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片言隻句
【8】 張遼は綺麗見事に兵士たちを打ち倒していく。 このままだと、張遼が反逆人として捕まってしまうではないか。 それに、下級兵士ならばともかく夏侯惇や徐晃などと名だたる兵士もいる。 彼らを一人で相手にすることになる。 「私のそばを離れるなよ、。せや!」 「とりゃあぁ!」 兵士の一人がに斬りかかってきた。 張遼のそばにいたとはいえ、数が多すぎた。 「いや!」 やられる!と思った時に兵士は崩れた。 「ぐわぁ!」 「………?」 「まったく、無茶するお前は」 夏侯惇が兵士を倒した。 「夏侯惇…?」 「いえ、もしかしたらと思ったのですよ。見知った顔が何人かいましたので」 「?」 「ま、手っ取り早くていいがな。、すまなかったな」 ほとんどの兵士、と言うか夏侯惇が呼びかけ出てきた兵士は倒されてしまった。 彼らは気絶しているだけで命には問題ないらしい。 どう言うことかさっぱりわからない。 「大丈夫か、」 「う、うん」 「奴らを捕らえて牢にぶち込んでおけ。あとで詳しい話をしてもらう為にな」 夏侯惇に言われてまたも兵士が大勢現れるが、彼らはではなく倒れている兵士たちを連れて行く。 夏侯惇と張遼が話している横で連れて行かれる兵士の中にあの男たちがいた。 思わず彼らに近づこうとしてしまう、が。 「裏切り者!」 と言って、中の一人が兵士の腕を振り切り兵士の剣を奪いに向かって振り下ろした。 いや、正確には張遼に向かってだ。 「兄上!」 咄嗟に二人の間に入る。 「!」 張遼は体勢が取れず、夏侯惇も動けなかった。 今度こそ斬られると思ったが、またしてもそれ未遂に終わった。 「大丈夫でござるか?間一髪でござった」 「徐晃さん」 「助かりました、徐晃殿」 徐晃が男を抑えつけていた。 「も、申し訳ございません!」 「ん、もう油断してはならぬよ」 再び連れて行かれる男。 そして場は騒然としていた。 「賊は捕らえた。皆の者もう安心するがいい。ほれ、続けろ」 宴を再開しろと曹操は言った。 それは無理なんじゃと思うが、曹操は楽団に演奏をさせる。 少しずつ落ち着き始める。 らは一先ずその場を離れる。 「」 張遼はの前に立つとの頬を軽く打った。 「………」 「あんな無茶をしないでくれ、私など庇うな」 張遼にしては珍しく弱気な顔をしている。 「実際に私は彼らからすれば裏切り者なのだから」 「そんなこと…」 それでは張遼は彼らの刃を受けるつもりだったのか? 「が傷つくことはないのだ……すまなかった、色々とな」 が物騒な話に巻き込まれているなど気づきもしないで。 「兄上」 「まだ、私をそう呼んでくれるか?」 「当たり前でしょ、張遼は私の兄なんだから、さっき曹操にも言った。私には勿体無いくらいの兄だって」 「そうか」 張遼は笑っての頭を軽く撫でた。 その事によりはボロボロと涙を零した。 どうやら全て片付いたことで安心したらしい。 「あ、あれ?あはは、変なの…」 「すまなかった、本当に」 張遼はを抱きしめた。 「兄上…」 自分たち以外の者もいるのだが、は声をあげて泣いた。 それを見ていた夏侯惇は出会った頃の二人を思い出した。 戦で離れ離れになって、再会できた時に、張遼の腕の中でわんわん泣いた。 あの時とはまた違う涙だな…なんて思った。 「さ、もう泣くのは止めておけ、せっかくの衣装も化粧もボロボロになるぞ」 「う……もう遅い」 沢山泣いた所為で涙の跡ができてしまって化粧がはげている。 「本当だ、酷い顔だな」 「うぅ」 「誰か呼んでこよう。夏侯惇殿、少しお願いします」 「あぁ」 張遼の顔もの顔もすっきりしていた。 なので安心する。 張遼が場を離れて行く。 「、座っておれ。疲れただろう?」 「…うん、色々と」 鼻を軽く啜りながらは笑った。 泣いた顔で少し恥ずかしく感じるが、とりあえず言われたとおりに椅子に腰を下ろした。 「あのさ、聞いていい?」 「ん?」 「あの人たちが、賊が紛れていたって知ってたの?」 夏侯惇は答えるのを躊躇するが隠してもしょうがないだろう、この場合と思い頷いた。 「あぁ」 「そっか」 「張遼には知らせてはいなかったのだがな、少し前から許昌に呂布軍にいた者が顔を出すようになってな。何かあるだろうと孟徳は探らせていたのだ。だから、奴らがお前と接触したのも知っている」 「………」 「もう少し穏便に行こうと思っていたのだがな、が意外にも動いたから少し変わった」 「…意外で悪かったですね」 もしかしたら、曹操はに刺されるかもと危惧していたのかもしれないと思った。 でも曹操にたどり着く前に護衛に簡単に捕まるだろうが。 「可笑しいと思ったんだ、曹操が…あ、曹操様が私に会いたいなんて言うから」 賊をおびき出す為の餌の一つとして使われたらしい。 「すまん」 「いいよ、別に」 「なぁ」 「ん?」 今度は夏侯惇の方がに訊ねた。 「なぜ、わざわざ孟徳に言った?別に誰にも言わずにおけば良かっただろうに」 「…うん、そうだよね。黙っていれば何も知らないまま終わったかもしれないしね。 なんとなく、言っておきたかったんだ。兄上以外にも元呂布軍の人っているでしょ? それに、あの人たちにも聞いてほしかったんだ、私の正直な気持ちを」 人を憎み悲しみながら過ごすよりはいいと。 もし、また今度自分の大切な人が奪われたならば、同じことを言えるかはわからない。 でも、今なんとかなってるから大丈夫な気がする。 「それにさ、私がそんな悲しんでばかりいたら呂布に悪いなって」 「呂布に?」 「呂布は戦の前に私を逃がしてくれた、それって生きてほしいからでしょ? だから私は呂布やみんなの分も生きるんだ。で、ずっと呂布のこと忘れない」 「…そうか」 「なーんて、それに気づいたの最近だけどね」 「いや、いいんじゃないか」 夏侯惇は目を細め笑んだ。 もつられて笑む。 その時、頭上の花簪がチリリと音を立てて揺れた。 「……似合っているぞ」 夏侯惇は指での前髪を払う。 そしてそのままの頬に触れた。 「………」 温かくて大きい手。 なんか心地いい、さらに触れられているってことで鼓動が早くなっている。 それに花簪を挿した自分に『似合っている』と言ってくれた。 ここに来るまで会う人に褒められたりしたが一番嬉しかったのは夏侯惇に言われたことだ。 (…良かった…) 自分が曹操の前で捕まるかと思ったとき、夏侯惇からの号令で兵士が集まった。 その時、もう夏侯惇に自分が敵として映ったんだと思ったら悲しかった。 でもあれはそうじゃなくて、今こうして目の前にいるのが嬉しく感じた。 そう思ったら、また涙が零れた。 「…」 「あ、あれ?最近涙腺弱くて…参ったなぁ…あはは」 一時にしたら止まることがなくて段々溢れてくくる。 「ご、ごめん……なんか安心しちゃって…夏侯惇に敵だって思われたのかなって、さっき」 先ほどの事かと夏侯惇にはすぐにはわかった。 「泣くな。俺は別にを敵だと思ったことはない」 「……あは、はは…なんか泣いてばかりだ、私…恥ずかしいや」 「俺はの泣き顔などもう何度も見てる」 夏侯惇は触れていた手での涙を拭う。 「もう、そんなに泣くこともあるまい。安心しろ」 「うん」 「ほれ、どんどん酷くなるぞ。それにこんな所を張遼に見られたら何を言われるかわからん」 夏侯惇はくつくつ笑いながら言う。 「うん」 「……もう見てしまいましたがね…」 「ちょ、張遼!」 いつの間にいたのやら、張遼が拱手している。 その顔は『人の妹に何してやがるんだ!?』って見える。 慌てて夏侯惇はに触れていた手を離す。 「さ、。化粧を直してもらいなさい」 女官でも連れてくるのかと思えば、張遼と一緒に来た者はより綺麗で派手な格好をした男性だった。 「初めまして、殿。お会いできて光栄ですよ」 「は、はじめまして!」 「張コウ殿、本当に申し訳ない」 「いえいえ、私では大したことはできませんがね、ふっ中々良い素材で楽しみですね」 「え?え?え?」 「お前…よりによってなんでアイツを連れて来た?」 は男性、張コウに化粧を直されている 「それが、女官たちは皆忙しそうで、他に頼めそうな方がいなくて迷っていた所を張コウ殿が声をかけてきたので」 「………」 「腕はいいらしいですよ?」 「これからはが自分でできるようにしておけ」 少しムスッとした様子の夏侯惇に張遼はボソッと言った。 「私の事、義兄上とでも義兄さんとでも呼びますか?」 「…呼ばぬわ、阿呆」 しばらくして、張コウとが戻ってきたので4人は再び宴へと戻っていった。 色々あった宴だったが、にとっては一つの痞えがとれたので良かった。 前向きに行こうと再び思えたから。 『だから私は呂布やみんなの分も生きるんだ。で、ずっと呂布のこと忘れない』 と決めたのだから。 「え!謹慎?何で兄上が!?」 宴の翌日、張遼は曹操に呼ばれた。 があの場で正直に話したとはいえ、文官などからを処罰すべきだと言う声が上がったらしい。 曹操は自分がに命を狙われるなど最初から思っていなかったし、賊を捕縛できたのはのお陰とも思った。 だが、あまりに煩いので、代わりに張遼にしばらく自宅謹慎しておれと言われた。 「…やっぱ迷惑かけた〜ごめんなさい〜」 は張遼に謝るも、彼はケロッとしている。 「が謝ることはないのだぞ?自宅謹慎とは表向きだ。殿が休暇をくださったのだ」 「え」 「今までずっと休みなしで働いていたから、ゆっくり休めとな」 家族サービスでもしてやれと言っているらしい。 「じゃあ、しばらく休みなんだ?」 「あぁ、のんびりできる」 「じゃあ、じゃあ休みの間杏沙連れてどこか行こうよ〜あ!鳳花も連れてさ」 「…一応表向きは自宅謹慎なのだが…」 「平気だよ〜曹操様が休暇って言ったんなら大丈夫だって。鳳花に兄上を紹介したいしさ」 「考えておこう」 「やった!」 許昌で生活を始めてほとんど休みはなかった。 それだけ立ち止まることなく来たのだと思った。 たまには、こういう日もあっていいだろうと張遼は思った。 思ったのだが…。 「おぉ!いい飲みっぷりだな、徐晃殿」 「そ、そうでござるか?さ、夏侯淵殿もお飲みくだされ」 「ほらほら、張コウ殿も飲んだ、飲んだ」 「…なんで毎日あなた方がいるのでしょうかね…」 「言うな、張遼…」 張遼の屋敷にて仲間たちが宴会を開いていた。 しかも本人に断りもなく、一方的に。 静かに過ごそうと思っていた張遼にしてみればなんとも言えなくて。 夏侯惇は立ち尽くしている張遼の肩をポンと叩いた。 「兄上〜お酒なくなっちゃうよ〜?」 「…」 「ほらぁ、夏侯惇もこないとおかずもなくなっちゃうぞ」 は賑やかな彼らに早くに溶け込み一緒に食べている。 「、そんな奴ら放っておくがいい、どれ酌でもしてくれんかの」 「はい、曹操様、どーぞ」 「殿まで……」 「孟徳…お前」 曹操までいるとは少し頭が痛くなる思いだが、まぁたまにはいいか。 「張遼」 「はい?」 「もう裏切り者だとかってのは言うなよ」 自分たちも腰を下ろし飲み食い始めた時に、夏侯惇が張遼に呟いた。 「……ですが」 「誰もそうは思っておらん」 「夏侯惇殿」 「それに孟徳に仕えるものの多くはお前と似たような奴らばかりだ」 「そうですか…」 「気にするだけ損だぞ」 「そうですね、これからはそうしますよ」 も張遼もやっとこの国に本当の意味で馴染んだようだ…。 説明補足。
惇と遼さんで倒した兵士の中には何も知らされていない一般兵士もいました。
面倒臭いので手っ取り早く倒してしまったそうなw
04/11/11
12/08/26再UP
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