片言隻句




ドリーム小説
【2】





「張遼!」

、なぜここに」

「…生きてた。張遼生きてたんだ…良かった」

「すまない、

夏侯惇の目の前の光景。
自分を拒絶した少女は同僚となった男の胸で再会を泣きながら喜んだ。

「惇兄、なんだ、いったい?」

「…ん…しばらく、二人にしておけ」

上手い言葉は出なかった。
でもここに自分がいるのは、にとって良くないと感じた夏侯惇は、集まっていた者たちを解散させ、夏侯淵を連れてその場を離れた。

「とりあえず、私の室に行こう、

「……うん」

夏侯惇が気を使ってくれたことに感謝しつつ、目立つ行動は避けたいから自分の執務室へとを連れて行く。
長椅子にを座らせる。

「すまなかったな、

「……なんで?」

「………」

「なんで曹操のところにいるの?」

再会を喜んだのは束の間。
の目には張遼に対する不信が映っている。

「呂布も、陳宮さんも、高順も死んじゃって、あんな姿になって…張遼が生きていたのは嬉しいけど!よりによって、なんでここにいるの!」

、それは」

張遼は少し視線をそらした。
確かににしてみれば自分はただの裏切り者として映るだろう。

「ちゃんと言ってよ、張遼!」

「呂布殿には捧げる刃が無くなったのだ」

「…?…意味がわからないよ」

「ある方に一騎打ちを挑み私は負けた」

「だから、降るの?」

にはわからないだろうな」

張遼は苦笑する。
それだけではない。
だが、にどう説明してよいかわからなかった。

「………」



は数回首を振る。

「すまん、今はこれしか言えん」

二人の間に訪れる沈黙。
張遼はのことも聞こうと口を開きかけるが、のほうが先だった。

「貂蝉は?」

「え」

「貂蝉もこの城にいるの?」

「…貂蝉殿は…」

張遼は首を横に振る。
それはもう死んでいるとの事か?

「死ん…」

「いや、行方知れずだ」

ほっとした。
死んでいないのなら、またどこかで会えるかもしれないから。
小さいけど望みはある。

「貂蝉殿も最後まで呂布殿と一緒にと望んだようだが…結局私には呂布殿たちが最後に何を望んだのかもわからん」

「張遼」

負けたことで降ってしまった自分。
だから最後の最後でこの城で仲間たちが何を思い、何を考えたかはわからなかった。

はなぜここに?夏侯惇殿と何かあったのか?」

「私は」

今度はの方が視線をそらす。
張遼はそんなを見て笑い彼女の頭を優しく撫でる。

が無事で良かった。探すに探せなくてな」

「呂布が逃がしてくれたの…お金を持たせてくれて。しばらくは女官さんと身を潜めていたけど」

呂布に言われてを逃がした女官とともにある一軒家で隠れていた。
最初からお尋ね者でもないなので怪しまれることはなかった。
戦の終結を知らされた時、その女官とは別れた。
彼女は自分の故郷へ帰ると言った。
も良ければ一緒に行こうと言ってくれたが、は断りあの城門に行った。

「私、気を失ったみたいで、それで…さっきのあの人が」

「夏侯将軍に助けられたか」

「しばらく風邪引いて寝込んで、行く宛がないって言ったら、自分の所で働かないかって言われて」

「………」

でも、下ヒ城であると気づいた時に
今まで親切にしてくれた男が、自分の大切な者を奪った奴らの仲間だと知って逃げようとした。
話を聞き終え張遼は深く息を吐く。

「将軍には礼をちゃんと言わねばならないな」

「なんでよ!別にそんなことしなくてもいい」



「嫌だよ、あの人、呂布を…」

キッと唇をかみ締める

「だが、今こうして私がに会うことができたのは将軍のおかげでもある」

「………」

の気持ちも言いたい事もわかるが、将軍のおかげでは助かったのだからな、礼はちゃんと言うべきだ」

俯いてしまう

「これからどうする、

「え」

「私は今は曹操殿に仕える武将だ。そんな私といるのが嫌なら好きにすればいい。
住む場所などできる限りのことはする。お前は関係ないのだからな」

「私は…」

張遼と再会できたのは嬉しい。
でも場所が場所で。
張遼は向こうの人間になっていた。

好きにすればいいと言われても、どうしていいかわからなくて。
あの女官とともに行けば良かったのだろうか?
それとも、どこかにいるかもしれない貂蝉でも探しに行くか?

でも、今は張遼と離れたくない。

「私が一緒にいたら迷惑?」

「そんなことはない」

「だったら、張遼のそばにいる…」

「そうか」

張遼はまたの頭を優しく撫でた。



***



今まで慣れ親しんだ下ヒ城を後にし、は現在曹操軍の本拠地である。
許昌へと移り住んだ。
許昌には天子がいる。
曹操は献帝を迎え入れ、許昌を遷都する。
がここへ来た頃には、都と名乗っても可笑しくないくらい穏やかな都となっていた。

降将である張遼に与えられた屋敷。
そこには住んでいる。
は屋敷内からほとんど出ることなく生活をしていた。

「では、行ってくる」

「いってらっしゃい」

張遼を見送る
以前のような明るさを余り表には出さないが、それでもここでの生活になれ、多少は笑うようになっていた。

「…どうしたの?」

「あ…いや…」

いつもならすぐに馬で駆け出していくのに、今日は騎乗もしていない。
馬の準備はちゃんとできているのに。

、少しは外に出る気にならんか?」

「…外?」

「天気もいい。屋敷の中ばかりじゃ飽きるだろう」

「気が向いたらね」

「…そうか。では行ってくる」

「うん」

張遼は騎乗し駆け出した。
あれ以来、が夏侯惇ど出会うことがなかった。
仕方なく張遼が夏侯惇に礼を言いに行った。
夏侯惇は気にするなと笑った。

別にのことを聞かれる事もなく、すんなり済んだ。

曹操の耳にの事が入ったようで、二、三聞かれはしたが、妹ですと答えた。
その答えに満足したかは知らないが、曹操からも追求されることはなかった。

新参者の自分なのに、思っていたより厚遇されそこそこ上手くやっている。
酒も交わすようになった。
自分は変わったのかと思う。

でもは、あの日のまま時間が止まったようである。
それを何とかしたいと張遼は思っているのだが…。

「どうした、気難しい顔をして」

「か、夏侯将軍!い、いえ別に」

練兵を見ていた張遼に夏侯惇が話しかけてきた。

「どうだ、もう慣れたか?」

「はい、まだ戸惑うことも多少ありますが」

「孟徳がお前に期待しておるからな、次の戦ではお前に騎馬隊を任せると言っていたな」

「そんな、私にはまだ…」

「俺もお前になら任せても大丈夫だと思うのだが?」

「はぁ」

張遼は軽く頭を掻く。

「で?」

「?」

「何か困ったことでもあるのか?そういう顔をしていたぞ」

「あ…いえ、将軍がお気になさることでもありませんから」

張遼は軽く笑う。
だが、夏侯惇は眉を顰めている。
その顔に張遼は戸惑う、折角の申し出を断ったのがいけなかっただろうか?

「あの、なにか?」

「どうでもいいが、その堅苦しい言葉使いは止めろ。俺はお前が思っているような偉い人間ではない」

一瞬、自分の動きが止まった。
違う所を注意されてしまった。

「あ、あの将軍?」

「将軍ってのも止めろ。公式の場ならともかく普通でいいんだ」

普通と言われても。
貴方は普通に将軍様なのですがと口を開きかけるが、ジロリと凄まれてしまった。

「で、では夏侯惇殿」

「おう」

こんなんで納得するのかこの人は。
なんとなく面白い人だと笑んでしまう。

「難しい顔をしてましたか、私は」

「そう見えたな」

「そうですね…少しばかり悩みがありまして」

「俺でよければ話を聞くぞ」

「……そうですね、聞いてもらいましょうか」

隣に並ぶ頼れそうな将軍に話してみよう。
なにせ、と最初に出会ったのはこの人なのだし。

自分がここにいるのもこの人の所為なのだから。

「夏侯惇殿はを知っていますね?」

「あぁ」

の止まった時間を動かしてやりたいと、私は考えているのですよ」

「止まった時間?」

「呂布殿が討たれて以来、は多少は笑うようにはなりましたが、以前のような明るさは見られなくなって」

「………」

「ほとんど屋敷から出ようともせず一日を過ごす。…私はまたに笑って欲しいのですがね」

夏侯惇は少し考える。
張遼の悩みを解決してやりたいとは思う。
でも、相手が悪すぎだ。

自分の大切な者たちを奪った原因の自分に何ができようか?
そればかりはと思う。

「それは俺にはできんことだな」

「夏侯惇殿…」

「あいつにとって俺は仇だろう。お前を手助けしてやりたいが、俺には無理だ…すまん」

「……いえ」

だが、それは張遼も同じだ。
に裏切り者と罵られても可笑しくない。
自分も何もできないだろうと思う。

「私も同じです」

「あ?」

「私があれこれしようとも、はきっと私を許さないだろうと思いますよ」

「そんな事はないだろうに」

張遼は寂しそうに笑う。
それ以上は夏侯惇も言葉が出ず、二人は黙って練兵を眺めていた。








遼さんが一騎打ちで負けた相手はきっと惇ですw
04/01/20
12/08/26再UP