ぼくとお父さんと彼女といっしょ。 




ドリーム小説
本当、瓜二つだ

白露坊ちゃまが戻ってきたようだ

ここ数日でそんな言葉を何度か聞いた。
花乃が修兵の仕事が片付くまで泊まって行きなさいと言ってからもう数日が経つ。
早く修兵が迎えに来てくれればいいのにと思う一方で、ずっとこのままなのかな?と言う不安が出てくる。
花乃はに不自由させないようにと、色々なものを用意してくれるも。
にしてみれば申し訳なさの方が立ち、あまりいい気分はしなかった。
そんな中での「おばさんちの子になる?」との花乃の発言がの中で波風立てていた。

修兵はいつ迎えに来てくれるの?

ずっとそんな事ばかり考えてしまう。
なのに、花乃には嫌な顔をさせたくないと気を使ってしまう。

(あれ?…なんだろう…)

何かシクシクする。

「さぁ沢山召し上がりなさいな」

「は、はい。いただきます」

貴族の食事はとても豪華だ。
どれもこれも美味しいけど、なんとなくあまり食べた気がしない。
それどころか、食欲が湧かない。

「どうかした?」

「えと…あんまりお腹が空いていなくて…」

「そう?おやつを食べすぎちゃったのかしら」

「かもしれないです…」

ならばいいわよ。と言われては部屋を出た。

「なんか…痛い…」

お腹をさする。
でも、これ以上は迷惑をかけてはならないから急いで部屋に戻った。





【その18】





「花乃。いい加減に君を帰してあげなさい」

の異変に気付いたのは花乃の夫錦秋だ。

「いい加減にと言うのはどういう事ですか?君のお父様が迎えに来るまでとの約束ですわ」

「かもしれないが、あの子がここに居るのは、あの子の為にならないよ」

「可笑しな事を言いますわね。君は喜んでくれていますわ」

まるで聞く耳を持たない。それどころか、二人になった事で花乃は別の話を持ち出してきた。

君にも話しましたがどうでしょうか。あの子をウチで引き取るのは」

「その話は冗談ではないのか…」

「冗談で言いますか?」

確かで冗談で済む話ではない。
だが、別に引き取る理由はない。そう告げると花乃の目が一層厳しくなった。

「そうでしょうか?お父様も一人で君を育てるのは大変でしょう?副隊長と言う役職お忙しいようですし。
何より、小さな子どもに家事を任せておくなどどういうつもりでしょうか。うちならば君にそんな苦労はさせませんし、何よりあなただって白露が戻ってきたようで嬉しいでしょう?」

「……あの子は白露ではないよ」

「わかっています」

「わかってない…お前は…」

「そうだわ。君にお布団敷いてあげなくちゃ」

夫とは話していられない。そんな風に花乃は楽しげに部屋を出て行く。
錦秋はため息しか出なかった。
と対面した時、確かに亡くなった息子にそっくりで驚きはした。
だけど、そっくりなだけで中身は違う子どもだ。
花乃のように養子に迎えようなどとは思いもしない。
それどころか、ここへやって来た当初に比べての表情は段々固い物になっているではないか。
花乃はと言うより、彼を亡き息子に重ね始めているのだ。
このままだと、だけでなく。花乃もダメになってしまうような気がした。



***



(昨日も修兵は迎えに来てくれなかった…)

朝目が覚めた布団の中で、は体を縮めてそんな事を思った。
昨夜から感じるシクシクするもの。
一応眠りについたけど、シクシクを常に感じて眠った気になれなかった。
それが朝になると一層増して起きるのが嫌だった。

(わかってる。今の修兵が忙しいのは。隊長が居ないからいつもの2倍、ううん数倍忙しいんだ)

総隊長から命じられて隊長代行となり仕事量が増えた。
何より、護廷隊の中でも九番隊は出版業も行っている。
いつもそこそこに忙しい修兵でも、今回はその出版業の忙しさも被ったようなのだ。

(けど、俺一人でも留守番できるし…もう帰ってもいいよね…)

今までだって一人で過ごす夜はあった。
そんな時は恋次やイヅルが来てくれたりもする。
一人でも大丈夫だと修兵に言っても、修兵は以前の事を思って一人にさせないようにとしてくれるのだろう。

(俺…本当に大丈夫だよ……修兵……)

枕に顔を埋める。
なんだかじわりと涙が出てくる。
他所の家に世話になるくらいなら、一人での留守番の方がいい。
誰かとの食事も楽しいけど、今は楽しくない。
それならまだ、一人で食事をするか、修兵を待っている事のほうがいい。

(おなか、いたいよ…)

更に強まる痛みには腹を抱えた。

君、起きてる?」

障子の向こうから花乃が呼ぶ。

「あ、うん…」

起きなくては。

「おはよう。君」

「おはよう、ございます…」

布団から抜け出し、なんとか起きる。
花乃が優しい笑顔を向けるが、はあまり嬉しくなかった。

「朝食できているわよ。昨夜はあまり食べなかったからお腹空いたでしょう」

「あ、はい…」

空腹なはずだけど、食欲は湧かない。
着替えて部屋から出る。
自然と腹に手を当てて歩いてしまう。
食堂に顔を出すと錦秋が居た。彼にも挨拶をする。

「あぁ。おはよう…どうかしたのかい?顔色が悪いよ」

錦秋はの様子に気付く。

「え…あの」

「お腹が空きすぎちゃったのよね」

早く座って食べてと花乃に促される。
座って手を合わせるも、やはり箸を持つ気にはなれなかった。

「あの…やっぱり、お腹空かないから、俺…」

君。昨日もそう言って食べなかったでしょ?ダメよ、ちゃんと食べないと」

「そ、そうなんだけど…」

ちゃんと食べなくてはダメだと花乃に叱られる。
なんで?この人は自分の何を見ているのだろう。
お腹が痛いと言い出せない自分にも問題はあるだろうが。

君。無理して食べずとも良いよ」

「あなた」

「お前は一体、この子の何を見ているんだ」

「何をって、私は」

自分の所為で険悪な雰囲気になりかけたことには慌てる。

「ご、ごめんなさい。俺」

ちゃんと食べるからと箸を持つ
作ってくれた人にも悪いと思いながら、ご飯を一口食べる。
聞き分けの悪い子に思われたくない。
行儀の悪い子に思われたくない。
自分の所為で修兵が悪く言われてしまわないように。
花乃は言った。

「片親だとどうしても負担がかかるでしょうし、しかも男親ですものね」

そんな事はない。
修兵は一生懸命やってくれている。
一人でなんかじゃなく、一緒に二人でやっているんだ。
だから悪く言われたくない。
食べるというより、飲み込むに近いかもしれない。
行儀悪く見えるかと思ったが、花乃には元気よく食べる姿に映ったらしい。
それで満足に見えるならばいいかと、は無理をしてでも笑った。



君」

何をするわけでもなく、部屋でジッとしていた。
その方が腹の痛みも軽くなるから。
そこへ花乃が顔を出す。

「家の中じゃ退屈でしょう?どこかに出かけましょうか」

「い、いいよ。家の中でも楽しいよ」

「遠慮しなくていいのよ。行きたい場所に連れて行ってあげるわよ」

行きたい場所と言われて思うのは一箇所だけだ。
は思い切って口にする。

「あの…おばさん。俺、そろそろ帰るよ」

「あら、どうして?お父さんが迎えに来るまで預かるっておばさん約束したのに」

「義父さんがいなくても…俺一人で留守番できるから」

「そんなお父さんを心配かけること言わなくていいのよ」

「けど……俺…」

君はおばさんが嫌い?おばさんと一緒は嫌?」

花乃がに詰め寄る。小さな肩を強く掴まれは痛みに顔を歪めた。
か細い腕なのに、修兵に比べると小さい手なのにどこからその力は来るのだ。

「お、ばさん、痛いよ」

「ねぇ、君。ずっとここに居ていいのよ?そうよ、ずっと居て欲しいわ」

怖い。初めて会った時と印象が全然違う。
綺麗な上品な女性。自分の周りではあまり居ない人だと思ったのに。
初めて怖いと思った。
有無を言わせない凄みがある。

「お願いだから帰るなんて言わないで、ずっと、ずっと居ればいいのよ」

「お、俺…帰りたいんだ。義父さ…修兵の所に!」

なんとかもがいて花乃の手を振り払い部屋を飛び出した。

「いてぇ…」

けど、廊下に出てすぐ腹を抱えて蹲ってしまう。

君!」

「いたい、いたいよ…修兵…」

我慢の限界だった。



***



住吉家専属の医者がすぐに呼ばれた。
廊下で蹲るに呆然と立ち尽くした花乃を見て錦秋が指示を出した。

「…ストレスか」

神経性胃炎との診断であったが、精神的なもののようで安静していれば治るそうだ。
重い病気ではないものの、小さな子どもにストレスを溜めさせてしまうほどの思いを味わせたと思うと申し訳なさが出る。

「家に帰してあげるべきだろう。先ほど連絡を入れたよ」

「そんな!君は安静寝かせておくべきです」

「ここに居る事事態が病状を悪化させるんだよ。花乃、いい加減わかるね?彼は私達の子どもではないんだ」

「………」

「あの子を白露の代わりにするのは辞めなさい」

花乃はそれきり黙った。
錦秋はもっと早くにこうするべきだったと、自分が早くに認めさせるべきだったと反省をする。
そしてそのままの寝ている部屋に向かった。

「気分はどうだね?」

「…ごめんなさい、ご迷惑をかけてしまって…」

「いいんだよ。私達の方こそ、君に辛い思いをさせてしまった。
さっきお父さんに連絡したから、すぐに迎えに来てくれるだろう」

は瞠目し、すぐさま口元が緩んだ。。錦秋の目から見てもわかる安堵した表情でもあった。

「本当にすまなかったね。ただ、ちゃんと話をさせておくれ」

そう言って、錦秋は昔話をし始めた。
も薄々気付いているだろうと思ったことだ。
二人には白露と言う名の息子がいた。それはも知っていたと頷く。
その子がにそっくりだった。

「ただね…体の弱い子で、床に伏せっていることが多かったんだ。
家の中でしか過ごせない不憫な思いをさせたと私達は思ったよ。
白露が亡くなって、花乃も外へ出ることがなくなった。私達夫婦も会話が減った。
ずっとお互いに自分を責めていたのだろうね。
そんな時、珍しく花乃が外に出た日に君と出会ったんだよ…」

それから花乃は以前と打って変り外へ出るようになった。
息子に瓜二つの子ども。
家に帰ってはその子の話をする。
毎日楽しそうで、元気を取り戻せたならば良かったと錦秋も思っていた。

「けど、夢を見てしまったのだろうね。君と居る事でまるで息子と過ごしているかのようにと…。
本当にすまなかったね、君。君にだって家がちゃんとあるのに無理に引き止めてしまって」

錦秋の話を聞き終えはかぶりを振った。

「そんなことないよ。俺もおばさんと出会えたのは良かったし、沢山よくしてもらったし…。
おばさんが少しでも元気になれたのならいいよ。それに修兵、元々義父さんが仕事で忙しかったから」

優しい子だ。辛い思いをさせたのはこちらなのに。

「そう言ってもらえて…きっと花乃も嬉しいと思うよ」

けど、二人が会うのはここまでにしよう。
その方がお互いの為に良いだろうと錦秋は決めた。
まだ以前のような生活に戻るが、錦秋も花乃を放って置くことをしないと。
戻らないように努力はするつもりだ。
それでももし、花乃がもう少し落ち着けたらなら会ってやって欲しいとに告げた。



***



それからしばらくして修兵が住吉家を訪ねてきた。
修兵は応対した錦秋に何度も頭を下げた。

「ご迷惑をおかけしました。あと、長いこと預かってくださりありがとうございました」

「いや。こちらこそ、余計な心配をかけさせてしまって申し訳なくて」

元々荷物はない。そのまま修兵に背負われた。
いつもは背負われる事に恥かしいと感じるが、今日は違う。
大きな背中に酷く安心する。

「軒を出そうか?」

錦秋に言われるも修兵は丁重に断った。

「まだまだ軽いですから、こいつは。それじゃあ失礼します」

「あぁ。気をつけて帰りなさい」

「おじさん……おばさんにまたねって伝えてね」

「……あぁ。伝えておくよ」

錦秋は驚いた顔をするも優しく笑い頷いた。
二人は住吉家を後にする。





「連絡来た時はびっくりしたぜ…」

「ごめん…仕事忙しいんだろ?」

「んな心配はするなよ。悪かった、中々迎えに行けなくて」

「そうだぞ…すぐ迎えに来るって言ったくせに…」

「本当悪い父親だなー」

「そんなことない。修兵は悪くない」

さっきとは逆の事を口にするに修兵は小さく笑う。
錦秋から連絡を受けた時、話は全て聞いた。
が神経性胃炎で倒れた事、そうさせてしまった経緯。
話を聞いて恨めしくも思ったが、事情が事情だけに親としての気持ちが修兵にはわかってしまったから。
問い詰める事も咎める気も起きなかった。

(血の繋がりがなくても、俺達は親子だ。今、こいつがいなくなったら、俺もきっとあの人達と同じだ)

今感じる背中のぬくもりに酷く安心する自分が居る。

「本当、ごめんな。…」

「謝るなよ。修兵は何も悪くないんだぞ」

「でも謝りたいんだよ、俺は。まだ痛みはあるか?」

「薬飲んだから平気。あんなに痛かったのに、もうそんなに痛くない」

「そっか」

精神的なものだと言っていた。
しばらく安静にしていれば問題ないだろうと。

「ウチに帰ったらゆっくり寝てろよ。お粥でも作ってやるから」

「うん。そうする…なぁ、修兵」

「んー?」

「俺、帰ってもいいんだよね?一人でも留守番できるからさ」

また余計な事を考えたなと修兵は呆れた。
だけど、そう思わせてしまったのは自分にも原因があるのかもしれない。

「ダメなんて言ったか?俺は…今回は、ちょっと、そのなんだ…友だちの家に泊まりに行っただけだろ?」

「うん」

「これから先も俺は仕事で不在にするかもしれねぇけど、しっかり留守番してろ。いいな」

「うん」

この答えが正解なのかは修兵にはわからなかったが。
今一番最良の答えだと思いたい。








昼ドラでしたw。親子はやっぱり親子なんです。
09/10/09UP
12/07/16再UP