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ぼくとお父さんと彼女といっしょ。
当然。修兵にだって、そういう時代はあったんだよなぁ。 【その14】 「………あ、あれ?」 風が吹きぬける。 目の前に広がるは一面の野原。 「おい。大丈夫か?」 「お前…どこから来たんだ?」 知らぬ子どもたちに囲まれている自分。 状況がわからない。 「頭打ったとか?大丈夫か?」 すりすりと後頭部を撫でられた。 は慌てて飛び起きる。 「だ、大丈夫!あの、えっと…」 がなんでもないとわかると、囲んでいた子どもたちはにかっと笑う。 もそれに釣られて笑うが、いまだ頭の中は大混乱だ。 (えっと…さっきまで、俺…冬獅郎のとこにいたと思うんだけど…) 軽く頬を指で掻きながらは思い出そうと必死だ。 (そのあと…やちるが来て…) おはぎを沢山作ったから、分けてあげようと思って。 いつも世話になっている人たちに配って回っていた。 浮竹や卯ノ花にはすごく喜ばれた。 甘いものより辛いものが好物という白哉に食べてもらえるか不安だったが、彼は食べてくれた。 不味いとか、いらないとか言われるかもしれないと少し不安であったが。 の頭を軽く撫でてくれた。 雛森やイヅルたちにも喜んでもらえたし、恋次にいたっては家にまだ残りがあるなら夜食べに行くとまで言われて。 最後に十番隊隊舎に行って、日番谷と乱菊にも食べてもらっていた時だ。 「もう〜本当修兵が羨ましいわ。ね、君。大きくなったら、あたしのところにお嫁に来ない?」 お手製のおはぎを頬張りながら乱菊は上機嫌だ。 「なんで、お嫁さんなの?お嫁さんって女の子がなるものだよね?」 「お婿さんでも良いけど。お嫁さんの方がぴったりじゃない」 そんなものか?と思う。 「どっちにしても、松本のところじゃが今の倍苦労するだけだ。止めておけ」 「ひっどーい。隊長〜家事は君任せになっちゃいますけど、その分あたしが稼ぎますから問題ないですよー」 副隊長の稼ぎなら問題ないと。 「なんか、それだと今と変わらないよ。面倒見るのが修兵から菊ちゃんに変わるだけだもん」 は笑った。 「あら。君も言うわね〜修兵の面倒見てるの?見てもらっているの間違いじゃなくて?」 「そりゃあ、生活費は修兵が出してくれているけど、俺が家のことやってんだよ?」 毎日遅刻もせずに、朝晩ご飯もちゃんと食べられるのは自分がいるからじゃないか。 規則正しい生活になって修兵の健康は安泰だ。 「んー…そう考えると。君をお嫁さんにするのは考え直した方がいいかも」 「なんで?」 「口煩く言われたら、困っちゃうし」 寧ろ生活態度を改めろ。そう日番谷の目が言っている。 (なんてことを話していたら、やちるが来たんだ…) そしてやちるはごく普通に、当然のようにおはぎを嬉しそうに食べていた。 「あー。美味しかった!」 「あらら〜残り全部食べちゃって。良かったの?君」 重箱の中は綺麗に空になっていた。 「うん。いいよ。大体は皆に配ったし」 「本当、気苦労の耐えないガキだよな、お前は」 茶を啜る日番谷を見て、は笑った。 「そんなの冬獅郎に比べたらなんてことないし」 「……確かにな」 副隊長を今からでも選べるならば、修兵を回してもらった方が随分楽になるだろうななどと思ってしまう。 乱菊だって仕事をやる時はやるのだが、如何せん溜め込む癖がある。 あとで泣きを見るのは自分なのだ。 もう少し効率良く仕事をしたいものだ。 「あ。そうだ。おはぎのお礼に、に飴あげる」 「飴?ふーん」 やちるはゴソゴソと持っていた巾着の中から飴玉を出す。 「はい。あげる」 「ありがとう…な、なんか…変な色だな、これ」 「そうかな?」 ビー玉のような綺麗な蒼ならば良かったのだが、なんだかよどんだ蒼に見える。 でも、くれたやちるは平気で同じ様にどす黒い赤色の飴玉を舐めはじめた。 やちるが普通に食べているのならば問題ないのだろう。 そう思って、も飴玉を口に放り込んだ。 「………」 「?」 最初に異変に気づいたのは日番谷だった。 椅子から降りて、の顔をのぞきこむ。 「おい。どうした?」 「………」 はそのままバタンと倒れた。 遠くで日番谷や乱菊の声がするなぁとなんとなく思った。 思った直後。 目を覚ますと、そこは知らない場所だった。 (いやいやいや、意味わからないよ!なんで?なんで俺、外にいるの?冬獅郎が外に捨てたのか!?) さっきまで居たのは十番隊の隊首室だ。 ありえない。 しかし周囲に建物らしいものが見当たらない。 「なぁ、本当大丈夫か?なんか呆けてるぞ、お前」 「え?あ、うん。本当大丈夫だから」 「お前どこから来たんだ?ここらじゃ見かけないし」 「どこって…あ」 子どもたちと自分の違いに気づく。 そしてここが瀞霊廷ではなく、流魂街ではないだろうか? 子どもたちが来ている着物は袖なしであり、袴も穿いておらず1枚を着流しているだけだ。 その裾も膝までしかなく、ほぼ毎日着ているのだろう、裾はぼろぼろだ。 これは少し前の自分と同じ格好だと。 そう思うと、家族を失い修兵に拾われた自分は本当にいい暮らしになっていたのだなと。 「どうした?」 「なんでもない。ここ流魂街だよね?」 「そうだぞ」 場所を聞いては唖然とした。 瀞霊廷から遠く離れているではないかと。 一人で帰るには距離がありすぎる。と言うより、なぜに自分は瀞霊廷から飛ばされた? 「お前はどうしたんだ?どう見てもここらの奴じゃないだろ」 「あ、うん…えっと…俺もよくわかんない。気づいたらここに居たから…」 信じるか信じないか?考えても無駄だ。 一人で瀞霊廷に向かって歩くしかないだろう。 もしかすると、修兵辺りが気づいて迎えに来てくれるかもしれない。 あの場には日番谷や乱菊もいたのだ。 子どもたちは互いに顔を見合わせる。 そして何を思ったのか、の手を引っ張り走り出す。 「え?な、なに!?」 「お前、捨てられたのか?だったら俺らと一緒にくれば?」 「え?す、捨て?」 「行く場所ないなら来いよ」 よくわからないまま、一先ず子ども達の好意を受けることにした。 ただ流魂街に飛ばされた。そう思っていたのに。 子どもたちの名前を聞いて驚いた。 リーダー格の子は平吉、他に心太に浩一、そして黒髪のひょろっとした少年が修兵と名乗った。 (しゅ、修兵!?) 「修兵って言うのか?」 「うん。檜佐木修兵」 「………」 修兵と同じ名前だ。親がそうつけたのか? だがここは流魂街、実の親子が共にいるというのはあまり聞いた事のないこと。 「お前は?」 「ひ…あ、えと。。って言うんだ」 なんとなく「檜佐木」と名乗るのをやめた。ややこしくなりそうだったから。 (俺、夢でも見てるのかな?…) 修兵と同じ名前の子どもが目の前にいる。 修兵だと聞かされてから、少年と修兵が似ているような気がして仕方ない。 目は細くないし、顔に傷も意味不明の数字も書かれていない。 共通しているのは綺麗な黒髪だけだ。 (それに修兵の方がどうどうとしているもんな。こいつ、なんか弱っちい…) それでも、修兵のはずがないと思っても、どうしても目が離せなかった。 *** 早くも一日が過ぎた。 子どもだけの生活というのも悪くない。 子どもだけといえども、ルールがしっかりあってちゃんとしている。 リーダーの平吉がちゃんと皆をまとめているのだろう。 流魂街でも色々な生活の仕方があるのだなと思った。 「うわっ!」 足を引っ掛け修兵が転んだ。 「う…うぇ…うわぁあああん!!」 堪えることもなく、あっという間に泣きだす修兵。 「大丈夫か?修兵」 擦りむいた膝が痛いのだろう泣きじゃくっている。 が修兵を立たせる。 (子どもだからしょうがないよな…でも、俺ですら転んだぐらいじゃ泣かないのに…) 目の前にいる子どもが義父と関わりあるかはわからない。 でも、できすぎているのだ。 だから困惑してしまう。大人の姿と、子どもの姿に。 「なぁ。男の子だったらそんなに簡単に泣いちゃ駄目だぞ?」 「って言っても修兵は泣き虫だぞ」 周りの子どもたちは言うだけムダと割り切っているようだ。 「そうは言うけどさ。これからの修兵によくないぞ、それ」 同じ名前だから? 死神で、副隊長で、自分を救ってくれた修兵はとても強かった。 そんな男と同じ名前を持っていながら、転んだぐらいで泣いてしまう男の子を見ているとなんだか無性に情けなくて。 「うっ、うっ…」 ゴシゴシと涙を拭う修兵。 は修兵の着物についた草や砂埃を丁寧に払う。 「あんな。涙って辛い時や、痛みを感じた時以外にも出るんだぞ?うれしい時とか。 あんまり泣いてばかりいると、そのうれしい時に涙が出なくなっちゃうぞ」 「う…うん」 出会ったばかりの、それも子どもに言われても、説得力はないだろう。 そうは思っても、放っておけなかった。 気がつけば、修兵と一緒にいることが多く。 常に気にかけていた。 相変わらず泣き虫はそう簡単に治らなかったが。 「なんで、は…そこまで俺のことかまってくれるんだ?」 別に仲間たちが修兵を仲間外れにしているわけではない。 修兵が泣くと、仕方ないとか、またかと呆れるぐらいでそれ以上はどうにもしなかった。 「なんでって…たださ、俺…修兵と同じ名前の人知ってる」 「同じ名前?」 「うん。その人すごく強いんだぞ。同じ名前の修兵が泣いてばかりいると、なんかさ…」 同じお名前だからという理由だけはない。 詳しく言うなら、強くて自慢できる義父の弱いところを見たくないだけかもしれない。 たとえそれが子どもの姿であっても。 「カッコいいじゃん。修兵って名前。だからさ、その名前に恥じないようにっていうか…」 難しい事は俺もわからないとは笑う。 とにかく泣いてばかりいて欲しくないだけだ。 「俺も…いつまでも泣き虫でいたくないよ…だから、頑張る」 「うん。頑張れ」 お互いニカッと歯を見せて笑った。 (あ…修兵と同じ顔だ…やっぱり、この修兵って…) 「おーい。修兵、!あっちで遊ぼうぜ!」 浩一の声がした。 「行こう。」 「うん」 修兵と二人走り出した。 走り出した瞬間。足が滑ってはその場に転んでしまった。 「痛ぇ…あはは、俺、ダサいなぁ…」 と起き上がったつもりだった。 だが、自分は仰向けに寝ており、目を開けるとやちるや乱菊が顔を覗きこんでいた。 は体を起こすと、見慣れた十番隊隊首室のソファの上だった。 「良かった〜君、気を失っちゃうから」 胸を撫で下ろす乱菊。 やちるはに抱きつき泣き出してしまう。 「〜ごめんね、ごめん〜あたしがあげた飴の所為でが倒れるなんて思わなくて」 「え?やちる?…あれ、修兵は?」 キョロキョロ辺りを見回す。 「お前。寝ぼけているのか?檜佐木を呼んで欲しいなら呼ぶけど…」 「あ。冬獅郎だ…あれ?あれ?」 意味がわからない。 さっきまで流魂街にいたと思ったのに。 「俺…どうしてたの?」 「なんだ?覚えていないのか?草鹿から貰った飴食って、お前、気絶していたんだよ」 「本当災難ね。君。あの飴玉、技術開発局で貰ったものですって。どう見ても普通の飴じゃなかったからねぇ」 ただ同じ様に食べたやちるには、何の異変もなかった。 おかげで原因が本当に食べた飴玉なのかはわからない。 調べようにも、あまり関わりたくないと思ってしまうくらいだ。 安易に出所が不安なものは口にしない方がいいようだ。 「。烈ちゃんのところ行こう?診てもらった方がいいよ」 「え?へ、平気だよ。別に痛いところないし」 「本当?気持ち悪いとかない?」 「ないない。本当大丈夫だよ。ごめんな、やちる。俺の方こそ」 やちるはから離れる。 そんなことないとかぶりを振った。 「怒っていない?」 「別に怒る理由ないし…あ、でも…少しだけ感謝かな」 「感謝?」 「面白い夢。見れたから…うん、夢だと思うけど」 ヘラッと笑うに、日番谷と乱菊は顔を見合わせる。 本当はどこか悪いのではないだろうかと。 *** その日の夕食。 いつものように修兵と以外に恋次とイヅルがいた。 こうした光景はほぼ当たり前だろう。 「なー修兵。一つ聞いていいか?」 「あ?なんだ?」 今夜のオカズはサンマの塩焼きにアサリの味噌汁。それと水菜のサラダとキノコの炊き込みご飯だ。 修兵は2杯目の炊き込みご飯を食べていた。 「修兵の子どもの頃ってどんなんだった?」 「俺?俺のガキの頃ねぇ…別にどこにでもいるようなガキだったと思うけどな」 修兵は淡々と答える。 だけど、恋次がそんなことないだろうと意地悪く笑う。 「そんなこと言って〜先輩、ガキ大将だったんじゃないですかぁ?」 「あ。それわかる。檜佐木先輩、そんな感じですよ」 二人は今の修兵を見て、そう感じるのだろう。 だが他にも根拠はある。 彼らが霊術院に通っていた頃、修兵はすでに六回生筆頭。 周りを引っ張っていく優秀な生徒だった。 当時からアニキ肌であったから、子どもの頃からそうだったのだろうと思うのだろう。 「そりゃ、お前だろ、阿散井」 「俺は…んー…そうっすかね。ルキアたちと遊びまわっていたっすけどね」 少しだけ目が柔らかくなる恋次。 恋次の過去を知っているわけではない。 何を意味するのかはまだ幼いにはわからなかった。 「でも、どうしてそんなこと聞くんだい?君」 「え…いや、ちょっと気になったって言うか…どんなかなーって」 言うまいか言わざるべきか、少しだけ迷う。 だけど。 「修兵って…実は泣き虫だったろ?転んだくらいでビービー泣いて」 「なっ!だ、誰がだ!」 するりと箸が抜け落ちる修兵。 「だから修兵が」 「なわけあるか!どっからそんな話聞いた!!?」 「……内緒」 あの泣き虫修兵は、やっぱり目の前にいる義父の子どもの頃だったんではないだろうか? なんとなく、修兵の反応を見てそう感じるだった。 仔修兵登場。いやぁ、原作で見た衝撃は忘れられん。原因は十二番隊ってのはお約束ですな。
08/11/05UP
12/07/16再UP
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