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旭日昇天
海というものを始めてみた。 瀞霊廷内に住んでいたから、周りからの話でしか知らない存在だった。 部屋の窓から見える海。何度見ても同じ感想を口にしてしまう。 「でっけー…」 キラキラと海面が光っている。 尸魂界の季節は春だったが、現世は夏のようだ。 多くの人間が海に来ている。 がルキアと共に現世への駐在任務に着いて1週間が経とうとしていた。 駐在中の仕事と言えば、彷徨っている魂、整を尸魂界へ魂葬すること。 虚から人々を守り、虚を退治し昇華・滅却することだ。 派遣された町は比較的霊的治安の良い場所のようで、虚が出現することは今の所なく済んでいる。 虚と遭遇しないことを正直安堵している自分が居る。 このままではダメだとわかっていてもだ。 幼い頃の記憶と経験が結構根強く残っているようだ。 「殿。今日の夕食はカレーにしよう!私はカレーが食べたい」 死覇装ではなく、白く清楚なワンピース姿のルキアがを呼んだ。 現世での駐在任務。 死神の姿のままかと思えば、義骸を使って日中は人間と変わらない生活を強いられた。 二人は安いアパートで生活している。 なんでも現世に居る知り合いに手配してもらったそうだ。 外見が十代にしか見えない、二人。 一緒に暮らし始めて、ご近所からは仲の良い姉弟ねと思われている。 どこで考えたのか、両親を亡くして姉弟二人で暮らしています。 なんてことをルキアの芝居がかった口調で話すと、ご近所さんたちはあっさりそれを信じたのだ。 もルキアのことを「姉さん」と呼んでいるので不審がられることはなかった。 「カレー?別にいいけど、ポークにするの?それともチキン、シーフード?リクエストどうぞ」 どうせ作るのはだ。 家事の大半はルキアではなくがしている。 養女であるとはいえ、ルキアも四大貴族、朽木家の者。 家事など普段はしないのだろう。 「野菜たっぷりならばなんでもいい!」 「野菜カレーっすね。んじゃあ、買い物行ってきますんで」 財布を持ってアパートを出る。 私も一緒に行くぞとルキアも言ったが、ちょうど彼女の伝令神機に誰かからか連絡が入り留守番となってしまった。 「暑ぃ…尸魂界じゃ、あまり感じたことないよな…こんなこと」 不便のような気もするが、嫌な感じはしない。 は海を横目に入れながら歩き出した。 【5】 「もー!いっちー聞いてるー!!?」 「聞いてるって…俺にそんなこと愚痴られても困るんだけどなぁ」 死神代行から、晴れて(?)死神となった黒崎一護。 彼の運命というか、人生はかなり変わったものだった。 人としての所為をまっとうした後、彼は流魂街で生活することもなくすぐさま瀞霊廷へ呼ばれた。 特殊すぎる能力の所為だろう。 普通ならば、亡くなったときの姿でこちらへやってくるわけだが、彼はどういうわけか 一番霊力が高かった頃と思われる姿になっていた。 だが別にそれは彼に限らず、霊力の高い者にはよくある話のようだ。 その一護はとは霊術院ではいつも一緒につるんでいた。 お互い特殊な環境にいた所為というより、お互いを見知っていたからだろう。 にすると、「あの時の兄ちゃんが?」という驚き。 一護から見ると「あの坊主が?こんなにでかくなった」という感心。 お互い悪い印象は持っていなかったし、一護の性格などからとは友情を築けていた。 それにの生活環境を一護は把握していたし、も修兵には話さないようなことを 一護には話していたから。 信頼しているのだろう。 「でも、はいっちーには何でも話すもん!!」 「そうかぁ?普通だと思うけどな」 「あたしはがルキルキと駐在任務で不在なんての知らなかったもん!」 その一護に食って掛かっているのはやちるだ。 と同じく、霊術院卒業前から彼の入隊先は話題になっていた。 なってはいたが、基本一護の攻撃スタイルや今までの実績から簡単に護廷十三隊最強戦闘部隊と 言われる十一番隊に配属となった。 他よりも強さ重視。の隊なので一護もあっさり席官入りを果たしている。 「俺だって別にから聞いたわけじゃないって…檜佐木さんから聞いたんだよ」 は一足早くに霊術院を卒業してしまった。 一護はその一月後に卒業したわけだが、配属が決まるまで少し時間があったこともあり。 とは会えずにいた。 がどうしているかな?と思った矢先に、修兵から「朽木と現世に駐在任務でいないぞ」と教えられた。 かなり急だったらしく、その事を知っているのはごくわずかだそうだ。 新人は毎日忙しいのが当たり前だ。 だがやちるは知らなかったと、頬を膨らませ拗ねている。 「ってば、十三番隊に配属になってから一度も会いに着てくれないし」 それは無理だろうなと一護は思う。 新人のうちはいくら昔馴染みとは言っても、の性格では遠慮しそうだ。 「あたしが十三番隊に行っても、虚討伐で不在って日が多かったし」 「今は仕方ないだろ。あいつはあいつで一生懸命なんだよ、今」 やちるの顔が更にむくれる。 一護を恨めしそうな上目で見てくる。 「な、なんだよ…」 「いっちーが一番わかっているって顔しているー。なんかつまんなーい!」 「どうしろってんだよ…」 自分の頭を乱暴に掻く一護。 そんな二人に、正確には一護に凛とした涼やかな声がかけられた。 「黒崎君!」 「遠山。久しぶり…ってなわけないか」 彼女はと一護と特進学級で一緒だった子だ。 成績も優秀で下級生たちを現世に指導しに行く際、筆頭であったを補佐してくれた。 「入隊式の時に会ったばかりだもん」 成績優秀だったとはいえ、や一護とは違って席官入りはしてないようだ。 一緒にいるやちるを見て、彼女は頭を下げる。 「十三番隊、遠山あきつです」 「十三番隊…」 やちるよりも少し背が高い。背筋がまっすぐでハキハキした口調。 パッと見彼女から悪い印象は受けない。 「に会ったか?」 「ううん。まだ。ほら、私たちが入隊する前に君は現世に行っちゃったから。戻ってきたらびっくりさせてあげるつもり。同じ配属先だってのを」 「驚くかぁ?淡々と答えそうだな、あいつ」 「あはは。うん、そんな感じするよね。でも、君と一緒の隊でちょっと安心した」 知らない顔ばかりだから、相手はすでに席官とはいえ、心強く感じるのだと言う。 「でも十三番隊は先輩たちも気安い方々ばかりでなんとかやっていけそう」 「そっか。頑張れよ…って俺が言うのも変か」 「ううん。黒崎君にもそう言ってもらえて安心できるから…あ、呼び止めてごめんね。私まだ行く所あるから」 やちるにも頭を下げてあきつは駆けていった。 「いっちー。今の子」 元気よく駆けて行くあきつの後姿をなんとなく見送ってしまった。 「あ?ああ。同期って奴になるんじゃないのか。ずっと一緒に頑張ってきたからな」 「あの子、いっちーのことは黒崎君≠ネのに、のことは名前で呼んでた」 しかもと同じ十三番隊で嬉しそうな顔をしている。 「別に普通だって。あいつ、親父さんのことがあったから、名字よりも名前で呼んでくれって言ってたし」 それだけだろうか? やちるは変にあきつのことが気になってしまった。 彼女は彼女で、自分の知らない霊術院でのを知っているのかと思うと。 なんだが悔しく感じた。 *** まだ1週間しか滞在していないと言うのに、近所の店はほぼ把握した。 これも昔からの習慣だろう。 変なところで役に立ったと思う。 のどかな町並み。 夏は近くの海を目当てに訪れる観光客相手の海水浴場で賑わうそうだ。 場所がいいのだろうか。 不思議と落ち着く町だ。 「うわっ」 利き過ぎた冷房の店から出た瞬間。 むわっとしたものが顔にまとわりつく。 外と内の温度差がありすぎて、そこは少々嫌になる。 「カレーの具材は買ったろ?付け合せのらっきょうに福神漬けも買った…玉子スープ用の玉子も買った」 駐在任務はこのままのんびりと終わってしまうのだろうか? なんか家事をやって終わりのような気もするが。 元々今回はルキアのサポート役であるし、新人であるを慣れさせる目的もある。 比較的安全な地域が選ばれているのだろう。 もう少し実績を積めば、今度は単独での駐在任務に就く事になるだろう。 「あ…整…かな」 人気のあまりない防波堤に子どもの姿があった。 一人でいるようだが、以外には見えていない。 胸に鎖がついているから整だろう。 「…魂葬しといた方がいいのかな」 は子どもに近づく。 「やあ。何見てるのさ」 《…?お兄ちゃん、ボクが見えるの?》 「一応な。死神って奴だし…心残りがなければ、魂葬するけど…ってあるよな、普通は」 未練があるから、ここに居るのだろう。 「でも、このままだとダメだしさ」 《こんそうって…ボクどうなるの?》 「なんてことはなさい。尸魂界って場所に行くだけだよ。悪い場所じゃない」 は義魂丸をポケットから取り出す。 一粒それを飲めば義骸から抜け死神へと戻る。 早く子どもを魂葬してあげよう。そう思ったが、突如海から虚が出現した。 「な!」 突然過ぎて驚き、体勢が崩れた。 急ぎ死神とならねばと思ったが、記憶がフラッシュバックし躊躇してしまう。 あの頃の傷は修兵と出会ったことで少しずつ癒されたはずだ。 だが、死神になってから、斬魄刀を手にして虚に遭遇すると、一瞬戸惑うことが増えた。 恐怖に支配されつつあるのだろうか? そんな事を考えていたから、は虚に払われ吹っ飛ばされてしまう。 「し、しまった!おい、逃げろ!!」 虚は子どもを狙っている。 いつかの自分とその姿が重なる。 いつかの親友たちの姿も重なる。 「くっそ…」 吹っ飛ばされた衝撃で、義骸に不調が出た。 子どもは虚の姿に驚き動けないでいる。 早く。早く死神の姿にならないと! 虚が子どもを掴もうと手を伸ばした。 「やめろー!!」 必死で手を伸ばすだが間に合わない。 こんな結果は許されるはずがない。 「舞え!袖白雪!!」 空気が冷たく感じた。 氷が虚を包み、綺麗に霧散し虚はあっけなく散った。 「え……」 「殿。大丈夫か?」 子どもの前に立ち女性。ルキアだ。 「虚の反応が出現したので、駆けつけて見れば…」 子どもの整に倒れている後輩の姿があった。 ルキアは斬魄刀を鞘に納める。 「早くその子を魂葬してやるといい」 「あ、は、はい」 ルキアに言われるままには義魂丸を飲み死神へと姿を変える。 「ゴメンな。俺がだらしないから、君を怖い目に合わせて・・・・」 そんな相手に魂葬されるのは不快だろうなと思いながら、は斬魄刀を鞘から抜く。 「大丈夫。怖くないから」 刃ではなく、柄を、頭を子どもの額に軽く押し当てる。 判子のように、額に文字が浮かぶ。 子どもには意味がわからないのだろう、終始キョトンとしたままだったら静かに消えていった。 それを見届けると、は力なく溜め息を吐いた。 (姉さんに、なんて説明しよう・・・っていうかさ・・・) 虚が出現すると伝令神機に何かしら反応があるのに、今回まったくなかった。 支給されたばかりの新品のはずなのに不良品だったのだろうか? 義骸へ戻り、ごそごそとポケットから伝令神機を取り出す。 「うわ、最悪・・・・電源入ってねぇ・・・・」 気が緩みすぎだと自嘲する。 「殿…」 ルキアの厳しい眼差しがに向けられている。 「すみませんでした!」 はルキアに深々と頭を下げた。 「らしくないな、殿。詳しい話はあとで聞かせてもらうぞ」 「は、はい…」 俯くにルキアの表情が柔らかくなる。 「だが、子どもは助かった。ちゃんと魂葬もしてあげられた。結果は上々だと思うが?」 「こ、子どもが助かったのは嬉しいんですが、自分的に色々思うことがありまして・・・そう簡単には」 結果はそうかもしれないが、内容が悪すぎだ。 「一度や二度の失敗でくよくよするでない!情けない!!」 「は、はい!」 ルキアに叱咤され、は背筋を伸ばす。 「では戻るとしよう。カレーの準備をするのだろう?」 自分も手伝う。とルキアは言う。 「はい……あ!玉子!」 「玉子?」 虚に吹っ飛ばされたおかげで、手にしていた荷物も投げ出された。 は慌てて離れて荷物を拾いに行く。 「一個だけで済んだぁ…良かった」 中身を確認し安堵する。 は義骸に戻る。 「カレーではないのか?」 「玉子でスープを作ろうと思って。それ用に。でも、玉子はなんにでも使えますから」 「おぉ。いつも思うが、殿はすごいな」 早く帰ろうとルキナが促すも、虚に吹っ飛ばされた衝撃で義骸に不調がでてしまい。 アパートに戻るのに少し時間がかかった。 それ以上に、事情を聴いたルキアからその倍以上の説教をこの後食らう羽目になるのだが…。 やちるは拗ねちゃっていますねぇ。
08/07/05
元々、この場で出てきたのは仮面勢だった拳西君ですが、違和感なくルキアに変更。
12/07/22再UP
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