旭日昇天




ドリーム小説
【6】





虚の攻撃で少々傷ついた義骸ではあったが、すぐさまルキアによって知り合いの店で診てもらった。
そんなに酷い不調でもないのですぐさま終わった。
治療費もそうかからず、これからお得意様になってもらいたいからと安くしてもらった。
あれからなんとなく、あの防波堤に足を運んでしまう。
ごろりと寝転ぶ。夏の強い日差しに肌を焼かれるが気持ちいいくらいで気にしない。
子ども一人、自分の手で助けてあげられなかった。
ルキアが来てくれなかったら、子どもは虚に喰われていただろう。

『一度や二度の失敗でくよくよするでない!情けない!!』

まったくだ。
このままでは席官入りしてもすぐに落とされてしまうような気がする。
誤魔化しでやっていられるほど死神は簡単なものではない。
伝令神機をポケットから取り出す。
今の所虚の出現はない。

「……連絡…」

してみようか?修兵に。
今までだって何か自分の身に異変があった時、修兵にいち早く言えと言われていた。
だけど、往来の意地っ張りが出て隠していたり、他の誰かを頼ろうとした。
その結果大ボケをかまして修兵に叱られるのだ。
今回のこと、やはり一度修兵に話した方がいいような気がする。

「どうだ?駐在任務は、つか何してんだ?」

スッと影が入り込んだと思うと、いるはずのない男。拳西が上から覗き込んでいた。
死覇装姿ではなく、どこにでもいるような青年の姿で。

「え?あ?む、六車隊長!!?」

驚いたは慌てて体を起こす。

「ここで隊長なんて呼ぶなよ。前みてぇに拳西でいいって。で?何してんだ?優雅に昼寝か?」

乱暴に頭を撫でられる。
乱れた髪を整え、は立ち上がる。

「……えと……一人反省会…を」

「はぁ?シケてんなお前!ってか、反省会って何をやらかしたんだ?」

「それは…て、それより六車隊長の方こそ、ここで何をなさってんですか!しかもお一人で」

隊長と呼ぶなと言われても態度を変えないに拳西は少し拗ね気味だ。

「あ?今日は非番でな。ちょっとダチに会いに来たんだ。そのついでにお前の様子でも見ておこうと思ってな」

「簡単に隊長が現世に来て大丈夫なんですか…」

「いいだろ、別に。つか、俺に会えて嬉しい!ってぐらいの顔をしろよ。あとで修兵に自慢してやろうと思ったのによ」

「………感動より驚きの方が上なんで…」

そして、自分に会ったことで修兵に自慢されても困るのだが。

「んで?どうした?特別に話ぐらい聞いてやるぞ」

「………」

笑顔を向けた拳西だが、が黙ると。ものの数秒で口角を引きつらせた。

「早く話せ」

「え!?」

思っている以上に拳西が短気だったのを思い出す。
拳を握りしめだしたので、殴られるとわかっては昨日の出来事を話した。

「や…単に俺が未熟な結果なんですけど…」

「だらしねぇな…ま。だったら死神やめちまいな」

「………いてっ!

拳西に殴られた。

「少しは反抗しやがれ!お前は人に辞めろと言われたら簡単に従うのか!?」

「そんなつもりはないですよ…」

ずっと願っていた事だ。死神になる事を。

「ずっと、ずっと死神になることを願っていたんだから…」

「夢見ていた死神が思っていた以上に過酷でくじけそうです。ってところか?情けねぇな」

「くじけてなんか!ただ、昔あったことが、少し引っかかっているだけで」

「そんなんじゃ、お前…死ぬぞ」

拳西にはっきり言われて息が詰まりそうになった。
辞めちまえ。と言われるよりずっと。
だが、そうだ。このままだと自分はただ官位が落とされるだけではすまないのだ。

「修兵の事を考えたら、ここでお前を叩き伏せて連れて帰った方がいいかもな」

「え?」

「息子が死んじまうよりいいだろうが。それが嫌なら抵抗してみろ」

なぜ急にそうなるのかわからないが、拳西は力づくで尸魂界に連れて帰ると言い出した。
自分の上官に命じられたならばわかるが、他隊の隊長に言われる筋合いはない。
は死神を辞める気はないし、今ここで連れ戻されるのも嫌だ。
ならば拳西の言うとおり抵抗するしかない。

「おいおい義骸で俺とやりあうのか?遠慮せずに死神になってやれや」

ついでに始解してかかってこいと自信たっぷりに拳西は言い放った。

「くそ……望みどおりにやってるやる!」

義魂丸を取り出し一つ口に放り込んだ。
義骸から死覇装姿のが出てくる。義骸には義魂は入り込み、の命で離れていろと言われ義魂は離れた。。

「紅玉に梟名せよ、迦具土!」

十文字槍を手にする、一振りすると刃から焔が舞う。
焔は常に刃から放たれている。

「たぁ!!」

は拳西に向かって飛び掛る。
拳西も斬魄刀を抜き、からの攻撃を受け止める。
かなり力の入った一撃なのにあっさり受け止められてしまい、は悔しい。

「なんだ、なんだ?そんなもんか?へなちょこ

「抜かせ!!」

相手は隊長。半端な攻撃は通用しない、だったら今あれを試す時だ。
は一歩後退し、拳に霊圧を込める。
拳に集まる霊圧はそのまま迦具土に注がれる。
ルキアとの修行の中編み出したもの。

「龍焔!」

瞬歩で拳西の懐に飛び込み迦具土を横に一閃、更に上空へ向かって一閃振り下ろした。
その一閃はまるで焔の龍のように拳西に襲い掛かる。

「くっ。やるじゃねぇか、

歯を見せ笑う拳西。
とは言いつつ、の攻撃は拳西をかすることもない。

「断地風とお前の斬魄刀じゃお前に有利だな。だがぶんぶん振り回しているだけじゃダメだぜ!」

一瞬で拳西はの視界から消える。
消えたと思うとすぐ目の前。間合いを一瞬で詰められる。

「吹っ飛ばせ。断地風!」

「!?」

防御の構えを取っていなかった。いや、取れなかったは全身で拳西の攻撃を受けて吹き飛ばされた。
しかも吹き飛ばされ気が緩んだことで見事に海に落ちた。

「……ま、こんなものか……」

「………」

静かな防波堤。平穏な町だなとは思ったが、どこから見てものどかな光景が目に映る。

「………って!出てこねぇじゃねぇか!!!!」

海面から顔を出さないに拳西は怒鳴る。

「あーくそ!!」

というか、死神は溺れるものなのか?

「おい!こら!とっとと出てこねぇとぶっ飛ばすぞ!!」

酷い言い草である。
海に叩き落ちた原因は拳西にもあるというのに。
拳西が仕方なく海に飛び込もうとするが、ぼんやりと浮かんでくるものが見えた。
の手だ。はい上がろうと手を伸ばし、ようやく防波堤を掴む。

「……うぇ…海水、飲んだ……」

はい上がろうとするが、拳西から受けた攻撃が酷く力が入らない。

「まったくへなちょこはしょうがねぇな」

拳西はの腕を掴み、引っ張り戻す。

「はぁ……はぁっ……気持ち、悪い…」

、お前さ。あんだけ戦えるのに、なんで虚相手に躊躇するんだ?」

地べたに転がるを上から見下ろす拳西。

「……なんでって……へなちょこ…だからじゃないですか?……」

「あーそうかい」

その理由には拳西は笑わず納得しなかった。
早く言えといわんばかりにの体を踏みつけようと足を上げる拳西。

「ちょ!ちょっと待ってください!酷くないっすか!!」

「だったら言え」

「……横暴だ……」

しかも短気なのだろう、かまわず足は振り下ろされる。
ごつい厚底のクツで踏まれればタダではすまない気がする。

「うぉ!」

は間髪かわす。

「い、言いますよ…ガキの頃に…虚に家族を殺されて、その時の記憶を今も引きずっている…」

のだと思います。そう口にしは体を起こし深く息を吐いた。
何も出来なかったあの頃。
動かなくなった家族の姿が今も瞼に焼き付いている。

「んじゃあ死神なんぞやめちまえ。そうすりゃそんな思いしなくて済むぜ」

「そんな…」

「別にお前一人が辞めた所で護廷隊は痛くも痒くもねぇさ」

それはそうだろう。実力者揃いの者ばかりだ。

「嫌です!俺はずっと死神になるのが夢だった、約束だったから!だから辞めるなんて嫌だ!!」

「だったら泣き言なんか言ってんな。迷わず進め。弱いなら強くなれ」

「あ………はい」

すんなりと言うより、呆気に取られたまま返事をしてしまった。
拳西は突き放しているのか、励ましてくれているのかすぐには理解できなかった。

「迦具土…だっけか?お前の斬魄刀。すぐにでも消えちまいそうな焔じゃない。吹き消そうが消えそうにもない。お前の心の強さが現れているじゃねぇか。俺にはそう見えるぜ」

攻撃が少しも当たらなかったのは、自分の方が強いからだ。それだけだと拳西は言う。

「自信持てよ。後はそのガキの頃の恐怖、トラウマを断ち切ればお前はもっと強くなれるぜ」

トラウマを断ち切るなんてそう簡単には行かないはずだ。だけど不思議と、拳西に言われてそう思えた。

「じゃあな。。残りの駐在任務も頑張れよ」

拳西はに手を振り去っていった。

「拳西さん……」

拳西は何をしにここに来たのだろうか?
わざわざ挑発してまで戦闘に持っていかせて。
多少痛む体を無理に出て立たせて、は拳西に向けて深々と頭を下げた。



***



今日の夕飯はそばにした。
ちょうどそばはあったし、近所の奥さんから畑で取れたという野菜をもらったので、それを天麩羅にして。
冷やし天麩羅そばの出来上がりだ。
夏場だということもあったし、自身昼間の拳西とのやり取りの所為でこってりしたものは食べたくなかった。
ボロボロのを見てルキアは何をしていたのだと呆れ、叱りつつも鬼道で手当てをしてくれた。
は笑って、修行していたと答えた。

「それにしてもここまでなるものか?」

「あーまぁ、多少は無茶しないと修行にならないかなーと」

「まったくしょうがないものだ」

ルキアは深く追求してこなかった。

そして夜も更けた頃、こっそりアパートを出る。ルキアには散歩と行くと言って。
昼間のような暑さはなく、風が出ている。海辺に近いので潮風がの鼻をくすぐる。
やってきたのは昼間も訪れた防波堤。
伝令神機を取り出しかける。
夜とは言え、まだ執務中であろうか?少し緊張をしながら。

『おう。どうした、

そう待たずに相手は出た。

「どうしたってわけじゃないけどさ。ちょっと話をしようと思ってかけてみた」

『ん〜?お父さんが恋しくなったか?ホームシックって奴か?』

その言葉からもわかるとおり相手は修兵だ。
何を馬鹿なことを言っているのだと呆れるも、半分当たっているようにも思えた。
でもそんな事は口にしない。6年間寮生活をしていたのだし。

『どうだ?駐在任務は』

「姉さんのサポートっていうけど、そんなに忙しくないよ。日々家事に勤しんでる」

それでは普段と変わらないなと修兵は笑う。

「虚退治や整の魂葬とか…それなりに慣れてきたって感じかな」

『じゃあ気をつけろよ。そういう時に油断するもんだからな』

「あ…一度油断した」

それで虚に吹っ飛ばされてルキアに助けられたのだ。

『しょうがない奴だな』

「修兵は今何してた?もう家か?」

『いや、書類整理に追われてる。残業だな、残業』

はすでに帰宅済み、拳西は本当に非番だったようで不在だと修兵は言った。。
だから一人でせっせと処理しているという。
修兵が一人という事に少し安堵した。できれば人に聞かれたくないことだったから。

「あんな。修兵…」

『ん?どうした』

「……俺さ、入隊するまではまったく気にしていなかったんだけどさ。十三番隊に入って、虚討伐をし始めたら、一瞬躊躇することがあってさ」

一瞬の躊躇は死に繋がることだ。自分だけではない、仲間にも被害が及ぶことでもある。
だけど修兵は叱りつけずに黙って話を聞いている。

「ガキの頃の…修兵に拾われた頃のことがさ…あの時のことをずっと引きずってた。正直言って、怖かったんだと思う。虚と対峙することが…でもさ、このままじゃダメだろ?」

『そうだな…それでお前だけでなく、仲間も傷つくようなことがあったら最悪だ』

「うん。あの時のことはさ、忘れちゃいけないんだ。いけないけど、それを理由に逃げてちゃダメなこともわかる」

『あぁ』

「だから、俺、強くなるよ。もう俺みたいな思いするような子を出さないようにさ」

拳西は言ってくれた。
の、迦具土の焔は決してすぐに消えるような弱々しいものではないと。
もっと強くなれると。

『ははっ。急にどうした?そんな話をしてよ』

「決意表明って奴?あと、修兵のこと楽させてやるって言ったじゃん。弱い俺だと楽させてあげられねぇし」

縁起でもない話になるが、修兵よりも先に死んでその約束も果たせなくなる。

『楽させてくれるならよー。九番隊来いよ。そうすればすぐにでも俺は楽になれるんだがな』

「新人がそう簡単に移動できるかよ。まだ何にも十三番隊で役に立っていないのにさ」

『それもそうだな。働け新人……一つ…』

「ん?」

修兵の声音が変わったような気がした。

『一つ。教えてやるよ。俺もお前と似たような事があった。戦うのが怖いって時が…』

いや、戦うのを恐れるのは今もそうだ。そんな風に修兵は言った。
修兵の顔の傷。今まで聞いたことはなかったが、修兵は話してくれた。
霊術院時代に演習で虚に襲われて右眼に傷を負ってしまったと。

『それ以来、刀を抜く度、敵に会う度、必ず気持ちが半歩下がった。俺は戦いが怖かった…』

そんな修兵の事をは知らなかった。
出会った頃から修兵は強い。弱い心なんか見せない。そんな、にしてみれば憧れの対象だったから。

『けどな。東仙隊長が仰って下さった』

だから席官でいるべきなのだ。
戦士にとって最も大切なのは力ではない、戦いを怖れる心だと。
戦いを怖れるからこそ、同じく戦いを怖れる者達の為に剣を握って戦える。
自分の握る剣にすら怯えぬ者に剣を握る資格はない。

『本当に心から戦いを怖れているのならば…お前は既に戦士としてかけがないのないもの手にしているのだってな…ま。考え方は色々さ…この先どう考えるかはお前自身で決めるんだ』

「修兵…」

『お前はもっと強くなれるよ』
 
誰か入ってきたようで修兵が何か言っている。そろそろ会話を切り上げないといけないだろう。

「修兵。そっちに帰ったらさ、暇なときでいいから稽古つけてくれよ」

『あぁいいぞ。手加減しねぇから覚悟しとけよ』

顔は見えないが、あのいつもの笑顔で言ってくれているような気がした。
会話を終了させ、伝令神機をポケットにしまう。

「よーし!頑張るぞー!」

夜空に向かって精一杯伸びをする。
の目標は修兵。そして拳西。二人のような強い死神、男になりたい。
道は長いが諦めるものか。
まだ死神になったばかり、これからなのだ。







息子君と拳西君。修兵のこともそうだけど拳西君も目標にしたいつーことで。
結構暗めな話ですが、基本パパ夢の延長ですから、そのうち十三番隊中心のドタバタになると思います(笑)
あ、ちなみに今回息子君が出した技「龍焔」ですが、バサ幸の技「虎炎」だったりします(笑)
08/11/27
つーか、原作設定に合わせたとはいえ、拳西君がわざわざ現世に来たってのは無理があるかな?って気も。
でも、ここで拳西君にぶっ飛ばされないと話は進まないのですw
修兵との電話での会話、中身も原作にあった修兵の話を追加しています。
12/07/22再UP