旭日昇天




ドリーム小説
「はぁあ〜……」

日当たりのいい縁側で、やちるが頬杖ついて溜め息を吐いていた。
そこに出くわしてしまったのは一護。

「溜め息ついて何してんだよ。やることあるんじゃないのか?」

「いっちー。少しぐらい休憩したっていいじゃない」

「……少しね……ふーん」

配属された十一番隊は強さ、力が物言う!遊びは全力でやれ!そんな隊風を持っている。
わかりやすいとわかりやすいのだが、机仕事はまったくと言ってやらない隊長。
それを補佐するのが副隊長なのだろうが、仕事より遊びの方が大事だろ?な更木隊長のもとでは
机仕事は滞ってしまう。
昔はやちるも子供だったために放置状態であったようだが。
その分一角や弓親が中心になって行っていたらしい。
しかもだ、一角も進んでやる人ではないので、机仕事は必然的に弓親や四席が背負う羽目になっていた。
その後、やちるも成長しそこそこやるようになったのだが、今でもというか。
サボってしまう事は多々ある。
一護が十一番隊に配属になり、席官にもなれた今、弓親は根が真面目な一護をこちら側に引っ張ることが多かった。

「あんたが仕事してくれないから、俺にまで回ってくるんだぜ、勘弁してくれよ」

それでいて、剣八に勝負しようぜ!なんて追いかけられて。本当勘弁して欲しい。
性格的にはこの隊は肌に合うから気に入っているからいいのだが、あまりにも追い掛け回されると。
十三番隊などの方が良かったと思ってしまう。

「いっちーが変わりにやってくれているからいいじゃない」

誰が変わりだ。
根が真面目ってこういう時損だな。とつくづく感じた。
もう止めた!と放り出したい気もするが、やらないと後で困るのは結局自分たちなのだから。
だから、少しだけ意地悪をしてしまおう。



「え!?」

やちるが背筋を伸ばす。
かかった!一護はやちるに気づかれないようにニヤリと口元を緩める。
そして真面目な顔をやちるに向けて言った。

「ちゃんと仕事しない奴って、あいつの一番嫌いなタイプなんだぜ?知ってたか?」

「………うそ、だもん」

「嘘かどうかは本人に聞いてみるんだな。少なくとも俺が知っている限り、は努力型だからな」

手を抜くことが性格的にできないのは、根が真面目なのはも同じなのだと。一護は思っている。

「現世から帰ってきたら、に話してやるかな〜」

やちるは慌てて立ち上がる。

「だ、ダメ!いっちー、絶対に話しちゃダメだからね!!あたし、今からちゃんと仕事するんだから!!」

やちるにとって、「が」という言葉は最強なのかもしれない。
やるぞ!と意気込むやちるであったが、くるりと一護に顔を向けた。

「あのね、いっちー」

「ん?」

「仕事やるけど、手伝ってもらっていい?」

えへへと笑うやちる。
手伝って欲しいのは仕事は面倒臭いからではない。そんな風に一護は思った。
きっと話したいことが自分にあるんだろうなって思ったから。

「副隊長に言われたら断れないんで、手伝いますよ」

珍しくそんな言葉遣いで了承した。





【7】





がルキアのサポート役という名の新人死神研修の一環として現世に来て早数週間。
現世は夏真っ盛りだった。

「………あ、もうすぐだ」

昼食の準備をしている最中、ふと目にしたカレンダー。

「………」

とある日付を見て手が止まってしまう。
だが、現世での話であって実際はまだ先の話か。と自己完結してしまう。

殿。鍋が吹き零れてるぞ」

「わあ!す、すみません!!」

ルキアに言われて慌てて差し水を鍋に加える。
昼食は素麺にした。暑い日が続くとさっぱりしたものばかりを自然と選んでしまう。
あまり凝った料理もしていない。
先日天麩羅は作ったが、揚げ物はなるべくしたくないと敬遠している。

「やはり少し疲れているのか?」

「やはりって…姉さん…」

「この所修行だという時間が増えた。さらには通常任務もあるからな」

手伝おうとルキアがの隣に立つ。
拳西とぶつかって。修兵と話をして。きっかけはその2つかもしれないけど。
やる気は十分で。
それからすぐにルキアに再度頭を下げて稽古をつけて欲しいと。
ルキアは今までだって普通に稽古をつけてきたつもりだったが、は更に厳しくと言ってきたのだ。
先は長いのだから焦る必要はないと思ったが、のやる気を削ぐのもどうかと思ったので、ルキアは受け入れ翌日から厳しい稽古をつけ始めたのだ。

「流石と言うか、鬼道に関しては殿は筋がいい。生徒が優秀だと教え甲斐があっていいな」

「褒めていただけて嬉しいですけど…あまり褒められると調子に乗るので」

は苦笑する。照れ隠しもあるのだろう。

「この駐在任務が終われば、今度は単独での駐在任務だ」

「それは…この後すぐ。ってわけじゃないっすよね?」

「あぁ。決めるのは浮竹隊長だ。さすがに戻ってからすぐってことはない」

内心よかったと安堵する
すぐに帰りたい。というわけではなく、単純に修兵にも稽古をつけてもらいたかったからだ。
以前の自分では素直にそれを願うこともできなかったのだが…。

「とりあえず、昼飯食ったら、またお願いします。姉さん」

「あぁ。わかった」

さて、今日は何を教えようか。そんな風に楽しげなルキアが素麺も早く食べたいと言っていた。



***



副官室でやちるの仕事の手伝いをし始めた一護。
集中力は過去に比べたら上がっているのだろう、書類をそこそこ処理していく。
最初からちゃんとやればいいのに。一護はそう思わずにいられない。
ある程度こなした後に、やちるから休憩をねだられた。
やちるの方が高官なのだから、別に自分に同意を求めなくてもいいのに。

「ほら、お茶」

休憩すると言っても、お茶の用意をするのは一護だったので、同意を求めてくるのはそれなりに意味があったのか。
一護も自分に茶を淹れて飲む。
茶請けは残念ながら用意されていない。

「ねー…いっちー」

「んー?」

湯呑みを持って中身を零さないように遊んでいるやちる。

から連絡あった?」

あぁ聴きたい事はそれか。実にわかりやすいなと一護は笑う。
その笑みを見て、やちるは頬を膨らます。

「なによー」

「別に。あぁ、からだったよな?ねえよ、別に」

「そうなの?」

「あぁ。こっちからかける用事もねぇし…現世に行ってまだ少しじゃん」

「そ、そうなんだけどね」

十三番隊に配属されてから、と疎遠になりがちだったので、やちるは少し複雑なのだ。

「帰ってくるのもまだ少し先だろ?今からそんなで大丈夫か?」

「………」

「もうちょいしたら単独で駐在任務ってのもあるんだろうし……」

「そうなんだけどさ…色々気になるもん」

やちるは大きく溜め息をつく。

ッて自分のことあんま話さないでしょ?だからあたしの知らないこと、いっぱいなんだもん」

義母になった女性が実は初恋でした。何て話を知ったとき、すごい衝撃が来たものだ。
確かに昔から彼女に懐いていたとは思ったが。
それに、学院生活をどのように過ごしていたのかも知らない。
そこで自分の知らない女の子と仲良かったし、その子が十三番隊に配属されていた。
他にも自分が知らないだけで、結構色んなことがあるような気がする。

「今もルキルキと二人で現世でしょ?いっちー心配じゃないの?」

「何の心配だよ……」

一護はやちるが思っているような心配など、には持っていない。
やれやれと一護は頭を掻く。

「そんなに気になるなら、自分で連絡すりゃいいじゃん」

「そ、そうなんだけど〜」

やちるにはからの反応が怖いのだろう。
一護にもその手の話をすればがどんな反応をするのは大体予想がつく。
だけども、やちるの様子があまりにもいじらしいから。

「ほら、これが番号」

一護は自分の伝令神機を取り出した。
現世派遣の際に支給されるものだが、別にそうでなくても手にする事はできるようで。
一護は念のためにと、周りから勧められたそうだ。
一護が手にしたのはが派遣された後だったので、直接その番号を知ることはなかったのだが。

「あいつの親父さん。檜佐木さんが教えてくれたからさ。かけてみれば?」

「ありがとう!いっちー!!」

結局自分も甘いなと一護は苦笑した。





ルキアとの修行は楽しかった。
中身が緩いわけではない。教えてくれる内容を吸収できるのが楽しいのだ。
それでも体力的にも精神的にもキツイものはある。
日々ボロボロになるまで、体で覚えろ。という感じで色々叩き込まれる。もその方がてっとり早いので、文句はない。
だから今日の修行はここで終わりと、ルキアに告げられる頃には体もボロボロだった。

「姉さん、ちっとも疲れた顔をしてないし…」

町の海側ではなく、近くの山で修行をしていた二人。
の愚痴にルキアは近くの切り株に腰掛け笑っている。

「今すぐにそなたに追い抜かれるようなものでは、私自身も困るのだが」

相手は副隊長だ。そんな大それた事は流石に思わない。

「はー……強くなるって難しいっすね」

「簡単に強くなったら面白くないのではないか?」

その場に仰向けで寝転んでいる
青空の半分が赤に変わりつつあった。

「簡単に得る強さなんて強さじゃない。努力して得たからこそだと私は思うが」

学院に通っている頃だって、毎日必死だったわけだし。

「だが、強さに慢心していると寝首を掻かれる。力だけでなく心も強くなくてはダメだ」

「心か……」

は起き上がる。

「姉さん。ありがとうございました!また次もお願いします」

「あぁ。…最近の殿は本当やる気充分だな」

この駐在任務に就き始めた頃との面構えがまったく違う。

「そりゃあ、俺も頑張ろうって思うわけで」

「悪くないと思う」

ルキアは優しい眼差しをに向け笑う。

「さて、今夜の献立は何にしましょうか」

「そうだな…私は…あ。すまない」

ルキアの伝令神機に連絡が入る。しばし話してからルキアが振り返った。

「少し瀞霊廷に戻る事になった。今夜は殿一人になるが構わないだろうか?」

どうやら副隊長のルキアが戻らねばならないことがあるようだ。
事件と言うほどではないので、今夜一晩だけのようだ。

「構わないです」

その言葉にルキアは頷き瞬時に消えた。

「さて…俺も帰るか…」

一人になってしまったから夕食は簡単なものでいいなと考えていると、伝令神機が鳴る。
ほとんどかかってくることのないもの。
それは仕方ないだろう、誰にも教えていないのだ。知っているのはごくわずか。

「誰だ?」

どうやら修兵というわけでもなさそうだ。

「……もしもし?」

!?あたし!』

「……あたしじゃわかりません。どちら様ですかー」

その声。わからないわけじゃないけど、わざとらしく知らない振りをしてしまう。

『えー!酷いよ、〜』

は小さく笑う。

「悪い。やちる。なんで?俺、番号教えてないよな?」

話しながら歩き出す。

『いっちーから教えてもらった。いっちーはね、修ちゃんから教えてもらったんだって』

「修兵…」

この様子じゃ他の者にも勝手に広まっていそうだ。

(けど、別にかかってこねぇし…まぁいいか)

気遣ってかけてこないのか、かけるほど話はないのか。
後者だと少々寂しい気もするが。

「それで?何か用か?」

『用がなくちゃダメなの?』

質問を質問で返された。ダメなの?と言われても、普通用があるからかけてくるものではないのか?

「あのなぁ」

『だって、…黙って現世行っちゃうし…十三番隊配属になってから全然会わないし』

つまらない。やちるははっきり口にした。
が死神になればきっともっと楽しいに違いない。一緒に居られる時間も増える。
そう思っていたのに。なのに、想像していたのとはまったく逆で。

「…あーえーと…しょうがないじゃん。俺、今必死だもん」

『必死?』

「そう。必死なの。早く一人前の死神になりたいし、強くなりたいから」

そう甘えてばかりいられないのだ。

「でも、そうだな。そっち戻ったら、甘味でも食いに行こうぜ」

『うん!行く!!あ、でも・・・あたしはの作ったコロッケ食べたいな〜』

「隊舎で生活しているから無理だって」

『そんな事ないよ。実家に帰ればいいんだもん。修ちゃんも喜ぶよ〜』

また勝手なことを。はそう思うも。
修兵と話したいことも山のようにある。それもいいかなと思えた。
なんだか、やちると話していると本当楽しい。
任務に、修行にと必死でやっているものの、焦りが見えてくる。
焦ってもしょうがないとわかっていてもだ。
そんな気持ちをやちるが払拭してくれているような。そんな気分になる。

「ありがとうな、やちる」

『ん?何が?』

「……なんもでない」

恥かしくって言えないから、この事は内緒だ。
借りているアパートに到着するまで、しばらくやちるとの会話を楽しむだった。








今回は修兵ではなくやちるとの話ってことで。
09/01/26
元ネタでは拳西君が稽古をつけてくれましたが、ここは普通にルキアに。
やちるとも仲良くていいんじゃないですかね?
12/07/22再UP