だけど、それでも、きみをおもう。




ドリーム小説
【9】





『俺はてっきり赤子にあやつをとられて妬いているのかと思ったわ』

そんな事を夏侯惇に言われて、は大変困った。
そうなのか?
周りから見れば自分の態度はそう見えるのかなと。

正直わからない。

趙雲を避けてしまうようになったのは、これ以上仲良くなって別れるのが辛いと思ったからだ。

「……はぁ…」

朝からそればっかり考えてしまう。
これも夏侯惇の余計な一言の所為だ。

「惇兄の馬鹿」

でも。と思う。
別れがすぐそこまで来ているのならば、こんな態度は取らないでいつも通りに接していれば良いのでは?
それが普通。

なのに、できない。
それは何故?

ー」

が部屋であれこれ考えていると蓮が入ってくる。

「なに?蓮」

「あのね、子龍さんと散歩に行くの。も行こう」

「…行かない」

「なんで?」

「ちょっと忙しいから、二人で行っておいでよ」

「忙しいようには見えないよ」

「忙しいの!早く行く!子龍さん待たせているんでしょ」

強引に蓮を部屋から追い出した。
扉を閉めてから、ごめんと呟く。




、忙しいから行かないって」

「そ、そうか……」

最近、の様子が変だ。
話しかけても素っ気無い態度。
日中殆ど一緒にいる事が当たり前になっていたのに、今は中々顔を会わせる事がない。

「子龍さん?」

「あ、あぁ行こうか、蓮」

趙雲は蓮を連れて屋敷を出た。
自分は気づかない所でに何かしたのだろうか?
そればっかり考える。
夏侯惇にも何かあったのかと逆に聞かれてしまう始末。
ただ、趙雲が否定すると、彼は一言「そうか」と言うだけで深くは追求してこない。
正直、追求してくれた方が楽なような気もした。
自分は何もわからないから、夏侯惇なら知っていそうだと思って。

「ねー子龍さん」

「ん?」

「子龍さん、もう身体は大丈夫なの?」

「あぁ、もう大丈夫だよ」

「本当?どこも痛くない?」

「あぁ、どこも痛くないよ」

手を繋いで隣を歩く幼子がとても愛しく思える。
阿斗は大事な御子だと思うが、蓮とは別だ。
守らねばならないと言う使命感が先に立っている。
でも蓮は弟がいたらこんな感じか?とか早くに結婚していればこのくらいの子に育っていたかも
とかそんな風に感じてしまう。

家族って言うのに少し憧れる。

各地を転々としてきたから。
今の自分に家族と呼べるものはいない。
故郷などすでにないと同じようなものだ。

(このままここにいたら、帰れるのだろうけどな…)

でも、やはり故郷とは言えなくなっているだろうと趙雲は笑った。

「あのね、子龍さん。向こうの方にね、春になると黄色い花が咲くんだよ」

「へぇ、そうなのか」

「すっごく綺麗でね、お姉ちゃんが大好きな花なんだ」

「蘭玉殿の?」

蓮にとって血の繋がった家族は蘭玉のみ。
それでも今は夏侯惇にがいるから寂しくはないのだろう。
蓮はとても楽しそうに蘭玉のことを話す。

「うん!とってあげたいけど、すごく高いところにあって、僕じゃ取れないんだ」

木に咲いている花だろうか?
大人ならば取れると言う事だろう。

「だから、子龍さん。花が咲いたら、僕のかわりにとってよ」

「え?私が?あぁ…」

簡単に『良いよ』と答えそうになった。
春まで自分はここにいるのだろうか?
いや、恐らくいない。
身体の調子も戻ってきた。
阿斗も手元にいる。
あとは機会を見て許昌から出るだけなのだ。

「子龍さん、だめ?」

「あ、いや…そうだな、蓮の代わりにとってあげよう」

「うん!約束ね!」

指きりまでした。
小さい事でも約束は約束。
恐らく守れない事に胸が痛んだ。
蓮の笑顔を見たら少し切なくなった。



***



門を潜ろうとした時、が外に出てきた。

ー」

「蓮。お帰り」

「ただいま、はどこか行くの?」

「うん、ちょっとね」

はそのまま趙雲の横を通り抜ける。

「待ってください!」

趙雲は思わずの腕を掴んだ。

「な、なんですか?」

「……その…急にどうしたのですか?」

「どうもしませんけど」

「そうは見えません」

「私、行く所あるから」

強く振り払われては走り去った。

殿…」

振り払われた己の手をジッと見つめてしまう。
に避けられると辛い。
一番良くしてくれたのはだし。
確かに最初はにきつくあたった事もある。
でも今は違う。

に理由もわからず避けられるのは辛い。

落ち込みかけている趙雲に蓮が下から声をかける。

「子龍さん」

「…な、なんだ?」

「あのね、子龍さん。とけんかしたなら仲直りしなくちゃだめだよ」

蓮の目には二人が喧嘩をしているように見えるらしい。

「ごめんなさいってすぐに謝らなきゃ、あとでもっとつらくなるよ?」

「蓮…そうだな。殿と話をせねばならないな」

を追いかけると趙雲は走り出した。
その後姿に蓮が大きな声でいってらっしゃいと声をかけた。

どこにが行くなど知らない。
屋敷の外でのの行動範囲などもっと知らない。
でも探さないとって思った。
捕まえてちゃんと話がしたいって。
そこまで彼女を気にする理由なんてどうでもいい。

このままなのが嫌だから…

「…はぁはぁ…どこだ、殿は…」

許昌の都はとても広い。
毎日散歩していてもいつも違うところを歩き回るくらいだ。
そんな中でを探すのは困難なのはわかる。
だが

「あきらめるものか」

屋敷でが帰ってくるのを待っているなんて無理だ。
そんな趙雲に声をかけた者がいた。

「おや、趙雲殿ではありませんか。いかがなされました?」

「?…張遼殿…あ、その…殿を探しているのですが、見かけませんでしたか?」

殿ですか…」

張遼は腕を組み、己の顎を軽くなぞってからニコリと笑んだ。

「見ましたとも」

「本当ですか!」

「えぇ、ここに」

「は?」

ヒョイッと腕を伸ばした張遼。
しっかりと何かを掴んだようで物陰に隠れていたらしいを趙雲の前に引っ張り出した。

「あ、え、殿?」

「遼さん!酷い!」

「おや、なんのことやら」

は張遼を睨みつけるが彼はくすりと笑む。

「なにがあったのかは知りませんが、逃げるのは卑怯ですぞ、殿」

「うっ、ひ、卑怯って言われても…」

殿!私は殿とちゃんと話がしたいのです」

「子龍さん…」

「だから…逃げないでください…私はあなたに避けられるのが辛いです…」

趙雲が俯くのを見ての胸に小さな痛みが走る。
何も知らない趙雲を避けた自分がとても嫌な子に感じる。

「子龍さん、ごめん…」

までも俯いてしまう。
上手い具合に間に立っていた張遼はいったいなにがあったのだと思うが。
この構図を傍から見れば、自分が二人を叱りつけたようにも見えなくもない。

「あ、あの、お二人とも」

軽く咳払いする張遼。

「場所を考えてから話したらどうですか?」

「「え?」」

「見られてますよ、あなた方…いえ、私も含めて…」

背後から視線をアチコチ感じてしまう。

「喧嘩ならば、変な意地などはらぬ方が良いですよ、では私はこれで失礼します」

二人に気を使って。
と言うより逃げたに近い張遼。
たちも移動する。
ちゃんと話さないといけないから。

静かな川辺までやってきた。
の後ろを少し離れて趙雲が歩く。
ここらでいいだろうと思って、は足を止める。
それを見て趙雲も止まった。

殿」

「あのね、子龍さん」

「は、はい!」

「私ね、子龍さんがもうすぐいなくなっちゃうって思ったから、あんな態度とっちゃったの」

「え」

「惇兄が言ってた。子龍さんは孟徳様には仕えないって」

「…夏侯惇殿が」

そんな話は自分も夏侯惇とした。
焦らないで時機を待てと彼は言った。

「仲良くなっても子龍さんと別れちゃうなら…距離を置こうって」

「でも、殿は言ったではありませんか、敵同士になっても友誼は続くと」

関羽と張遼たちのことをは言った。
敵同士になっても続くものは続くと。

「あ…」

「私も別れは嫌です。蘭玉殿に蓮には沢山世話になりましたし。夏侯惇殿とだって再び刃を交えることになる」

そう思うと辛い。
どちらかが倒れるまで続くかもしれないと思うと。

「だからと言って、このままあなたと、いえ、殿に避けられたままは嫌です」

キュッと拳を握る趙雲。

「あなたと話す事もなく一日が終わるのがつまらないです、あなたの元気のない姿を見るのは嫌です。」

敵地だと突っぱねた許昌で、こうして笑っていられるのはのおかげだ。
がいたから、自分は今、ここでやっていけているのだ。

殿がいたから、私は生きているんです」

「……子龍さん……」

言い切ったところで趙雲は我に帰る。
何を自分は言ったのだ、突然と。

「あ、あの、いえ!その…なんと言うか…」

顔から火が出ると言うのはこのことなのだろうな。
ぶわっと恥ずかしさがこみ上げてくる。
今のはまるでに思いを告げているかのようではないか。

「ありがとう」

「え」

「子龍さんにそう思ってもらえたのって嬉しい。子龍さんにとってここが嫌な場所じゃないって」

「…嫌いじゃないです、許昌も」

「私のことも…嫌な態度とったのに…」

殿…私は…」

「残りの時間、前以上に楽しくすごそうね」

「……はい」

なんだろう。
に避けられる事はなく、元に戻ったとは思うが。
どこか寂しさが残る。
やはり別れが決まっているからなのだろうか?

あともう少しで出かかった言葉を飲み込む。

『私はあなたが好きです』

この気持ちは伝えてはいけないのだろうか?








来るべき日にお互い意識しちゃっていますな。
05/10/14
12/11/04再UP