ぼくとお父さんと彼女といっしょ。 




ドリーム小説
あれはいつだっただろうか?
今と同じ。いや、状況は大分違うが女の子とケンカしたことがあった。
女友達というものはやちるが初めてなのだが。
それは友だちだから。
ケンカした相手は家族と呼べる存在だった。

『ひどいわ!!あたしが大事にしていたお人形を壊すなんて』

『知らない。俺のせいじゃない』

の言葉にその子はすぐに涙を流した。
壊れた人形を抱えて、悔しそうに泣いていた。
泣かれてしまったことに怯み、どうしていいのかわからない。
困惑していたが、言葉がまったく出てこなかった。
その子の泣き声でと源二郎がやってきた。
は叱られるのが怖くて逃げ出した。
ケンカの原因。
その子の大事な人形。
その子が言うとおり、壊してしまったのはだ。
だけど、素直になれずにその子を泣かして逃げ出した。





【その8】





(あの時、どうしたっけ?)

以前のであったならば、過去の。家族とのことを思い返すことはなかっただろう。
思い出しても辛いだけで、苦しくなる。
でも家族と暮らしたことは辛さだけではなく、楽しさの方が大きかった。
それをようやく思い出せるようになったのは修兵のおかげだろう。
その時のことを思い出していたのは、やちるとのケンカのことだ。
いまだに謝ることができずに悶々としてしまっている。
修兵の話では、やちるは酷く怒っているようだというし。
でも、自分が悪いの?
元はといえば十一番隊の席官が修兵のことを悪く言ったではないか。

「いや。でもよ、本当にちびっ子は悪くないんだ。お前の方からちゃんと謝れよ」

苦笑しながらそう言ったのは修兵だ。
その場の勢いとはいえ、修兵のことを悪く言われカッとなって飛び出してきたものの。
あの時やちるは別に何かを言っていたわけではなかった。
冷静になれば良かったのだろうが、子どもで感情の方が強くてそんな余裕はなかった。
ともかくなりにやちるに謝ろうと考えてはいるのだが。
意外に自分は強情の部分が多いようで、素直になることができずにいたのだ。
過去を思い返していたのは、今回と同じで素直になれずにいたから。
あの時はどういう態度をとったかと思い返していた。

『あーいたいた。!なんで逃げるんだ』

『…別に…』

逃げたを探し追いかけてきたのは源二郎だった。
別にと答えたに源二郎はしょうがないと苦笑してしまう。
ポツンと膝を抱えて座り込んだの隣にどっかり腰を下ろした源二郎。
叱られると思い内心ビクビクしていたのだが、源二郎からは叱る声がない。
ものすごく怒っているのだろうか?と恐る恐る源次郎の顔を窺うと別にそうでもない。

『あ、あの…』

『あずさが大事にしている人形だって、お前も知っているだろ?』

普段から持ち歩いている人形。
布製の誰かの手作りだったのだろう、なんの動物だかよくわからない人形。
かろうじて獣特有の耳とヒゲが付いていたので動物だとわかったものだ。

『お前が理由もなく物を壊すなんてことはないと俺は思っているんだが』

『…あずさの人形。腕がとれそうだったから…これぐらいなら俺でも直せるかなって思って』

『やってみたけど失敗して壊したか。はははっしょうがねぇな〜』

源二郎はの頭をぐりぐりと撫で回す。

『だったら、なんでそうだって言わねぇんだ?言えばあずさだって怒らなかっただろうに』

『だって』

『だって?』

『なんか…カッコ悪いじゃんか…』

むむむっと唇を尖らせる

『しょうがねぇな。本当に。でも、壊したことをちゃんと謝らない方がカッコ悪いぜ?』

理由を言って謝ればちゃんと許してもらえるさ。
源二郎はにそう教えた。
それは先生もそう言っていたではないか。
悪いことをしたらちゃんとごめんなさいと謝りなさい。
それが故意でなくても、相手を傷つけてしまったのならば尚更だ。

『うん…ごめんなさい』

『バーカ。俺に謝ってどうするよ。謝るのはあずさにだろ?俺も一緒に行ってやるから』

さあ行こう。
そう源二郎が背中を押してくれた。
あずさにちゃんと理由を言って謝った。
源二郎が言うとおり、謝ったらあずさは許してくれた。
それと…。

「あの時…あずさに…よし」

は台所へと駆け込んだ。



***



は重箱にあるものを沢山つめて家を出た。
風呂敷に重箱を包み、落とさないように丁寧に持ち歩く。
やちるが普段どこにいるのか知らなかった。
一緒に遊ぶ時は必ずやちるがの前に姿を見せるのだ。
だから、彼女の行きそうな場所など検討もつかない。
ただ唯一、十一番隊の隊舎しか知らない。
行っても会わせてもらえるか不安であったが、やちるが自分の前に姿を見せない以上。
こちらが動くしかないのだ。

「また来るとは思わなかったけど…やっぱり…」

嫌だなぁと言う思ってしまう。
他の隊に比べて、ここの隊士は少々乱暴者のようだし。
その中で副隊長をやっていられるやちるはやっぱりすごいんじゃないかと、尊敬してしまう。

「どうしようかな…」

誰かに声をかけてやちるを呼んでもらうしかないが、生憎ここには知り合いと呼べる人はないし。
先ほども感じた乱暴者としか思えない風貌の人しか見つからない。
やちるに謝らなくてはと思うが、なんで俺がと少しだけ割に合わない気がしてきた。

「……?」

いつの間にかやちるがの前に立っていた。
いつも笑顔いっぱいのその顔が今は眉間に皺を寄せて怒っていると見てわかる。

「やちる。あの、俺…」

折角巡ってきたチャンス。
謝ってしまえ、早く。
修兵は言っていたじゃないか、自分よりもやちるの方が痛い思いをしたのだと。

「あのな。俺、やちるに…」

は」

「?」

やちるが何か言おうとした矢先。の前が急に暗くなった。

「やちる。どうした……ん?てめぇは…」

思いきり見上げなければ顔が見えない大きな男が自分の前に立っている。

「やちるを苛めたってのはてめぇか?いい度胸じゃねーか、坊主」

「………」

「剣ちゃん!」

やちるの保護者とも呼べる男。十一番隊隊長更木剣八だ。

「あれ。あの坊主」

さらに一角と弓親もいた。
剣八の登場には体が硬直してしまう。
剣八はに威圧しているのだ。
やちるの様子が変であるのを気づいていたのだろう。
子供同士のケンカだとは思わず、うちの副隊長に嘗めた真似してくれたじゃねーか、あーん?とやる気満々のようで。

「どうした?何か言ってみな」

の目の焦点が合わなくなってきている。
怖い。
ものすごく怖い。
向けられる霊圧が酷く怖く大きなもので。
普段死神たちと会ってもそんな霊圧をに飛ばしてくる者などいない。

「隊長…大人げないっすよ…」

「本人あれで普通なんだろうけどね」

一角たちはそういいながらも手出しすることなく傍観している。

「おい。坊主」

剣八の大きな手がの頭へと乗せられようとしていた。

「い。いぎゃーーーー!!食われる!!?」

は手にしていた風呂敷を剣八に向けて投げつけ逃げた。
剣八は投げつけられたものを簡単に弾き返す。

「なんだ、食われるって?」

「ぎゃーぎゃーぎゃー!!!」

来るなといわんばかりに逃げこしの
彼の目には相当怖いもののように映っているのだろう。

「おや。君じゃないか、どうしたんだ?」

暢気に散歩でもしていたのだろう。浮竹がウキウキした様子で声をかけた。
それでも仕事中なのか、死覇装姿だ。

「シロさんっ!!!」

は思わず浮竹の脚に抱きついた。

「鬼!鬼!鬼がいるよ!俺、食われちゃうよ!!!」

「鬼?…」

何を突然。
とりあえず落ち着けさせてあげようと、を抱っこする。
そして面倒臭そうに頭を掻いている剣八にきょとんと立ったままのやちる。
一角と弓親は苦笑している。

「鬼って剣八のことかぁ。大丈夫だよ、君。剣八は見た目も性格も凶暴だが、根はいい奴だから」

「うわ…浮竹隊長さらりとひでぇこというな」

「剣八も子どもを威圧するなんてみっともないぞ」

「ちょっと脅しただけじゃねぇか。そんなに怒ることか?」

浮竹の登場で放たれていた霊圧が穏やかに戻っていく。
元々にどうこうしようというわけではなく、単に面白がって脅かしていただけのようだ。
だけど、子どもにしてみればそれは恐怖の対象でしかなく。

君。立てるかい?」

ふるふると首を横に降る
どうやら腰が抜けてしまっているようだ。
それと浮竹の登場で安心してしまい、気が抜けたようでもある。

「じゃあ。俺が檜佐木君のところまで送ってあげよう」

じゃあと、剣八たちに軽く手を振り浮竹はを担いだままさっさと行ってしまった。

「あの子。トラウマにならなきゃいいんですけど」

「しばらく夢でうなされるんじゃねぇの?」

ますます十一番隊への印象が悪くなったとしか、一角たちには思えた。

「あ」

やちるはが投げた物が地面に零れてしまったのに気づく。
包みとしての役割が果たせなくなっている風呂敷から姿を見せた重箱が5段。

「おはぎだ」

ぐちゃぐちゃになってしまったおはぎが顔を見せている。
重箱5段全部におはぎが敷き詰められていたようだ。
しかも、つぶ餡、こし餡、きな粉にうぐいすなど様々な種類なおはぎだ。
やちるはの作るおはぎが大好きだった。
仲直りの印に、好きなだけ食べてもいいよ。
そういう意味だったのだろうか?
は自分に謝りに来てくれたんだ。

「こんなにいっぱい。あたしでも食べられないよ…でも」

嬉しかった。
は自分のこと嫌ってはいないということがわかって。
やちるは落ちたものでも、丁寧に手に取り重箱に戻す。
試しに一つ食べると、これでもかというぐらい甘くてびっくりした。
味付けも自分好みにうんと甘くしてくれたらしい。

「えへへ。美味しい」

病み付きになりそうだ。
重箱から零れていない、おはぎを一つつまんで、やちるは剣八の口に強引に突っ込んだ。

「な、なんだ。やちる」

が作ってくれたんだから。ちゃんと味わって食べてよね、剣ちゃん」

つるりんたちにも分けてあげると強引に二人にも食べさせる。
やちるでもいつも以上に甘いと感じるおはぎに、剣八たちは顔を歪める。

「美味しいでしょ?があたしのために作ってくれたんだから」

「あ、ああ」

の作るのはなんでも美味しいんだから」

だが、そのは逃げてしまったじゃないか。
このままではまずいと思い重箱を持ってやちるは後を追いかけた。



***



「やあ。檜佐木君はいるかな?」

ひょっこり九番隊の副官室に姿を見せた浮竹に、修兵の補佐をしているが驚いた。
しかも、浮竹はを抱っこしているし。

「う、浮竹隊長。あ、副隊長なら今総隊長のところで」

「そうか。君、檜佐木君いないようだけど、ここで待っているかい?」

こくりとは頷く。
ソファへとを下ろし、浮竹は袖の中から例の如く菓子を取り出しに渡した。

「どうかしたんですか?君…」

浮竹は苦笑する。

「ちょっとな…まあ、檜佐木君がなんとかするだろう」

「はあ」

「あ。君も食べるといい。はい」

浮竹はの手に飴玉を乗せる。

「あ、ありがとうございます」

「うん。じゃあ、俺は行くから。檜佐木君によろしく」

の頭をなでてから浮竹は副官室を出た。

「怪我…したとかじゃないよね?…君?」

の顔を覘きこむ。

姉ちゃん……」

微かに震えているように見える
本当になにがあったのだろうか?
だが浮竹がさほど重要視していないようなので、大人の目から見て大した風には映らないのかもしれない。

「鬼…」

「おに?」

「鬼がいる…食われるかと思った」

「…?」

この瀞霊廷に鬼がいると?
虚は存在するが鬼が存在するなど伝承の中だけだ。
鬼と例えてしまう怖いものでも見たのだろう。
だとすると予想で来てしまうことがいくつかある。

「まさかと思うけど、十二番隊の隊舎に迷い込んだ?」

「え?ううん」

「あら、違うの」

てっきり実験台にさせられそうになり逃げ出した所を浮竹に保護されたのかと思った。
だとすると。

「十一…」

「あ?…お前何してんだ?」

総隊長の前では相変わらず緊張したと。修兵が首の凝りをほぐしながら副官室に戻ってきた。
ソファでちょこんと座っている息子。心配そうにしている部下。
いったいなんだ?
は修兵の顔を見るなり、ソファから飛び降り、ぎゅーっと修兵の脚にかじりついた。

「お、おい?なんだ?」

「なんか、君怖い思いしたようですよ。浮竹隊長が先ほど連れてきてくださって」

がわかる範囲で説明する。
だがほんの少しだ、それも。

「その…鬼に食べられそうになったとか」

それ以上はも言えなかった。

「鬼ってなんだよ、お前は〜」

ポンポンとの頭を軽く叩く修兵。
一人とはいえ、人前でこんな行動をとるなんて珍しい。
よほどの目に遭ったと思える。

「ほら。何があったかいってみろ。じゃないと俺にはわかんねぇぞ」

「さっき、やちるの所に行ったんだ…謝ろうと思って」

ああ。もうその一言でわかった。
鬼というのが誰のことなのか。
というか、えー更木隊長が怒ってんの?俺、しばらくどうすりゃいいんだよ。
そんな考えが修兵の脳裏を横切る。
それでもがたどたどしく説明し、浮竹に助けられたことまで話した。
その後の出来事が、が教えてくれた部分だろう。

「しょうがねぇな。怖くて逃げ出して来ちまったか」

それは子どもじゃなくても怖いだろう。
剣八の霊圧をぶつけられるなんて。
それでもその時は泣くことはなかったようで、意外にやるじゃないか。

「だって、俺さ……あ……」

急にシュンと萎れた花のように顔を俯かせてしまう。

「ん?どうした?」

は目元どごしごしと擦る。
修兵はしゃがみ目線をに合わせる。

「俺…やちるにあげようと思った、おはぎダメにしちゃった…」

仲直りしようと思って、謝ると思って用意したもの。
あずさとケンカした時に、謝るだけでなく、源二郎と二人でたどたどしい手つきで猫の人形を作った。
その人形と一緒にあずさに謝ったら、あずさは許してくれた。
物で釣ろうというわけではない。
あずさの好きなものを一緒に、泣いてしまった、傷つけてしまったあずさにもう一度笑ってもらおうと思って。
その時、あずさは喜んでくれた。
また新しい宝物ができたと。
だから、今回も。やちるの好きなものを喜ぶことがしたくて。

「俺…」

すごく悔しくて涙が出てきた。
作ったものがダメになったからじゃなくて、やちると仲直りできなかったから。

「また作ればいいじゃねぇか。そんでまた謝りに行けばいいだろう。一度失敗したぐらいで諦めるな」

「修兵ぇ」

は声をあげて泣いてしまった。

「男がそう簡単に泣くな。みっともねぇな」

笑いながらの頬を軽く引っ張る修兵。
二人のやり取りを見ていたの頬にすっと赤みが増す。

(その笑顔は反則です。副隊長)

決して仕事場では見せない、父親の顔。
修兵の補佐をするようになって数回その顔を見たことがあるが、隊舎内では比較的厳しい目でいる修兵。
のことでこうも簡単に崩れるとは。

君と一緒だと。副隊長って可愛さ増すんですけど…)

他の子たちは知らないだろうか顔。
自分だけしか見れていないようでちょっとだけ優越感に浸ってしまいたくなる。

の前でかっこ悪いぞ。笑われてもしらねぇぞ?」

「うっ」

はぐっと泣くのを堪える。
ちらりとの顔を見る。
はこういう時どういう顔をしていいのかわからず困惑気味だ。
とりあえず。

君。お茶飲む?沢山泣いて咽喉が渇いているだろうし」

浮竹に菓子ももらったから食べたらどうだろうと提案した。

「副隊長も休憩なさったらどうですか?お茶おいれします」

「悪いな、。だが…なんか俺にはついでに聞こえる」

「つ、ついでなんてとんでもないです!」

「ははは。そうか?んじゃ浮竹隊長からもらった菓子でも食うか」

ソファへと移動する二人。
はお茶の用意をする。
それからすぐに。

「修ちゃん!はーー!?」

と元気よくやちるが入ってきた。
やちるの手にはが持参した重箱があった。
そして鼻を啜りながらお菓子を食べているを見てやちるは笑顔を向けた。

「ありがとう。。おはぎ美味しかったよ!」







剣ちゃんお初です。でも鬼扱いですwやちるとは仲直り。
07/11/28
12/07/15再UP