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だけど、それでも、きみをおもう。
【6】 許昌と言う場所は都と言われるだけあって、人々で賑わっていた。 あの曹操が治めている、本拠地なので民はどうなのだろうと思ったのだが、趙雲が別に不安がるようなことはなかった。 いや、や蓮たちを見ていればそんな不安がでるはずもないのだ。 「殿はその…前にいた場所に帰りたいとか思わないのですか?」 「おー中々突っ込んだ質問ですね、子龍さん」 「す、すみません」 今日もと身体作りの為に散歩をしていた趙雲。 今は二人並んで座って休憩中、と色々話すようになって沸いた疑問を率直に聞いてみた。 は別に気にしてないと笑う。 「そうだね。帰りたいとは思いますよ。ここと文明文化の違いが山のようだし」 でも、それに関してはもう慣れてしまった。 順応力が優れていたのかなと。 「焦ってもしょうがないし。それに、今はここが私の住む場所だから」 夏侯惇と蘭玉と蓮と一緒に暮らせているのが一番なのだ。 「殿…私は少しでも早く殿の元へ参じたいと思っています。その自分が恥ずかしく思います」 「どうして?それが普通じゃないの?子龍さんは一応敵国の人だもん」 「そう思ったのですよ」 趙雲は軽く笑む。 自分は身体さえ完治すれば、阿斗さえ連れ戻せたら、この国を出られる。 そう思う。 出る方法なんていくらでもあるし。 でも、はそうではない。 故郷を思っても帰れるわけでもない。 焦る自分が恥ずかしいと… 「子龍さん!」 「な、なにか?」 は趙雲を軽く睨みつける。 「私は別に可哀相な子で同情される理由はないですからね」 「え、いや、そんな風には…」 「さっきも言いました。ここが私の場所なの!」 「…はい。すみませんでした」 「わかればよろしい!」 きつい目元がふわっと緩められて笑いかけてくれる。 それに安堵してしまう。 「ま、子龍さんは私のこと心配してくれたんですよね?」 「え…はは」 趙雲は後頭部を軽く掻く。 「私は運がいいんですよ」 がこの世界に来た時に、目の入ったのは倒れている人の山。 あちこちから腐臭がするし、吹き荒れる砂の所為で身体中が気持ち悪く感じる。 そんな中何をどうすれば良いのかわからず混乱したのだが、その時に出会ったのが 「夏侯惇殿だったのですね」 「うん。惇兄に拾われていなかったら、自分がどこでどうなっていたのだか…」 それを考えると怖い。 何もできないままのたれ死ぬ可能性は高い。 「最初は夢だったらいいのにって思ってた。けど、惇兄のおかげで悪い風に考える事なくなったし」 「殿にとって夏侯惇殿はどういう方ですか?」 「私にとって?」 は少し考えてから自信たっぷりに言う。 「一番大事な人!」 「大事な人…ですか」 見ていてそれはわかる。 最初の頃、その大事な人のことを貶すような発言をした時には激怒し泣いてしまった。 「お兄ちゃんでもあって、お父さんみたいな人でもあるし。命の恩人でもあるし」 血の繋がりはないけど【家族】ってちゃんと思える。 今のには夏侯惇がいなくては駄目なのだろう。 「惇兄と蘭玉と蓮と4人で暮らして家族って感じ。あ、今は子龍さんも一緒だね」 「わ、私はただの捕虜ですよ…」 家族の輪には含まれては困る。 いや、そう思ってくれるのは嬉しいが、やはり自分の今の立場を思うと素直には受け取れない。 「…捕虜って言われるの、なんかヤダな…」 の顔が少し曇る。 「でも、実際そうですよ。扱いは断然上等ですが…」 「嫌なものは嫌です。子龍さん、散歩の誘い受けてくれたのは捕虜だからですか?言う事聞かないとって?」 「い、いえ!そのようには思っていないです」 「…誰も捕虜だなんて思ってないよ…」 「そう…でしょうか…蘭玉殿や蓮はともかく、夏侯惇殿は…」 趙雲はから顔を背ける。 「そ、それは。わからないけど」 もシュンと顔を俯かせてしまう。 夏侯惇はたちとは違って魏の武将だ。 何故、彼が趙雲の身柄を預かっているのかは知らない。 ただ、怪我した趙雲の世話を頼むと言われたのだ。 「でも…惇兄は子龍さんのこと悪くあたってないよ?」 「……やめましょう。この話は」 「子龍さん…」 自分でどう答えてよいかわからないから。 それに夏侯惇を一番大事な人だというを前に、またも彼のことを悪く言ってしまうかもしれない。 趙雲は立ち上がり歩き出す。 とは揉めたくない。 傷つけ泣かせたくない。 は慌てて趙雲を追いかける。 「子龍さん!惇兄は敵だけど、敵じゃないから」 「…?…」 「あーなんて言えばいいのかな?…武将としては敵かもしれないけど、うちにいる間惇兄は敵じゃないってこと!」 上手く説明できないけど、多分この答えが一番しっくりくる。 「殿…」 「前にも言った。惇兄、嘘は言わないし、子龍さんを守っている」 「…わかりました。信じますよ」 「本当!?」 「殿の大事な方のことですから」 「ありがと!」 は笑顔で趙雲の腕に自分の腕を絡める。 一瞬趙雲は驚くが、すぐ微苦笑してしまう。 「惇兄はね、本当は子龍さんのことかまいたくてしょうがないんだよ〜」 「え…?」 「なんかね、徐晃さんに似てるって言ってた」 「徐晃殿に?」 「からかいたくなるタイプだって〜」 「そ、それは喜んで良いのでしょうか?」 「あはは、どっちだろうね」 にとって夏侯惇が一番なのだ。 彼のことを悪く言えば怒るし 彼のことを嬉しそうに話す。 には信じると言ったが、きっと全てを信じきれない。 もう少し、違う形でとは出会いたかったな。 そんな風に感じていた。 *** 「ずるーい」 帰宅早々に蓮がに詰め寄った。 趙雲と二人ででかけたことに拗ねているらしい。 「だって、蓮は昼寝してるんだもん」 「起こしてくれればよかったのに」 「起こしたけど、起きませんでした〜」 「そんなことないもん、ちゃんと起きるよ」 「あ、あの二人ともその辺で」 趙雲が間に割って入る。 「子龍さん。今度は僕もちゃんと連れて行ってよ?」 「あぁ、いいよ」 「約束だよ?」 「約束だ」 指切りまでして約束する二人。 「子龍さん、あっちで遊ぼう」 「あぁ」 蓮は趙雲の腕を引っ張り連れて行く。 仲が良いなとは微笑んでしまう。 ちょうどその時、夏侯惇が帰宅する。 「お帰り、惇兄」 「あぁ」 「………」 「どうした?」 「え、あ…うん」 いとも簡単にの変化に気づく夏侯惇。 「あのね…子龍さんは何?」 「何とは何だ?」 「惇兄は子龍さんをどう思っているのかなって思ったから…子龍さんは自分のこと捕虜だって言うし…」 は先ほどのことを思い出し表情を少し曇らせる。 夏侯惇は微苦笑しながらもの頭をくしゃっと軽く撫でる。 「お前が気にすることか?」 「気になるよ!私は子龍さんのこと捕虜なんて思ってないもの…でも、でもさ…」 夏侯惇から見て趙雲の立場ってどうなのだろうか? 捕虜だと一言で言われれば終わりだ。 でも扱いが上等すぎる。 客人ではない。 敵軍から連れてきたのだからやはり捕虜なのだろうか? 「孟徳がアイツを欲しがったのは知っているか?」 「うん」 それじゃあ、いずれ趙雲も曹操に仕える一人になるのだろうか? だとしたらにはそれはそれで余計な事を考えずにすみ、同時に嬉しいと思える。 「孟徳は自分の手元に置こうとするだろうな」 「うん」 「でもアイツは孟徳にはなびかないだろう…だから」 「だから?」 夏侯惇は静かに笑みを浮かべる。 「今のアイツは雨宿りしている旅人だな」 「旅人?」 「俺から見てアイツは敵だ。孟徳に素直に仕えるならば歓迎はする。だが」 趙雲はきっと曹操の下を去る。 だから。 「そっか…わかった」 が同じ事を思ったかは夏侯惇にはわからない。 だが、わかったと頷いたから、はもう聞いてはこないだろう。 彼女なりに納得したと思える。 「ふっ。随分変わったな、」 「何が?」 「アイツがココに来た当初は嫌だとべそをかいておったのにな」 「ち、違うもん!あれは〜」 「今では自主的に世話をしてくれているようだしな」 「最初と今は違うもん」 「張遼が何度かお前らを見かけたそうだ。とても楽しそうだとな」 「え、遼さんいつのまに!?」 張遼の姿などこっちは一度も見かけていないというのに。 あの目立つ風貌は一度目に入ればすぐに気づくというもの。 「さぁな。アイツがそう言っておったからな」 夏侯惇はくつくつと笑う。 は恥ずかしいとばかりに顔を少し赤くする。 でも、そうか。 子龍さんは雨宿りしている旅人なのか。 夏侯惇の例えに妙に納得してしまった。 だとすれば。 雨が止み、空が晴れれば旅人はまた歩き出す。 趙雲はいずれココを去ると言う事だ。 それが、なんだかとてもつもなく寂しいと感じてしまった。 結局は惇とは敵同士なんでしょうな。
05/07/12
12/11/04再UP
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