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ぼくとお父さんと彼女といっしょ。
「じゃあな。修兵ー」 「おう。気をつけて帰れよ」 九番隊の副官室の出入り口で修兵に見送られては帰路につく。 修兵はそのまま副官室へ戻る。 は修兵に届け物をしに隊舎へ来ていた。 以前ほどここへ来るのに苦にならなくなったのでちょっと嬉しかったりする。 ただ、色んな意味で有名人だったので少しだけ人目を気にしてしまう。 「よーし。あとは夕飯の材料買って帰るだけだ」 今日は何にしようかな。 この前修兵が大根の入った炊き込みご飯を美味しいと言ってくれたので。 またそれにしようか。 そんな事を考えながら歩く。 なんだか主婦みたいだが。 「あ。ねえ!えーと…副隊長の息子君。今帰るところ?」 これと言って面識のないお姉さんたちに囲まれた。 向こうは修兵の部下らしく、のことを知っていた。 「そうですけど…なにか用ですか?」 「そう。何か食べたくない?ご馳走してあげる!」 「えっと…俺まだ用事あるから」 遠慮しようとしたのだが、お姉さんたちは有無を言わさずの手を掴んで歩き出した。 【その9】 「さあ。遠慮なく食べて」 お姉さんたちに連れて行かれたのは甘味処。 勝手にあれこれ注文されてしまい、の前にずらっと甘味が並ぶ。 普通ならば嬉しいと思うが、少し不審に思ってしまい手をつけられないでいる。 「お、お姉さんたち。俺に何聞きたいの?」 長居はしたくないので、恐らくこのことだろうと先手を打って訊ねる。 「あ。あちゃ〜やっぱりわかる?」 「大体…だけど…」 「そう!副隊長のこと聞きたいの!」 副隊長…。ここで恋次やイヅルの名前を出したら顰蹙を買うだろうか? そんな事が脳裏に浮かぶ。 彼女達の言う副隊長が修兵であるのはわかりきっているので。 「義父さんの?」 滅多に義父なんて言わないのに、なんとなく彼女達の前でいつも通りに見せるのが嫌だった。 それに下手な態度をとって修兵が悪く言われるのを避けたい。 まあ彼女達に嫌われようが、修兵にはあまり影響はなさそうだが。 「誕生日とかそういうのだったら、別に俺に聞かなくても…」 「大丈夫。誕生日は知っているから」 「私達が聞きたいのは、副隊長の趣味とか、好きな食べ物とか。休日は何をなさっているのかな?とか」 彼女達ってもしかして瀞霊廷通信の担当でもあるんじゃないのか?とかなんとなく思った。 それよりも、別に自分に聞かなくてもいいじゃないかと思うものだ。 だけど。 (趣味?修兵の趣味〜?……なんだろう、知らないけど) 休日は何をしているなんて聞かれて思い返しても、昼頃まで寝ていてが叩き起こすことが多く。 起きたとしても、新聞読んで適当にぼーっとしている姿を見かける。 むしろ、自分は家事に忙しく一々様子を窺う真似はしない。 彼女達の質問はにとって修兵に対して謎が深まるばかりである。 「副隊長って甘いの好きよね?いつも和菓子屋さんで買って帰るの見かけるし」 それは間違った情報だ。 彼女たちに教えるべきなのだろうか? 「えーと…義父さん。甘いもの苦手だよ」 彼女達からは驚きの声があがる。 どうもいつも修兵に甘い菓子を渡していたのは彼女達のようだ。 苦手なものを手渡していたのか!と大袈裟に悔やんでいるのを見ると、自分が悪いことをしたような気分になる。 (ほとんど、俺と恋次が食べていたもんなぁ…) 「今年のバレンタインはどうしよう〜」 「でもでも、副隊長って他の子からも沢山貰うし」 「甘めじゃないもの用意すればいいのよ」 そういうイベント事を常に考えているのかとは妙に関心してしまう。 を放っておき彼女達は修兵の話をあれこれ始める。 ここに息子がいるのに、どこがいいとか今日はこんなんだったとか話されても困る。 寧ろ自分がいなくなってから話せばいいのに。 だけども、彼女達にとって、自分はどんな風に映るのだろうか? 少し前までは修兵に義理とはいえ、息子がいるとは思わなかっただろうし。 子持ちの男には興味ないという人もいるだろうに。 彼女達は自分が邪魔とか思わないだろうか? (単純にエサに使われているだけだよな…修兵のことを知るきっかけとか) 申し訳ないが、そういう気持ちは子どもながらにわかってしまう。 修兵に気に入られる道具として使おうなどと。 (つまんないなー) 注文されたものを食べるわけでもなく、は足をぶらつかせる。 が考えるのは早くしないとスーパーが混むということと、ここからどう逃げようかということだ。 (ってかさ…俺が修兵に悪い印象を伝えるってこと考えないのかな、この人たち) が気に入らないと言えば、それまでのような気もする。 しかし、逆に子どもだからと侮っているのだろうか? (どっちでもいいけど…) コンコン。 ちょうど店の窓際に陣取っていた彼女達。 その窓を軽く叩く人がいた。 彼女達の視線は一斉にその窓へ。 「「「あ!浮竹隊長!!」」」 ヒラヒラと手を振る浮竹に彼女達は少し萎縮してしまう。 だがこれはチャンスだとには感じ、席を立つ。 「お姉さんたち、俺もう行くね」 「え」 引き止められることなくは店を出る。 そのまま浮竹に抱きつく。おやおやと浮竹は笑う。 「シロさーん。助かった〜」 「はははは。つまらなそうな顔をしていた君が見えたからね」 浮竹から離れて、浮竹の手を取りは歩き出す。 窓際の席にいる彼女達がキョトンとしているのがやけに可笑しかった。 「シロさん散歩?この後暇なの?…って隊長さんが暇ってことないか」 「特にこれと言って今日はないなぁ。それがどうかしたのかい?」 「だったら、ウチでご飯食べてく?助けてくれたお礼にさ」 「別にそんなつもりで助けたんじゃないが…そうだなぁ。君の作ったもの食べたいとは思うなぁ」 話には聞いていたので興味はあるようだ。 そういえば、浮竹とは外で会うものの、恋次たちみたいに家に招待することがなかった。 「だったら、決まり!な!シロさん」 「いいのかい?」 は破顔する。 「俺の方がお願いしているんだから、いいに決まっているだろ」 「じゃあお言葉に甘えてお邪魔しようかな」 「やった!じゃあ買い物行こう、買い物」 浮竹の手を嬉しそうに引いて歩くだった。 *** 「そういえば。さっきの子たちはなんだったんだい?」 初めてお邪魔する檜佐木家に浮竹でも少し緊張してしまった。 家主さんが留守なのに、のんびりお茶を淹れてもらって。 夕食の準備がほぼ済み、後は修兵が帰宅するのを待つばかり。 夕食の準備をしながらも他に風呂の用意や洗濯物の取り込みなど、は手際よく動いている。 さっきの彼女達に捕まりさえしなければ、こんなに慌てることはなかったと言う。 「修兵のとこの人。九番隊の」 「仲がいいようにはお世辞にも見えなかったなぁ」 浮竹はが他の死神たちと仲良くしている姿を知っているので余計にそう感じたようだ。 「うん。顔も名前も知らないよ。だけど、ほら。向こうは一方的に知っているから」 自分で巻いた種とはいえ、大勢の人の前で修兵を「父」と呼んだわけだし。 「それにね。あの人たちは俺じゃなくて、修兵に用があるの」 「檜佐木君にねぇ…ああ、そうか。そういうことか」 「でもさー俺聞かれても答えることほとんどなかった。修兵の趣味とか知らないし」 親子で趣味は何ですか?など話はしないだろうし。 「じゃあ早速聞いてみるといい。親子の会話は大事だぞ」 「べ、別に会話しないわけじゃないよー」 よほどのことがない限り、意外とここの親子はべったりしているのだから。 「あーゆーお姉さんが俺の義母さんになるのは嫌だなぁー」 は背筋を曲げちゃぶ台に顔をつける。 「そればっかりは檜佐木君によるだろうね」 「だよなー」 「そういう話は檜佐木君としたことあるのかい?」 以前、浮竹はがとある店で真剣に茶碗を見ていたところに遭遇した。 その茶碗は夫婦茶碗で、いつか修兵にお嫁さんが来たら自分が買ってプレゼントするのだと言っていた。 「…ないよ。なんか聞きにくい」 「まあ…そうだろうなぁ」 それに。 「前に君は檜佐木君の奥さんになって欲しい人がいるって言っていたよな」 思わず浮竹にだけ漏らした本音だ。 「…うん。いる…けど、その人が修兵のことどう思っているのか知らないし」 「檜佐木君自身もそうだろうしね」 流石にこればかりは願うことしかできない。 あと。まだ心の奥底に隠していることはある。 それは浮竹にも誰にも言えないことだ。 その時が来たら考えようと思っている。 「君が焦っても仕方ないことだよ」 「うん。大丈夫、それはわかっているから」 は体を起こし浮竹に向かって笑んだ。 「でもたまに心配になる」 はちゃぶ台に肘をつきわざとらしく溜め息を吐いた。 「修兵に彼女がいないことにさー子どもにそんな心配させちゃ駄目だよなー」 浮竹は声に出して遠慮なく笑ってしまう。 そんな心配を息子にされてしまうなんて。 ガラリと玄関から音がした。修兵が帰宅したようだ。 「ただいまー…って浮竹隊長!?」 「やあ、おかえり。檜佐木君。お邪魔しているよ」 帰宅してまさか他所の隊長がいるなんて誰が思うだろうか。 驚きはするものの、に目を向けると、は盛大に溜め息を吐いた。 「な、なんだよ。それは」 「さーてと。ご飯だ、ごーはーんー」 答えずは台所へ向かった。 唖然としつつ突っ立ったままの修兵に浮竹が笑いながら教えてくれた。 「君は、お父さんにお付き合いしている女性がいないことを心配しているようだよ」 「んなっ!!」 「子どもにそんな心配されちゃうなんて大変だなぁ檜佐木君も」 何話してんだよ、アイツは・・・・。 修兵はがっくり膝をついた。 「で。いるのかい?お付き合いしている女性とやらは」 ニコニコっと微笑みを向けて訊ねてくる浮竹。 「う、浮竹隊長…あ、あの…」 「大丈夫。君には黙っておいてあげるから」 「いや、別に、俺…」 そんなの知ったところで浮竹には何の得にもならないだろうに。 「あ、あー…お、お茶の御代わり用意しますよ」 スタスタと台所へ向かう修兵。 「はははっ。逃げられてしまったか」 まあ別に無理に聞こうなどとは浮竹も思っていないのだから。 「奥さんか…」 思えば自分の隊にも仲のいい夫婦がいたなと思い返す。 二人とも席官として十分な腕を持っていたが、ある事件で亡くなってしまった。 浮竹にとって大事な部下だった。 大切な奥さんが先に逝ってしまった時、あいつはどんな気持ちだったのだろうか? 失った悲しみはわかるが、それ以上のことはわからない。 (もし、檜佐木君の奥さんも死神だったら、あんな思いはしないですむといいね…) それはにもいえる。 にとって、修兵は唯一の家族なのだから。 「お前なぁ…浮竹隊長に何変なこと言ってんだよ…あ、あれか?自分には可愛い彼女が居るって自慢か?」 台所で浮竹には聞こえないように愚痴る修兵。 「はあ?何言ってんだよ。俺に彼女なんているわけないだろう」 「なんだちびっ子は違うのか?」 「なんで、やちるが出てくるんだよ…やちるは友だちだろ」 阿呆じゃないのか?と物凄く蔑まされた視線を修兵に向ける。 それはちょっと痛い。 「あーそうですか。まあ、まだまだガキだからな、お前は」 「ガキで悪かったなー。知らねぇからな。そのガキが先に彼女ができても」 「ないない。それはないな」 とりあえず、当分はこの手の話は封印しておくことにした。 浮竹の言うとおり、本人達次第なのだから。 ようやくパパの恋話に向かいそう…で向かわない感じw
08/02/11UP
12/07/15再UP
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