|
「ようやく帰ってくるか、あのバカ息子」 まったく。と少々鼻息の荒い父親を双子が見ていた。 「バカむすこって、はぎのこと?」 「はぎバカ?」 双子は顔を見合す。 父親に「バカ」と言われたと思って目にいっぱい涙を溜めた。 言った父親を非難するのではなく、母親に泣きつきにいった。 「おかーさん!」 「はぎがバカだっておとーさんがいったー」 台所で夕食の仕度をしていた母親に双子は抱きついてきた。 ギュウッと双子が足元に絡みついてきたので母親は驚く。 「ちょっと。どうしたの?真萩がバカって・・・お父さんが言ったの?」 本当に?と母親は信じていないようだ。 「だって、さっき、おとーさん。バカむすこって言ったー」 「いったー」 「あらあら。困ったわね」 泣きつく双子と食事の支度ができないこと両方に母親は困ってしまった。 「何してんだ?お前ら…」 その父親が台所を覘き呆れた。 「あなたが真萩のことをバカ息子呼ばわりしたからだそうですよ?」 「は?」 双子は「おとーさんひどい」と目で訴えてくる。 しかも泣いているので性質が悪い。 父親はややあってから、何のことかわかり違うと双子に説明した。 ついで、母親にも知らせねばと思って台所にやってきたのだ。 「真萩のことじゃねぇよ。バカなのはもう一人の息子のことだ」 「あら」 「ようやく帰ってくるってよ、あのバカは」 この一家は父、母、双子の四人家族ではない。双子にはもう一人兄がいるのだ。 その兄が帰ってくるのだと父は言った。 「学院が春休みに入るからな。新学期に入る前に一度帰ってこいって言ったんだよ」 「そうですか、帰ってくるのですか。それでバカ息子呼ばわり?聞いたら怒りますよ?」 本人がと母親はくすくすと笑った。 それにバカ息子呼ばわりしているが、帰ってくることに一番喜んでいるのは父親だからだ。 【自由気ままに】 檜佐木家の家族構成。 父修兵、母、次男真萩に長女撫子。そして今は家を出て寮生活中の長男だ。 夕食時、両親は実に嬉しそうだった。 「夕飯どうしましょう?」 「いつも通りでいいだろ、別に」 「でも。私よりも君の方が料理の腕前は上なんですよ?」 の方が料理の腕は上だとが言い出した。 父子生活が長く、家事全般をが引き受けていたのだ。 その長年の経験はかなり大きなものだ。 今でもたまに失敗作をこしらえてしまう自分とは大きな違いだと。 「だけど、帰宅早々にメシの仕度はさせられねぇだろ?」 「それはわかっています。だから外食とか」 「どうだろうなぁ、あいつの性格考えるとな…」 二人は苦笑してしまう。 『いいよ、俺留守番していてやるから行ってくれば?』 などとかったるそうに言いそうだ。 だがそれでは意味がないのだ。家族で行かねばと。 「反抗期って奴かー」 父親としての威厳とかここ数年あったものではないと、少々へこんでしまう修兵。 今回の帰宅も自分からじゃ聞かないだろうと思ったので、が頭の上がらない浮竹に頼んで実現したものだ。 「心配しすぎです。色々忙しいって言っていたじゃないですか」 「そうだけどな…」 「君は特進学級で、もう六回生にもなるんですから後輩への指導などもあって忙しいんですよ」 修兵もそうだったじゃないのかとに聞かれる。 確かに修兵も当時は忙しかった。特進学級の中でも筆頭であったから後輩を連れて現地指導などというのもあった。 あれからもう何十年経つだろう。 修兵の顔と心に消えない傷を作った出来事もあった。 友を失ったが、今でも付き合えている後輩はできた。なんとも縁とは不思議なものだ。 「成績だけは良かったな、も」 「お父さんの名に恥じぬように頑張っているんですよ」 ニコニコとに微笑まれて修兵は少し照れる。 息子のことを言われたのと、奥さんに微笑まれたからと両方だろう。 「とりあえず。私、頑張って夕飯作りますから!」 は気合を入れる。 別に今食べているの料理、まずくはないと修兵は思っている。 気張るほどのものだろうかと。 「あら。だって愛情はたっぷりこめてありますから」 「お、おい…」 隠し味は愛情とはよく言ったものだ。 「でも君が作ったものの方が美味しいと思うのは、やっぱり君の愛情が沢山お父さんにこめてあるんですよ」 「チビの時ならまだしも…今の図体で言われても怖いものがあるぞ」 「本当のことですし、嬉しいんじゃないですか?」 「…さぁな」 目線をそらすも、顔を見れば判る。 だって修兵と公私共に長い年月を過ごしているのだから。 *** 「、お兄ちゃん」 「なんか変」 双子は部屋で向かい合わせに寝転んでいる。 食事中ずっと両親が話している「」のことだが、双子は正直言ってよく知らないのだ。 なにせ、ほとんど会ったことのない人だから。 双子の部屋の隣がそのの部屋だが、勝手に入ってはいけないと両親からキツク言われている。 何か大切なものでもあるのだろうかと思い覘いても、あまり物が置かれていない少し殺風景の部屋だった。 「おとーさんもおかーさんもうれしそう」 「うん。うれしそう。でも、おとーさんはバカむすこっていってた」 「うん、いってた」 「よくわかんない」 「わかんない」 もうすぐ帰ってくるという会ったこともない人。 「こわいひとかな?」 「こわいひとだったらどうしよう?」 の顔を知らない双子は両親に気づかれないように、の部屋に入り込む。 本棚には母がよく読んでいる料理本が多く揃っている。 双子にはよくわからない難しい分厚い本とかも置いてある。 一番下の棚に、青い背表紙の大きな本を見つける。 「はぎ。あったよ」 撫子が取り出し、床に広げた。 「あ。おとーさんだ」 双子が広げたそれはアルバムだ。 今よりも少し若い父に母の写真が収められている。 「どの人が?」 「これ?」 自分たちより少し大きな男の子。彼がそうだろうか? 父の友だちなど大勢と一緒に写っている。殆どの人たちは双子も知っている人たちだから。 この少年がそうなのだろう。 だがどの写真も目線を外していたり、膨れっ面だったりしてよくわからない。 それから数頁めくるも、少年の姿はあまり納められていなかった。 「……、なこ。わかった?」 「ううん」 写真では、性格など当然わからないものだが。 「はぎ。本当にこわいひとだったらどうする?」 「…やっつけるしか、ないじゃんか」 「おとーさんとおかーさんはよろこんでいるのに?」 「だまされているかもしれないよ」 「そっか。だまされているんだ」 話はどんどん可笑しな方向へ向かっていく。子どもの想像力の賜物だろう。 「わるい奴だったら二人でやっつけよう!」 「ふたりでやっつけよう!」 「うん!」 双子から見て、長男は家に帰ってこない悪い奴だと写ったようだ。 *** 春休みに入り、は実家に帰宅しなくてはならなかった。 正直帰りたくない。 だけど、浮竹に約束だと言われて仕方なく寮をでた。 まだ今なら逃げられるんじゃないかと思ったが、先手を打たれたのかやちるが待っていた。 しばらく公園でぐずっていたが、やちるのおかげでなんとか実家に帰る決意をした。 決意と言うと大袈裟だが、学院に入って5年。一度も実家に帰ることをしなかったのだ。 いざ帰ろうとした時、オレンジ色の髪の友人と出くわした。 彼は春休み中寮にいても暇だからと、浮竹の邸に泊まりにいくことにしたのだという。 じゃあ、俺も行くと実家ではなく、は浮竹の邸に行ってしまった。 「なんだ、君。逃げてきたのかい?」 出迎えてくれた浮竹がしょうがないなぁと呆れて笑っている。 「別に逃げてないよ。家に帰る前にシロさんに会いに来ただけだよ」 彼も一緒だったからと友人を指差す。 「本当に帰るんだろうな?後で帰らないで俺の所為にされても困るんだぞ」 「ちゃんと帰るよ。今すぐじゃなくてもいいじゃん」 急ぐこともないだろうと。 「とりあえず、ゆっくりするといいよ」 浮竹は追い返すような真似はしないから安心できる。 しばらく浮竹が出してくれた菓子とお茶を堪能しながら学院生活について花を咲かせた。 夕方になり、修兵が浮竹の邸を訪ねてきた。実家にわざわざ文を出したのだ。迎えに来いと。 「すみません、浮竹隊長。うちのバカ息子がお邪魔しているようで」 気にしなくていいよーと浮竹は答える。 「バカは余計だ。阿呆」 5年ぶりの親子対面。お互い変に緊張してしまうが表面には出さないようにしている。 「親に向かって阿呆っていうか、普通」 「阿呆な親にはいうよな?」 と友人に同意を求める。 「お、俺にそんな話振るなよ。いいから、お前はもう帰れよ。わざわざ親父さん迎えに来させてよ」 「いいじゃんか、別に。本当に来るとは思わなかったんだよ」 息子と彼のやり取りを修兵はぼんやり眺めてしまう。 学院では他の生徒たちともそんなやり取りをしているのだろうかと。 少しだけ垣間見えた息子の学院生活。 「修ちゃん?」 「あ、いや。なんでもない。帰るぞ。もメシの仕度して待っているんだ」 の名前が出て、少しだけが動揺した。 だがそれに気づいたのは彼とやちるだけだった。 「シロさん。お邪魔しました。また来ます」 「うん。待ってるよ、しばらくは彼もいるしね」 そんなに長くない春休みだが、友人はしばらくここに滞在が決定のようだ。 修兵が先に邸から出た。も荷物を持って門を潜ろうとすると、友人とやちるが引き止めた。 「なに?」 「あんま、変に考えるなよ?お前の考えすぎなんだからよ」 コツンと額に拳を当てられた。 「そうだよ!にはあたしがいるからね!」 やちるの言葉に軽く噴出す。 「ああ。ありがとうな、二人とも」 「コロッケはまた今度にしてあげる。今日は家族で過ごしてね」 「…ああ」 友人たちに見送られて帰路に着いた。 久しぶりに横に並んだ。 目線がほぼ変わらなくなっていたことに修兵は目を細める。 「なに?」 そんな修兵を怪訝に伺う。 「いや。大きくなったなと思って。入学前はもうちょい低かったろ?」 背丈と手でこのくらいだったかとかざす修兵。 「そのうち修兵のこと追い越すからな」 「はあ?お前はこれで打ち止めだろうが」 このくらいでちょうどいいとの頭を容赦なくペシペシと叩く修兵。 「あのなぁ…」 自分の周りには軽く180を越える身長の持ち主ばかりなのだ。 できればあと5センチは欲しいのだ、的には。 「どうだ。学院生活は」 「ん?まあ普通じゃねぇの?現世実習も何度か行ったけど、そう手間かからなかったし」 「頑張ってるんだな」 「別に、頑張ってるってほどでも」 はそっぽ向く。 「阿呆。俺だってあそこの卒業生なんだ、どんなものか知っている。何の努力もしないで特進学級でいられるわけねーだろうが…ま、お前らしいっちゃらしいけどな」 きっと自分の息子だからと特別視されるのが嫌で、頑張っているだろうというのが修兵には想像がつく。 特別視というか、できて当たり前のような目に。 「じっくり6年通うって決めたんだろ?しっかりやれよ」 くしゃりと頭を撫でられる。 いつまでも子ども扱いするな。そう手を払いのけてもいいはずなのに、そうできなかった。 「悪かったよ」 「あぁ?」 「一度も帰らなかったから。何度も帰ってこいって言ってくれたのに」 「別にいいさ。忙しかったんだろ?」 「……まあな…」 本当は違う。理由をつけて帰らなかっただけだ。 それでも修兵はそれでいいかのように、追求してこない。 先ほどから、全て修兵にはお見通しのような気もする。 「俺のこと嘗めてかかるなよ?何年お前の父親やっていると思ってんだよ」 軽く二桁行く年月だ。 「自慢になんねーよ、それ」 「いーや、自慢だな。自慢の泣き虫息子だから」 「ぐっ…ガキの頃の話だろうが…今更言うなよ」 「いいじゃねぇか。本当のことだしな。よし、今夜は酒付き合えよ。親子で晩酌だ」 ぐいっと肩を組まれた。 「気が向いたらな」 久しぶりで照れ臭いとか、緊張とかあったのだが。 何故だろう。悪い気はしなくて。 だけども、少々面倒臭いとか思ったりするのはいけないだろうか? やちる夢の「さしだされた手」の後の話。檜佐木一家です。
再UPにあたりいくつか修正。修兵は副隊長に戻し、撫子が自分の事を「なこ」と呼ぶことにしました。
とりあえず、檜佐木一家の数日間の話です。あ、パパと彼女は普通に結婚していますなw
08/04/28UP
12/07/16再UP
|