ぼくとお父さんと彼女といっしょ。 




ドリーム小説
それは…。
幼子には酷く心に突き刺さり。
幼子が成長しても常に心に残る言葉だった。





【その10】





瀞霊廷は死神たちが住まう場所である。
だが住んでいるのは死神だけではない、貴族と呼ばれる者たちも住まいにしている。
貴族の中でも格差があり、古いしきたりもいまだに根付いており時としてそれに苦しめられている者もいた。
山本総隊長が創設した真央霊術院は貴族だけでなく、流魂街に住まう者たちにも入学許可が与えられた場所である。
貴族出の者が死神になるもの多いが、それ以上に最近では流魂街出身の者の方が多い。
更には出世していく者も流魂街出身の者が多い。
死神になるには出自など関係ない、実力なのだ。

「へーすげーな、のお父さん」

「そうかな?家だとゴロゴロしてて威厳とかないよ」

公園で友だちと遊んでいた
話はの義父修兵のこととなっていた。
最初は自分がどこの者なのかを、明確にしなかったであったが、友だちにもちゃんと
自分が修兵の息子であると話はした。
子どもたちにしてみると、護廷十三隊の死神は憧れの職業でもある。
その中でも席官クラス、修兵は九番隊副隊長だ。
その息子であるが羨ましいとか、カッコいい。などという話に繋がってくる。

もちろん彼らの一族、家族にも死神である者もいる。
だが、副隊長クラスともなれば限られてくるのだ。

の家に遊びに行き、たまに修兵がいたりすると。
子どもらを邪険にすることもなく、出迎えてくれたりするので、彼らの中では修兵の株はかなり高い。
修兵だけでなく、同じく副隊長である恋次やイヅルなどもいたりするので夢のようなのだ。

「やっぱり、あれか?も死神になりたいとか思うのか?」

「うん。なりたい」

それが家族であった人たちとの約束。
そして自分を拾ってくれた修兵へのこれからの恩返しのようなものだ。

「霊力に目覚めないとダメだっていうけど、どうなんだろうな」

「俺もそれはよくわからないけど…少しはあるみたいだし」

「だったら、沢山勉強しないとダメだな」

「頑張れよ、

「うん!」

「そしてさ、お父さんみたいな死神になれるといいな」

「それは」

恥かしい。
修兵みたいになれるだろうか?
強くて、頼れる死神に。
まだ死神になる為の霊術院にも入れてもいないのに。
だけど、にとって一番身近で、一番目標とする死神だから、「なれるといいな」と。
照れながらも頷こうとした。
したのだが…。

「なれるわけないじゃないか、そいつが」

自分たちより少し年長の少年たちがこっちを見ていた。

「なんだよ!お前らに関係ないだろ!」

カツシロウが彼らに食って掛かろうとしたが、仲間の一人がそれを制止した。

「なんだよ、止めるなよ」

「ダメだよ、カッちゃん…あいつら、貴族だよ」

「え」

自分たちより身形のいい着物を着ている。
習い事の帰り。というような包みを手にしている。
子どもとはいえ、貴族の者に逆らえば後々面倒である。

「親が副隊長だとしても、そいつは拾われた流魂街の者じゃないか」

「そうだ。そんな小汚い奴が死神になれるわけないだろう」

あからさまに流魂街の者を蔑視している彼らに、カツシロウたちは悔しくてしょうがない。
流魂街出身の死神は今は珍しくもないし、席官クラスの大半は流魂街出身者が多い。
だが貴族には貴族の矜持があるらしく、それを許せないという目で見ているようだ。
貴族全員がそんな考えの持ち主でないのはも知っている。
四大貴族の名門朽木家当主であり、六番隊隊長の白哉がに対し、一度でも蔑むようなことをしたことはなかった。
寧ろ、可愛がってくれているではないか。
浮竹だって、官位は落ちるだろうが、貴族の出であり、を友だちだと言って接してくれる。
だから、一々気にしない。
したくないのだが、の心にそれは酷く突き刺さった。

「拾われた子」

そうだ。確かに拾われた子だ。
修兵とは血の繋がりなどない、形だけの親子だ。
それは以前にも気にした事はある。
だけど、修兵はちゃんと「お前は俺の息子だ」と言ってくれる。
今、にとって修兵が唯一の身寄りで頼れる人。
過去のことを知ってくれていて、守ってくれる人だから…。

「拾われただけでもありがたいのかもな」

そう吐き捨てて彼らはその場を去っていく。
何も言い返せなかったとカツシロウたちは悔しがる。

。気にするなよ、あんな奴らのいう事なんか…」

「そうだよ。あいつら、金出せば死神になれるような奴らだぞ」

貴族に対する偏見というのも、実際あるにはあるようだが。

「お父さんに言いつけちゃえよ」

「え、な、なんで?」

「あいつら、あんなこと言っているけどさ、護廷十三隊の副隊長クラスなら貴族とは対等なんだって」

四大貴族となると、また話は別になるだろうが。
今の子たちの家柄ならば、こちらが後々文句をつけても問題はないだろうと言ってくれる。
だけど、は首を横に振った。

、なんで」

「いいよ。だって、本当のことだしさ、俺…」

自分の口から言うのは辛いから、そこまでしか言えなかったが、仲間たちはわかったようだ。

『俺、拾われた子だから』

そうが言おうとしていたのを。

「あのさ、この事…誰にも言わないでくれよな。もちろん、修兵にも…」

「なんでだよ、悔しいだろ、あんなこと言われて」

「いい。俺が我慢すればいいんだ。俺、修兵に心配かけたくないし、今の話聞かせたくないんだ」

傷ついたのに、は笑う。
我慢している。

…」

「俺、大丈夫だよ。今、修兵と一緒ですごく楽しいし、幸せなんだ」

だから周りの戯言なんかどうでもいい。
彼らがなんと言おうが、この先死神になって修兵に恩返しをするのだ。
一々気にしてなどいられない。
いくらでも、我慢ができる。



ただ、修兵には聞かせたくない話だった。



***



、メシー」

帰ってくるなり、修兵の一言はそれだった。
ちゃんと「ただいまぐらい言えよ!」とに怒られてしまう修兵。
苦笑しながらも、居間に座り込んで、腹が減ったと子どもみたいに駄々をこねてしまう。

「今日はよー、阿散井のバカが面倒起こしてくれたお蔭で、昼飯食い損ねたんだぜ」

だから腹が減っているのだと言う。

「恋次。何かしたのか?」

台所からそんな声が聞こえる。

「まあ、色々な。あいつは今も仕事中だ」

もしかしたら、後で食わせてくれと来るかもしれないなと修兵は笑う。
恋次が後で来るならば、少し残しておこうと、手際よく一人前別の皿に分けておく。



「なんだよ、ご飯なら少し待ってって。もうすぐだからさ」

忙しなく動いているようだが、修兵がを呼んだのは理由が違う。

「なんかあったのか?」

「は?なんかってなんだよ」

「なんかだよ」

「意味わかんねぇ、変な修兵」

カラカラと笑う
それが変じゃないかと修兵は眉を顰めた。

「ちっとも顔見せないからだ」

「…別に。飯の仕度しているからだろ」

本当にこいつは…。
修兵は少々苛立ち、台所へ移動する。
用意されている夕食はいつも通り。
なのにに違和を感じてしまう。

「いい加減にしろ。お前俺のことバカにしてんのか」

「なんでだよ、意味わかんねぇ」

意味もわからず修兵に叱られたとは唇を尖らせる。
そして居間へと食事を運んでいく。



「腹減ってんだろ?早く食べようぜ」

空腹だから苛々するんだとに言われてしまう。
渋々修兵も食事にありつく為にちゃぶ台の前に座り込む。
元気よく手を合わせて「いただきます!」と食べ始める

(なんだよ、やっぱり変じゃねぇか…)

何か隠し事をしているなと気づくも、はそれを修兵には言わないつもりのようだ。

(こいつは、いつもそうだ…全部てめぇで抱え込む…俺には言えねぇようなことなのかよ)

父親だぞ、自分は。
そりゃあ、周りには自分より頼りになりそうな人はいる。
例えば浮竹とか。
友だちなんだと言っても、やはり浮竹の方が大人だからの悩みも全て自然と引き出せるだろう。
修兵は歯がゆく感じながら頭を掻いた。

「修兵?」

「なんでもねぇよ」

無理矢理に聞きだすべきなのか悩む。
頑固な性格なのは知っているから、どうせ一度決めたら絶対に口を割らないだろう。
だが、何かあったから明るく自然に振舞っているのではないか?
多少は本音を吐くようになったと思ったのだが。



***



いつもならばカツシロウたちと遊んで、浮竹とも話をしたりするのだが。
今日は誰とも会わないように一人で、普段行きそうもない場所にいた。
いつも約束をしているわけではないから、皆と会わなくてもいい。

「………」

大きな木に背中をつけてじっと空を睨みつけた。
あんなことを言われて傷つかないわけがない。

『拾われた子』

最初に修兵と親子だと隠しとおしてきた意味は、それだった。
自分みたいな子どもを拾って、修兵に迷惑がかかるのが嫌だったから。
この先、修兵が好きになった人が自分の存在を邪魔に思ったならば。
きっと修兵の側に居ない方がいいんだと。また流魂街に戻ればいいだけだと。
でも、修兵はのことを息子だと認めてくれてた。
にも血の繋がりなど関係ないくらい、二人が親子だと知って納得したと言われたくらいだ。
そう、血の繋がりなんか関係ないはずなのに。
貴族の子に言われた言葉は酷く傷つけられた。
修兵にそんな話聞かせたくない。
どんな顔をするのだろう?
笑い飛ばす?
怒る?
呆れる?
ただ、悲しい顔をして欲しくないと思った。
自分の所為で修兵が悪く言われるのが嫌だったから。

「もう気にしなくてもいいはずなのに…」

身を縮めてギュッと目を瞑る。
刃じゃなくても、言葉で人は傷つくのだなと思い知らされる。
どっちが痛いのだろう、身体的にと精神的に。
そんな小難しいことは今のにはわからない。
どっちにしても両方痛い、傷つくわけだから。

楽になる為に誰かに話してしまいたい気持ちはある。
浮竹や恋次や日番谷だったらきっと優しく慰めてくれるに違いない。
だけど、やっぱり誰にも言えない。
言いたくない。
自分の口から「拾われた子」だと言うのを。
こんなにも、今、すごく気にしているのは。
恐らく、前以上に修兵を父親として慕っているからだ。
周囲、貴族の子たちからあんな風に思われていたと、修兵に知られたくなくて。
修兵に知られて嫌な思いさせたくなくて。
自分が我慢すればいい。
本当は悔しい。
誰よりも悔しい。
何も知らないでいるあんな子たちに、好き勝手言われることが。

でも、言えないんだ。

拾われたのは本当の話だし、死神になれる保証もない。
彼らのいう事も一理あるから。

「俺、弱虫だ…」

「なんだ?誰かにいじめられたか?坊主」

誰もいないと思っていたのに、声が聞こえた。

「ここだ、ここ。檜佐木んとこの坊主。どうかしたのか?」

紫煙が風に乗って飛んできた。
がいた反対側、木の根元に阿近が寝転がっていた。

「あ…おじさん」

「あんま、おじさんって言うな。お前の親父とさほど年齢変わらないんだよ、俺は」

そんなに親しいというわけではないが、最近知り合った人だ。
修兵はよく阿近とはつるんでいるようだが。

「誰かに苛められて、ここでメソメソ反省会か?」

「べ、別に苛められてなんか…ただ」

「あ?」

幹を挟んで会話をする二人。
はその場にしゃがみこみ膝を抱えている。
阿近は起き上がることなく横になっている。

「修兵に迷惑かけたくない、から、だから」

「子どもが親に迷惑かけるなんて普通だろ。いい年した大人ならともかく。まだまだガキじゃねぇかお前は」

迷惑かけてなんぼ。これでもかと言うぐらい迷惑かけてやれと阿近は笑った。

「坊主に隠し事される方が嫌だろ、あいつは」

が何を悩んでいるかなどと阿近は知らないが。

「……嫌だ。俺、絶対修兵に言わない」

「頑固だな、坊主。ま、別に俺には関係ないが」

ふぅっと紫煙を吐き出す阿近。

「だったら、もっと上手に隠しとおせよ。檜佐木の顔見て泣きそうなら今ここで泣いちまえ」

誰にも言わないでいてやるから。
は顔を膝に埋める。
声を押し殺しながら泣いていた。
誰にも言えない隠し事ができた。
きっと修兵にもこの先言わないでおくだろう、隠し事。
もし、この先それを口にすることができたならば、それはもう隠す必要がない時なのだろう。







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「動物的〜」で解決したことだけど、これがきっかけのようなものですね。
子供の頃に言われた一言って、案外根強く残っていて、言った本人は記憶になくても言われた人は引っかかってしま
うものなんですよね。
親に迷惑をかける云々ですけど、当然ですが犯罪紛いな事はだめですからね?
08/07/22UP
12/07/15再UP