だけど、それでも、きみをおもう。




ドリーム小説
【5】





「前から思っていたんだけど…」

「はい」

「子龍さん……」

真剣な目で趙雲を見つめる
寝台で上体を起こしている趙雲。
の視線に少し戸惑いを隠せないようだが…

「梅干嫌いですか?」

「…嫌いと言うか、食べなれないです…」

ちょうど昼餉を食べ終えた趙雲。
皿のほとんどは空なのだが、ぽつんと一つだけ残された赤いものがある。
それを見ては趙雲に訊ねていたのだ。

「美味しいのに、梅干〜私が腕をかけて作ったんですよ?」

「は、はぁ…と言われても…」

の言う梅干と言うものがどうしても趙雲には食べられなかった。
一言で言えば、酸っぱい。
酸味のあるものは食べられないわけではないが、これは極端に酸っぱすぎた。
世話をかけている以上、残さず食べるようにしてはいるが、これだけはいまだになれない。

「やっぱ日本人じゃないとこの味がわからないのかな〜」

「ニホンジン?」

「私、漢民族じゃなくて日本人なんですよ。はーこの様子じゃ子龍さん納豆も食べれなそうだね」

「ナットウ?」

「日本人がこよなく愛する、朝の食卓の定番メニューです。と言っても納豆は嫌いって人もいるけどさ」

「手間隙懸けて作ってるんだよ、梅干ー」

「で、でも酸っぱすぎて食べられないのですよ」

「それがいいのに!しかも梅干は健康にいいんだよ!」

「はぁ」

「最初は惇兄も食べれなかったけど、今じゃ毎日食べてんだよー」

「か、夏侯惇殿が!?…す、すごいですね」

「そーれーにー徐晃さんなんかは梅干がはいったおにぎり大好きなんだよ」

「………」

だから、曹操軍は強いのか?
ふと趙雲の脳裏にはそんな事が浮かんだ。
夏侯惇に徐晃はこの酸っぱいのを好んで食っているとは。

趙雲は思い切って梅干を口に放り込んだ。
ちょっと果肉を噛むだけでジュワっと酸っぱさが口内に広がる。

「っ〜〜」

ギュウッと目を瞑って俯いてしまう。しかも拳も強く握っているし。
はそんな趙雲を見て目を輝かせるかのように言葉を発する。

「やだぁー子龍さん、可愛い〜」

「え?」

少し目尻に涙が溜まっている趙雲。
それを見て余計にが騒ぎ出す。

「梅干食べてのこの反応、すごいね、子龍さんは〜可愛いよ、みんなに見せてあげたいわー」

の反応に戸惑いながらも趙雲は梅干を一飲みした。

「た、食べました。殿」

「はい、お粗末様です〜種は最初から取ってあったから飲み込んじゃったけど、次は気をつけてね」

「つ、次って…」

「勿論、梅干を一日一個は食べてもらいますからね」

はテキパキと食器を片付ける。

「明日の朝、納豆に挑戦してみます?これは惇兄も食べれないんですけどね〜」

くすくすと笑いながらは皿を乗せた盆を持って部屋を出て行く。

「か、からかわれているのだろうか?」

ゆったりとした時間。
少し落ち着いてきた。
余裕を見せられるようになった。

先のことを考えると迷い悩むことがたくさんだが、とりあえず、今できることを考える事にした。

傷を癒す。

それが最優先だ。

「子龍さん、お茶持ってきたよ〜」

再び扉が開いてが入ってくる。
今度は蓮も一緒だ。

「子龍さん、の作った梅干食べたって本当?」

「え?」

蓮は床に膝を着き寝台に上体を預け趙雲に問いかける。

「あ、あぁ。食べたよ」

「よく食べられるね…あれマズイよ」

「こら、マズイとは何よ」

後ろからが蓮の頭を軽く小突く。

「惇兄だってちゃんと食べてるでしょ?」

「元譲さまだって最初は変な顔していたよ?」

「でも、今は食べてます。惇兄は蓮と違って大人だからね〜子どもにはアレの良さがわからないのよ」

にからかわれて蓮は口を尖らせる。

「わかんなくていーもん。子龍さんだってに言われて無理やり食べたんでしょ?」

「あ、あははは、あーそれは」

「子龍さんもお子様ね」

「ちょ、殿」

先ほどはそんなこと言わなかったではないか。

「気にしなくていいよ、子龍さん。は変わったものばかり作るんだよ」

「へーそうなのですか?」

「変わったものって酷いなぁ」

は苦笑しながら、お茶を趙雲に差し出す。

「単にこの国の人が食べなれていないだけだよ。梅干、納豆、味噌、手作りだから手間はかかるけど美味しいんだよ。蓮は納豆食べるじゃない、味噌汁も飲むでしょ?」

「納豆は好き!面白いんだよ、納豆〜子龍さんも食べてみなよ」

梅干はダメでも、納豆は好物だと蓮は趙雲に聞かせる。
箸でぐるぐるかき混ぜると面白いとか説明されるが、趙雲には実物を見たことがないのでわからない。

「あー子龍さんも納豆食べれないと思うよ?惇兄と同じ反応するよ、絶対」

「そうなのですか?」

「匂いがね〜ダメらしいわ。私は平気なんだけどね〜」

「変な臭いしないよ?子龍さんも納豆食べれば早く元気になるよー」

「どうだろうね〜納豆は確かに身体にいいけど」

「子龍さんは子どもなんだ、だからまだ食べれないんだー」

さきほどのの真似をする蓮。
も笑ってそうだと頷く。

「酷いですね、二人とも」

「本当だもんね〜さっきもね、子龍さんの梅干食べた時の顔が忘れられないし〜」

「わ、忘れてください。そんなの」

少し頬を赤くする趙雲にがまた可愛いと言い出す。
蓮も面白がって同じ事を言うので趙雲は困ってしまう。

も子龍さんもなんだか楽しそうだね」

寝台に頬杖をついて蓮が言った。

「「え?」」

ニコニコ笑っている蓮。

「だって、少し前までは喧嘩ばっかでトゲトゲしてたけど、今は違うもん。二人とも笑ってる」

「蓮……」

蓮の言葉には表情を曇らせた。
それに趙雲も気づくが、がすぐに戻したので追求はしなかった。

「蓮も楽しいでしょ?」

「うん!」

「良かったね、蓮」

「うん。ね、子龍さん。僕がいろんな場所教えてあげるからね」

早く一緒に出かけようと蓮は言う。
趙雲は人目につかない方がいい立場なのだが、蓮の頭を撫でて頷いた。

「あぁ。楽しみにしているよ」

門の外から子どもたちが呼ぶ声がする。
どうやら蓮の友だちらしい。

「蓮、友達がきたみたいだよ」

「じゃあ、少し遊んでくる」

「いってらっしゃい」

「いってきまーす!」

蓮は趙雲とに手を振って部屋を飛び出した。
はホッとしたように息を吐き、椅子に腰掛ける。

殿?」

「蓮ね、人の感情に敏感なんだ…人が揉めるのが怖いんだよね、まだ」

「まだと言うと…」

「私と蘭玉たちが出会ったとき、蓮は笑わない子だったよ」

夏侯惇に頼んで二人を引き取ってもらった時、蘭玉はそう酷くはなかったが蓮は大人を怖がっていた。
それは、親代わりとして二人を引き取った大人が乱暴者だったから。
彼らによって蓮は酷い傷を負った。
蘭玉以外には懐かず、いつも彼女にぴったりとくっついていたが、時間をかけてようやく笑うようになった。
今では、夏侯惇だけでなく、顔を見せに来る張遼たちにも懐いてはいる。

最初に趙雲を警戒していたのは昔を思い出したからかもしれない。

「そんな事があったのですか」

「うん。蓮は怒られないように必死で大人の顔色窺ってさ…でもね」

蓮がどういう目にあったのかはなんとく趙雲にも想像がついた。

「でも、今はもう大丈夫なのですよね?」

「はい、大丈夫です」

もう二度と蘭玉と蓮に嫌な思いをさせまいと夏侯惇が護るだろうと思った。
自分もその手伝いくらいはするつもりだ。
にとって二人は奉公人と言うより、同じ家族なのだから。

「ところで、殿は先ほどニホンジンだとか言っていましたが」

「ん?あぁ、あれね。私は海を渡った東の小さな島国出身なのですよ」

「そ、そうなのですか!?」

「倭とか言うのかな〜でももっと詳しく言うと今の倭ではない別の倭なのですけどね」

「それはどう言う意味でしょうか?」

「この世界じゃない別の世界から来た人間なの、私」

にっこり笑うに趙雲は唖然とする。
別に世界があるとか今まで考えた事もなかったから。

「そ、そのようなこと…信じろと?」

「あははは。まぁね、普通は信じないか。でも嘘じゃないからさ。私はココにいるわけだし」

「はぁ」

「深く考えなくていいよ。出身が別だからって他は特に変わりもないし」

見た目も確かに変わらない。

「私は私。ね?子龍さん」

「はい、わかりました。あともう一つ」

「なんですか?」

「そろそろ身体を動かしたいのですか、ダメですか?」

傷は塞がった。
もう寝ているだけには飽きてしまった。
趙雲はの顔を窺う。

「お医者様が良いと言ったらですけどね」

「多分、もう大丈夫でしょう」

と趙雲は軽く腕を廻して見せた。



***



医者の診察の結果、無理をしなければ良いとのこと。
と言うのも体力が低下しているので最初から無茶はできないだろうと言った。
夏侯惇からも好きにしろと言われたので気兼ねなく外には出られた。

「散歩から始めます?子龍さん」

「のようですね」

「僕もいくー!」

蓮を連れて三人で屋敷を出た。

「向こうに行くと、元譲さまのいるお城であっちはね、文遠さまのお屋敷ー」

それらしいものは目に入らないが、蓮が趙雲の手を引きながら教えてくれる。
趙雲は教えてくれる事に対して丁寧に頷いてくれる。

「でも、大丈夫なのでしょうか?」

「何がです?」

二人の後ろを少し離れて歩いていた

「私は一応捕虜なのでは?」

「あー惇兄が好きにしていい言うから気にする事もないと思うけど?」

「もしかしたら逃げるかもしれませんよ?」

「逃げれるの?今の子龍さんは」

「……逃げられません」

自分で言っておいて苦笑してしまう。

「それに阿斗様のこともあるから…」

いつになったら会えるのだろうか少し不安がある。

「慌てても良いことないですよ?惇兄、嘘はつきませんから大丈夫です」

「そうですか、はは」

趙雲は軽く頭を掻いた。

ー肉まん食べたーい」

蓮がの腕を引っ張る。

「え?肉まん?はいはい、買ってあげる。子龍さんも食べる?」

「い、いえ。私は」

「子龍さんも食べよう」

そう言って右手でを左手で趙雲の手を取る。

「遠慮なし。少し歩いたから疲れたでしょ?休憩にしましょ」

「はい」


久しぶりに太陽を見た。
久しぶりに空を見た。
外の空気を吸って、ここが敵地でも穏やかな気持ちでいられる自分に驚いた。

これも殿や蓮のおかげなのだろうな。








手作りで梅干し、納豆、味噌を作れる女w
05/05/19
12/11/04再UP