと音がした。その音を聞いた【年】は驚いて逃げた。
また別の村に入ろうとすると、ちょうど干してあったひと張りの紅い衣装が、ヒラヒラと風邪にひるがえった。
これを見た【年】はまた驚いて逃げた。
さらに別の村に入ろうとしたすると、もう日が暮れていて、人家から燈火の光が漏れていた。
二度まで驚いていた【年】はその光にも驚き、とうとう逃げていった。

「人々はそこで【年】が音響と、紅色と、火光とを畏れることを知り、【年】の害を避けるために、門に紅紙を貼り室内に燈燭をともし、門前で爆竹を鳴らすようになったのですよ」 

「へぇ」

「新年を迎えることを【過年】といい、【年を過る(わたる)】【新年に過る(いたる)】と言う意味があり、この【年】の話はそれを【年が過る(さる)】【年をやり過ごす】との意味に置き換えて【年】なる野獣を避ける話としたのですよ」

「なんか急に難しくなりますね」

「紅紙の門飾り、燈燭、爆竹と新年に関わる風習の由来を巧みに織り込んでいるのですよ」

「爆竹かぁ。ただ年が明けたから騒いでいるだけかと思った」

「そう見えてもしょうがないでしょうね。街でもどこでも爆竹は鳴ってますから」

「門飾りかぁ、ウチで言う所のお飾りみたいなものかな」

殿の世界でも様々な風習があるのでしょうね」

「教えてやりたいのですけど、私じゃ簡単なものしか知らないですし」

「たまには貴女から話を聞くというのもいいと思いますが?
わかる範囲でよろしいので、殿の世界での正月を教えてもらえますかな?」

「す、少しだけなら」

はなんとなく赤面してしまう。
張遼とは普段一緒にいることが多いが、授業中は真面目な顔、呆れた顔が多くて穏やかに笑っている顔など滅多に見ない。
笑うってことは良くあるが、笑みにも色々あるだろう。

「あ!そうだ。遼さん街に出てみません?」

「街ですか?」

「正月の風景みたいですし」

「外は相当寒いですよ、平気ですか?」

「平気です。ね、行きましょうよ、遼さん」

「そうですね。街で温かいものでもご馳走しますよ、殿」

「えーいいんですか?遠慮はしませんよ?」

「かまいませんよ。私からのお年玉と言うことで」

「えへへ、今年もよろしくお願いますね、張遼先生」

ニコっと笑んだにつられて、張遼も目を細めて笑う。

「今年は宿題を溜めるようなことはしないでくださいね、殿」

「善処しま〜す」

そして二人で城下に下りて、街の人たちの正月風景を眺めながら一緒にここでのお正月を楽しんだようである。








中国の正月の話。詳しい事は『続・中国の年中行事』と言う本に載ってますよ。
04/01/01
13/04/11再UP