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可笑しいなと思った。 いつもなら目覚し時計が忙しなく起こしてくれるのに。 なんとなく寝すぎたと思い起きて、いつもと違っていたことにようやく気づいた。 「そっか…ここ寮じゃねぇ…」 寝過ごしても起こしてくれる友人はいない。 目覚し時計もこの部屋にはない。 がいるのは居心地の良いようで悪い実家だったから。 「ってか…何時だよ、今…」 昨夜は遅くまで修兵に付き合わされた。 だが酔っ払って寝ることにまではならなかった。 だから二日酔いということもなく淡々としていられる。 その割りに静かな朝だ。 とりあえず顔でも洗おうと部屋を出る。 「ふあぁーあ…たりぃ…」 後で多少は体を動かしておこう。 いくら休みといえども、鍛錬を怠るわけにはいかない。 あぁそうだった。自分は朝一で帰ろうと昨日考えたではないか。 例え修兵たちに恨まれようと、ここはもう自分の居場所ではないように思えていたから。 別に修兵たちが嫌いなわけではない。 だけど、引っ掛かる。 自分は違うなと。 「……あれ。誰もいないの?」 朝起きたら、自分以外の家族は出かけていました。 留守番よろしくね! まあそれはそれでいい。留守番しないで俺は寮に帰るつもりだけどね。 かえってその方が楽だ。 逃げてしまったことになるだろうが。 「………」 そう思ったのだが、階段を下りた所で、双子がぽつんと膝を抱えて座っていた。 「「………」」 双子も起きてきたに気づき振り返る。 お互い黙ったままだ。 (怖いんだよ、この双子…) 元々子どもとは縁がない生活だったから。余計にそう思うのかもしれない。 双子の側を素通りし、洗面所で顔を洗う。 朝食というには少々遅い時間だが何か腹に収めてから家を出よう。 台所に入ると、テーブルの上にの分の食事が置かれていた。 が用意してくれたのだろう。 そして側にメモが一枚。 「……?」 君へ おはよう。朝ごはん用意しておきますね。 ちゃんと温めてから食べてください。 。 それくらいどころか、心配せずともならばできるだろうとわかっていても。 がちゃんと用意してくれているのがなんとなくこそばゆかった。 だが、メモはさらに続きがあった。 俺たち仕事だから、真萩と撫子の面倒を一日お前が見てろ。 はい?なんですと? の動きが止まる。走り殴った文字で命令されている。 この字と文面は修兵だ。 「…双子の面倒…俺が見ろ?」 じーっと背後から視線を感じた。 「お前ら…」 双子がを凝視するも、すぐさま散っていく。 「ふざけんなっ!クソ親父!!」 思わずメモを握りつぶした。 【寂しいと泣く】 九番隊隊舎。 現在、毎月発行の瀞霊廷通信の締め切りに追われている。 修兵とも関わっているので忙しくてしょうがない。 昨日は息子が帰ってくるということもあって、早く上がらせてもらったのだ。 上位席官ともなればある程度融通が利くというところか。 「おい。手が止まってるぞ」 修兵に言われて、があわてる。 「す、すみません」 「あいつらなら平気だ。気にするだけ無駄だ」 「そうは言いますけど…」 結婚したからといって基本的に寿退社というものがない護廷隊。 一応出産前後は長期休暇を貰ったが、今でもは現役だ。 だが、修兵がそれなりに気を使っているのだろう、前線に向かうことはほとんどなかった。 「副隊長」 「あん?どうした」 「ご自宅から…連絡が入っているのですが…」 修兵は壁にかかった時計を見た。 現在十時過ぎ。 「反応遅ぇな、バカ息子」 おそらくどんな理由でかかってきたのかわかっていたから。 修兵はくつくつ笑う。 が不安げに修兵を見上げるが、修兵は気にするなと頷く。 「俺だ。どうした?」 『どうしたじゃねぇよ!クソ親父!!なんで、俺が双子の面倒みなきゃなんねぇんだよ!!?』 機関銃の如く言い放たれて思わず耳を遠ざける修兵。 尸魂界でも技術開発部により現世に近い生活レベルになってきている。 所謂「電話」のようなもので互いに連絡を取り合える。 「お前はあいつらの兄ちゃんだからだろ?普通は弟たちの面倒は兄が見るもんだ」 『知らねぇよ!ほとんど会話もしたこともねー弟たちなんか』 その言葉に修兵が少し怒気を含ませる。 「お前がそれを言うのか?お前が」 は押し黙る。 「いいから、ちゃんと面倒見てやってくれよ?お兄ちゃん」 俺は忙しいのだと修兵は会話を終了させてしまった。 「……ま。俺にも責任はあるんだけどな」 が帰ってこなかったから。だけではない。だったら自分たちが会いに行けば済んだ話だ。 忙しさにかまけてそうしなかったこともある。 悪いのはだけではない。 だが、修兵とが不在の家の中、子どもたちだけの方が打ち解けそうな気がするのだ。 ももういい大人だ。 昔から物分りはいい。きっと大丈夫だ。 *** 遅めの朝食を取った後に修兵に連絡したものの、酷く落ち込んだ。 『お前がそれを言うのか?お前が』 この言葉は強く胸に突き刺さった。 反論できなかった。いやできるはずもない。 常日頃から足を運んでいれば多少なりともコミュニケーションが取れていたはずだ。 「くっそ…」 頭を抱えしゃがみこむ。 「……だからっていきなりはひどくね?」 せめてがいるとか、第三者が欲しかった。 それ以前に、子ども相手に面倒を見るというのがわからない。 今までも似たような感じだったかもしれないが、それはあくまで大人を相手にしてのことだ。 幼い頃から大人たちと過ごした時間が多かったから。 修兵と出会う前のあの家族たちとの生活は、少なくとも自分は面倒を見られる側だった。 あの頃や、寮生活のおかげで集団生活に困った事はない。 だけど、子どもとの対峙はわからない。 「俺自身ガキだったのに…周りもあまりガキ扱いしなかったもんな」 子どもにしないような話をし、対等である大人のような扱いだった。 女性たちもそうだ。料理の手ほどきをしたぐらいだ。 唯一自分を子ども扱いするのは浮竹ぐらいだろう。 でも、浮竹も自分の事は小さなお友だち程度だったかもしれないが。 「意外に特殊な環境で育ったんだな…」 それでも育ててもらったには変わりない。 今の自分があるのはあの頃のおかげでもあるし。 「………そうだ」 唯一子どもとの接触に得意な奴がいた。 は顔をあげる。 だがそいつにどうやって連絡しようか。 電話なるものは各家庭にはあるが、個人で持つまでには普及していなかった。 死神になって使える「伝令神機」があるからだろう。 それに尸魂界といえども、電話なるものが普及しているのはこの瀞霊廷内だけだ。 流魂街ではあまり必要とされていない。 普段も学院で生活している分にはなくても問題ないのだ。 「ちょっくら行ってくるか…」 その間双子は置いていくことになるのだが。 は双子を探した。 二人は自分たちの部屋で遊んでいた。 とりあえず、壁をノックしこちらを向かせる。 「なあ。俺、でかけるけど…二人で留守番できるか?」 「「どこに?」」 無視されるかと思ったが、双子は返事をした。 「どこって…ちょっと友だちのトコに…」 まさかお前らの面倒の見方がわからないので聞いてきます。とは言えないだろう。 「おとーさんにいわれたのに?」 うわ。痛いところを突かれた。 「いっちゃだめ」 「いや、あのさ…少しでいいんだけど…」 じーっと見上げてくる。 子どもはやはり苦手だ。過去の自分もこんなんだったか? 「……わかった。いかない」 子どもだけ残して出かけるのは流石に気が引ける。 自分が出た直後に何かあれば大変だ。 は部屋を出た。 当初の予定通り、体作りでもしておこう。 自室でやるにはやることが限られてくるが。 念入りに体をほぐす。毎日やっているだけあって、自然と体が動いていく。 「こんなものかな。じゃあ、手軽に腕立てでもするか」 道具も使わずに手軽にできる筋トレだろう。 「「………」」 そっとの様子を窺っている双子たち。 「。何かしてる」 「なんか数えてるね」 双子の中ではは大好きな両親を独り占めする悪い奴だった。 やっつける前にを観察して弱点を探ろうと作戦を立てた。 と言うより、この家で悪さをしないように見張っている。つもりなのだ。 「78、79、80」 薄っすらと額に汗を掻いている。 双子の視線は無視をしているのか、気づかないのか。まったく相手にする様子はない。 「………」 「85、86、8…?」 の目の前に影ができた。 腕立て伏せをやめずに顔を少しあげると真萩が立っている。 「…なんだ?」 真萩は答えない。それどころか 「うぉい!!てめっ」 の背中に座り込んだ。 ずしりと重みがかかる。 「何するんだ、お前はっ!」 邪魔だと立ち上がろうとするが、またも背中に荷物が増えた。 撫子までもがの背中に座り込んだ。 「お、お前ら……重いんだよ…」 どけと言っても聞きやしない。 二人合わせて30kg弱はあるはずだ。 持てない重さでない。だが、背中に圧し掛かるのは反則だ。 「いいからどけっ!」 その一言に双子は渋々降りた。 を恨めしそうに見ている。唇を尖らせてまで。 完全に自分が悪者だろう。 「……えーと……」 双子は手を繋いで部屋から小走りで出て行った。 は胡坐を掻き舌打ちをする。 子どもに怒鳴りつけることもなかっただろうに。 遊んで欲しいと思ったのだろうか? ただ、昨夜から双子は自分に敵意むき出しているのは感じていた。 だったら近づいてくるなよと思ってしまう。 何を考えているのかまったくわからず困る。 は双子の様子が気になり隣の部屋に向かう。 戸の前に来ると、鼻を啜り泣く声が聞こえる。 「おとーさん」 「おかーさん」 と。まあ当然だろう。知らない大人と家の中に残されてしまえば不安だろうに。 は頭を掻く。 どうすればいいのだ、本当に。 こういう時に限って誰も家を訪ねてこない。 誰でもいいから来てくれないだろうか? 「俺も泣きたいっての…」 双子はいつも一緒だった。 どこに行くにも手を繋いで一緒だ。 普段両親は仕事で家にいない。 自分たちはその間近くの保育所に預けられる。 そこには他にも友だちがいるので寂しくはない。 日が暮れるまで友だちと楽しく過ごすのだ。 だけど、今日は面白くなかった。 いつも行く保育所は休んで、家にいろと言われた。 双子だけでなく、家にはお兄ちゃんもいるから大丈夫だと。 「なーに。お兄ちゃんが遊んでくれるさ」 「お兄ちゃんは優しいから」 両親はを全面的に信用している。 だけど双子は違う。両親を独り占めする悪い奴だと思っているのだ。 朝も中々起きてこないし、起きても父に文句を言っている。 自分たちとは関わらないように部屋に籠もってしまうし。 ちょっと接触したら怒られた。 広い家の中がすごくつまらない。 とても寂しい。 いつも一緒にいる双子でも、二人きりだと思うと寂しかった。 だから泣いた。 前途多難w
08/04/29UP
12/07/16再UP
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