ぼくとお父さんと彼女といっしょ。 




ドリーム小説
父上、母上。ごめんなさい…。
いつも心配ばかりかけて、いつも迷惑ばかりかけて。
それでも私にはどうすることもできなくて。
短い間でしたが、私は幸せでした。

動かぬ身体を疎ましいと思ったこともあります。
けれど、こうして父上と、母上とともに過ごせる時間のおかげで。
私は幸せでした。

この先、お二人には悲しい思いをさせてしまうでしょう。
何も出来ない自分が恨めしい。
ですが、私はいつでもお二人を見守っております。
時折で良いので、そんな私のことを思い出してください。
私は、お二人が悲しみに伏す姿を見たくはありません。

私には何もできませんが、どうか。
どうか、幸せになってください。
それが私の最後の願いです。

父上、母上…。
お二人の子で、私は本当に幸せでした。





【その16】





住吉家の奥様がそれを目にしたのは偶然だった。

「どうしても修兵はそれだけは許してくれないんだ」

「まあ、動物を飼うのは難しいからなぁ」

通りかかった公園のベンチに親子に見えなくもない二人組がいた。
あれは浮竹家のご長男だと奥様は記憶している。
下級貴族ではあるが、護廷十三隊の十三番隊の隊長。
貴族と言うより、隊長としての顔の方が有名だろう。
忙しい職務の合間に子どもと散歩でもしているのだろうか?そんな風に見えた。
だが彼はまだ一人身で子どもはいないはずだ。
数人の弟妹たちがいるようだが、それにしては幼すぎる。
他家の事情など知ったことではないので、それ以上は考えるのをやめようとした。
だが、一緒にいる子どもの顔を見て驚愕する。

(あの子は……あの子は……)

しばし奥様はその子の顔を凝視してしまった。





「けど、犬飼いたいんだぁ…シロさん修兵に頼んでよー」

「おいおい、ずるいなー。そんな事されれば檜佐木君も困るだろうに」

と浮竹がいつものように公園のベンチで話をしていた。
内容はが犬を飼いたいという事だ。
だが修兵がそれを頑なに反対をする。
修兵は犬が嫌いなのか?と思うがそうではなく、生き物を飼うという、世話をすることが
いかに大変かと軽い説教を交えて延々と話すのだ。
普段から家事をしているには、そう難しいことでもないと感じるのだが。
ダメなものはダメ。
普段は息子の頼み事を嬉しく思う修兵でも、今回ばかりはそう簡単には許してくれそうになかった。
だからって立場が上の者から頼まれれば修兵も返答に困るだろう。

「やっぱダメかー」

最初から通じるとは思っていないのか、はぺろっと舌を出した。

「修兵の言う事もわかるしな。当分はゴローと遊ぶことで我慢しようっと」

「ゴロー?」

「うん。ゴロー。この前やちるが七番隊に…あ!シロさん、あの人!」

が何かに気付く。
そしてベンチから駆け出す。

「お。こりゃ大変だ」

浮竹もその何かを見ての後を追った。

「おばさん。大丈夫?気分悪いの?」

が見つけたのは胸を押さえしゃがみこんでいる女性だった。
淡い白地の着物の女性。そばに日傘が落ちている。
の言葉に女性は顔を上げると、小さく息を呑んだ。

「おばさん?」

心配そうに覗くの手を女性は掴んだ。

「ご、ごめんなさいね…坊や…」

「別に謝る事はないと思うけど」

別に何かされたわけでもない。

「あぁ。花乃さんじゃないか。住吉家の」

追いついた浮竹は女性が自分の知り合いであるのことに気付く。

「シロさんの知り合い?」

「あぁ。それよりも大丈夫かい?花乃さん」

「え、ええ…少し眩暈がしてしまって」

「ベンチで休んだ方がいいよ。おばさん立てる?」

連れて行ってあげるとが花乃の手を握り返した。
花乃はややあってから頷き立ち上がる。
が丁寧に手を引いてベンチまで案内した。
浮竹は落ちている日傘を拾い上げてからその後に続いた。

「なんか飲むなら俺、買って来るけど?飲める?」

「いいのよ。ありがとう坊や。大分落ち着いたから」

顔色も先ほどに比べたら大分いい。
自分に笑いかける花乃になんとなく安堵した。

「あ。俺そろそろ行かないと。夕飯の支度があるから」

花乃の事は心配だが、浮竹がいるので平気だろう。

「あぁ。気をつけて帰るんだよ」

「うん。シロさんまたね!おばさんも気をつけてね」

「ありがとう」

駆け出すの後姿を花乃はじっと見ていた。

「花乃さん、家の方に迎えを出してもらおうか…その方が」

「十四郎さん」

花乃の柔らかな眼差しが、急に涼やかなものへと変わった。
声音も少々固くなる。

「あの子は。あの坊やは…どこの子ですか?」

が去った今でも、花乃の視線はが向かった方へ向けられていた。





「本当なんです。本当にあの子の生まれ変わりのような子がいたんです!」

自宅へ戻った花乃はいの一番に夫錦秋(きんしゅう)へと話した。

「花乃…お前は突然何を」

珍しい妻の高揚ぶりに錦秋は驚いてしまう。
滅多に外へ出る事もしなかった妻だから、余計に。

「白露(はくろ)に似た…いいえ、白露と双子のような同じ顔の子が」

錦秋は何を言い出すのかと眉を顰める。
だが花乃は夫との温度差に気付いていない。

「似ている子が居たからと言ってなんだ。それがどうしたのだ」

他所のうちの子が自分の子にそっくりだからなんだと言うのだ。
それに今、そんな話をされても錦秋はあまり気分が良いとは思えない。
なぜなら、二人の息子は疾うの昔に病で亡くなった。
そんな亡き息子に似ている他所の子などどうでもいい。
錦秋の一言にハッと我に帰る花乃。

「そうですね…どうしたと言うのかしら…」

ただ忘れられない。
浮竹と楽しそうに話し笑う姿。

『おばさん。大丈夫?気分悪いの?』

心配そうに覗きこんだ顔。
ほんの短い時間だったのに。
息子と同じ顔をした少年が、ずっと脳裏を占めている。

「また…」

「?」

「また出会えたような気がして…あの子に…」

憑物が落ちたかのように、ストンと腰を下ろしてしまう花乃。
息子が亡くなってからふさぎ込んで家に籠もっていた花乃。
少しでも外へ出たことに喜びつつも、まさかそんな事に遭遇していたとは。
このままただの別人だと言い切って話を終了させてしまうのは簡単だ。
だけど、妻にはできれば以前のように元気な姿を見せて欲しい。
錦秋もまた、息子を亡くした事を未だに引きずっているから。
だから。

「その子はどこの子なんだい?」

妻の話に耳を傾けてしまった。






「こんにちは。坊や」

「あ。おばさん!」

公園ではこの前会った女性、花乃に声をかけられた。
日傘を差して、髪を綺麗に結い上げている花乃。
や乱菊とは違う、どちらかと言えば、卯ノ花に近い大人の人に見える。
着ている着物も上等なものだ。

「この前はありがとう」

「ううん。俺は別に何にもしていないよ。シロさんが居てくれたから」

スッと近くのベンチに腰を下ろした花乃に、は自然とその隣に座った。

「シロさん…十四郎さんとはお友だちだったからしら?」

「うん。年は離れているけど、シロさんは俺の友だちだよ」

シロさんは色んな話をしてくれるし、俺のどんな話も聞いてくれるから好きなんだ。
そう笑顔で答える

「そう」

「おばさんもシロさんの友だちなの?」

「そうね…昔からの…古い知り合いね。そうお付き合いがあるわけじゃないけど」

浮竹は十三番隊の隊長で忙しいこともあるし。
住まいを実家ではなく、隊舎内の雨乾堂にしているから普段から会う事はないそうだ。

「じゃあ。おばさんともお友だちになってくれる?」

何気ない花乃からのお願い。
は深く考えることなく頷いた。

「うん。いいよ」

の頷きにどこか安堵の笑みを浮かべる花乃。
それから毎日ではないが、浮竹の時と同じ様に公園で花乃と会う事が多くなった。





「あら。それじゃあお父様と二人暮しなの。大変じゃない?」

「ううん。俺、料理とか好きだし。俺の作ったもので喜んでもらえるの嬉しいし」

はにかむような照れ笑いの

「面と向かって言ったことないけど、義父さんに喜んでもらえるのがすごく嬉しいんだ」

「そうなの。お父様も喜んでいるでしょうね」

座ったベンチから脚をブラブラさせる
なんとなくくすぐったい感じがする。
修兵が喜んでくれているといいなと。
でも今まで「マズイ」とは言われた事はない。
恋次達が食べに来てくれているし、そう評判は悪くないだろう。

君は何が得意なの?」

「んーなんだろう。俺、お菓子も自分で作るよ。おはぎとか」

「あら。すごいわね」

「今度おばさんにも作ってこようか?」

「本当?おばさんにもくれるの。嬉しいわ」

両手を口元で合わせて喜ぶ花乃にも気分は良くなる。

「おばさんは子どもいないの?」

ふと思って聞いてみると、花乃の表情が一瞬で曇った。
何かまずい事を聞いただろうかと子ども心に感じてしまう。

君と同じくらいの子がね。おばさんにもいたんだけど……ずっと昔に亡くなって」

「あ、ごめんなさい…俺」

「ううん。いいのよ、別に。だからってわけじゃないけど、こうして君と仲良くなれたのが嬉しいのよ」

「俺も。おばさんと仲良くなれて嬉しいよ」

大人の女性はの周りにもいる。
だけど花乃のような雰囲気の女性は多くない。
一言で言うなら「母親」のような女性を。
年齢からそう感じるのかはわからないが、事実花乃が母であったこともある。

「そうだ。君、今度ウチへいらっしゃいな」

「へ?」

「遊びに来てちょうだいってこと」

これと言って深く考えなかった。
自身が友だちの家に遊びに行くのに、そう深い理由もない。

「じゃあ。俺その時さっき約束したおはぎ作って持っていくよ」

「本当?ならおばさんも君に喜んでもらえるようなお料理を用意するわね」

花乃の言うおじさん。花乃の旦那もきっと喜ぶだろうと言って。






最近よく会うおばさんについて夕食を食べながら修兵に話した。

「綺麗な、上品なおばさんなんだ」

今日の夕食は野菜炒めに油揚げと大根の味噌汁。
きゅうりとワカメの酢の物にポテトサラダ。
修兵は美味い美味いと言って食べてくれている。

「へぇ。お前はまた色んな所で知り合いができるな」

普通ならば接点もなさそうな人なのに。

「今度おはぎ作っておばさんちに遊びに行く約束もした」

「粗相のないようにしろよ?」

「俺、修兵と違って行儀いいもん」

心配いらないとは言う。

「行儀がいいんじゃねぇよ、お前の場合。外面がいいってんだよ」

大きな猫背負ってんなと修兵に突っ込まれる。
軽い嫌味なのだが、猫で思い出す。

「あ。犬買ってよ、修兵。なーいいだろ?」

「またその話か…何度言やわかるんだ?ダメだって言ったろ」

「だってさー」

口をすぼめる。浮竹にはあぁは言ったものの中々諦められないのだろう。

「お前が思っている以上に動物を飼うって大変なんだぞ」

だが動物を飼う事で得られるものもあるのを修兵は知っている。
頭ごなしに反対するつもりはない。
できればもう少しが大きくなってからの方がいい。

(大きくか…一緒に暮らし始めた頃に比べれば…成長したよな、も…」

時間にしてまだ一年弱。
それでも、この一年の間に色々あったし、の見た目的にも成長はしているだろう。

(死神になるんだって…どう成長するんだかなぁ、こいつは…)

血の繋がりはなくともと自分は親子だ。
だから純粋にの成長が楽しみに思えた。

「修兵、どうかした?」

「いや…なんつーか、背伸びたよな、お前」

「本当?そう見える?」

パッと顔を輝かせるもすぐさま小首を傾げる。

「でも、修兵もそうだけど、恋次もシロさんも皆大きいから、よくわかんねーよ」

日番谷と二人でどうすれば背は伸びるか。などと話をしているらしい。

「すぐだよ、すぐ。お前もそのうち大きくなるって。ま、俺より大きくはならんだろうけどな」

「なる!修兵より大きくなるんだ」

「ほぅそれは楽しみだなぁ」

ニタニタ笑うも、内心ではこんな話ができて喜んでいる自分が居た。





「え…それは…こっちとしては助かりますけど…いいんですか?」

修兵のところに入った連絡。
それは花乃からで、をこちらで預かろうかと言う話だった。
そうなってしまったのは、修兵の仕事が立て込んでおり家に帰れそうになかったから。
たまたまその日、花乃の家に招かれたがそんな事を彼女に話したらしい。
すると花乃から、修兵の仕事が落ち着くまで我が家でを預かると言ってくれたのだ。
を夜一人で家に残すことを修兵はあまり良しと思って居いなかったので。
花乃の申し出に何の疑問も抱くことなく、のことを頼んでしまった。

「本当すみません。お手数をおかけして」

『いえ、いいんですよ。君が居てくれると私も嬉しいですから』

「じゃあ。お願いします、仕事の目処がつけば迎えに行きますんで」

『はい、それじゃあ』

「……あ」

ぷつっと会話は終わった。
切られた。そんな感じ。
の話では上品なおばさんとか言っていたが。
なんだか、修兵にはあまりいい印象が感じられなかった。

が懐いているってだけで、変な目で見ちまったのかな…)

浮竹にも軽く嫉妬してしまうくらいだし。
このままではいかんと頭を切り替える。
早く仕事を片付けて、を迎えに行こう。








よくあるネタの話。パパピンチ!
09/05/29UP
12/07/16再UP