片言隻句




ドリーム小説
【11】





毎日ってわけではないが、城へ、甄姫の元へ訪れることは多かった。
特に何をするってわけじゃないが、部屋にお邪魔して茶を飲みながら話をしたり
甄姫が奏でる笛を聴いたり。

あまり頻繁に訪れては迷惑じゃないかと思うのだが甄姫は気にするなと言う。
最近では曹丕との話を聞かせてくれるようになった。
自身は顔を会わせた事がないが、最近では甄姫との仲はまずまずのようだ。

「それじゃあ、甄姫姉さん。また今度」

「あら、もう帰ってしまいますの?」

「だって、この後姉さんは旦那さんとの用事があるって言ってじゃない」

に言われてそうだったと苦笑する甄姫。

といると楽しくて時間を忘れてしまいますわ」

「ありがと。そう言ってもらえると嬉しいよ」

はそのまま新規の部屋を後にする。
私邸の入り口で警備兵に頭を下げて城の廊下へと入る。

最初の数回だけは行き帰りに夏侯惇や張遼が一緒だったが、慣れてしまった最近では独りで出入りしていた。

。帰るのか?」

「?…夏侯惇」

声をかけられ振り返れば夏侯惇が立っている。

「うん。姉さんはこの後用事があるし」

「そうか」

それで会話は途切れてしまう。
考えてみると、この男は元々饒舌ではない。
返答も短めだし、場合によっては黙っていることを好んでいるのかもしれない。

「……そう言うわけだから、帰るね」

「あぁ、気をつけてな」

は夏侯惇に背を向け歩き出す。
さっきまで楽しいと思えた気分が一瞬にして下がってしまう。
自分で帰ると言っておきながら、正直心のどこかで引き止めてくれないかな?ッて思いがある。
でも、彼は今執務中で暇ではないだろう。
しょうがないと言えばしょうがないが、まだまだ自分などでは引き止めてもらえるような魅力はないと思い知らされる。

自分の想いに気づいた日から、もう一つ思ったことがある。
自分は夏侯惇のことは何も知らないと言う事に。

曹操の従兄弟。
浮いた噂など聞いたことがない(これは鳳花から聞いたこと)
よく張遼にからかわれるらしい…。

まともな情報は大してない。曹操の従兄弟なんてのはこの国の人間ならば誰でも知っていることだ。

性格的なことを言えば…。

「優しい…かな?」

最初に出会った時に介抱してくれたり、職の世話までしてくれようとしたし。

「世話ずき?」

結局その程度だ。
それにと思う。
向こうは自分のことをどう思っているのか?
単に張遼の妹?

でも、実の妹ではないと言うことなどそこそこ知られている。
自分はみっともないところを沢山見せてしまっている。

「…はぁ」

ここで考えていてもしょうがないのでとりあえず屋敷へ帰ろう。
城を出る時に、数人の女官たちとすれ違った。
甄姫のところにいた時もそうだが、ここの城勤めの女官たちは綺麗な人が多い。
皆、同じ衣装、着物を纏っているのだが、一人一人の印象が華やかで綺麗だと思える。

こんな女性たちが夏侯惇たちの周りに毎日いるのだなと思うと、自分なんぞに何の印象も持たないだろうな。そう思えた。



***



「ねぇ、杏沙」

「なぁに

今日は杏沙が遊びに来ていた。
甄姫の元へ行くようになってから、彼女と遊ぶ時間が減ってしまったのは少し寂しかったりする。

「杏沙は年上の人を好きになって色々悩まない?」

「………?」

いきなりのの質問に杏沙は目を丸くする。
から恋愛ごとを聞かされるなど初めてだったから。

「杏沙?」

「驚いたわ、からそんな言葉を聞くなんて」

「ま、まぁ…少し気になったからさ」

杏沙はの態度に軽く手を合わせ微笑む。

「それはの好きな方が年上ってことなのかしら?」

「あ…まぁ、そうなるのかな?」

は頬を軽く掻き少し考えてから頷く。

「杏沙とは約束したものね、好きな人ができたら教えるって」

「そうだったわね。で、どなかかしら?と言うより私の予想通りだと思うのだけど」

「あはっ、そう、杏沙さんの予想通りまんまとはまりました」

「まぁ、やはり元譲様なのね〜もうってば自覚が遅いわよ」

杏沙はの肘を軽く突っつく。
は恥ずかしいのか笑っているだけだ。

「杏沙、私の質問に答えて」

「年上の人を好きになって悩むかってこと?そうねぇ、でもそれは年齢に関係なく悩むものじゃないかしら」

「まぁ、そうなのだけど」

は年上の方を好きになるって初めて?」

「そう言う訳じゃないけど、年齢を気にするのははじめてかも」

年上と言っても学校の先輩とかで2つ、3つくらいの年の差だろう。
夏侯惇ほどの歳の離れた人を好きになるのは初めてだ。
まぁ、年齢で好きになったわけではないし。

「兄上と杏沙だって年は離れているよね」

「そうね。と言っても私はたちほど文遠様との繋がりが深いわけでもないし。本当の片思いって奴ね」

「そうかなぁ?」

「そうよ。それに文遠様から見れば“妹の友だち”程度にしか思ってないわ」

「あ!それわかる!きっと夏侯惇も“張遼の妹”程度だと思うし」

「元譲様はそうかしら?」

「そうだよ。だって城であっても大した会話もないし、結構あっけなく別れるよ」

「どっちにしても、私ではあまり役に立ちそうにないわ。同じようなことをと考えていたようだし」

「だね」

でも楽しいかもしれない。
やはり年頃の女の子と言うのだろうか、恋愛話をってのはどの時代でも世界でも共通の楽しさがあるらしい。

「なーんか杏沙も大変だぁ」

も大変でしょう〜悩むくらいだものね。でも何を悩むことがあるの?」

「うーん、うまく言えないけどさ。私さ夏侯惇の事ほとんど知らないんだ。趣味とか好きなこととか。普段どんなことしているのかな〜とか、最近城によく行くでしょ?
そーするとさ、綺麗なお姉さんたちがいっぱいいるわけよ。毎日美人見てれば私なんてさぁって」

、それは私にとっても一大事じゃないの」

「あ、そうか。兄上の周りに美人がいるかもってことか」

何をのんきなことをと杏沙はを睨む。

「でも兄上はどーかな〜城ではあんま女性といるの見かけないよ?」

「そうなの?女性のお話とか聞かない?」

「ないね。どっちかと言うと、武だね、武。徐晃さんと手合わせしてどーとか夏侯淵さんと狩りに行ったとか」

「お、男の方ばかりなのね」

それは安心していいのか、少し杏沙的に不安になる。

「まぁ、友だち、仲間との交流が楽しいって感じだよ」

呂布軍にいた頃だってそういう付き合いはあっただろうが、ここ最近の方が楽しそうだし。

「またお食事会したいわね、

「そうだね。4人でしたいね。あの時は私、捻くれていたからなぁ」

「そうなの?」

「そうなの」

夏侯惇に対して意地みたいのがあったというか、緊張していたと言うべきか。

「兄上にまた相談してみるよ」

「ぜひ、そうして欲しいわね」

今度は少し違った食事会になるだろう。



***



「おや、夏侯惇殿、どうかされましたか?」

「張遼…別にどうもしないが、なんだ?」

張遼は廊下にいる夏侯惇に声をかけた。

「なんだ、と申されましても…何かお探しのようだったので」

「別に探し物などないぞ、俺は」

「そうですかねぇ?……案外、の姿でも探しているのではないですか?」

?そう言えば、今日は会っていないな」

惚けているのか、この人は…張遼は思わず凝視してしまう。
それともなんだ、無意識でを探していたのか?

「今日はここへは来ませんよ。甄姫様もお忙しいでしょうし、は杏沙殿と遊ぶとか言っていましたよ」

「そうか」

「聞いていいですか?夏侯惇殿」

「ん?なんだ」

「あなたから見て、はどうですか?」

「俺から見て?」

急に何を言い出すと、夏侯惇の目は明らかにそう言っている。
だが、張遼の方は妹の態度などから考えた結果、の気持ちに薄々気づいていた。
血の繋がりなどはない張遼とだが、実の兄妹以上にを心配してしまう。
過保護にしているわけでないが、余計な虫などがについて欲しくないし、呂布が生きよとを逃がしたのだ。
彼女をなんとしても幸せにしてやりたいと思う。
呂布にかわってそれを見届けたいのだ。

できれば、ちゃんとした男性にを貰ってもらいたいわけだし。

不思議なことに、自分でそうしようとはまったく思わず、保護者としての使命が強い。

「どうと言われてもな…段々変わってきてはいるな。いいことではないのか?」

「えぇ、いいことですね。誰かのおかげでと私は思うのですが」

「誰かってお前じゃないのか?まさか、それを俺に褒めろと言ってるんじゃないだろうなぁ」

気色悪い、野郎なんぞ褒める趣味はないと夏侯惇は苦笑する。
が、張遼はまったくわかっていないと肩を落とす。

「阿呆ですか、あなたは」

「あぁ?なんだと」

「私が褒められたいからそんな事を言うわけないでしょうが…」

「あぁそうだな」

「私はあなたのおかげだと思っているのですがね」

「…俺?そんなことはないだろう」

今まで色々してくれたのに、謙遜か?それとも本気でそう思っているのか?
このままではの想いは成就しそうにない。
と言うか、この男の恋愛感ってどんなだ?

「最初から感謝していますよ。あなたがを保護してくれなければ私は再会することもなかったでしょうし」

「な、なんだ急に」

今頃そんな事を言うなとでも思っているらしい。
あれからそこそこ時は流れている。
忘れたわけではないが、が張遼の妹しての生活がすでに当たり前になっているので深く考えていないのだ。

「あなたにならばを……とね、思うわけですよ」

「……張遼」

張遼の言いたいことはわかった。
以前から冗談でそれらしいことは言われたが、こう真面目に言われると思わなかった。

「………その話、俺には」

夏侯惇は少し考えてから言う。

「俺には無理だ、すまん」

「夏侯惇殿……なぜ」

張遼は少し腹が立つ。
今までのこの男の態度を見てれば、少なくともに好意を持っていてくれていると見えたのだが。
だったら、思わせぶりな態度はが傷つくだけだ、止めて欲しい。

邪魔な要因はなんだ、年齢?

との年の差を気にしているのか?そんな離れてはいないだろう。
気にする年齢でもないとは思うが。

「俺はそろそろ行くぞ。まだ溜まっている仕事があるのでな」

「夏侯惇殿!」

張遼に背を向け去ろうとする夏侯惇を呼び止めるが、彼は止まらず行ってしまった。








彼女の想いは増えていくのに、惇は冷めていくような?
でも、色々考えているんだよね。
05/03/13
12/08/26再UP