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死神だからだとは思う。 ほとんど恋次もイヅルも変わっていなかった。 それもどうかと思いながらも、それはそれでどこか安心している自分がいた。 きっと見た目で変わったのは俺や、やちる。冬獅郎だと思う。 ガキが成長したという所だろう。 だけど、中身はそう変わらないもののようだ。 恋次たちが変わらないのだから、俺たちだけが変わるということもないだろう。 ただ、これが現世に生きる人ならば違ってくると思う。 その辺の事は死神になれたら考えよう。 前日に引き続き、この日も夜遅くまで盛り上がってしまった。 俺は春休みだからいいけど、こいつら仕事があるのに大丈夫だろうか? 心配しても、翌朝ケロリとしているのが恋次たちなので大丈夫だろう。 【いきなり走り出した】 前日の騒ぎのおかげで、今朝のはまた寝坊した。 小さなお子様たちは早々に寝かされたが、は修兵たちの酒盛りに付き合わされた。 まさか、このような日が来るとは。 なんてことをしみじみ言っている修兵たちがやけにおっさんだと思った。 思っただけにしておけば良かったのに、思わずポロリと口から出てしまったので大変だった。 ただでさえ酔っ払いの相手は疲れるというのに。 ただ、何時にその宴が終わったのかよく覚えていなかった。 やちるは恋次たちと帰ったようだというのは記憶しているが。 気づけばもう、は布団で寝ていたのだから。 「……ねむぃ〜……」 朝日がやけに眩しく感じる。体が重たくだるくてしょうがない。 実家なのだが、起きねばならないと思っても、体が言う事を聞いてくれない。 (面倒だからいいかぁ…) 学生ならではの特権だと思う。 今の自分は率先して家事をする必要がないわけだし。 もう少しゆっくり眠らせてもらおうと目を閉じる。 うつぶせのまま枕を抱きかかえて。だが、そういう時に限って寝かせてくれないというもの。 「起きろ、」 「うげぇ」 背中を強く踏まれた。 「「おきろー!!」」 「がぁっ!?」 二つの重石が体に乗った。 「……な、なんだよ……」 恨めしい目で踏んだ相手を睨む。だが相手、修兵は怯むことなく不敵に笑う。 「お父様のご出勤だ。起きて見送るべきだろう?」 「だれが…だ。だいたい、昨日は勝手にでかけたじゃないか…」 アホらしい理由で起こすなと枕に顔を埋める。 「昨日は昨日。今日は今日」 「「そうだ、そうだー」」 重石も一緒になって起きろと騒ぐ。勿論重石は真萩と撫子である。 「お見送りなら、そこの双子がいるだろう」 もう本当寝かせてほしい。 「もちろん、真萩と撫子にも見送ってもらうさ。けど、お父さんはにも見送って欲しい」 「お父さん言うな」 「いいから起きろ、お父さんは寂しいぞー」 無理矢理起こそうとする修兵と双子たち。こうなると意地が出て余計に寝ていたくなる。 「「おきろー。、おきろー」」 「あーもー!うるせーよ!」 「あらあら。困った人たちね」 親子で何をやっているのだろうと、が笑って見ている。 「早くお出になりませんと、遅刻しちゃいますよ?」 「お。やべ」 に言われていじりはやめるようで部屋を出て行く修兵。 双子はちゃんと見送るようでと一緒にその後をついていく。 はやっと眠れると思ったのだが、眠気は吹っ飛んでしまった。 仕方なく起き上がる。頭を掻き生欠伸をしながら階段を下りていく。 「………」 ちょうど目に入った光景。 奥さんと子どもに玄関で見送られるお父さんの姿。 そこに近寄るわけでもなく、は階段に座り込んだ。 「「おとーさん。いってらっしゃーい」」 「おう。いってくる。お母さんに面倒ばかりかけるんじゃねぇぞ」 わしわしと真萩と撫子の頭を撫でる修兵。 「じゃあ。後を頼むな。行って来る」 子どもに向けた笑顔をにも向ける。 「はい。気をつけていってらっしゃいませ」 「おう」 ああ、親子だなぁ。 ああ、夫婦だなぁ。 そんなことをぼんやりと見てしまう。 そのの視線に気づいたのか、修兵はニッとにも笑みを向けた。 「いってくるな、」 「……ん。いってらっしゃい」 「おう!」 修兵は手を上げ上機嫌で出かけて行った。 「………」 昔はよく見送ったよな。双子たちみたいに、頭をわしわし撫でられて。 早く行けよ。なんて悪態ついて…。 は立ち上がり、洗面所へと向かった。しゃきっとしないといかんだろうと。 *** 午前中は双子の「遊べ攻撃」をのらりくらりとかわしながら過ごした。 すでにその「かわし」が遊びになっているように見えなくもないが。 家事をするの邪魔にならぬように気を使いながら。 別にがいるので、どこか出かけてきても問題ないのだが、はちょっとだけ思うこと があったので、あえて家にいるのだ。 でなければ、とっととどこかへトンズラしていただろう。 双子の攻撃は体力だけでなく、精神力も奪っていくから。 「君。無理して留守番していることないわよ?自由にしてていいんだから」 昼食の準備をしているがそんなことを言った。 はテーブルに頬杖つきながら、の後姿を見ている。 「んー…まあ…」 「お友だちと約束とかないの?」 「あー…あとでちょっと出かけてこようと思う場所はあるけど」 「そう?」 トントントンとゆっくりめに包丁が刻む音がする。 君には家事は敵わないなんてことをは言うが、そんなことないだろう。 仕事と両立しながらやっている。それを思えば満点だと思う。 でも、は謙遜し変わりに「お父さんへの愛情の差があるから」とか言う始末だ。 「昨日は君に夕食作ってもらったから楽できちゃった。ありがとう」 「いいよ、別に。たいしたことしていないから」 「そんなことないわよー。お父さん喜んでいたじゃない」 「………」 もう、本当恥かしいので勘弁して欲しい。 別にそんな話をする為にわざわざ家に残っているのではないのだ。 「あのさ」 「なに?」 「ちょっと真面目な話したいんだけどさ」 「真面目な話?うん、いいわよ」 何か相談事でもあるのだろうかとは思ったらしく、濡れた手を拭きながらの向かいに座った。 「なに?真面目な話って」 何か期待に満ちた目をしているのは気のせいだろうか? そんな目で見られるほどの話ではないのだが…いや、大事なのは大事だ。 「あー…なんて呼べばいい?」 「?」 「その」 「誰のこと?」 はを指差す。嫌な思いをさせたかなと少し不安になる。 「私?なんてって…んー…なんで?」 直球で聞かれて少しホッとした。悲しむ顔などは見たくないから。 「あーそのさ…俺、前は姉ちゃんって呼んでいたでしょ?」 「そうね」 「けどさ……その…正直言って、修兵と結婚した当初…俺、姉ちゃんのことなんて呼んでいたのか思い出せない」 「………」 「姉ちゃんのこと、嫌いとか、そんなんじゃないからな!その…」 が霊術院に入ったのは修兵とが結婚したからではない。 もっと前に二人は結婚している。3人で暮らしていた期間はちゃんとあるのだ。 あの頃は自分の願っていたことになって喜んだはずだ。 だが、ここ数年の思いがその時の喜びを消してしまっている。 「修兵の奥さんになったってことは。俺の義母さんってことでしょ?」 「そうね」 「でも、俺、義母さんって呼んだことないし」 「言われてみればそうねぇ」 「その。修兵のことも滅多に呼ばないし…けど、姉ちゃんのままってのもどうかと思ったわけだ」 何より、義母となってくれた人に「あんた」とか名前で「さん」と呼ぶのも何か変だ。 「でもさ。正直に言うと、俺、入学してから修兵達と距離をとっていたのは本当だし」 「君」 「ついこの前まで、いや、今もかもしれないけど、頭ン中ぐちゃぐちゃでさ。 単に俺がガキなだけだってのもわかる。修兵も姉ちゃんも俺のこと気にしてくれるし…その」 本当の根っこの部分。 こう感じたからずっと家に帰ってこなかった。そう言うのは口にできそうにない。 いや、それはにしてはいけないのだ。 きっと、が家に寄り付かなくなったのは自分の所為だと思ってしまうだろう。 話すべきだとも思うが、それはではなく先に話すのならば修兵にだと思う。 「一度はね。思った事があるの」 「え?」 は不安げな様子でもなく笑顔で話す。 「君からお父さんを盗ってしまったんじゃないかって」 「………それ、微妙」 「微妙なの?」 「姉ちゃんが修兵と結婚したらいいなって画策してたから、俺」 「ええ!?」 今度はが笑った、の反応が面白くて。 「こうだっていう事はしていないけどさ、ちょっとはお互いが意識してくれればいいなと」 子どもながらに頑張ったものだ。 子どもだからできることに限りはあったが。 「姉ちゃんが修兵の奥さんになってくれて、俺は嬉しかったんだ。嘘じゃない、本当の話」 「な、なんか恥かしいね。そう言われちゃうと」 「そう思っていたのに、姉ちゃんのことなんて呼んでいいかわからないなんてさ…ごめん」 は俯く。数回自分の額を拳で叩く。 大好きな人だったから、変に嫌な思いをさせてしまったのではないかと不安は拭えない。 ふわりと花の香りがした。 「?…姉ちゃん?」 がの頭を撫でていた。 「私。修兵さんの奥さんになれて嬉しかったし、それと同じくらいに君のお母さんになれて嬉しかった」 「…あの」 「だから、呼び方なんて気にしなくていいよ。君が呼びやすいように呼んでくれれば。 今だって姉ちゃんって呼んでくれているじゃない。君は私にとっても大事な息子だけど弟みたいな所もあるし」 小さな体でいつも「姉ちゃん」と笑顔で駆け寄ってくれた。 修兵よりもとの方が仲良くなったくらいだ。 の頬にスッと赤みが増す。 「あいつらみたいにもっとガキなら良かったな」 居間で遊んでいる双子たち。 「そう?」 「そうすれば、最初からお母さんって呼べたんだろうって思う」 「今からでもいいわよ?」 撫でていた手を引っ込め、は顔の前で手を組んでニッコリ笑う。 「どうしようかな…複雑だなー」 椅子に背をつけもたれかかる。 複雑と言われてしまう方が複雑なのだがとは口にする。 「そうかな?だってさ、うん、多分姉ちゃんが俺の初恋の人なんだと思うから」 「えっ」 帰ってきた答えが意外すぎては瞠目する。 今、なんて言った? は臆することなく平然と続ける。 寧ろ今、口に出したことで余裕が生まれたようだ。 「だから、修兵にも嫉妬していたんだろうって。好きな人が好きな人に盗られてさ」 やちるには「大好きな人が大好きな人に」と言ったが、修兵のことをの前で大好きだと 表現するのが嫌なのであえて「好き」止まりにしてみた。 「ま、姉ちゃんにも嫉妬していたのだろうけど」 「わ、私はそれにどう反応していいのかわからないのだけど?」 だがややあってから、は深呼吸してを真正面から見つめた。 「ありがとう、君」 「礼を言われるものなのかな?それって」 は微苦笑する。 「だって、君に嫌われていなかったわけだし」 「だから、最初から嫌いだなんて言ってないじゃん。寧ろ好きだったんだからさ」 「な、なんか恥かしいんですけど」 さらりと好きと言われては頬を染めてしまう。そのまま両手を頬で覆って。 は声に出して笑ってしまう。気にしていたのが馬鹿馬鹿しいなと思えて。 「俺はすっきりできて良かったかな」 一番の根っこの部分はまだまだ根付いているが、それはではない。 修兵に言うべきことなのだ。それが済めば、本当に心の底からすっきりできるのだろう。 「もう、君ってば」 「じゃあ、意地悪な質問してみようかな」 意地悪?とが聞き返す前にはまたさらりと言った。 「その気持ち。今も進行形だったらどうする?お義母さん」 「え…!!?」 思わず裏返ってしまう。 進行形?それって今も?が自分を?初恋のままだと? 「ど、どうするって、あ、あの…あっ」 笑顔が困惑に変わる。 だけど更に眉が八の字に変わるほどは身を竦めてしまう。 なぜなら。 「……っていうのはさ、冗談だからその殺気みたいな霊圧しまって欲しいんですけど…」 余裕綽々だったが冷や汗を掻いている。 「「ーーー」」 恨めしそうな声とに集中して浴びせてくる霊圧。 「笑えない冗談だな、バカ息子」 「ねぇ!嘘だよね!!違うよね!」 修兵とやちるがの背後で怒りの炎を揺らめかしている。 「あーもー煩い。ってか仕事はどうしたんだよ、二人とも」 「家でメシ食って何が悪い」 「あたしは普通にとお昼食べようと思ったから来たんだもん!なのに、ってばちゃんくどいて〜」 そういえば、昼飯まだだったなと思い出す。 が用意している最中には話を切り出したわけだし。 「い、急いで用意しますね」 は慌てて昼食の準備を再開させる。は逆に台所から逃げ始めた。 「逃げるな!!!」 「俺、出かけるんだ。悪いね〜お昼も適当に食うからさ」 じゃあとひらりと修兵とやちるから逃げてしまった。 「ちょっと待ってよ!ー!!」 やちるはを追う。 修兵はどっかりと椅子に腰を下ろした。 「ったくよ…あのバカ」 初耳だ。がの初恋だったとは。 はようやく困惑から解放されたのか、くすくすと笑っている。 「」 「どっちに妬いているんですか?君は冗談だって言ったじゃないですか」 「いや、その」 かっこ悪いと修兵は頭を掻く。 には素直になるが面白くないのか、奥さんを息子に盗られるとでも思ったのか。 両方なのかもしれないが、まあ息子に盗られるということはないだろう。 「やっぱり、アレだよな」 「はい?」 「息子は父親じゃなくて母親にはなんでも話すんだな。前にもこんなことあったの思い出した」 そうでしたか?とは答える。 「ほら、昔のことだよ。あいつが風邪で寝込んだのに、薬を隠しててさ」 「ありましたね。そんなこと」 珍しくいつも元気だったが熱を出した。 四番隊の虎鉄勇音に診察してもらい、熱冷ましなどの薬を貰ったのに、は飲んだと言いつつ隠していたのだ。 修兵はそんなを叱るも、は口を閉ざした。 だが、には薬を飲まなかったことを素直に謝り薬を飲むと言った。 父親には話さず、には素直なんだと修兵が愚痴ったほどだ。 「あの頃からそうですけど、本当君が可愛くてしょうがないんですね、修兵さんは」 「な、べ、別に俺は」 相手ならば、そこは不敵に笑って「ああ、そうだ」ぐらいは言いそうになのに。 が相手だとそうはいかないらしい。 「私の方が君に妬いてしまいそうです」 さあ、少し遅くなったけど昼食にしよう。 姉ちゃんは初恋でしたw
次はパパと。
08/05/08UP
12/07/16再UP
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