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ぼくとお父さんと彼女といっしょ。
「。お前さー。最近調子が良いとか、毎日が楽しいなんて面してっけど、大事なこと忘れてんだろ?」 修兵にそんなことを言われた。 ちゃぶ台に片肘つきながら、器用に新聞を読みながら。 目は新聞記事に向いているのに、修兵はに向けて言う。 「?」 意味がわからないとはきょとんとするが、修兵は思い切り馬鹿にした眼差しを向ける。 「お前なぁ。ちびっ子にあんだけ嫌な態度見せておいて謝る気ねぇのかよ」 「………あ」 「ここ最近会ってねぇだろ?別にお前がちびっ子に嫌われようが関係ねぇって思ってんなら別だけどな」 十一番隊副隊長、草鹿やちる。 少し、いやかなり前の出来事からは彼女とケンカをしてしまった。 ケンカというより、が一方的にだ。 元々やちるとケンカをしたというより、やちるの所属する十一番隊の席官に言われたことで腹を立ててしまった。 やちるは悪くないのに、の中では一方的に=十一番隊は嫌いだ。 そうできてしまっている。 しかも、風邪をひき寝込んでいたこともあり、やちると顔を合わすことなく、途中出くわしたとしてもは機嫌を損ねていて到底まともに話をすることもできなかったのだ。 「あの事はちびっ子が悪いわけじゃねぇぞ。あの人らの言うことも一理あるしな」 新聞を閉じ修兵はと向かいあう。 「あの人らの言うこと」に修兵は苦笑してしまう。 ケンカの原因が己のことだから。 「で、でも。あの人たち、何も知らないくせに…修兵のこと」 自分の中で修兵が絶対の存在になっているのだろう。 義理とはいえ、親を馬鹿にされたと感じているには到底許すことができないことだ。 「お前、時々本気で可愛いって思うようなことするよな」 こいつが息子であって、娘じゃなくて良かったと本気で思ってしまう修兵。 「な、なんだよ」 「いや。でもよ、本当にちびっ子は悪くないんだ。お前の方からちゃんと謝れよ」 そう言い、修兵はの額を指で弾いた。 「いたっ!」 「ちびっ子はもっと痛い思いしたんぞ。女泣かすなんて百年早ぇ」 別に泣かした覚えはないのだろうが、やちるは泣いてしまったのだろうか? そう思うとは反論できず黙るしかないのだった。 【その7】 謝れ。と言われてもには時間が空きすぎたことと、本人がすっかり忘れていたこと(酷いな)もありどうして良いかわからない。 今更どんな顔をして会えばいいのだろう? 確かにやちるは十一番隊の副隊長という立場だが恋次たちとは違って、修兵は関係なく知り合った。 初めての友だちと言っても可笑しくない。 カツシロウなど、死神とは関係ない友だちもできたのだが、女子はやちるしかいない。 乱菊やルキア、はまた別だろうし。 「…どうすればいいんだよ…」 一人買い物途中、修兵に言われたことを考えていた。 その顔は自然と小難しくなっており、唇を尖らせてしまう。 とりあえず、今日の夕飯は焼き魚とカボチャの煮つけにしよう。 他は何を用意しようか… 「どうしたの?そんな難しい顔でカボチャ選んで。美味しいカボチャの見分け方ってあるの?」 「は?べ別に…姉ちゃん!」 カボチャを掴んだまま考えていたのか自分は。 そう思うと恥かしいものがあるが、声をかけたのがだったのでの顔が綻ぶ。 「こんにちは。君」 はくすくすと笑いながら、同じように買い物なのだろうカゴを持っている。 今日は非番だそうだ。修兵は仕事に出ている。 「こんにちは。姉ちゃんも夕飯の買い物?」 「ええ。何にしようかな〜って考え中。一人だと適当に済ませちゃうんだけどね」 見ればまだの持つカゴは空だ。 「じゃあ、姉ちゃんウチ来る?夕飯作るの手伝ってくれたらご馳走するぞ」 と言うより、すでに行こうとの着物の袖を軽く掴んでいる。 随分懐かれたものだなとも悪い気はしない。 「でも、副隊長に悪くない?」 「いい。修兵には決定権ないから」 九番隊では副隊長であり、現在隊長代行中の修兵でも、家庭では権限は薄いようだ。 息子にちっとも頭の上がらない修兵を想像するとつい笑いそうになる。 「それとも、姉ちゃん。休みに上司と顔を会わせるの嫌?」 「別に嫌じゃないよ。逆に副隊長が休みの日に部下と顔を会わせるの嫌じゃないかしら?」 明日は普通に会うわけだし。 「だから、修兵には決定権ないの!姉ちゃんが一緒の方が俺は都合…じゃなくて嬉しいし」 「あら。都合って言った?なに、人をダシにしようとしているのかしら?」 「ち、違うよー」 は慌てて首を横に振る。 ぶんぶん振って、かえって余計に怪しいと思ってしまう。 隠し事が下手になった気がする。 それとも相手がだからだろうか?大好きだった母親代わりと同じ名を持つ人。 性格や顔など似ていないが、まとう雰囲気が彼女に似ている。 「え、えーとね…ちょっと修兵と二人が気まずいから…姉ちゃんが居てくれるといいなって」 「副隊長とケンカしちゃった?」 「ケンカじゃないけど、朝言われたことがあって…ちょっと」 それに関してはここでは言いたくないようだ。 「た、多分恋次たちも来ると思うけど…姉ちゃんも居てくれない?」 年下の。それも子どもにお願いされると嫌とは言いづらい。 「しょうがないなぁ…って言い方はおかしいか。ご馳走になっちゃうわけだし」 来てくれるというにはこれでもかと言うぐらい喜んだ。 「じゃあ、じゃあ。姉ちゃん何が好き?1品、姉ちゃんの好物作ってあげる」 「そう?遠慮なく言っちゃおうかな〜」 「言ってよ、俺どんなものでも頑張るから!」 早く早くとの手を取り歩き出す。 は笑いながら、自分の好物をに教えた。 *** さて、今日の仕事も終わった。我が家へ帰ろうかと思い副官室を出た修兵。 今日は補佐をしてくれる彼女が非番だったために少々味気ない1日だった。 確かに他にも有能な部下はいるので、仕事面では大して困ることもなかったのだが。 やはり毎日顔をあわせていたので、そう感じるのだろう。 少なからず自分は彼女に好意をよせているわけだし。 (やべ…下手に考えると顔に出るな) 余計なことを周囲に知られるのは勘弁だ。 彼女にもし知られることになったら、正直先が薄いと思っているので余計な事は言いたくないのだ。 「お疲れ様でしたー」 「おう。お疲れ」 修兵が帰宅するのを見て挨拶してくれる九番隊隊士。 今日の晩飯何かなーと考えていると、小さな体が更に小さくなった少女を見つけた。 「どうした、ちびっ子」 修兵は思わず声をかけてしまった。 あの様子を見ると、今日もは彼女に謝っていないようだ。 小さな少女、やちるは修兵に声をかけられてゆっくりと振り返った。 面白くなさそうに頬を膨らましている。 「男の人はみんな、大人の女性がいいんだもんね」 「はあ?」 「あんなに嬉しそうにしていたの、初めて見た…」 「ちびっ子?何言って…」 やちるの言っている意味がわからない。 だが、男が大人の女が好きとか云々を考えればまあそうだろうと答えは出てくる。 ごく稀に違う趣味の男もいるだろうが、大抵の男性は大人の女性を選ぶだろうに。 (…なんだ…?…もしかして更木隊長のこと言ってんのか?) 多少と言うか、かなり血の気の多い男だが、そんな彼をワイルドだとかなんとか言って騒いでいる女性死神はいる。 更木と不思議な関係というとそこまでだが、やちるにとっても更木は絶対の存在だと思う。 そんな更木に誰か特定の女性でもできたのだろうか? 「よくわかんねぇけど…拗ねんな。可愛い顔が台無しだぞ」 よしよしとやちるの頭をなでる修兵。 「うちでメシでも食うか?多分、の奴が」 「行かない」 ぷいっと顔を背けるやちる。 そしてそのまま瞬歩でどこかに行ってしまった。 「…なんだ、いったい」 修兵は首を傾げるばかりだった。 「あー。いたいた。檜佐木センパーーイ」 恋次とイヅルが、こちらはやちると違ってご機嫌でやってくる。 「帰る所なんですよね?僕らもご一緒していいですか?」 「いいもなにも、最初からうち来るつもりだろ?」 「まあ、いいじゃないっすか〜」 最近の作るものが食べれなかったので、久々に食べたいらしい。 「お前ら、作ってもらえる彼女でも見つけろよ」 「あはは。阿散井君と一緒にしないでください」 「をい、吉良てめぇな…お前だって似たようなものだろうが」 「そうかな?」 ふふふと意味ありげに笑うイヅル。 何を考えているのかわからない。 「でも。そういう先輩こそ、君以外に作ってくれる女性探した方がいいですよ。 君がこの先ずーーーっと先輩の世話をしてくれるとは限りませんからね」 「うっ…それこそ、余計なお世話だよ」 確かにこの先のことを思うと、が家事をやり続けてくれるとは限らない。 にも死神になりたいという夢はある。 死神になるには沢山勉強をしなければならないし、その為の学院に入ったならばもっと忙しくなるだろう。 その夢はにとって大事な物で、大きな意味のあるものだ。 修兵にとっては言葉も交わしたこともない、直接会った時はすでに事切れていた人たち。 その家族と交わした約束だから。 (今すぐってことはねぇだろうけどな…) そうなったとしても、一応自分も家事はそこそこできるのでなんとかなるだろう。 ただ、ほどきっちりはできないだろうと想像はつく。 「ああ、そういやよ。更木隊長って最近どうなんだ?」 この中では一番馴染みのある恋次に聞いてみた。 恋次は話の流れ的に何を突然言い出すのだと、修兵に疑いの目を向ける。 修兵は先ほどやちるに会ったことを話す。 「いや、一角さんたちならともかく、俺はそこまで知らないっすよ」 「もしそうなら、中々すごいことになりそうですね」 他人事だとイヅルは笑う。 「でも…いいことじゃなんじゃないっすかね?…更木隊長も男だったんだなーってことで」 そんなこと本人がいたら口が裂けても言えないようなことだが。 恋次はそんな風に口にしてしまう。 「…帰るか…」 「そうですね」 何を立ち話をしているのやら、ようやく気づいて三人は歩き出した。 帰宅すると、見慣れない女性の草履が置いてあった。 「誰かお客さんのようっすね」 「みたいだな」 女性でよくこの家に来ると言えば乱菊なのだが、履物の趣味から言って乱菊の趣味とは違う。 淡い桃色の草履。 いかにも女性らしいと言うような感じ。 「ただいま。?」 居間をのぞけば、灯りは点いているものの姿は見えない。 変わりに台所から声が聞こえる。 「あーそうなんだー。うん、参考になるなぁ」 「もう忘れないだろ?今度は姉ちゃん一人でやってみ」 「うん。そうする…あ、お帰りなさい、副隊長。お邪魔しています」 台所を覘けば、自分の部下が息子と楽しそうに料理をしているではないか。 は修兵に気づき、頭をさげる。 「あ、ああ…ただいま…」 しかもその姿は何だ。 白い割烹着をつけて。似合っているではないか。 思わずボケッと見惚れてしまう。 「お。なんか新妻って感じじゃないか」 その両脇から恋次とイヅルが顔を覘かせる。 「お帰りー。買い物のとき、姉ちゃんと会って夕食うちで食おうって誘ったんだ」 「突然お邪魔して申し訳ないと思ったのですが…」 がすまなそうに言うが、がそんなことないと言う。 「さっき言ったろ?修兵には決定権ないんだ」 「君たら…」 「いや、別にいいさ。も折角の非番にこいつに捕まって大変だったな」 修兵はようやく我に帰る。 何事もなかったように、平静を装い。 内心では彼女を連れてきた息子によくやったと親指を立ててしまう。 「なんだよ、別にいいじゃんかー」 「はいはい、拗ねるな」 ポンポンと息子の頭を軽く叩く修兵。 「あと少しでできるから、修兵。ちゃぶ台拭いて来いよ」 台拭きを修兵に向ける。だががそれを取る。 「あ。私がやります」 修兵たちの横を通り抜け、居間のちゃぶ台を丁寧に拭く。 「君。まだ何かやることある?僕も手伝うけど」 「じゃあこれ運んでー」 すでに出来上がった何品かを指差す。 イヅルと恋次は言われたとおりにそれらを運び出す。 「お前さ…」 「んー?」 味噌汁をよそっているの隣に立つ修兵。 帰宅直後はの姿に我を一瞬忘れた修兵だが、ようやくあることに気づいた。 「まだちびっ子と仲直りしていないだろ?」 「そ、それは〜」 「大人の女性がいいって話、あれ更木隊長じゃなくて、お前のことだな…」 お玉片手には「はあ?」と修兵に聞き返す。 本人に確認せずとも、多分そうだと、修兵は思ったのだ。 「お前、本当に早くなんとかしねぇと大変だぞ」 少なくともやちるはヤキモチのようなものをしてしまっているようだし。 「で?お前は好きな奴いるのか?近所の姉ちゃんか?友だちか?」 「な、なんだよ。急に」 「父親として気になるもんなんだよ。お前が悪い女に引っ掛からないようにさ。 ダメだぞ?アレ欲しい、コレ欲しいとかって言われて簡単に貢ぐ真似すんなよー?」 何馬鹿なことをと思いきり修兵に呆れた目線を送る。 終いには溜め息を吐かれてしまい…。 「逆に修兵が気をつけろよ。俺がいなきゃ金遣い悪いままだったんだぞ」 「俺は女に貢なんてことはしていねぇ」 「…嘘っぽい」 「見てきたようなこというな。阿呆」 の後頭部を叩いた。 パチンといい音がする。 「なんだよ、もうー」 ブツブツ文句を言う。 話を振ってきたのはそっちなのに。 今度はご飯を茶碗に盛る。 修兵にはその味噌汁を居間に持っていけと伝える。 急な来客だろうと、この家ではそんな事がしょっちゅうなので慌てることなく客用の茶碗を出す。 元々恋次はここに泊まり翌朝も食べていくってことが多いので、専用茶碗があるのだが。 最後の一人分を盛っているとき、思わずは呟いた。 「好きな子なんて、まだわかんないもん……それよりもお母さんになって欲しい人ってのはいるけど…」 そうなってくれたらいいな。 でも、それはあくまでの意見、思いであり、向こうがどう思っているのかわからない。 結婚って周りがどう言おうが本人たちの気持次第だし。 なにより、義理とはいえ、そこそこ育った子どもがいるうちに来てくれる人っているのだろうか? 自分は修兵のそういうところが邪魔ではないだろうかと思う。 修兵にとって、デキの悪い息子だと周囲に思われたくなくて、以前は「親戚の子」で通してきたが、最近思う事はそのことだ。 修兵のことが大好きで、自分のことも嫌わないで受け入れてくれる女性。 そんな人、現れたらいいな。 やちるとの喧嘩はまだ継続中…。修兵と彼女は両片想い中…w
07/11/25UP
12/07/15再UP
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