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旭日昇天
入隊して一月は忙しすぎて記憶がほとんどなかった。 覚えることが多すぎることと、早く慣れようとすることで必死になっていた為に。 焦る必要はないと先輩隊士に優しい言葉をかけられても、そう甘えてばかりはいられないだろう。 「そっちに行ったぞ!!」 「殿!」 の前に追い詰められた虚が飛び出してくる。 先輩隊士たちが追い詰めほぼ虫の息だ。 冷静に対処をと己に心がける。 「せやぁ!!」 斬魄刀を虚の仮面目がけて振り下ろした。 虚はその一太刀で両断される。 「……はあ……」 虚を斬ったその手を見る。 斬魄刀で虚を退治するのは始めてではない。 だが、まだ慣れないのだろうか、小刻みに震えている。 「……弱いな、俺……」 いまだに心に根付いているモノがどうやらあるようだ。 「よくやったな!」 バシンと力強く背中を叩かれる。 「ど、どうも」 檜佐木と呼ばれるより名前で呼んで欲しいと入隊の時に言うと、ほぼその場に居た全員があっさり頷いた。 それ以来、十三番隊では名前で呼ばれる事が多い。 「もっと喜べ、んで自信持てよ」 「は、はい」 「やっぱスジがいいって、お前。これからも期待しているからな」 十三番隊は居心地が良く感じる。 浮竹をほぼ全隊士が慕っているし、のことも特別視しないで接してくれる。 学院では修兵の息子。彼の息子だから出来て当たり前のような目を向けられ続けていたから。 いくら十三席に身を置いても、まだ新人であるのは変わりないため、雑用も平気で回ってくる。 「殿」 「ルキア姉ちゃん…あ、ルキアさん」 ルキアは小さく笑う。 「今まで通りで良いと言ったではないか。そう無理して変えることもない」 「でも…なんか…」 普通に年齢を考えればルキアの方が遙かに年上なのだ。 「殿のこともいまだに、そう呼んでいるのだろう?」 「あ…逆に今更義母さんと呼びづらいんで」 とりあえず、姉ちゃんはやめて姉さんにしようか。 それならばまだいいかもしれない。 一緒にいた隊士にルキアは撤退命令を出す。 負傷者もなく済んだので隊士の返事はとても気持ちよいものだった。 「先ほど伝令があった。浮竹隊長がお呼びだそうだ」 「俺に?」 「私と二人でだそうだ。多分何の呼び出しかは想像がつく」 入隊したての隊士に命じられるよくある任務だ。 【4】 十三番隊隊首室、雨乾堂にルキアとともにやってきた。 「失礼します」 「ああ。待っていたよ、二人とも」 仕事の途中だったのだろうが、浮竹は入ってきた二人に体を向ける。 正座するルキアの少し後ろには同じように正座した。 「虚退治ご苦労だったな」 「いえ」 負傷者もなく無事全員が帰還したことは、浮竹にとって本当に嬉しいことだ。 「早速なんだが、朽木。現世への駐在任務をしてもらうことになった」 「はい」 「君。君には朽木のサポートとして一緒に行ってもらうことになった」 「え…は、はい」 ルキアと共に呼ばれた理由はそれか。 「はは。そう硬くならなくてもいい。朽木が一緒だから問題はない、自分の目で色々現世を見てくるといい」 現世でしか学べないことも多いだろうからと。 ルキアが駐在任務を命じられたわけだが、実際はサポート役の新人隊士のためである方が大きいのだ。 そして更に経験を積めば、今度は単独での現世派遣となるのだ。 「現世へ出立する前に色々必要なものがあるから、ちゃんと準備をしとくんだよ」 「はい」 「朽木、頼むな」 「はい」 長居することなく、二人は雨乾堂を出た。 ルキアは早速その準備に取り掛かろうと歩き出す。 現世での駐在任務で必要なものを取り揃えなくてはならない。 出立は支度が整い次第という事になっている。 ルキアはすでにそういうものはすべて揃っているので、の為の仕度になるのだが。 向かった先は技術開発局。 そこで、必要となるものを用意するのだという。 「お。坊主じゃねぇか。こんな所で会うとはな」 咥えタバコに白衣姿の男とばったり出会った。 「阿近さん。どもお久しぶりです」 「あいつにお前が死神になったと聞いてはいたが…中々様になってるじゃねぇか」 本当には顔が広いなとルキアは感心してしまう。 ここに来るまでの間、知り合いだというもの達から度々声をかけられていた。 「本当にそう思っていますか?」 「見た目がいいからな、お前は」 褒められているのかよく判らないといった顔つきのだ。 「で?どうした、こんなとこまで来て」 の変わりにルキアが話し出す。 現世に行くことになり、それに必要なものを用意しに来たと。 「へぇ、親父には言ったのか?現世へ行くことを」 「言う必要あるんですか?」 「言ってやれよ。じゃないと俺のところに愚痴りに来る。いい加減子離れしろと言っているんだがな」 「もっと言ってやってください」 呆れた。修兵は阿近にいまだに自分の話をしに来ているようだ。 きっと思うに、今は真萩と撫子という可愛い双子も儲けているので、それもプラスされているだろう。 「殿。言って安心させた方がいいと思うぞ、私は」 「姉さんまで…」 ルキアは初の単独任務の際。家族に黙って現世に向かった。 その時まさかこのようなことが起こるなどとは…。という出来事に遭遇したのだ。 結果、色々遭ったが兄白哉と打ち解けるきっかけにはなったが。 「阿近殿。伝令神機の申し込みをしたいのですが」 「ああ。んじゃあっちの窓口だな」 申し込み?窓口?単純に現世に向かう死神ならば簡単に支給される代物ではないのか? は小首を傾げる。 「今は色々手続きが必要になってな…あと色々なプランもある」 「は?プラン?」 「自分の目で見て来い。んで、自分のを手に入れたらもう一度俺んとこ来いよ」 「はあ」 阿近はそう言ってのらりくらりと二人の前から去っていく。 ルキアも歩き出した為にはその後を追う。 「……って、なに、これ」 が目にしたのは伝令神機ショップ。なるものだった。 可愛らしい女性死神が受付をしている。技術開発局との関連で十二番隊の隊士がやっているようだ。 「ほら、殿。早く申し込みをするのだ」 ルキアが早くに受付に進んでいる。 椅子に腰掛け案内係りのお姉さんに話をしている。 もルキアの隣の椅子に腰掛ける。 「現在すぐにお渡しできるデザインはこちらになっておりますー」 ずらりと並んだ伝令神機。 「今流行りなのは、こちらの薄型のタイプですね」 物に固執はしないので別になんでもいいのだが。 「あ、えっと…このタイプで」 一通りどんなものかを見て、このくらいならばと言うものを選ぶ。 申込書に名前や住所、所属の隊などを書かされる。 その上で、今はこんなプランに入るとこんなにお安くなりますよーなどという一方的に説明されてしまう。 「あと、ファミリー割引にご加入しますか?檜佐木副隊長と奥様が入られておりますが」 「………」 なんだよ、ファミリー割引って。 「こちらにご加入されますと、家族間の通話が無料となりまして」 「結構です」 修兵と電話なんぞするものかと、即答で断る。 「殿。入っておいた方がいいぞ。檜佐木先輩の口座から一緒に支払ってもらえるぞ」 席官であっても新人隊士の月給は安い。 「じゃあ加入ってことで」 「あと、それでですねー」 伝令神機一つを支給してもらうだけで、何故にこんなに時間がかかるのだろうかと疲れてしまう。 ようやくショップから出てこれたのは1時間後だった。 *** 出立前に修兵のところに行ってこいと、ルキアに強く言われたは渋々九番隊隊舎へ向かった。 その間ルキアにもやることがあるらしい。 九番隊の隊士に修兵の居場所を聞くと、隊首室にいるそうだ。 は渋々隊首室に向かった。 隊首室前で一度深く息を吐いた。 死神になってからちゃんと顔を会わせるのは初めてではないだろうか? 仕事を終えると、今の自分はそのまま布団に気を失うかのように寝てしまうから。 家族へ連絡などというものはほとんどしなかった。 「失礼します。十三番隊十三席、檜佐木。檜佐木副隊長にお目通り…?」 すべて言う前に戸がガラリと開いた。 「うわっ!」 そしてそのまま引きずり込まれた。 「何、堅苦しい挨拶してんだよ。昔は平気で入ってきたじゃねぇか」 「む、六車隊長!!あ、あれはその、昔だからで…」 引きずり込んだのは拳西でそのまま頭をわしわしと撫でられる。 「昔みたいに、拳西さん。って呼べばいいだろうが」 「よ、呼べるわけないじゃないですか…」 「呼ぶまで放さねぇぞ?」 「え…」 「隊長…人の息子で遊ぶのやめてくれませんか?」 苦笑している修兵。 普段自分がにしていることなのだが。 「俺とが仲良しで羨ましいだろう、修兵」 「別に羨ましくないですよ…それで?何の用だ?わざわざここに来るなんてよ」 ようやく拳西から解放されたに修兵が尋ねる。 拳西は自分の机に戻り椅子にどっかり座った。 修兵とにそこのソファにでも座って話せと言い。 言われた二人は素直に従う。、は修兵の向かいに腰掛けた。 「ああ…俺、この後現世に駐在任務で行くことになったから…それで」 「一人でか?」 「いや、ルキア姉さんと…姉さんのサポートでってことで」 「朽木か。そういやお前の指導役なんだってな」 ここ一月ルキアからは色々教わり続けている。 たまに修行にも付き合ってくれている。 「別に俺はこのままでもいいと思ったんだけど、姉さんも阿近さんも修兵に一言言っておけっていうからさ」 別に話す事なんかないのに…そうふて腐れてしまう。 「そりゃ、朽木に感謝だな。黙って行かれたから寂しいじゃねぇか」 「別にんな長い期間じゃねぇし」 「それでもだ」 反抗するのは恥かしさからだろう。 「そうだ。お前、伝令神機支給してもらったんだろ?」 現世に行くとなれば必要なものだ。 「ああ。さっき姉さんに案内されて…支払い、修兵の口座から引かれるから」 「なんだ、そりゃ」 ファミリー割引がどうとか、修兵に先ほどの出来事を聞かせる。 それで一応修兵は納得したようだ。 「よし。ほら、お前の番号教えろ」 「えー」 「何がえー。だ。早くしろ」 修兵は自分の伝令神機を取り出し番号交換だと実に楽しそうにしている。 「当然メモリーの1番は俺だろ?」 「いや、阿近さん」 「はぁ!?なんでだよ!つーか、阿近さんいつの間に!」 伝令神機を受け取ったら俺のトコに来い。 そう阿近が言ったので、は素直に阿近の元を訪ねたのだ。 その先、俺の番号教えとくぞーと勝手にいじられた。 「阿近さんと話すことあるんすかー?」 「中々酷いこと言うな、坊主…たまにパシリで呼び出すと思うからな」 「嫌な理由で登録しないでくださいよ」 というやり取りがあったのだ。 恐らく阿近からの嫌がらせの意味もある気がする。 父親よりも先に登録してやったぜ。みたいな? 「くっそー阿近さんひでぇよ」 阿近の嫌がらせは見事に修兵に伝わったようだ。 修兵は面白くないと唇を尖らせている。 修兵はの伝令神機に自分の番号を登録しよとするが、その手が空を切った。 「パシリはひでぇよな。まぁ安心しろ、俺はそんな用事で呼び出しはしないから」 「た、隊長!!」 拳西が修兵より先に自分の番号を登録してしまう。 恐らく阿近と同じで嫌がらせに近いだろう。 「なんすか、隊長まで………一応の番号も入れといたからな」 修兵はふて腐れながらも自分の番号を登録した。 「ふーん」 「現世で寂しい思いしたらいつでもかけて来いよ」 「逆に言う。くだらない用事でかけて来るなよ」 どこまでガキだと見られているのだろうか? 背丈も修兵とさほど変わらないのに。 「じゃあ。俺、そろそろ行くから。姉さん待たせるわけにいかないし」 は立ち上がる。 修兵も立ち上がり、そこまで見送ろうというのだろう。 は拳西にも頭を下げると、拳西はニッと笑って行ってこいと言った。 隊首室を出る二人。 「気をつけて行ってこい。ま、朽木が一緒なら大丈夫だと思うけどな」 「姉さんに迷惑かけないようには心がけるけど」 修兵は笑っての額を軽く指で弾く。 「な、なんだよ」 「新人のうちは迷惑かけてなんぼだろ。失敗を恐れるな」 「そうは言うけどさ…」 「最初から完璧に出来る奴なんかいねぇんだからよ」 行ってこいと修兵はの背中を強く叩いた。 ジーンと背中に響くがは苦笑しながらも頷いた。 「うん。行ってくる」 少し癪だが、現世に行く前に修兵に会っておいて良かったと思った。 新人隊士は忙しいようです。
で、現世に向かうことになりました。ま、現世と言っても長いこと現世での話をするわけではありませんので。
08/06/17
元々は拳西君と会話させたくて、現世へ行かせたのですが、拳西君隊長になったので、この辺から大いに修正しま
した。つか、拳西君も息子君を可愛がっているのですかね?
12/07/22再UP
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