だけど、それでも、きみをおもう。




ドリーム小説
【4】





「お前の言っていた赤子のことだが」

「………」

「生きてはいるようだ」

夏侯惇の言葉に趙雲の表情が緩んだ。
に頼まれて趙雲が連れていたという赤子の所在を確認し趙雲に告げに来た夏侯惇。
夏侯惇が入って来たことで。趙雲の表情が強張っていたのだが、それが消えた。
よほど大事な子なのだろうと思った。

「連れてきてはもらえないのですが?」

「なんだ、やはりお前の子か」

「ち、違います!託された大切な子なのです。できれば一緒にいさせて欲しい…」

身体の傷は確実に回復に向かっている趙雲。
さて、いつまでここに置いておこうかと夏侯惇は考える。
趙雲に会わせろと煩い従兄弟には悪いが、会わさずに彼をこの国から出すつもりだ。
だが、それはすぐには行かないようで、付き添いがいないとダメなのが現状だ。

「少し時間がかかる。待てるか?」

「ま、待てます。それぐらい。あ、あの…今どこにいるのですか?」

「知らん」

「は?」

「場所など俺は知らぬ。ただ生きているとは聞いた」

「そう、ですか…」

趙雲は顔を俯かせる。
夏侯惇は場が辛気臭くなることに嫌になる。
大切な赤子。
もしかすると、と言う考えは浮かぶ。
託された赤子。
本来ならば、その赤子は趙雲に渡してはいけない気がする存在。
だが、そんなことは口にも出さず、黙止する。

「やはりお前の子だろう?」

わざと意地悪でそう言ってみる。

「何度言わせるのですか、違います」

まっすぐな目で反論する趙雲。
ヤバイ。
そう思った。

何がヤバイって…

(コイツ、徐晃と同じでからかいたくなる奴だな…)

張遼がよく仲間たちをからかう気持ちが少しわかってしまう。

「なら、好きな女の子か?」

「か、夏侯惇殿!冗談は止めてください」

「……それっぽいな」

ポツリ呟いた夏侯惇の言葉に趙雲の頬が赤く染まる。
それはからかわれたからなのか、事実だからなのか。
まぁ、そんなことは夏侯惇にはどうでもいいのだが。

「惇兄〜入ってもいい?」

部屋の外から呼ぶの声。

「あぁ、かまわんぞ」

夏侯惇の返事には扉を開け、蓮と一緒に入ってきた。

「子龍さんのお昼持って来たよ」

「す、すみません」

「?子龍さん顔が赤いよ?どうしたの?」

「な、なんでもありません」

「…惇兄からの愛の告白でもされた?」

「ど阿呆。何故、俺が野郎に告白などせねばならん。だんだん張遼みたいに性格が悪くなっているぞ、お前は」

夏侯惇は片眉をあげて、気色が悪いとぼやく。
趙雲も苦笑いしてしまう。

「遼さんみたいに性格が悪いって、それ本人に言ってみ?」

「言うと倍返しで何されるかわからんから言わぬ」

「遼さんのことそんな風に思ってるの、惇兄は。遼さん可哀相〜一番の仲良しさんなのに」

「馬鹿が。くだらんことを言ってないで、食べさせてやれ」

「そうなんだけど〜遼さんが聞いたら泣いちゃうよ?」

「泣くような玉か、ふん」

このやり取り、聞いているだけの趙雲は色々な面が見られて、内心面白いとか思ってしまった。
強面の顔の男が少女相手のこのくだらないとも思えるやり取り。
戦場でこの男によって劉備軍が受けた傷は大きいのに。

「遼さんにちくってやる」

「好きにしろ。ど阿呆」

「好きにするもんね。遼さーん。惇兄がそう言ってるけど?」

扉の向こうに向かっては声をかける。
今までふんぞり返るような態度で拱手していた夏侯惇の顔が少し引きつった。

「な」

「おやおや、本当に酷いですね。私の事をそのように思っていたとは」

張遼が悲しそうと言う表情を作り中に入ってきた。
これには夏侯惇だけでなく趙雲も驚いた。

「わーブンエンさまだ〜」

「やぁ、蓮。久しぶりですね。元気でしたか?」

蓮が張遼の足にぴったりと抱きついてきたので、張遼はニコリと笑んで蓮の頭を優しく撫でる。

「うん。元気だよ」

「それは良かった」

「ブンエンさまは?」

「先ほどまで元気でしたが、今は夏侯惇殿のおかげで傷ついてしまいましたよ」

「どこがだ。そうは見えん」

「まぁ、別にいいのですがね、後であなたが言う倍返しとやらをさせていただきますので」

「な、なんだと」

満面の笑顔でさらりと答える張遼に夏侯惇は焦りを感じる。
はその様子を見て笑っているし、蓮も楽しそうだ。

「と、ところで何の用だ。わざわざここに来るとは」

「あぁ、暇なので趙雲殿の顔でも見てこようかと思ったのですよ、はい、これお見舞いです」

ヒョイと林檎が入った手提げかごを趙雲に渡す。

「……あ、ど、どうも…」

敵将にお見舞いだと言う張遼に趙雲はどう反応してよいか困ってしまう。

「あぁ、ご安心されよ。毒など盛っていませんので」

「い、いや、そういうことは別に…」

「遼さん、暇なんて言っていいの?本当は忙しいでしょ?」

は話しながら趙雲の食事の仕度をする。
いつまでも待たせるわけにはいけないし。

「いいえ。そんなことないですよ?あ、でもちょっとやらねばいけないことがあったのですが
そこら辺は徐晃殿に頼んで変わっていただきました。いやぁ、相変わらずお優しい方だ」

「徐晃を脅しただろう?」

「おや、私がそう言う事をするような人間に見えると?」

「見える」

「心外ですな。しかも先ほどから酷いことばかり言われますし、私の繊細な心はもうズダボロですね」

「どの辺が繊細だ。極太のくせに」

「あなたよりは繊細ですよ」

敵国から曹操の配下として恐れられている。一目置かれている二人。
なのに、と同じで実にくだらないやりとり。
張遼なんかは呂布の配下だったときの処刑される寸前のことは有名だ。

だが、見ているとそのカケラは見当たらない。

「っ、ふふ…」

「「あ」」

趙雲が口元を押さえ笑いを堪えている。

「おや、笑っていますね。趙雲殿」

「笑われているんだよ、馬鹿が」

「私は何か変なことでも言ったでしょうか?」

「ほら、行くぞ。メシの邪魔になる」

夏侯惇は張遼の襟首を掴んで部屋を出る。

「ちょ、ちょっと夏侯惇殿。その扱いは何ですか!」

「煩い」

「僕もいく!また後でね、子龍さん」

騒がしかった場は彼らがいなくなった所で静かになった。

「子龍さん。かごかして」

「あ、あぁすみません」

は林檎の入ったかごを趙雲から受け取り、邪魔にならないよう棚の上に置いた。
手際よく食事の仕度を終えて、趙雲の前に並べる。

「はい召し上がれ〜」

だが趙雲は少しボケッとした様子で手をつけない。

「どうかした?」

「あ、いや…なんだか拍子抜けしてしまって。あのようなものを見るとは思わず」

「あははは、あの二人普段はあんな感じよ?そこに徐晃さんも加わるともっと面白いんだから」

「そ、そうなのですか?」

徐晃は自分を倒した武将だ。
厳ついまさに武人といった感じの者だったが。

「徐晃さんって真面目さんだから、いっつも遼さんにからかわれてるんだよ」

は寝台のそばに椅子を置いてそこに座る。
趙雲はようやく食べ始める。
そばではこーだとかあーだとか、夏侯惇たちの日常を話しだす。

「意外、ですね。そのような姿想像がつかない…」

「そうかな?それは子龍さんも同じじゃないの?仲間と一緒の時は気を張る必要もないでしょ?」

「………」

確かにの言うとおりだ。
張飛たちと一緒にいる時など、気配を探る必要などなく自由でいられた。
それは彼らも同じだろう。
ここは彼らの住む国だ。

「他にも面白い人沢山だよ、この国は」

「そうですか…」

「淵ちゃんなんて私の事を自分の娘みたいに可愛がってくれるし」

「………」

「司馬懿も口は悪いけど相手にしてくれるし、典韋君や許チョ君もいい友だち」

「……殿」

「仁ちゃんはパッと見怖いけど、すっごく優しくて蓮のことも可愛がってくれる」

「あの…」

「張コウさんはね、変わってるかな?ッて思うけど悩み事を聞いてもらうには一番なんだ」

「もう、それくらいで…」

「へ?」

は自分の好きな人たちの話を普通にしていたつもりだが、趙雲にはあまり聞きたくない話だったらしい。
食べる手を止めて、俯き加減の趙雲にも黙ってしまう。

「色々教えてくださるのは嬉しいのですが…やはり、私とあの方たちは敵同士ですし…」

「敵さんの良い所知ったら、次に戦場であったらやりにくい?」

「………」

「それは好都合。戦わずに済むならば」

殿」

「…なんて言うのは半分冗談。でも惇兄と子龍さんが次に戦場であったらって考えるのちょっと嫌だ」

にとって大事な家族と言った夏侯惇。
この先のこと、自分の運命など今はまだわからない。
傷が癒えれば阿斗を連れて劉備の元へ早く行きたい。
だが、敵本拠地の中心とも言えるべき場所にいる今、簡単に逃げられない。
曹操に会って、処刑される可能性だってあるのだ。

でも、先ほどの武人としてより、普通の男性としての姿を見せられて困惑してしまっている。
自分がなすべきことができなくなるのでは?と。

「でもさ。敵同士でも友情って続くじゃないの?」

「え…」

「友情ってほどの付き合いじゃないか。でも、えーと友誼って言うの?遼さんと徐晃さんは関羽さんとそう言う仲なんでしょ?」

一時期だが、関羽は曹操の元にいた。
も少しだが会って話をしたことがあるそうだ。
ただ、張遼たちと違って、夏侯惇はが関羽のそばにいるのを嫌がったために数える程度だったらしい。

「………」

仕える君主は違えど、友誼は続いている者はいる。

「戦うことになるのは確かに嫌だけどね。特に私は戦場にいるわけでもないからその気持ち子龍さんに比べたら薄いだろうけど」

でも、趙雲が夏侯惇たちと戦うのは嫌だと思える。

「難しいね。戦なんてなければ良かっただろうけど。誰かが天下統一したら戦わずに皆仲良く過ごせるのかな?」

「…それは」

難しいもしれない。
もし曹操の天下になったとして、自分が劉備ではなく彼に仕えるかと聞かれればきっと拒否するだろう。
自分たちは曹操ではなく劉備の天下を願っているのだから。

「子龍さんは優しいね」

「そ、そんなことは、ないです」

少し前のに対する態度などを思えばそんなことはない。
の方がよほど優しいといえる。

「私は度量の狭い人間だと思いましたよ。優しいのはあなたの方だ、殿」

そう言った趙雲の顔は初めて会った時から今日までの中で一番穏やかで優しい笑顔だった。

「子龍さん……」

「美味しいです、これ」

もう冷めかけてしまっているかもしれない料理を口に運ぶ趙雲。

「あ、うん。それね、一応私が作ったの。スープも美味しいでしょ?そっちは蘭玉が作ったの」

「そうですか…えぇ、こちらも美味しいです」

「惇兄は他の人たちと違って奉公人っての?お手伝いさんを置いてないからね、二人で家事をするの」

二人になっての穏やかな会話というのは初めてな気がする。
いや、ここに来た当初にもあったかもしれないが、あの時はの方が気を使ってちゃんと話せなかった。

殿は料理が上手なのですね」

「うーん、どうかな?蘭玉のほうが色々作れるし」

は頬を軽く指で掻く。

「今度は」

「ん?なに?子龍さん」

趙雲は目を細めながらゆっくりと言った。

「今度はあなたのこと、あなたの話を聞かせてください」

少し。

少しだけ、何かが変わったみたいだった。








遼さんの性格が好きすぎるw
実際は生真面目な方なんでしょうが、当サイトじゃこれが仕様です。
05/03/22
12/11/04再UP