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3年魏組張遼先生
「では、殿。昨日の続きから始めましょうか」 張遼はぺらりと書物を開くが、は開かない。 は手を上げる。 「はーい、先生!提案がありまーす」 「却下です」 「な…まだ何も言ってないじゃないですか、遼さんのいけず」 「あのですね…貴女の場合大抵が授業を潰す様な事なので聞くだけ無駄なのですよ」 「はっ!酷い、酷いです〜いつもはそうかもしれないけど、今日のは違います〜」 少し頬を膨らませながら、バンバンと机を叩く。 仕方ないと言った感じで張遼は息を吐き出す。 「では、なんでしょうか?」 訊ねてくれたのではニコ〜っと笑う。 「あのですね、今日の授業は外でしませんか?」 「は?外…ですか?」 「はい、寒くなってきたましたけど、天気はとってもいいですし、たまには…ね?」 「ふむ…それもいいですね」 「やった〜」 意外にも張遼はの案を受け入れてくれた。 なので、二人は外へと出る。 と言っても、城から出るわけではないが。 「城から出ないんですか?もっと遠くでもいいじゃないですか」 「と申されましても、いきなりの事ですからね。今日は中庭などで十分ですよ。案外いろいろな物が見れるかもしれませんしね」 「ま、いっか」 前もって計画しておけば遠くには行けただろうから。 それはまた別の日にとっておこう。 もそれに納得する。 ちょうど、今の時間は曹操は政務中。 他の武将も執務中か兵士たちの鍛錬の時間。 「どこ行きましょうか?殿」 「え?そうですね、どうしましょうか〜あ…」 「どうしました?」 「ほら、あんな所に菊が咲いてますよ」 中庭にひっそりと菊が咲いていた。 中庭に下りてみて菊のそばによる。 「孟徳様の庭園じゃ見かけないですよね、菊って」 「そうですな…殿の庭園では派手なモノが多いですね」 「………」 「どうしました?」 「思ったのですけど、私のいた所じゃ年中、菊を見かけましたけど…ここじゃ久しぶりって言うか、初めて菊を見た気がしますけど」 は菊の前にしゃがみ込む。 「そうなのですか、菊はこの時期に咲いてるものですよ」 「へぇ…一年中咲いてるものかと」 「それはいくらなんでもないでしょう」 が思うのも無理はない。 が見ていたのは一年中出荷できるようにハウス栽培された物を見ているのだから。 「あ、そっかハウス栽培かぁ」 「?なんですかな?」 「あ、促成栽培って奴です」 「はぁ。殿のいた世界は色々進んでいるのですな」 「まぁそうですけど…私はこっちの世界も好きですよ?」 「それは良かった」 二人は互いに笑む。 張遼もの隣で少し屈んだ。 「では、ちょうど良いので菊について学びましょうか?」 「菊ですか?…はい」 「9月9日は菊の節句なのですよ」 「菊の節句?初めて聞きましたよ」 「重陽の節句と言った方がいいですね。陰陽思想では、偶数を陰、奇数を陽とします」 中国の陰陽思想では、偶数を陰、奇数を陽とします。 『9』は奇数数字の中で最高に良い数字とされ、その数字が重なる9月9日を『重陽』と言いめでたい日となるのです。 「五節句のうちでも特に重要とされているのですよ」 「はぁ、知らなかった」 「殿、五節句はご存知ですか?」 「え…さっき言った重陽の節句…桃の節句、端午の節句とか?」 「なぜ、疑問系なのですか」 張遼は苦笑してしまう。 「後の二つはなんですかな?」 「え…わかりません」 「1月7日の人日の節句に7月7日の七夕の節句ですよ。七夕はご存知でしょう?」 あの日、殿は大騒ぎでしたから。 などと張遼は言う。 確かに、笹の葉がどうとか騒いでいた。 「あ、えっと、じゃあその重陽の節句には何をするんですか?」 「良い質問ですね。茱萸(しゅゆ)を袋に入れて登高したり、菊の香りを移した菊酒を飲んだりして邪気を払い長命を願うのですよ」 「登高?」 「山や丘、高い建造物に登ることですよ」 菊酒と聞いて、真っ先に脳裏に浮かんだのは夏侯惇と夏侯淵。 今思えば、先日何とかの酒でどうとかと言いながら、二人が飲んでいたなと思い出す。 あの日が重陽の節句か? 茱萸を袋に入れて山登りで、徐晃が浮かんだ。 修行の一つとかでやっていそうだよなぁ…山登りではなく崖なんかを登ってそうだ。 張遼は…。 「静かに菊酒飲んでそうだよね、あ、似合うかも」 などと思った。 「なにがですかな?」 「あ!ううん。なんでもないっす。色々なんですね」 「そうですね、菊酒もですね、ただ花を浮かべるのでなく醸造する段階から菊の花や茱萸の実をいれたりする事もありますよ。他にも菊枕を作ったり」 「菊枕?花を枕にするんですか?」 「えぇ」 今日のは食いつきがいいなぁと内心嬉しいとか思う張遼。 いつもこのくらい勉強熱心ならばいいのに…。 「重陽の節句の日に摘んだ菊の花を良く乾かし袋に入れます。枕に詰めたりもしますね。 この枕で眠ると、菊の香りで不眠や頭痛にも効果があるのですよ。それと…あ、いえ」 「なんですか?」 張遼は途中まで言いかけて口を噤む。 この先の事を言うと、きっとは大騒ぎするに違いないからと考える。 この年頃の子が好きそうな内容だから。 「いえ、なんでもないですよ。まぁ、色々あるのですよ。この日だけでなく普段からも菊は食用や解熱、強心などの薬用、酒の醸造と利用されてるのですよ」 「すごいですね。私は菊枕に興味アリですよ〜」 「そ、そうですか」 やっぱり言わなくて良かった…とか思ってる張遼。でも顔には出さず。 「不眠や頭痛に効果があるのかぁ…じゃあ来年の重陽の節句に沢山菊の花摘んで遼さんに上げますね」 「え…」 は全然考えていないだろう、その意味を。 張遼は少し赤くなるが、軽く咳払いをする。 「それは楽しみですね」 「えへへ〜よし、来年は重陽の節句楽しみますからね」 などとニッコリ笑う。 なんとなく、意味を教えるべきか迷う。 まぁ、でも来年まで覚えてるかもわからないからいいかとも思う。 「菊の話だけで、いっぱい勉強になりましたよ、遼さん」 「殿にしては珍しく食いつきがいいなと思いましたが」 「酷いなぁ」 「普段もこうならば良いのですがね」 しれっと言う張遼には彼の背中をバンバンと叩く。 「もう!遼さん酷い!」 「痛いですぞ、殿」 とは言うものの、そんなに強い力ではないので顔は笑っている。 「さて、まだ時間はありますよ。次はどこへ行きましょうか?」 「秋でも色々花は咲いてるものですね、他にも探してみませんか?秋の花を」 の提案に頷く張遼。 「それは良いですね。今日は草花について多く学べそうですね」 「ね?たまには外での授業もいいものでしょう?遼さん」 「たまにですけどね」 張遼はスタスタ歩き出す。それを慌てて追いかけるだった。 後日。 甄姫とお茶を飲んでいた。 先日学んだ、重陽の節句について話した。 「菊酒はまだ飲めないですけど、でも試せるものがありますわよ」 「そうですか?」 「えぇ。これは重陽の節句の時、以外でもできますわよ。菊湯ですわ。 菊は香りが良いでしょう?精油が含まれてますから、お風呂に入れて入ると肌への効果が良いのですよ」 「へぇ」 美容の事なら甄姫に聞けという感じなので、この事はかなり良いことなのだろう。 は頷く。 「それに身体の芯まで温まって疲れも取れますわ」 「あ、菊って薬用にも使われるから、そこにも効果は出るのですね」 「そうですわね」 「菊枕ってのも良いのですよね?不眠や頭痛に効くって遼さんが教えてくれました」 「それはそれは」 「だから、来年の重陽の節句では沢山、菊の花を摘んで遼さんに菊枕を作ってあげるって言ったのですよ」 「あら、まぁ…うふふ、それは楽しみですわね。」 甄姫の方が楽しそうな笑みを浮かべている。 「ねぇ、」 「はい?」 「菊枕には他にも効果があることをご存知かしら?張遼殿は教えてくれなかったのかしら」 「え?それ以外には別に」 「あらあら(大方に話すと面倒だとか思ってるのね、張遼殿は)」 「甄姫姉さん?」 「うふふ、他の効果知りたい?」 がその意味を知ったと張遼が聞いたらどんな顔をするのかと、甄姫は笑う。 は他の効果が知りたいらしく、目を輝かせている。 甄姫の事だから、美容に関することだろうかと。 「菊枕には好きな人の夢を見るという言い伝えもあるのですよ」 「へ…好きな人の夢?」 「そうですわ、だから、女性から男性に『菊枕』を贈ると言うのは特別な意味があるのですよ」 「あ…じゃあ、私が遼さんに枕を贈ったら」 「うふふ、どうなるかしらねぇ」 は一瞬顔を赤くするが、すぐにケロリとして 「うん、別にかまわないですよ、私遼さん好きですから」 「あら、あっさり認めてつまらないですわね」 「ね、姉さんってば…でも、これで遼さんが少しは私を見てくれますかね?」 「それはの努力次第ですわよ」 「よし!頑張ります、私!」 「頑張ってくださいまし…(後で張遼殿をからかいにでも行って見ましょう)」 やる気に満ちているの隣では甄姫が意味ありげに笑っているのだった。 そして、数時間後、甄姫にからかわれている張遼の姿があったそうな。 「来年が楽しみですわねぇ張遼殿」 「な、なにを申されますかな、甄姫殿」 「でも、菊枕は来年まで待たずとも作れますものね、別に重陽の節句以外でも作られていますし」 「おほほ、教師と生徒の恋って案外簡単に起こりそうですわね」 それって…この前の家庭教師の話でしょうか? どこからか、甄姫の耳に入っていたらしい…。 言い出したのはなのに、哀れ張遼先生(笑) 重陽の節句。調べたなぁと思い出すw
13/04/11再UP
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