ドリーム小説
幼い子どもを泣かしてしまうとは。
情けない。
自分も色々考えて泣きたい気分なのだが、子どもじゃないのでもう泣けない。
ただ、この後のことを考えると正直怖い。

「ああ?泣かせただと?面倒みろって言われて泣かすとはなんだ、そりゃ」

君なら大丈夫だと思って任せたのに…」

きっと二人に怒られるだろうな。
この年齢で説教されるのは勘弁してほしい。
いや、説教に似たようなことはさっき言われたのだが。

「やべ…どうするかな…」

逃げ出そうとしていたのに。
今本当に逃げ出したらとんでもないことになりそうだ。
双子が修兵達に何をいうのかわかったもんじゃねぇ。
懐柔するしかないよな。

ああ、大人はずるいんだよ。保身の為になんでもするんだからさ。





【とてもおいしそうに食べる】





「そろそろ昼だな」

休憩にしますか?と部下に言われる修兵。
そうだな、一息つくかと、編集作業に携わっている者たちに休憩に入るように伝える。
やっとだーなんて伸びをしたり、食堂に行こうと話したり、それぞれが編集室から出て行く。

。お前も休憩入っていいぞ」

「あ、はい。でも、あと少しですから」

机に向かい原稿の最終チェックをしている

「ガキどもが心配か?」

「ふふっ。心配なんてしていませんよ?君が居てくれますから」

修兵も気にするだけ無駄だと言ったではないか。

なー…」

修兵は頭を掻く。
帰ってきてからずっと戸惑い気味だった息子。
真萩たちの面倒をと頼むと、なんで自分が?という反応をした。
真萩と撫子もに懐く様子は見れず少々心配ではあるが、子どもだ。
子どもは心を開けばなんとかなるものだ。

「最初はあいつもそうだったもんな」

「あら。何がです?」

「ん。がウチに来た時のことさ…」

大事な家族を虚に殺されてしまい、独りぼっちになったを修兵が引き取った。
家の中には修兵と二人きり。
不安と緊張、それと少しの警戒心から中々打ち解けられなかった。
修兵だって似たようなものだったが、責任を持つと決めたのだから投げ出す真似はしたくなかった。
どうしたら、が自分に心を開いてくれるか随分頑張ったものだ。

「どうやって仲良くなったんですか?私が出会ったときにはとても仲良しさんだったじゃないですか」

「仲良しさんって…そうだな。簡単な話だ」

あの頃を思い出して修兵は笑みが零れた。

「もう…本当に君のことになると優しい表情になりますね、旦那様は」

「な、なんだよ」

「言ったことありませんでしたっけ?あの頃、君の前だけ優しい父親の顔になっていたんですよ?」

「そ、そんなこと…」

気づいていなかったのは本人たちだけのようだ。
は当たり前すぎて気づかなかったのかと可笑しくてしょうがない。
だから仕事中の修兵しか知らなかったは驚きつつも、その顔に惹かれてしまったものだ。

「なんだよ。それじゃあその顔がなかったら、俺はには振り向いてもらえなかったってことか?」

「違います。元々あなたに憧れていましたから…けど、もっと惹かれたんでしょうね」

修兵の頬がうっすら赤みを増した。

「それで?結局何がきっかけだったんですか?」

先ほどの話の続きか。

「ああ。きっかけは」

久しぶりな話なのに、最近の事のように鮮明に覚えていた。



***



「卵、ハム…レタス…」

炊飯器にはご飯もある。調味料もちゃんと揃っている。
自分が使っていた頃に比べれば配置など微妙に違うが、今のここの主はなのだから文句は言えまい。

「昼飯は用意されていないから好きにしろってことだろうな」

一人ならば、外に食べに行って済ませただろう。
だが今この家には双子がいる。彼らを置いてはいけまい。
かと言って、双子を連れて食べに行くなどもっと勘弁して欲しい。
双子も自分と一緒じゃ嫌がるだろう。
だとすると一つしかないだろう。

「んじゃ。やりますか」

は袖をまくった。



双子はに怒鳴られたことと、両親がいなくて寂しいと泣いてしまった。
両親が帰ってきたら言いつけてやる。
は自分たちを苛める悪いやつだと。

「……はぎ」

「なに?なこ……」

随分と泣きはらしたものだ。お互い鼻の頭が赤くなっている。

「おなかすいた。はぎは?」

「……はぎもおなかすいた…」

ぐぅと腹が鳴る。
朝は両親と食べた。昼はどうしようか?母が戻ってきてくれるのだろうか?

「どうしようか?」

「うん。どうしよう」

困った。さっき泣いたことで力を使ったので、今余計に腹が鳴る。

「「………あれ?」」

腹を空かせた双子の食欲をさらにそそるような臭いが部屋に入ってくる。
なんだろうと思い、戸を開けるとさらににおいは双子を誘惑してくる。

「おかーさん。帰ってきたのかな?」

「そうだよ。おかーさんが作ってくれているんだよ」

双子は嬉しくなって部屋を飛び出す。
我が先だと階段を慌てて下りる。

「「おかー」」

お母さんと声を合わせて台所に駆け込もうとしたが、ピタりと声と足は止まった。
台所に立っていたのは母ではなく、だったのだ。

「「………」」

は双子に目もくれずにフライパンで何かを炒めている。

「こんなもんだろ…お」

おずおずとこちらの様子を窺う双子に、匂いにつられてきたなとは小さく笑う。

「お前ら。座ってろ。メシ用意してやるから」

キョトンとしてしまう双子。
さっきまでは自分たちと関わりたくないような顔をしていた、態度をしていたのに。

「腹空いただろ?」

コトンとテーブルに置かれた湯気の立つそれに双子の目が輝く。
少しへの警戒心が解かれ素直に席に着いた。
二人の前にはチキンライスが。これだけでも美味しそうで、すでにスプーンを手にして食べようとしていた。

「ちょい待ち」

「「?」」

撫子の皿、チキンライスの上にふわふわ半熟卵のオムレツを乗せた。

「わあ」

「最後はケチャップで好きなもの描くのが楽しんだよな。何がいい?」

に言われて撫子は間髪いれずに嬉々として答える。

「ハート!ハートマークがいい!!」

「あいよ。ハートマークね…女の子だよな、やっぱ」

苦笑しながら、ふわふわオムレツの上にケチャップでハートマークを描いてあげる。
喜ぶ撫子の隣で、ボクも!と真萩が急かす。

「ちょっと待ってろって…で?お前は何がいいんだ?」

「はぎね…星!星がいい」

「星か、こんな感じか?」

は器用に星も描く。真萩は撫子と一緒に喜びながら食べ始めた。
双子の機嫌は直ったことに安堵し、自分の分も用意するが、別に自分の分はいいだろう。
あ。飲み物もあった方がいいかと冷蔵庫をのぞく。
牛乳が入っているので、いかにも双子専用だと思えるコップに牛乳を注いだ。

ー」

「あ?」

のにもかいていい?」

自分たちのとは違って、何も描かれていないオムライスに双子は興味を持ったのだろう。
嫌だと断る理由もない。

「いいけど。ほどほどにな」

子どもにほどほどにというものがわかるかは微妙だが。
撫子が自分が描いてもらったハートマークを、真萩が同じように星を描く。
ただ、が描いたようにはならず、なんかよくわからない形になっている。
そんなものだろうとは思うがつい笑ってしまった。

もたべてー」

「たべてー」

「はいはい。食べるよ。牛乳は飲めるんだろ?ほら」

双子の側にコップを置いた。
子どもだからしょうがないが、食べ方がよく言えば豪快、悪く言えば汚い。
注意するべきなのだろうが、折角解けている警戒心をわざわざまだ抱かせるわけにもいかないだろう。
ただ、あまりにも汚した頬は布巾で拭いてあげたりした。
自分も食べてはいるものの、昨夜は気にならなかったことが今はよく目にしてしまう。
ただ食べている双子をジッと見る。

(髪は修兵譲りだよな…綺麗な黒だ…目はあー修兵に似なくて良かったなぁ)

どちらかと言えばに似ているような気がする。
でも、今嬉しそうに食べている顔は修兵が笑った時に似ている。
自分の髪をちょんと摘む。
色は双子のような黒ではない、明るめの茶色だ。
見た目も当然修兵に似ているわけもない。
自分は修兵に拾われた子なのだから。

(あ。やべ。ちょっとなんか、へこんだ)

今更気にするのも可笑しいことなのに、あれから何十年経っていると思っているのだ。
双子が生まれてからだろうな。自分が距離を置いてしまったのは。

「………」

「「ーおかわりー」」

二人は残さず食べてくれた。空の皿をに向ける。

「おかわりない。材料全部使ったからな」

「「えー!!」」

そこまで喜んでもらえるとは思わなかった。

「たべたいー」

「おかわりー」

駄々をこねられても困る。冷蔵庫に目ぼしいものはない。
昨夜が使い切ったのだろう。
おかずが何品もあったから。

「「たーべーたーいー」」

「ないものはないんだ。お前らいつもこうなのか?」

が苦労しているのが目に浮かぶ。

「じゃあ、これ食え。俺はいいから」

食べかけでも良ければと自分の皿を差し出す。
これで嫌だと言われるとちょっとへこむなぁと。だが、二人はの皿のものも頬張りはじめた。

「なんか…犬みてぇ。猫だと思ったけど」

自分が作ったものを美味しいと言ってもらえるのは悪くない。

「「ーばんごはんもつくってー」」

「はあ?」

夕飯もに作れと言い出した双子。
正直、修兵たちが帰宅したならばもう寮に帰ろうと思った
ずるずると引き延ばされている気がする。

「夕飯はお母さんが作るんだろ?別に俺じゃなくても」

「昨日、おかーさんがのほうがじょうずだっていったー」

「いったー」

なんでそんなことを覚えているのだろうか。

「別にそんなことはないって」

「おとーさんもたべたいっていってたー」

細かいなぁとは苦笑してしまう。
昼飯をちょっと作っただけでここまで警戒心を解かれるとは思わなかった。
懐かれ始めているような気もする。

(食べ物で釣られるなんて、本当ガキだよな…あ)

なんだこの既視感は。
いや、違和感とか夢で見たとか、そんなんではない。
過去の自分に似たような覚えがある。

(いつだったかな…)

記憶を掘り巡らせる。

「なぁ、お前…の好きな食いものってなんだ?」

「……と、特にないです……」

ああ、おぼろげながら思い出してきた。
自分が修兵に引き取られたばかりのことだ。
虚に家族と呼べる人たちを殺されてしまい、独りになった自分に修兵が手を差し伸べてくれた。

「今日からお前は檜佐木だ」

家と家族と名字をくれた。
その頃だ。引き取られたからといって、すぐに修兵と打ち解けたわけではない。
最初はあまり修兵に近づかず、いつも部屋のすみにいた。
修兵もこのままじゃいけないと思ったのだろう、好物はなんだ?って聞いてきた。

「ないのか?なんでも良いんだぞ」

「……なんでもと言われても……」

流魂街では食べ物に執着がない。
腹を空かすことがないから。
でもは霊力が目覚めつつあった為に空腹を感じた。
母親代わりのような人がに食べることを教えてくれた。
料理をするようになったのもこの頃からだ。
でも好物といわれてもあまりぴんとこない。それでも一つだけ・・・。

「……あ、甘いものは……食べると嬉しかった…です…」

皆と一緒に食べた菓子。
味というより、皆と一緒だというのが嬉しかったのかもしれないが。
修兵にはそう答えのだ。

「甘いものか!?そっか。わかった」

話を聞いた修兵は、その翌日土産だと言ってウサギを模った上用饅頭を買ってきた。
あれがきっかけだったような気がする。
修兵は土産だと言っては甘い菓子をいつも土産で用意してくれた。
自分は甘味が苦手だったのに。
そうしているうちに、気さくすぎる副隊長さんに対し段々警戒心が薄れて。
気づけば今のように平気で物を言えるようになっていた。

「あの頃の経験って奴か?」

自分も双子も大差ないと笑ってしまった。




も思い出したのだが、修兵もそれを思い出していた。
そしてに話した。

「毎週君にお土産を用意していたでしょう?
だから他の子たちはあなたが甘いものを好きなんだって勘違いしていたんですよ」

「そういや、なんかよく甘いものばかり貰ったな」

「私も君に聞くまで知らなくて」

きっと甘味ばかりでうんざりしているから、今度煎餅でもあげて。
そんなことを言われた。

「帰りに饅頭買って行くかな」

「いいんじゃないですか?きっとあの子達も喜びますし」

「じゃあ、残業にならねぇように終わらせちまおう」

「はい」








食べ物で双子懐柔w息子の容姿は四番隊の荻堂君のような万人受けする感じで性格は少しだけ修兵似。
双子は髪は修兵譲り。目は奥さん似のようです。
08/05/01UP
12/07/16再UP