片言隻句




ドリーム小説
【6】





許昌での生活には十分といえるほど慣れた。
杏沙以外にもそこそこ友だちはできた。
ただ皆、本当に良家のお嬢様って感じで一歩引いてしまう部分はあるが。

時代、文化は違えど、話すことは意中の殿方の話だったりまぁ、楽しいって言えば楽しい。

一般の民に比べれば、自分はいい生活なのだろうなと思う。
住む場所、食べるもの、普段の生活、全てが違うし。
それを稼いでくるのは張遼だが。

今日は杏沙と鳳花と三人で買い物にきていた。
入った店はとても豪華で一般人じゃ手にできませんって感じの店。
鳳花の家族が利用する店だという。

「す、すごいね鳳花っちって…」

「そんなことないわよ。杏沙の家やの家に比べたら普通ですわよ」

その答えには首を振る。
今は通された室で商品が来るのを待っている。

「杏沙はわかるけど、うちはちょっと違うよ」

張遼は武将さんだし、政治に関わっているような仕事ではないと思うし。

「もう、それは文遠様に失礼よ、

「ははは、そっかなぁ?」

「本当、はいいわね、素敵なお兄様がいて」

素敵かぁ?とは首を傾げる。

「性格悪いよ?鳳花は会ったことある?」

「直接はないけど、遠目からお見かけしたことはあるわ」

「じゃあ、素敵だなんてわからんって」

あははと笑い飛ばすに杏沙が反論する。

「素敵じゃないの!の目は節穴なの?妹思いで仕事もできて…」

「外面がいいだけだね」

!」

「はいはい」

これ以上なにか言えば杏沙は本当に怒りそうなのでは黙る。

「今度、せひとも会わせて欲しいわね、お兄様に」

「鳳花?」

「杏沙が夢中になる方ですもの、興味はありますわ」

「い、いやね、鳳花ったら〜」

頬を赤らめながら顔を隠す杏沙。
あぁ、否定はしないんだ。

「兄上は外面はいいからね、鳳花も気をつけてね」

「うふふ、それは楽しみね」

そこへ、店主がいくつかの物を持って入ってきた。

「お待たせいたしました、どうぞごらんになってくださいませ」

三人の前に出し並ばれた数々の装飾品。
綺麗な宝玉類に目を細め感嘆の声をあげてしまう。

「すごい綺麗〜」

「これなんか鳳花に似合うと思うけど」

「そう?でも、色的に言えばのほうじゃないかしら、杏沙ならばこっちかしら」

「私?全然似合わないよ〜」

「そんなことないわよ。つけてみたら」

「いい、いいよ。今日は鳳花の買い物でしょ?私はいいよ」

はそんな高価なものなどに手を出すつもりはない。
今日はただの付き添いだ。
それに普段から簪などをつける習慣はない。

「遠慮しなくてもいいのに」

鳳花はの態度に微苦笑する。

「簪といえば、

「ん?」

杏沙がの顔を覗きこむ。

「あの日、元譲さまから何を頂いたのかしら?」

「あ、あの日?…あ、あぁ…もらったっけね」

「なに?なに?げんじょう様って?の好きな方?」

鳳花は普段の口からは聞けないようなネタなので嬉しそうに杏沙に聞く。

「す、好きな人じゃないよ!兄上がお世話になってる方だよ!」

「あら?軍部の?…じゃあ丞相様の片腕といわれる夏侯将軍?すごいじゃない、〜」

「いや、だからね、鳳花も…」

「二人の間に色々あったみたいなのよ?でも、先日ね元譲様は帰り際にさり気なくに贈り物をしてたのよ」

「さり気なくってところが素敵ね」

「もう、二人ともいい加減にしようよ。ほら、鳳花は買うの買わないの?」

「あらってば話を誤魔化す気ね。まぁ、いいわ、その話は後でゆっくりしましょ」

「杏沙〜」

結局、買い物って言うより会話が中心、
ネタはと夏侯惇のことばかりでは二人の攻撃をかわすので精一杯だった。
鳳花の買い物もろくにしないままね。

店を出て、何か食べていこうと杏沙がよく行くと言う飲食店に入った。
はよく知らないので、注文を二人に任せた。

品が来るまでの間といえばやっぱあれだろう。
先ほどの話がここでも行われた。

「隠さなくてもいいでしょ?何を頂いたのか知りたいだけよ」

「あの将軍様は女性の噂なんてほとんど聞かないような方なのよ?興味あるわぁ」

「だから、夕餉の礼だって言って…そのね」

「外で何を話していたのかしら?そっちを追求されたくなければ話なさい、

「杏沙怖〜い」

、早く。話すまで帰さないわよ?」

「えー!」

その言葉には渋々口を開く。
別に隠す必要もないのだが、なんか二人にからかわれるのが嫌だったのだ。

「普通だよ。花簪っていうのかな?」

はあの日のことを思い出す。
夏侯惇を見送った後に急いで部屋に戻った。
杏沙は張遼が送っていったので、誰にも邪魔されることはない。

なんか無性に緊張してしまう。

中身はなんだろう?
夏侯惇の口調からすると装飾品のような気がする。

箱のふたを取ると、一本の簪が入っていた。

「わぁ、綺麗」

白い花をあしらった物で、派手さはなく涼しげといった感じ。
少し金属の飾りがついていて、揺れるとチリリと音がする。

「……ふふ…いいなぁ」

今までそう言った装飾品には興味がなかった。
下ヒにいた頃は貂蝉がいっぱい色々なものを見せてくれたが、それは彼女に似合う
華やかなもので自分には似合わない気がしていたから。
それに元々つけるような習慣はなかったから。

でも、今目の前にあるものは、自分にって夏侯惇がくれたものだ。
金平糖をもらった時も思ったが、これをあの将軍がどんな顔をして買ったのかと思うと
なんか楽しい。

「うん、気に入った」

今はまだつけることはないだろうから、その時まで大切にしまっておこう。
そう思った。

けれど、たまに取り出してはそれを眺めているのであった。

?」

「な、なに?」

「へぇ、よほどいいものを頂いたのね」

「あ、あのね、だから」

「物と言うより、将軍から頂いたのが嬉しいのよ、は」

一人で思い出して赤面したらしいに二人からのツッコミが入る。

「もう!いいじゃんよ」

「あはは、の顔赤い〜」

「もうー…あ、ちょっとごめんね」

は席を立つ。
ちょっとトイレに行きたくなかったのだ。
二人を席に残し向かう。





用が済んで席に戻ろうかとした時に、ぐいっと腕を引っ張られた。

「な!」

声を出して騒ごうとしたが、相手に口元を塞がれてしまう。
店の裏口へと連れ出された
何事かと不安になる。

でもゆっくりと解放される。
恐る恐る相手を見ると、見知った顔の男だった。

「あ、あなたは」

「ご無沙汰しておりました」

男は以前呂布に仕えていた者だった。

「無事だったんですね」

「一応…ですが…」

男は視線をそらす。

「張遼様が曹操に降ったとは知っていましたが、あなたもそこにいたのですね」

「…うん、女官さんと逃げたけど、張遼と再会できたから」

「なぜ、そんなに楽しそうにいられるのですか?」

「え」

「私は殿を失ってから、どうすることもできず…私のほかにも同じような者がいます」

「………」

「できれば殿の仇をとりたい。だからその機会を伺っていました」

そしたら、街で楽しそうなを見つけた。

「わ、私だって、呂布が死んだのは悲しいし」

「あなたは殿に可愛がられた。なのに、なぜ今曹操の膝元でのうのうと暮らしているのですか!?」

「そ、そんな……別に」

男からすればきっと張遼に対しても同じような思いなのかもしれない。
でも、は。
だってそれを乗り越えたから、今があるのに。

「だったら、あなたの手で殿の仇をとってくださいませんか?」

「む、無理だよ。私は曹操になんか会ったことないもん」

「今は無理でもいつかはその機会もあるかもしれません」

男は短刀をに持たせる。

「ちょ、ちょっと」

「あなたがやる前に私どもでできればそれに越したことはありません。ただ、忘れないで頂きたい」

「………」

「またご連絡します」

男は言いたいことだけ言って去ってしまった。
もしかしたら、この許昌には他にも同じような者がいるのだろうか?
自分に曹操を討てとまで言うだなんてよほど切羽詰った状況なのだろうか?

でも

「できるわけないじゃん、そんなの…」

は一方的に渡された短刀をその場に捨てることもできずに懐にしまった。
とありあえず、二人の所に戻らないと。
戻った頃にちょうど注文したものが来たのだが、先のことが気になってしょうがない
大して咽喉も通らずにいた。
何か様子の可笑しいに杏沙も鳳花も心配するが、はなんでもないと首を振った。



***



あれから数日。
色々考えたが、自分にあんなことができるわけもないと答えを出した。
なので渡された短刀も人が見てないような場所に捨ててしまった。

大切な人たちと引き離されて奪われたことは確かに憎いとも悲しいとも思った。
だが、いつまでもそんなことばかりに囚われてはいけないし
新たに出会った人たちを今更憎むこともできない。

自分はまだいい、普段は屋敷にいて杏沙たちと過ごしているから。
けれど張遼は違う。
今まで敵対していた相手に仕えているのだ。
彼は彼なりにあの場所で頑張っている。

嫌な事だってあるだろうに、いつもの心配をして笑ってくれる。
家族として迎えてくれる。

もし、自分がこの話を受けたなら張遼に多大な迷惑がかかるじゃないか。

だから、そんな馬鹿なことはしない。
したくないのだ。

「おはよう」

はすでに朝餉を食べていた張遼に向かって元気に挨拶をした。
すると、一瞬驚いた顔をした張遼だがすぐさま返してくれた。

「おはよう、。随分遅いではないか」

「ちょっと寝坊しただけだよ」

「そうか」

張遼は杏沙からの様子が可笑しいと聞かされていて心配だったのだが、今、見るとそれは杞憂に終わったような感じがしたのほっとした。

「兄上は今日も帰りが遅いの?」

「いや、いつも通りだ」

「そう言えばさ、新しい人が入ったって聞いたよ?」

「あぁ、中々面白い方だぞ。最初に会うとも驚くかもな」

「お、驚くような人なの?」

張遼はその人物を思い出しくすくすと笑い出した。

「えーなにその態度」

「いやな、その方に会った時に夏侯惇殿の顔が忘れられなくてな」

「はぁ?」

張遼はその時の事と、その人物の事を話しだした。

『このような強く美しい軍へと呼ばれて光栄です』

『は?』

『おぉ、あなたが隻眼の猛将軍夏侯惇殿ですね。戦場で駆けるあなたの美しさは』

『待て、待て!何が美しいだ!止めんか』

『おや、つれないですね。将軍とはもっとお話したいのですか』

『勘弁してくれ・・・』

口調、動き、衣装、どれをとっても夏侯惇には理解できないようでどう扱ってよいのか困った。
どこか落ち着きのない夏侯惇を見て張遼は可笑しくてしょうがなかった。

「強くて美しい軍って何?」

「ん?私が言ったのではないぞ。張コウ殿が言ったのだ」

「ふーん。新しい人って張コウって言うんだ」

「他にも大勢いるがその方がひときわ目立っていたな」

新しい顔ぶれに張遼は楽しくてしょうがないようだ。

「あとさ、殿様の息子にお嫁さんが来たって」

「あぁ、甄姫殿のことだな」

それに関しては張遼はそれ以上は何も言わなかった。
ちょっと苦笑いしていた。

。今度城で殿が宴を開くそうだ」

「ふーん」

「なんだ興味ないか?」

「ないよ、私には関係ないし。兄上が泥酔して帰ってこなければいいし」

「泥酔するほど私は飲まんよ」

張遼は笑う。

「だが、今回はにも関係があるのだ。殿がぜひともに会いたいと言われてな」

「………え」

血の気が引いたような気がした。

「勿論来てくれるだろう?夏侯惇殿も徐晃殿もおられるから知らぬ者ばかりではないし、私もいる」

「で、でもさ…」

「そのために新しい着物も揃えたしな。ちょうどいいではないか、あの簪をつけた所を夏侯惇殿に見てもらえばいい」

嫌だって気持ちが大きい。
もし、これが彼らが知れば自分は…と思う。
だが、もしそうなる前に張遼に言えばいいのではないか?

どうしよう。

ほぼ自分の意思を無視して決定済みのようだし。

「楽しみにしてるといいぞ、

「う、うん」

何事も起きなければいいが。








血生臭いのは好みじゃないから、平和的に行きたいね。
04/10/21
12/08/26再UP