ぼくとお父さんと彼女といっしょ。 




ドリーム小説
「だったら、もっと上手に隠しとおせよ。檜佐木の顔見て泣きそうなら今ここで泣いちまえ」

阿近に言われたからではないが、誰にもそれを知られないよう。
悟られないように、は悔しさを全て涙に変えてここへ置いていく事にした。
阿近は恋次たちとは違う。
そんなにをかまうような人ではない。
だから、このこともきっと修兵には話さないだろう。
約束したわけではないが、きっとそうだと思った。
だから思いっきり泣いた。






【その11】





常日頃から、修兵は恋次たちに言われることがある。
それはのことで。
茶化すような、本気で心配しているような感じで。
それに関して修兵は馬鹿馬鹿しいと一蹴するのだが。

「起きてよー」

寝ている修兵の体が揺さぶられる。

「早く起きないと遅刻するって言ってるのにー」

「んー……もうちょっとだけ、寝かせてくれ…まだ寝たりねぇ」

どんなに体を揺さぶられようが、子どもの力だ。
修兵は布団に身を埋めている。
ここでまだ寝こけているのならば、からは見捨てられるようなキツイ言葉を貰ってしまう。
だけど、今朝は違った。

「お父さん。起きてってばー本当に遅刻しちゃうよ、早くご飯食べてよー」

と柔らかい声音が。
はたと目が覚める修兵。

「お父さん?」

「あ。お父さん、起きた。おはよう。もう毎晩恋次くんたちと遅くまで飲んでいるから朝辛いんだよ?」

あまり飲みすぎないでよね。
そう言われてしまう。

「はぁ!?、お前何言って!!?…あ、?」

「なぁに?お父さん」

キョトンとした顔をした少女が小首を傾げて座っている。

?」

「だから、なに?用があるなら早く言ってよ。あたしまだ忙しいんだよ?洗濯しなくちゃいけないし」

誰だ、目の前にいる少女は。
でもと言われて返事をしたぞ。
しかも自分のことを「お父さん」などと言ったぞ。

「恋次くんはもう起きてるんだよ。早くしないとお父さんの分なくなっちゃうよ」

?は呆れたように部屋から出て行く。

「……あ、ああ。起きる」

どういうことだ?が女の子になっているではないか。
どんな手の込んだ悪戯、いや、嫌がらせなのだろうか?
修兵は考えてみてもわけがわからず、とりあえず部屋を出た。

「おはよーございまーす、檜佐木先輩。お先に頂いてまーす」

恋次が大盛りご飯を機嫌よく食べている。

「……阿散井…」

なんとも思わないのか?と思いながら渋々座る修兵。

「恋次くん。おかわりまだまだあるからね。沢山食べていってね」

「おう。いつも悪いな、

「ううん。あたしの方こそ。いつもお父さんの面倒見てもらっちゃってありがたいと思っているんだから」

なんだろう、ぞわぞわっと寒気を感じる。
昨日いつもと様子が違う息子だったが、一晩経ったら娘になっていた。
子ども特有の高い声ではあるが、やはり少年と少女とでは違う。
顔はなんとなく(少年)の面影はある。
明るめの茶髪が長く伸びており、ツインテールに結ってある。
着物も少女が着る可愛らしい柄に色で、見ていてああ女の子だと納得してしまう。

(俺をからかうつもりで、こんな手の込んだ仕掛けでもしているのか?)

誰が発起人だろうかと頭の中をめぐらせる。
多分やろう!と楽しげに言うのは乱菊だろうが、そんな仕掛けをして何が楽しいのだ。

「先輩、どうかしたんすか?早く食べないと遅刻しちゃいますよ」

「なんかね、今日のお父さん変なんだよ?」

「いつも変じゃん。可愛い娘を溺愛する親馬鹿でよ」

「うーん。確かにいつもより大人しいかも」

いつもならばおはようのハグだとか言ってギュウッと抱きしめられるらしい。
それをウザイと蹴り飛ばすのが日常のようだ。

「本当、が嫁に行く日が恐ろしいぜ、俺は。きっと旦那になる奴大変だろうな」

「えー。あたしの旦那さん?それは勿論シロさんだよー。あたしシロさんのお嫁さんになるんだもん」

「浮竹隊長が相手にしてくれるのか?」

「もっと大人になったらきっと相手してくれるもーん」

その会話やめてくれないだろうか?
いまだに息子が娘になった経緯がわからない。
わからないから、修兵の目にはいつもの息子が浮かんでくるのだが。

「…本当今朝の先輩大人しいっすね。いつもならは嫁にやらーん!≠ニか言って暴れるのに」

「いつも暴れられると困るんだけど」

なんだ、これは。
夢か?
そうか夢なのか。
きっと夢に違いない。うん、そうだ。

「性質の悪い夢だな、マジで…」

ボソリと修兵は呟いた。
いつも恋次たちに言われることが、まさに現実となっている。
それは。

が息子でよかったっすねー。娘だったどうなってたかわからないっすよー」

ってことだ。



***



「夢ならなんで覚めないんだー」

修兵は九番隊副官室にて、自分の机に顔を突っ伏していた。

「あ、あの…副隊長。体調でも崩されたのですか?」

恐る恐る修兵のご機嫌を伺うような態度の
どことなく距離を感じる。

?」

「は、はい!な、なんでしょうか!!?」

おどおどしたような態度を見せる

「………」

ジーっとの顔を見てしまう修兵。
が困惑しているのがよくわかる。

「なんか、いつもと違うように感じるんだが…」

「べ、別に私は、いつもと変わりはないです、はい」

「…そうか?」

「わ、私。いそぎ書類を届けてきます!副隊長はそこの書類に目を通してください!」

逃げるように副官室から出て行く
なんだか、数年前の彼女の態度に戻ってしまったように思える。
自分の顔の傷や、悪い目つきを恐れているのか、びくびくしていた頃に。

「……なんか、切ね…」

最近はのおかげが、仕事だけでなく一緒に居ることが増えたので。
急に余所余所しい態度をとられてしまって。
夢だと思っていたのだが、変わっているものは二つだけ。
が息子ではなく、娘だったこと。
の態度が変わっていること。それだけだ。
あとは以前と変わりない。

「失礼します。檜佐木先輩、技術開発局から…どうかしたんですか?」

イヅルが書類片手に入ってきた。
机に突っ伏したままの修兵にイヅルが怪訝そうに伺ってくる。

「おー吉良か…あー、まあ、色々な」

「もしかして、またちゃんですか?」

「そこだ!」

ビシッと吉良に指を突きつける修兵。
突然でイヅルはのけぞってしまう。

「な、なんですか?」

「なんでちゃんなんだ?君の間違いじゃないのか?」

「先輩?何言ってるんですか?」

馬鹿にされようが、修兵は朝起きてからのことをイヅルに話すことにした。
立ち話もなんだから、そこに座れとソファに座らせ、自分もその向かいに移動する。
とりあえず、修兵の身に起こった変更点2つをイヅルに話す。

「…なんと言いますか…僕は最初から先輩が女の子を引き取ったと記憶していますが」

「その経緯は?」

「え?詳しくは知りませんよ。ただ家族を虚に襲われて身寄りがない彼女を引き取ったくらいしか」

やはり基本的な部分も変わっていないようだ。

「俺だけが変ってことか?朝、阿散井にも可笑しいとか言われてよ…」

「まあ、普段の先輩とか変わりありませんけど、ちゃんが絡むと馬鹿になりますよね」

相変わらずキツイことを笑顔で言う男だ。

「あれか?を嫁にやらんとか…なんとか…」

「ええ。俺より弱い奴にははやらん!とか言っていましたけど。でも、彼女は浮竹隊長に夢中ですからね。その点はクリアしているので問題ないと思いますよ?」

副隊長である修兵よりは隊長である浮竹の方が上なのは、誰が見ても明らかだろう。

「なーそれ、本気なのか?浮竹隊長にって…」

「浮竹隊長は本気にはしていないと思いますけどね、可愛い友達程度だと思いますし」

「どっちにしても浮竹隊長は好かれているんだな…」

「じゃあ、先輩。その息子のちゃんがどんなか教えてくださいよ」

イヅルにしてみると、こうなってしまった原因よりも、そっちの方に興味が沸いたようだ。

「どうって言われてもな…別にそう変わった奴じゃねぇぞ」

とは言いながらも、こんな奴だと修兵が話し始めると、イヅルは修兵が息子を可愛がっているのだなと感じる。
息子だろうが、娘だろうが親馬鹿なのは変わらないのだなと。



***



「お父さん。あたしなんか悪いことした?」

「へ?」

夕食を食べ終えてからがそう修兵に尋ねてきた。

「今日のお父さん。なんか変だもん…あたし怒らすようなことしたのかなって」

「い、いや…別にお前はなんも悪いことなんかしてねぇって」

「そう?なんか変だよ…」

は疑っている。
実はイヅルと話した後、仕事のこともあり技術開発局へと行った修兵。
そこで阿近にも同じことを話した。
面倒臭そうにだったが、阿近がもしかしたらということを話してくれた。

「は?多重世界?」

「俺も興味がないからそんなに詳しいわけじゃねぇぞ。だが現世ではよくその手の話が
色々出てくるらしいな。世界は一つだけじゃない、色んな世界が存在し、色んな自分が存在していると」

「なんつーか…」

「別に信じろとは言ってねぇさ。本当かどうかも確認できるわけはないからな」

ただ今の修兵がいる世界はが息子ではなく娘である世界なのだろうと阿近は言った。
阿近たちの知っているここの世界の修兵は別に目の前にいるのとは大差がないようだが。
それは他人では気づかないことなのかもしれない。
なぜなら、が息子なんだと言われても、阿近たちにはずっと娘である彼女と付き合っていたから。

「どっちにしても親馬鹿は変わらねぇってこった」

「じゃあ、もう一つ聞いていいっすか…なんで、は」

さんって、先輩の所の」

彼女の態度は違うのは何故なのだろうと。
イヅルの話では、別に以前も修兵と仲がいいというわけではないらしい。
接点がないからじゃないかと。
ただの上官と部下ってだけで。

「……接点がない」

とよく話すようになったきっかけはなんだっけ?

か」

自分よりもと仲良くなっていた
娘であるここのとは仲が良くないという事なのだろうか?
とりあえず、阿近からはそうかもしれないという一つの事柄を言われたのだが。
息子がいきなり娘になってしまって、どう接していいのかわからないのが今の修兵の心境だ。

(下手すりゃ嫌われるもんな…自分の娘に嫌われたらへこむっつーの…)

「お父さん?」

素直な娘もそれはそれでいいが、なんだか物足りないのが現実だ。

「なんでもねぇよ」

「そう?…あ、デザートあるよ。今日お隣のお姉さんと一緒に作ったの。食べよう!」

「ああ」

台所に向かい冷蔵庫からその作ったものを取り出している
ここのは、あまり死神たちとは接していないようだ。
そういうこともあるのだろうが、それはそれで寂しいなと思えてしまう。
普段ならば、この場にやちるや日番谷も混ざって。乱菊たちと飲み食いしながら騒いでいたから。
当然、こっちはこっちで楽しいこともあるのだろうが、元が違う修兵にはどうにもこうにも寂しかった。

(どうやったら、戻れるんだかなぁ…それとも、ここの世界の俺はどうしているんだか…)



***



「おい。修兵!いい加減に起きろよ!」

いつものように体を揺さぶられる。

「んー……もうちょっとだけ、寝かせてくれ…まだ寝たりねぇ」

「別にいいけどさ、俺は。遅刻するの修兵だしさ」

相手はあっさり諦め部屋から出て行ってしまう。

「え??」

修兵はガバっと起きて夜着のまま猛然と部屋を出た。
階段をドタバタと降りると、居間では恋次が当然のようにご飯を食べ、も座ろうとしていた。

「おはよーございまーす、檜佐木先輩。お先に頂いてまーす」

いつもの光景だ。

「どうしたんだよ、修兵」



「なに?」

だー!お前娘じゃねぇよな!?男だよな!」

朝から何言ってんだ?とと恋次は眉間に皺を寄せる。

「俺、戻ってきたんだな。いやー娘でもいいけど、やっぱお前は息子なのが一番だー」

修兵は息子でよかったとをギュウッと抱きしめる。

「な、なんだよ!修兵!!?意味わかんねぇ!!」

「頭打ったんすか?先輩…」

「いいから、放せ!馬鹿!!」

腹に一発蹴りを食らった。
あ、そうか。娘のちゃんも普段はきっとこんなんだろうなと、今更思った。
何があったのかなんてのは修兵は話さずにいたのだが、と恋次からは単に寝ぼけていたのだろうと思われた。
3人で朝食を食べている時、ふとが言い出したことに修兵は噴出しそうになった。

「なに、それ。ウケるなー

「いや、夢だからさ、恋次」

それは今朝見たの夢の話だ。

「修兵がお父さんじゃなくてお母さんだったんだけどさー、これがまたしょうがない人でさ」

「しょうがない人って…」

は修兵が女性になっている夢を見たらしい。

「だってさ、着た物はそこらに脱ぎ散らすし、食べたもの片付けないし、すっげーわがままなんだもん」

俺がいなきゃ本当、ダメな人だと子ども心に思ったそうだ。
でも、なんとなくその修兵の女性版は乱菊を彷彿させるものがある。

「酔って帰ってくれば、強引に抱きついてきてな、早くお前にお父さんを用意してやるから!なんて言って」

だが、どうやらお父さん候補は見つかっていないようだが。
玉の輿を狙ってるような雰囲気はあったらしい、でも副隊長クラスで玉の輿というと相手が限られるだろうなと。

「でも、酔って帰ってきた辺りは対して今と変わらねぇな」

「だな。義母さんがどうとか言わないし」

あまりに酷い言い草なので、修兵は夢で俺も似たようなものを見たと白状した。
ツインテールの娘ちゃんのことを。
すると案の定というか恋次が大爆笑してしまい、馬鹿じゃないかのかとからは怒られた。

「ああ、でもさ。娘の俺は見る目あるよなー」

「どこが?」

「だって、シロさんのお嫁さんになるって言ったんだろ?それはいい選択だと俺は思うな、うん」

「そこはお父さんのお嫁さんになるぐらい言えよ」

「はー?それこそ、バッカじゃねぇの、修兵」

と息子から蔑まされた視線を貰ってしまう修兵だった。








馬鹿ですなwまぁ、息子が娘だったら…な話をこの頃よく受けていたので。
08/07/28UP
12/07/15再UP