ぼくとお父さんと彼女といっしょ。 




ドリーム小説
昼過ぎ、が九番隊副官室に顔を出した。
控えめに、修兵の機嫌を伺いながら。

「どうした?」

修兵は午後の執務に取り掛かろうとしたのだが、息子のそんな姿を見て首を傾げる。

「副隊長。こちらの書類を先に…あら、君」

が副官室に戻ってきた。
彼女はここで修兵の補佐をしている。
の顔を見て、サッと彼女の後ろに隠れる。
キュッと彼女の死覇装を掴み修兵の方を見る。

「ど、どうしたの?君…」

の後ろに隠れるなんて真似、普段はしないのに。
でも、この構図。どこかで見たことがある。
あぁ、なんとなくピンと来た。

「お前…なんかしたんだろ?俺に叱られるような何かを…」

机に肘を着き、に呆れた視線を送る修兵。

「…。何をした?怒らねぇから言ってみな」

どうでもいいけど、の後ろに隠れるなよと思う。

「本当に怒らない?」

「程度によるけどな」

はウッと小さく呻く。
一体何をしでかしたのだろうか?

「あ、あのな…その……ご、ごめんなさい」

いきなり謝るとは…。
本当に何をしたのだ、は。

「さっき…風呂掃除していたら」

「あぁ」

「壊れた。風呂釜」

「は?」

「だから…風呂釜壊れた」

ごめんなさいとの後ろから謝る
修兵は一瞬呆けてしまう。
風呂釜を壊した?が?





【その13】





一先ず修理業者に連絡するが、明日にならないと見に来れないようだ。
急いで直せというほど修兵は鬼ではない。
さほど重要視していないからだ。

「家事やってもらっているのに…風呂釜壊したからって俺が怒鳴るような奴に見えたのか?」

それは心外だと修兵は思う。
別に遊んで壊したわけではないじゃないか。
もしかしたら、元々壊れかけていたのかもしれないし。
の所為だとは思わないのだが。

「だってさー」

ちょこんとソファに腰掛ける
足をぶらつかせて、机で仕事中の修兵を見ている。

「お父さんは悲しいなー」

「お父さん言うな」

「言うなと言われても、俺、お前の親父だし」

ツーンとそっぽを向く
だがその耳が少し赤くなっているのが可笑しい。
にとって本当はその言葉が何より一番嬉しいのだろう。

「なー今夜どうする?風呂入れないぞー」

「別に一日二日入らなくても…いや、それは不味いか」

ハハハと笑いながら修兵は後頭部を掻く。
今、副官室には二人だけではない、もいるのだ。
女性が耳にすればあまり良く思わないだろう。
しかし、夏場でなくて良かったとは思う。
単純に近所の銭湯に通うことになるだろう。
だけど、なんとなく今、思った。

「今夜はここに泊まっていくか」

「は?」

「隊舎なら風呂も寝る場所もあるしな…」

大抵の者は隊舎で寝起きをしている。
修兵は隊舎で寝泊りする必要もないはないが、仕事の関係上寝泊りできるようには元々なっている。

「飯も困ることないしな。よし、決めた」

銭湯にも似た大浴場もあるわけだし、いいだろう別に。

「修兵はよくても、俺はどうなんだよー。部外者だし」

「別に平気だって。お前一人ぐらいなんてことねーよ」

ここではほぼのことを知らぬ者はいないのだ。
小さな子どもが一人寝泊りしたぐらい問題ないだろう。
一応家庭の事情というものもできたわけだし。

「決まりだ。お前、着替え取りに一旦戻れ。んで、夕方戻って来い」

「えー」

「たまにはいいじゃねぇか。家の風呂もいいけど、ここのも大きくていいぞ」

そう言って副官室から追い出された。
ちょっとしたお泊り会だと思えばいいじゃねぇかと言われて。

「お泊り会って…修兵が言うとなんか変だ」

一人歩きながらそんなことを口にした。
ふふふと笑って、嫌そうな顔をしたものの正直ちょっと楽しみに思ってしまう。
隊舎と言えば、以前十三番隊にはお世話になった。
浮竹が寝起きをしているという隊首室雨乾堂で、数日だけだが。
あの頃はお泊りなんてことを考える余裕もなかったのだが。



***



修兵が仕事を終えそうな時間に、は再び訪れた。
流石に死神たちが寝起きする場所には今まで入ったことがなかったので、少し緊張する。
修兵が私用で使える部屋を意味もなくキョロキョロしてしまった。

「そんな珍しいものでもねーと思うけどな」

「う、うるさいな」

急にここで泊まることになったとはいえ、すぐにも宿泊準備がされているのはさすがだと思った。
旅館並だなと。

「家の方は戸締りしてきたか?」

「したよ。洗濯物も取り込んだし」

「ならいい」

別に急に来る客と言っても、飯をたかりにくる連中だろうから問題ないだろう。

「檜佐木せんぱーい!来てるって聞きましたよー」

どこで知ったのか恋次とイヅルがやってきた。

「飯。食いに行くならご一緒させてくださーい」

あわよくばご馳走になろうと言うのだろう。

「お前ら目ざといな…一緒に食うのはいいが、奢る気はねぇな。てめぇで払え」

「えー。酷いッスよー」

給料日前だから無駄遣いは控えたいのはお互い様だろう。

「修兵。お腹空いたー。早くご飯食べよう」

ちょいちょいと修兵の死覇装を引っ張る
下から小さいのが見上げてくると、なんだか微笑ましく思える。

「そうだな。阿呆は放って置いて飯食いに行くか」

修兵はきっとそんなが可愛いとでも思っているのだろう。
親馬鹿丸出しだ。
だが、は。

「恋次とイヅルも行こう」

と二人腕を引っ張って行く。
どうも修兵と恋次の小競り合いを切り上げる為のものだったらしい。


夕飯はいつもと同じように賑やかだった。
家で食べる時より、多少大人しいものではあったが。
修兵の顔を見て、挨拶していく隊士を見てなんだか可笑しかった。
いつも家で見せる顔とは違うから。
きっと、逆に隊士たちから見れば、と一緒にいる姿を見るのが可笑しく思えるだろう。
前に恋次だったか、イヅルだったか、覚えていないが誰かが言っていた。
修兵は気安く話せる面もあるが、それは付き合いの長いものにしかわからないらしい。
上官と部下という線引きをしており、恋次達のような付き合いはしないらしい。
だとすると、は随分気を許されているのだろうなとは感じる。

(うーん…姉ちゃんは修兵にとってどうなのかな…)

を呼んで家で食事をしたことは何度もある。
あるが、やはりどこか線引きされているような気はする。

(難しいな…俺、ガキだからどうにもできないし)

修兵とにわがまま言って困らせるなんて真似、性格上できない。
自分でもわかる。子どもらしくない子どもだって。

「どうした?難しい顔をして。ほら、風呂行くぞ」

「う、うん」

九番隊の入浴施設。施設というほどではないが。
修兵とが脱衣所に姿を見せたとき、一瞬空気がざわついた。
平隊士では緊張してしまうのだろう。
修兵は苦笑しながら、彼らに気にするなと言った。

「ほら。しっかり頭洗えよ〜耳の後ろもだぞ」

「一人でできるって!」

「たまにはいいじゃねぇか」

指示していたつもりが、いつの間にかわしわしとの頭を洗う修兵。
にししと笑いながらお父さんっぷりを隊士たちに見せてしまっている。
女性死神たちが見ることができないのは残念だろうなと彼らは思う。
普段の修兵はあんな風なのかと。

「やっぱ。お前はまだヒョロヒョロだな」

今度は修兵の番だと、が修兵の背中を洗う。

「うるさい。しょうがないだろ!」

成長期はこれからだと主張する

「今に修兵より大きくなるんだからな、今だけだ」

「そりゃ楽しみだな。その頃には死神になって俺を楽させてくれるんだろ?」

「………うん。楽させてやる」

ゴシゴシと修兵の背中を洗いながらは頷いた。
本当に楽しみだ。そんな日が来るのが。


ゆっくりと湯船に浸かる。
最初はざわついた空気も、この頃には落ち着いていた。
たまに、後から入ってくる平隊士が修兵を見て驚いてはいたが。

「なー

「んー?なに…」

「お前。何があったんだ?少し前にさ」

「へ?」

「様子がいつもと違っていたじゃねぇか」

少し前の出来事のことを言っているのだろう。
一瞬だが、は小さく声を漏らす。
だけど、それを絶対に修兵には言いたくなかった。
偶然、泣き言を言っている場面を阿近には見られた。
阿近は理由を聞かないでいてくれたが、にこういった。

『だったら、もっと上手に隠しとおせよ。檜佐木の顔見て泣きそうなら今ここで泣いちまえ』

と。
だから、あの時泣いた。
あの場所で全て吐き出して泣いたんだ。
もうこれ以上、この事で振り回されたくないから。

「様子が違うって言うなら、それは修兵の方じゃんか…この前変だったぞ」

急に母親が欲しいかと聞いてきた。
修兵は返答に詰まる。
確かに可笑しなことを口走ったが、あれはすでに解決済みだ。
夢だったのか現実だったのか、わからない意味不明な出来事。
偶然のようだが、修兵もまた阿近の言葉に救われたようなものだった。

『だったら、考えるだけ無駄だろう。お前が今幸せかどうかってのはそいつには関係ないだろうしな』

は修兵の顔を見て、ヘラッと笑う。
そしてお湯を修兵の顔に軽くかけた。

「な、なんだよ」

「へへ。別になんでもない。もう俺大丈夫だし」

「はぁ?」

もう大丈夫という事は、何かあったのは確かではないか。
でも、があの時とは違う。無理した、自然を装う笑みではないことに修兵は気づく。

「………」

「修兵は?修兵はどうなんだよ」

「俺も。別になんでもねーな。お互い様ってことでいいか」

無理に聞きだすこともないし、ここで自分が話すことでもないかと修兵は思った。
裸の付き合いの中で、もしかしたら話してくれるかもという期待はあったが。
逆に自分が突っ込まれる結果になったのだから情けない。

「肩までちゃんと浸かれよ。んで、百まで数えてからじゃねーと出るのは駄目だからな」

「面倒臭いこと言うなよー」

「百まで数えられるか?」

一人で買物できて、簡単な計算くらいできると言うのに。今更何を言うのだ。

「バカにするなよ、まったくー」

「あははは。一緒に数えてやるぞ、いーち。にー。さーん」

そこまでガキじゃないのにとは思いながらも、なんだかんだで、修兵と一緒に百まで数を数えていた。
まぁ、それを目撃した隊士には微笑ましいというより、奇妙な光景に映ったに違いない。



風呂上りにちょうどと遭遇した。
彼女も風呂上りのようだ。
ちょっとラッキーとか思ってしまう修兵。

「姉ちゃんも隊舎で生活しているんだ」

「そうよ。正直言ってしまうと、家賃がこっちの方が安いからよ」

大きな声では言えないけどねとは笑う。

「ふーん」

「では、副隊長失礼します。君、おやすみ」

「おう。お疲れさん」

修兵に軽く会釈し、には手を振りは自分の部屋へと戻っていく。
その後姿を二人は見ていたのが、がぽつりと呟いた。

「どうせ、お泊り会なら、俺、姉ちゃんとこで泊まるー」

こんな機会滅多にないしとの後を追おうとしていた。

「な、何言ってんだ、お前は!」

ひょいとの襟首を掴む修兵。

「なんだよ、離せよ、修兵ー」

「阿呆なこと言ってないで、寝るぞ」

ヒョイとを小脇に抱えて修兵は部屋に向かって歩きだす。
とは反対方向だ。

「いいじゃんかー俺、姉ちゃんのとこで寝るー」

「ガキみたいにわがまま言うな」

「俺、ガキだもーん。だから問題ないし」

「普段ガキ扱いされるのを嫌がるのに、こういう時だけガキになるか、お前は〜」

修兵は聞く耳持たずスタスタ歩く。

「ちぇ。修兵のケチー」

「あぁケチで結構だ。阿呆」

姉ちゃんのところで寝る。なんて素直に口に出来て本当子どもは羨ましい。
自分が口にすれば大問題だ。

「お前がのところに行っちまったら、お父さん寂しいじゃんか」

「恋次とイヅル呼んであげるよ」

「むさ苦しい奴らとの雑魚寝なんて勘弁だ」

あと少しで部屋に到着という時、の一言に思わず足を止めてしまう。

「じゃあ、修兵も姉ちゃんとこ一緒に行けばいいじゃん」

「っ!!…お前は、本当にバカだ…」

子連れならば行ける。なんてわけないだろうに。
こいつは人の気も知らないからそう言う事を言えるのだ。

「もう二度と、お前を隊舎に泊めたくねーな…」

次なんてことがあったら、は確実に実行しそうだから。
明日はゆっくり家で寝よう。
風呂も近所の銭湯でいいやと思う修兵だった。








その10からの出来事は解決。まぁ、平隊士には驚く夜だったでしょうな。
08/10/31UP
12/07/15再UP