ドリーム小説
危ない、危ない。
ちゃんと話さないといけないと思ったのはいいが、まさか自分でもびっくりするぐらい
するりと姉ちゃんに対し「初恋の人」発言してしまうとは思わなかった。
しかもその後少し面白がって遊んでみれば、修兵とやちるに目撃されるし。
タイミング悪すぎ。
ってかさ、本気にされると、マジで困るんですけど。
そんなドロドロした展開狙ってないっての。

でも、まあ…多少は楽になったかな。
あとは、一番の難関だと思う…自分的に。

でも、その前にちょっと遊びに行ってこよう。





【擦り寄ってくる】





「俺、びっくりしちゃったよ。あの抜け道まだ健在なんだもんな」

「それを使ってきたお前に、俺はびっくりだ」

隊長専用の机に片肘ついて呆れた顔をしているのは、十番隊隊長日番谷冬獅郎だ。
はやちるの追跡をかわして日番谷のいる隊首室にやってきたのだ。
ただ普通に中へ入るのはやはり気がひけるので昔使っていた抜け道を通ってだ。
正直いまだにそこが使えるとは思わなかったが。

「いやー流石にガキの頃と違って死覇装じゃないと目立つだろ?」

「昔からお前は目立っていたけどな」

色んな意味でと日番谷は付け加え。

「そういうなよ〜目立つつもりなんてなかったんだぜ?でもさ」

自分で巻いた種だから、目立ってしまったのは仕方ないだろう。
はソファに深々と座り込む。

「忙しかった?」

隊長なのだから、忙しいのは前提だろうが。

「いや。そんなに気を使われるほど忙しくない。うちは松本が仕事さえ溜めなきゃ問題ないんだ」

酷い言われようだなとは苦笑する。
その乱菊はどこに行ってしまっているかは知らない。
訊ねて日番谷の機嫌を損ねる結果にでもなったら嫌なのであえて聞かない。

「じゃあどっかにメシ食いに行かね?俺、家飛び出してきたんで食い損ねたんだ」

「飛び出した?」

「ああ。修兵とやちるから逃げてきた」

「逃げてきたってお前…」

何をしたのだと日番谷が心配する。
その心配は無用だとは笑う。

「冗談通じねぇんだ、二人とも」

二人にしてみれば性質の悪いものだったのだろうと容易に日番谷は想像ついた。

「後で痛い目見るのは、お前だぞ」

「うん。わかってる。あとで修兵に叱られるつもりだから」

「おい」

そんなに性質が悪いものなのか?とつい訊ねてしまう日番谷。

「いや、違うことで叱られるつもり。正直怖いな…色んな意味で」

「草鹿は?」

「やちるは別に。俺さ、この休み中も冬獅郎んとこ逃げ込むつもりだった」

面倒なことを言ってきたなと日番谷は思った。
実の所、学院が長期の休みに入るとは数日ふらりと日番谷のところを訪れていたのだ。
何をするわけでもなく、のんびり気ままに過ごすと帰っていく。

「けど、今回初めて実家に帰った」

「らしいな」

「隙あらば早々に寮に帰ろうとも思ったけどな」

「帰らなくて正解だったんだろ?」

修兵に叱られるつもりだと言った
だから日番谷の問いに苦い顔をしながらも頷いた。

「メシ食いに行くか」

日番谷は席を立つ。
食べながら話を聞いてくれると言うのだろう。

「日番谷隊長。ご馳走様でーす」

は白々しく頭を下げた。

「なんで俺が奢るの前提なんだよ」

「俺、学生」

ニカっと笑う
女性には受けそうな笑みも日番谷から見ると悪魔が微笑んだようにしか思えない。
死神が悪魔をなんて可笑しな話だが。

「テメェの分ぐらいテメェで払え」

パシンと軽い音が鳴る程度にの頭を叩いた。

「えー」

「嫌なら浮竹にでも奢ってもらえ。あいつなら喜んで奢ってくれるだろうな」

「いや、遠慮する」

浮竹には頭が上がらない。
遠慮しなくていいんだよと、自分を甘やかすだろうから。

「シロさんにはもっとビンボーな時にでもご馳走してもらう」

「それもどうかと思うな」

「じゃあ。金のない友だちに付き合える場所で食ってくれよな」

「ああ」

日番谷とはかわす目線が変わらない。
でも高さは変わった。
お互いもっと高い場所からモノが見えるようになった。
今は、少しだけの方が背が高い。
ほんの少しだが。



***



「あー!、見つけた!逃げるなんてひどいよー!!」

ぷっくり頬を膨らましたやちるに会ったのは日番谷と食事を済ませた後だった。
しかも数時間経っている。
やちるはその間ずっと探していたのだろうか?

「やちる。仕事は?」

日番谷はとっくに隊首室に戻っていった。
今からはある場所に行こうと向かう途中だったのだ。

「やるけど、はどこ行くの?」

「内緒」

「えー!なにそれ!!」

は口角を上げてニヤっと笑う。

「なに?気になる?」

やちるの頬にスッと朱が走る。
先ほど日番谷には悪魔に見えた笑みだ。やちるにはその逆に見えるようである。

「き、気になる…どこ行くの?」

「残念。教えてあげない」

そう言ってはやちるに対しヒラリと手を振り背中を向けた。

!!」

やちるはその後を小走りで追いかける。

「ごめんな、やちる」

普通に走ろうが、瞬歩を使ってもやちるにはきっと追いつかれるだろう。
だから申し訳ないが鬼道を使わせてもらう。姿隠しの術を使って。

!ずーるーいー!!」

副隊長相手でも、術は完璧のようだった。
やちるに申し訳ないと思いつつ、はそばから離れた。



***



日も暮れ始めた頃、修兵が帰宅した。
真萩と撫子は父が帰ってきたことに喜んで飛びつく。

「おう。いい子にしていたか?」

「はぎ。いいこー!」

「なこもいいこだったよー!」

そうかと目を細めというより、目尻が下がりつつある修兵は子供たちの頭を撫でる。

「お帰りなさい」

も出迎える。

「ただいま……は?」

開口一番にそれですか。は苦笑してしまう。
だから息子に妬いてしまうんだ。

「まだです。あなたに睨まれてから帰ってきていませんよ」

「べ、別に睨んじゃいねぇって」

はくすくすと笑う。

「昼間、行く場所があるとか言っていましたから、あ、でも夕食どうしましょうか?」

が帰ってくるまで待っていようか、先に食べていようか。

「そうだなぁ…友だちのとこなら先食ってもかまわないだろう」

修兵自身はもう腹が空いていたので、先に食いたいと思っている。
そこにやちるが飛び込んできた。
檜佐木家の引き戸が壊れるんじゃないかというから、乱暴に開け放って。

「修ちゃん!ちゃん!、帰ってきてる!?」

「…お前な…人ンち壊す気か」

「べ、別に壊さないもん。それよりは〜」

早く教えてと地団駄を踏むやちる。
まだだと答えると不機嫌極まりない顔になるやちる。

「もう、どこ行ったのよ〜行きそうな場所沢山探したのに!」

仕事はどうしたのだとツッコミたくなるが我慢だ。

ったら鬼道使ってあたしから逃げたんだよ!行く場所も内緒とかいって教えてくれないし!」

おぉ、それは我が息子ながらすごいと変に関心してしまった。
やちるは諦めないのか、ブツブツ文句を言いながら飛び出していった。

「……内緒にするような場所にねぇ」

他に女でもいるのか?と思ったが、そんな器用な奴じゃないだろうと思う。
万人受けする性格と顔だが、自分にとって興味ない人、不快にさせるような人にはきっぱり線引きするのがだ。
頑固者だから、きっとやちるに教えないということはよほど誰にも教えたくない場所なのだろう。

「……あ」

なんとなくわかった。

「修兵さん?」

「仕方ねぇな…バカ息子を迎えに行ってくる」

「でしたら草鹿副隊長もお連れしたほうが」

「いや。多分それをは喜ばないだろうから、先にメシ食っててくれよ」

修兵は家を出た。
多分がいるのはあそこだろうと予想して。



***



やちるは怒っているだろうなと、あとでどう詫びようか考えながらやってきた場所。
はそこに数時間黙っていた。
もう日も暮れている。
早く帰ろうとは特に思わず。一人でずっとそこにいる。

「何やってんだ、バカ息子」

「遅いじゃないか、バカ親父」

修兵が予想した場所にはいた。

「遅いって…なんだ?迎えに来て欲しくて帰ってこなかったのか?」

「違うって…たださ、ちゃんと修兵と話をしようと思ったからだよ」

が体動かさずジッと見つめている先には幾つか石が立ってる。
が容易したのだろう、その一つ一つに花束が置いてある。

「あの時は、咲いていた花を取ってくるのが精一杯だった」

「………」

「薄情だな、俺。数える程度しか来なくて」

「仕方ねぇだろ…最初は思い出すのも怖がっていたじゃねぇか」

ここはが育った場所。流魂街のとある一角。
の前にあるのはの家族だった人たちの墓だ。
がここに来たのは自分でも薄情だと思える程度だ。
まだ死神でもなく、瞬歩も使えない小さな子どもではここに来るのは不可能に近かった。
ようやく一人でここに来れた。

「よくここってわかったな、修兵」

「言ったろ?お前の父親やっててもうどのくらい経っていると思ってんだよ。わかるさ」

やちるや恋次など、親しい人たちのもとにいないとなると、行く場所は限定される。
ここの話を知っているのはほんのわずかだ。

「弘幸、陽太。遅くなった、これが俺の親父だ」

これ言うなとの後頭部を叩きたいが我慢する。

先生、源二郎。俺、約束守れそうだよ」

修兵ですら、の家族の顔は知らない。いや知らないと言うより覚えていない。
対面した時にはすでに事切れていて。
が彼らのことを自分から話すこともほとんどないから。
ただ、彼らとの「約束」というのを何度か口にしていた。

「死神になって、皆のこと楽にさせてやるって…」

「………」

「ごめんな。俺の所為で、皆」

「バカ。そんなこと言うな!」

実際はそうだ。霊力が目覚めていたを狙って虚がこの家族を襲ったのだ。
はその事を直接その虚の言葉で知ってしまった。
一人になってしまった原因は自分の霊力の所為で。

「俺は、お前だけでも助けることができて良かったって思うぞ。
俺もガキの頃、虚に襲われてよ、当時九番隊の隊長だった方に助けてもらった」

多分、それが死神になりたいと思ったきっかけだ。
自分が死神になれた頃にはその人と対面することはなかったのだが。

「誰もお前のこと責めちゃいねぇよ。それに…その先生や源二郎さんもお前のダチも今頃はもうどっかで暮らしているだろ」

現世で死んだ人間は尸魂界にやってくる。
そこで暫く過ごした後に、また現世へと戻る。転生を繰り返すのだ。
あれから長い月日が経った。
彼らもきっと別の人生を歩んでいるだろう。

「今度は、俺のこと楽させてくれるんだろ?」

「………」

なんだよ、返事なしか?と修兵は面白くなさそうに明後日の方向に目を向ける。
しばらく沈黙が辺りを覆う。
夕食も食べないで迎えに来てやったのにと思いながらも、が何かしようとしているのでそれを待つ。
こいつは昔から変なところで頑固だったから。
自分も似たよう面は持っているが。

「あのさ」

ようやくが口を開いた。

「俺………修兵が姉ちゃんと結婚したのはとても嬉しかったんだ」

「なんだよ、突然」

だけど初恋の人だからどうとかとか言うのだろうか?ちょっと身構えてしまいそうになる修兵。

「修兵は源二郎に似ていて、姉ちゃんは先生に似ていて。二人が一緒にいるのを見て、あの頃を思い出して。
修兵がいつかお嫁さん貰うなら、姉ちゃんがいいなって思ってて。それが叶って嬉しかった」

嬉しかったけどさ。そこまで言って声がかすれた。
言わなきゃ駄目だと思っても、どんな反応をされるかと思うと怖い。
にも言わなかったことだ。

「いつからかな…俺、二人にとって自分が邪魔なんじゃないかって思うようになってさ」

「お前っ」

「双子が産まれて特にそう感じた。だから、寮に入ってさ、家帰らないように理由作って…
卒業後も死神になれてどっかに配属決まったら、家に戻らないでずっと離れて暮らそうかなって」

修兵は拳を強く握り締める。

「俺はな。お前が理由をつけて戻ってこないことぐらい気づいていたけどな。けど、そんな理由だとは思わなかった」

修兵の声に怒りが含まれているのが感じる。

「俺が、を邪魔に思ったなんてこと、一度もないぞ」

「だって、違うじゃないか」

「何が違う!」

ずっと修兵に背を向けていたは振り返る。
声だけじゃない、本気で修兵が怒っている。

「双子と俺、違うんだよ」

「だから、何が」

修兵は苛立ちを隠せない。と真萩、撫子を分け隔てるようなことはしたことはない。

「俺と修兵。血の繋がりないじゃん…」

「お前、なんで今更、そんなこと口にするんだよ」

「しょうがないじゃん。寮に手紙と写真届いて、これはこれで一つの家族なんだなって。
俺の居場所はそこにないって思えるんだからさ。久々に帰ってきて余計にそう感じた」

自分が暮らしていた面影、名残なんかどこにもなくて。
修兵と。真萩と撫子。そこに自分がハマるような、カチっと合う感じがしなかった。

「その、だから…」

ああ、そうか。
修兵は何度か両手で顔を拭う。深く息を吐く。
なんとなくわかったから、怒りを通り越して呆れた。
修兵は一歩進んでの頭をゲンコツでぶった。

「痛っ!」

「これぐらいで勘弁してやる。バカ息子」

そのままヘッドロックをかまし、の頭をわしわし撫でる。

「な、なんだよ」

「バカだ、バカだと思っていたが、ここまでバカだったとはな。本当に呆れる」

「う、うるさい!」

「あの時と一緒だ。俺の親戚だとか抜かしていた頃と」

「………」

修兵に引き取られて、養子になったのはいいが恋次とイヅル以外には決してそれを口にしなかった。
修兵から恋次たちに言わなければきっと、彼らにも黙っていただろう。
そうした理由はいたって簡単。
修兵に迷惑をかけたくないと思ったから。自分の所為で修兵を悪く言われるのが嫌で。
いつか捨てられてもいいようにと。
だが実際、捨てられそうになったとき、すごくそれがショックで嫌だったのを覚えている。

「周りがどう思うが、俺はお前を息子だって思ってる。今もそうだ、変わらねぇよ」

「修兵……」

「遠慮するから変に思うんだよ。家族なんだから遠慮なんて必要ねぇだろ?が母親になって嬉しかったんだろ?」

「う、嬉しかったさ」

だって同じだろ。お前が息子になってさ」

それは言われた。

「血の繋がりがなんだってんだよ。俺とお前は親子に変わりねぇ。俺の自慢のバカ息子だ」

「………」

「なんだ?大勢の前で公言して欲しいのか?」

するな、そんなこと。は首を横に振る。

「だったら、あいつらのこと。ちゃんと名前で呼んでやれ」

「え」

「お前、絶対名前で呼ばないからよ、双子としか言わないだろ?真萩と撫子にとってお前は兄ちゃんなんだぞ」

自分の居場所がないから、関わりを持つことが怖くて、嫌で。
勝手に拗ねていた。
だから気づけば、真萩たちのことを名前で呼ぶことなどせず「双子」と一括りにしてしまった。

「それに簡単に仲良くなっていたじゃねぇか」

真萩たちもきっと嬉しかったのだろう。という兄がいて。
修兵はようやくを解放する。

「帰るぞ。うちに。たちが待ってる」

「………」

「本当は寂しくてしょうがないくせによ」

「だ、誰がだ!」

「大好きなお父さんと大好きなお姉ちゃんが仲良くしていて、自分が仲間はずれにされたと思ったんだろ?」

の顔が真っ赤になる。耳まで赤くなっている。
こんな顔は珍しい。

「確かに血の繋がりも大事だろうけどさ。。お前がこの人たちと一緒に暮らしていたとき、そんな事考えたか?」

「あ…」

誰一人血の繋がりはなかった。
でも、そんなことを気にした事はまったくなくて。

「俺なんか、今でもが可愛くてしょうがないんですね。とか周りに言われちゃうくらいなのにな」

「気色悪いこというな…」

「だがよ。俺も悪かった。お前にそこまで思いつめさせてさ」

父親失格だ。
修兵は両手を腰に当てる。

「別に修兵の所為じゃないだろ…俺が勝手に」

瞬間空気が震えた。
異形の姿をしたものが二人の前に現れる。
虚だ。
修兵は斬魄刀を抜く。

「破道の三十三 蒼火堕!!」

構えたの手から蒼炎が放たれ虚に当たる。
修兵はすかさず斬魄刀で虚を斬った。

、お前…」

「へへ。すげーだろ。このくらいは詠唱なしで放てるんだ。あ、でも内緒な。先生たちに知られると煩いんだ」

長年死神をやっている者ですら、鬼道がまったく扱えなかったり、詠唱なしでは上手くいかないと言う者もいる。
学院生でそこまでできるとは。

「こりゃ、大変だな。確実にウチ来るだろうな、は」

「え?ウチって九番隊?嫌だな、それ…」

「お前、さらりと人が傷つくこと言うなよ。ウチってのは護廷隊のことだよ」

「鬼道衆かもしれないじゃん」

「目の前で見せられて、ほいほいあっちにやるかよ」

鬼道に秀でているのならば逆に鬼道衆行きだと思うのだが。

「とりあえず、虚出現の報告はするからな」

相変わらず処かまわず出現するものだ。
行くぞと、修兵は歩き出す。
は家族が眠る場所に手を振りその後に続いた。

「死神になって、早くバカ親父に楽させてやるよ」

「大見得切っていいのか?学院も卒業してねぇのに」

「誰の息子だと思ってんだよ。俺、これでも五回生筆頭だぜ?」

六回生になってもその座は誰にも譲らないと言い切る。

「へーそうかい、そりゃあ父親として鼻が高いってもんだぜ」

わしわしとの頭を撫でまわす修兵。



結局の所。考えすぎていただけだ。
ちゃんと自分の帰る場所はあった。








結局パパが好きだったw
08/05/15UP
12/07/16再UP