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ぼくとお父さんと彼女といっしょ。
【その5】 「なんでお前は薬を飲んだって嘘をついたんだ!」 「………」 「てめぇ、だんまりか?」 ピクリと修兵のこめかみが動く。 静かに怒るということができない修兵。 怒気をあらわに、息子を睨みつける修兵。 まあ修兵がそこまで怒るのも仕方ないと言えることなのだが。 だがもそんな修兵に負けていない。 修兵が苛ついてしまうように、彼は彼でムスッと口を閉ざしているのだ。 「薬飲まなきゃ治らねぇもんも治らないだろうが。毎回虎鉄がお前のこと診てくれてよ」 「………」 「阿散井たちだって暇な時間使ってお前の看病してくれたんだぞ」 「………」 「お前…いい加減にしねーと、殴るぞ」 思わずが間に入ってしまう。 「あ、ああああの!副隊長」 「なんだ」 キツク一睨みされては思わず身を引いてしまう。 「あ、悪い」 修兵はバツが悪そうにから目線を外す。 親子のことに口出すのは良くないともわかっているのだが、現状を思うと…。 「なんだか、君。さっきより熱が上がっていそうですから、その辺で…」 「あ…」 シーツを換えようとした時に、発覚した未開封の薬の存在。 が飲んだと言って布団の下に隠していたのを修兵は激怒したのだ。 そしてそのままの状態で説教が始まった。 だがは現在病人。寝ていなければならないのだ。 「ほら。とっとと寝ろ!」 修兵はそのまま部屋を出て行ってしまった。 残されたは布団を敷きもう飲めないだろう薬を仕方なくゴミ箱へと捨てた。 「副隊長が怒る気持ちわかるな。君のことすごく心配しているんだよ」 そう言いながらがを寝かしつける。 「………」 「これから薬ちゃんと飲まないとダメよ?じゃないと外へ遊びにも行けないよ」 「………うん。ごめん」 ようやく口を開いた。 外へ遊びに行けないと言われて、友だちのことがふわっと浮かんだのだ。 何度か見舞いに来てくれた友だち。 でも熱が下がらないからと会えなかった。 「でも謝るのは私にじゃなくて、副隊長によ?」 「………」 途端にムスッと顔を顰める。 「お腹空かない?もうそんな時間だもんね。何が食べたい?」 「姉ちゃんが作ってくれるの?」 「うん。私で良かったら。君みたいに上手には作れないけど…」 は少しだけ苦笑する。 「…姉ちゃんが作ってきてくれたっていう牛乳の寒天が食いたい」 「冷蔵庫に冷やしてあるから持ってきてあげる。他には?」 は首を横に振る。 「いい。そんなに腹減っていないから…あ、俺より修兵の飯作ってやって」 さっきそんな話はした。 夕食には少し遅い時間かもしれない。 「うん。わかったわ。君はしっかり寝ていること」 「うん」 が階段を降りると修兵が拱手していた。 「副隊長?」 「父親じゃあダメなのかーってなんか思った」 「え?」 「俺じゃなくて、には素直だしさ」 「副隊長。私に妬いてどうするんですか」 は小さく笑った。 「べ、別に妬いてなんかいねーよ」 「薬を飲むとは言ってくれましたけど、嫌がる原因は話してくれませんでしたよ? 副隊長が怒らずに聞いてあげれば答えてくれるんじゃないんですか?」 「怒らずねぇ…」 ああ似ている。 明後日の方向を見ながら唇を尖らせ面白くなさそうにする修兵の顔がさっきのの顔と。 本当これで血の繋がりがないというのが可笑しいくらいだ。 それとも一緒に暮らしていたことでが修兵に似てきたのだろうか? 「遅くなりましたけど、何かお作りしますね」 「お、おう。悪いな」 いつもならば簡単に出前でいいやと思うところなのに。 彼女の厚意を修兵は素直に受けた。 *** 「あらあら。それはいけませんね」 にっこり聖母の如く微笑を浮かべる卯ノ花だったが、その手にしているものを見ては逃げ出したくなった。 「ちゃんと出されたお薬は飲まないといけないのですよ。あなたの為なのですから」 「〜〜〜!!」 「はい。それでは腕を出しましょうね」 翌日、修兵はを連れて四番隊に行った。 勇音が往診してくれると言うが、ここまで来たら仕置きの意味も込めて卯ノ花に見てもらったほうがいいと思ったからだ。 「!!」 「あらあら。そんなに暴れられると困るわね。檜佐木副隊長抑えてくださいね」 「はい」 そんなに幼いわけでもないのに、修兵に抱っこされている。 明らかに最初から注射をさせるつもりだったらしい。 「い、いや。嫌だ!薬飲むから!嫌だ!」 「こら暴れるな!」 「うふふ。痛くないですよ。少しだけチクッとするだけですから」 卯ノ花の手には注射器。 それを見ては嫌だと暴れだした。 この辺はまだまだ子どもだと思う。 卯ノ花に右腕を掴まれビクっとする。 「いやだー!」 その注射針が触れる瞬間までは叫んでいた。 そして泣いた。 「ぐずっ…うっ…」 滅多にというか人前でそんなことをしたことがないだろう。 修兵に抱きついてぐずっている。 注射はが泣き喚いている間に簡単に済んだ。 「はい。もういいですよ。あと薬も出しますからちゃんと飲むように」 うふふと笑い続ける卯ノ花。 お母さんみたいだと思っていたのに、怖い人だとにはそう埋め込まれた。 卯ノ花は怒らせたら怖い人なのだ。 「ほら。いつまで泣いてんだ。みっともねー」 を抱っこしながら廊下を歩いている修兵。 「うる…さいっ」 しゃくりあげてしまっている。 四番隊綜合救護詰所に響き渡った子どもの泣き声。 これはこの後色々噂されるだろうなと修兵は思った。 「なんだ、なんだ。さっきの大きな泣き声は君だったのか、君」 暢気に声をかけてきたのは浮竹だった。 「風邪をひいたとは聞いていたけど、なんかすごいことになっていたみたいだな」 「浮竹隊長。お身体の具合でも悪いのですか?」 「いやいや。定期健診みたいなものだよ」 病持ちの浮竹は定期的にここを訪れているようだ。 も間が悪い。見られたくなかっただろう姿を見られてしまい。 「こうなったのはコイツが悪いんすよ。薬を隠して飲んだ振りをしていたんで」 「ああ。苦いよなー四番隊の薬は。その気持ちわかるなー今度は見つからないやり方を俺が教えてあげよう」 「浮竹隊長」 「あはは。すまん。冗談だ」 本当にそうか?なんとなく本当に教えてしまいそうだ。 「でも。早く治してまた遊ぼうな、君」 修兵の首にかじりついたままのの頭を浮竹は数回撫でた。 「…うん」 からの返事に浮竹は満足に笑った。 「おっと。俺ものんびりしていたら怒られそうだな。ではな」 「はい」 救護詰所を出たところで今度はやちると出会った。 は歩くつもりがないのか、修兵に抱っこされたままだ。 「?」 「ちびっこ。今は無理だぞ」 「修ちゃん?」 やちるは二人を見上げる。は一言も発しない。 やちるの顔を見ようともしない。 「まだ風邪なの?」 「ああ。まだ治らねえんだ。それに今はご機嫌斜めだ」 「なんで?」 「ああ、それはこいつが、痛っ!こらやめろ」 修兵の髪をひっぱる。 やちるには話すなということらしい。 「わかったから。大人しくしていろ、落とすぞ」 「………」 「悪いな、また今度な」 修兵は歩き出す。 だがやちるはついて来る。 「…ちびっこ…」 「だって、だってー」 「今は無理だって。こいつ意固地になっているから今はやめておけ」 「…」 「悪いな」 そう言われてやちるは無言で去っていった。 修兵は溜め息を吐く。 「お前な…いつまでちびっこのこと怒ってんだよ。悪いのはあの子じゃねーだろ?」 「………」 「女の子泣かす奴は最低だぞ」 「…泣かしていない」 「はいはい」 詰所を出て歩いているとさっきより人々の視線が突き刺さる。 一応すでに二人の関係は割れているとはいえ、目にした者にしてみれば驚くのだろう。 強面の男が子どもを抱っこして歩いていれば。 イメージが崩れるとか言う女性も出てくるかもしれない。 だが別に修兵はそんな周囲の戯言はどうでもいいと思っている。 隠すことなくなったことは嬉しかったし、一番反応が気になった女性がそうでもない、普通の態度だったから。 寧ろそのことで彼女と話ができたりして嬉しかった。 「ちゃんとお父さんしているわね〜修兵」 面白そうなものを見つけたと言わんばかりの声の主に修兵は少しだけ頭痛がした。 「乱菊さん…」 「修兵のこーんな姿見られるとは思わなかったわ〜」 当初のことを修兵の隠し子だとか面白がって言った乱菊。 おおっぴらになったことでもごくたまにそんなことを口にする。 「別に普通っすよ」 「そう?」 「あ、そうだ。乱菊さんにお願いがあるんすけど」 「私にお願い?」 お金なら貸さないわよという乱菊。 誰が乱菊から借りるものかと修兵は思う。 「ちびっこの様子見てきてくれないっすか?」 「やちるの?なんで?」 「こいつと喧嘩…いや、こいつが一方的に怒っているんですよ。さっきもちびっこのことを無視しちゃって」 「そうなの?いいわ、様子見てきてあげる」 乱菊に頼んだものだから何か要求されるかと思ったのだが、意外にもそれはなかった。 これで多少はやちるの気分も晴れてくれればいいのだが。 *** 「……修兵。なに?」 家に戻って昼食を食べた二人。 食欲は少し戻ってきた。 あの注射が効いているのだろう。 熱もようやく下がってきたようだし。 だが、をじっと監視するかのように見ている修兵。 「今度は隠さないように俺の前で薬飲め」 「………」 「下手な小細工しやがったらまた卯ノ花隊長のところに連れて行くぞ。今度はもっとぶっとい注射されるんだろうな」 「の、飲むよ!」 何をそこまで注射と薬を嫌がるのか修兵にはわからない。 はグッと粉薬を口に入れ水を大量に飲み干した。 「の、飲んだぞ」 「よーし。偉いぞー」 わしわしとの頭を撫でる修兵。 「な、なんだよー」 「隠してまで薬を飲まなかっただろ?嫌いなものをちゃんと克服したってことで褒めてやったんじゃねーか」 「………」 「なんだ?」 「別に」 「ほら、もう寝ろ」 「うん」 は素直に部屋に戻った。 布団を頭からかぶった。 なんとなく口許がにやけてしまうのと、ちょっと子どもすぎた自分に笑ってしまう。 薬を隠した理由。 それは薬の苦さが嫌だった。ということもあるけど。 皆が甘やかしてくれるのがちょっと嬉しかったから。 あと、将来こうなったらいいなと思う光景が見られたから。 でもやっぱり寝ているだけはつまらない。 浮竹にも言われたから。 だから。 「早く治そう」 やちるが可哀相なんだけど、息子的にはみんなが優しくて、素直に甘えれて…なところ。
07/06/06UP
12/07/15再UP
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