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ぼくとお父さんと彼女といっしょ。
【その三】 「なー…姉ちゃんって今、彼氏とかいんの?」 「え」 主不在の九番隊副官室。 その机を占拠しているのは彼の義息。 べたーっと机に体を預けてしまっている。 「君?」 「姉ちゃん。俺の話聞いてた?」 「う、うん。聞き間違えじゃないんだ。びっくりしちゃった」 少し離れた場所で書類整理をしていたは子どもの突然の質問に驚きを隠せないでいた。 「いる?いない?」 「なんでそんなこと聞くかなー」 は苦笑を漏らしながら、止まった手を動かし筆を走らす。 「なんとなく聞いてみたくなったから」 「なんとなくかー」 もうの機嫌は直ったように見える。 こんな話をしてくるくらいだから。 少し前、十一番隊で不愉快な思いをしたとが頬を膨らましていたので、その愚痴を聞いてあげようとが相手をしていた。 勿論彼女は仕事だ。 副隊長である修兵は非番の為にいない。 「姉ちゃん。俺の質問答えてよ」 「そうだね。残念ながら彼氏はいません。今、募集中かな」 「本当!?」 机に両手をついてバッと体を起こした。 その目が輝いているように見えるのは気のせいか? 「そんなに驚くことかな」 「じゃあ、じゃあ。今、好きな人いるの?」 「え……君?…」 そこまで知りたがるのはなぜだ。 子ども相手に本気で答えるべきか迷ってしまう。 「えーと…」 「修兵は?修兵じゃだめ?」 「え、副隊長…?え、えー!?な、何言い出すの!君っ。あ」 はガタっと机を蹴ってしまい硯から墨が零れて書類に散った。 「あ、あー」 「ご、ごめん。姉ちゃん…そんなに驚くような反応すると思わなかったから」 は慌てて零れた墨を雑巾で拭う。 この書類はもう駄目だ。 「修兵に怒られちゃう?だったらちゃんと言って俺の所為だから」 「ううん。平気だよ。清書するだけのことだから、副隊長に言うほどでもないし」 作成中のものだったから、まだなんとかなる。 「でも。あんまり変なこと言わないでね、君」 「あ。うん…ごめんなさい」 変なことなのだろうか? は聞き返したかったが、がまた書類作成に失敗したら困るからそれ以上は聞けなかった。 (…修兵望みないのかな…) これ以上ここに居てもの邪魔になるだろうから、は副官室から出た。 *** 「あ。恋次ー」 「おう。じゃねーか。暇ならなんか食ってくか?」 九番隊隊舎から出ていくと恋次に出会った。 暇だったし、お昼もとっくに過ぎていたので、修兵も一人で食っているだろう。 そんなに急ぐことはないなと恋次の後をついていくことにした。 「あれ。隊長、いらしたんすか?」 「こんにちは」 六番隊のとある一室。 そこで恋次が買ったタイヤキがあるというのでゴチになろうとしていた時。 部屋には先客、隊長である朽木白哉がいた。 は部外者が入りこんでいることを怒られるかなと思ったが、白哉は怒ることなく茶を啜っていた。 どうやら彼も休憩のようだ。 が挨拶をすると、小さく頷いた。 「ほら。餡子とクリームどっちがいい?」 「餡子。クリームはいらない」 「じゃあ俺がクリーム食うか。あ、お前、頭と尻尾どっちから食う?」 「頭かな…って言うほど気にしたことないよ」 そういいながらパクッと頭からかぶりついた。 餡子がぎっしりつまっているようだ。ちょっと尻尾の先から餡子がはみ出た。 「そうかあ?俺、結構気になる。バレンタインの時にクマの姿のチョコとか売ってたけどよ。 あれ、貰った奴。頭からバリバリ食うのかとか思うとなんか怖くね?」 「お菓子じゃん。別に気にすることないと思う」 「そうなんだけどよー。体食うのもなんか怖いよなー」 「恋次って意外と神経質だよな」 「そうか?」 子ども相手に何話しているのだろうと思うが、誰もツッコむ人がいない。 「あ。恋次に聞きたいことあった」 「あん?」 タイヤキ2個目に手を出しながらは恋次に訊ねた。 「恋次は結婚しないの?」 「………は?」 「結婚だよ、結婚。俺の話聞いてた?」 「き、聞いていたけど…お、俺は別に、まだ…その」 少々大人びた奴だと思っていたが、突然何を聞き出すんだと恋次はしどろもどろになる。 話題も大人同士でするようなことを平気で彼に向かっていった事もあるが、逆はなかった。 「相手がいないとか言うの?」 「…そ、そうだな…結婚は一人じゃできねーからな」 「じゃあルキア姉ちゃんとかは?」 「バ、馬鹿野郎!お前、何いって、ル、ルキアと俺はそんなんじゃ」 「違うの?前に言ってたじゃんか。学院時代の淡い恋物語とかどうとか」 「あ、あれは吉良の奴が」 「結局姉ちゃんからチョコ貰えたのか?」 「う、うるせーな!いいだろ。んなことは…うっ」 静かに茶を飲んでいた白哉がいつの間にか恋次の背後にいた。 すらっと斬魄刀を抜いて恋次の首にあてている。 「…恋次…」 「た、たいちょう…あ、あの」 「詳しく話を聞かせてもらいたいものだな……」 「あ、あの。ガ、ガキの戯言っすよ?」 だが白哉は聞く耳持たない。視線はへと注がれる。 「恋次は忙しいようだ。もう帰るといい」 本当だ。忙しくなりそうだな。 は何度も頷いた。 「お、お邪魔しました。恋次またな」 「お、おい!待て、!」 「いつでもまた来るがいい」 言ってることと行動が合っていない気がするが白哉なりにを気に入ってもらえているようだ。 が部屋から逃げだす、いや、退出すると恋次の悲鳴がこだました。 *** 夕食の買い物を終えいつもの公園前を通りかかった。 浮竹がベンチで腰掛けていたのでは駆けだしていた。 「シロさん!」 「やあ。君じゃないか。夕飯の買い物かい?」 が手にしていたものを見て浮竹は微笑んだ。 はそのまま浮竹の隣に腰掛ける。 「シロさん散歩?いつもより遅いじゃないか」 「んーちょっと最近忙しいからなあ…休憩時間がずれちまってな」 「そっか。シロさんも忙しいんだな」 「少しだけな」 三隊の隊長不在はやはり痛い。 三番、九番隊は副隊長が代行を勤めなんとかなっているが、五番隊はいまだそれができないでいる。 浮竹にもその分仕事が回されて来ているのだ。 だが、病気療養で楽させてもらった分、今しっかり働こうという気になる。 「シロさんに質問!」 はい。と手を挙げる。 浮竹は袖口に手を突っ込みながら、その姿が子どもらしくて可愛いなあと暢気に思っていた。 「なにかな?君」 「シロさんは奥さんいるの?」 「いや、いないよ」 「結婚する予定は?」 「ないなあ。今の所」 「相手は」 「相手もいないな、残念ながら」 「結婚したいって思う?」 「どうかな。微妙だな。俺は体が弱いから相手に負担になるようなことをさせたくないし」 「でも相手がシロさんの為にって思うかもしれないじゃん」 「それは嬉しいが、別に今これと言って苦労していることもないし、一人でいいかなーと」 や恋次と違い、浮竹はの質問に戸惑うことなく答えている。 年の功と言うべきか。 「そっかあ」 「ん?なぜそんなことを聞くんだい?」 君は結婚に憧れているのかい? そん目を浮竹はに向ける。 は脚をぶらぶらさせながら空を見上げる。 「修兵って結婚しないのかなーって思ったから」 「檜佐木君?」 「だって、修兵若いだろ?俺が来てから彼女とか見たことないし…する気ないのかなーって」 「急にどうしたんだい?そんな事を言って」 母親が欲しいのだろうか? 「急にって言うか…俺、修兵の奥さんになってくれないかなーって思う人がいるんだ」 「へえ」 「修兵と一緒に居る姿見ると懐かしく思って」 母親代わりだったあの人と父親代わりだったあの人がいた時みたいに。 「勝手に俺がそう思っただけ。だからシロさん内緒だからな」 「ああ。内緒にしておこう」 浮竹がの頭をくしゃりと撫でた。 えへへと笑うだったが、少しだけ寂しそうに見えた。 まだ何か隠しているなと思ったが、言いたくなったらいうだろうし、自分ではなくそれが修兵にだったらいいなと思って。 「ああ、そう言えば。さっきやちる君が来たよ。君を探しているようだったけど」 「やちるが?………」 むすっとわかりやすいほど表情を変えた。 「喧嘩したのかな?早く仲直りした方がいいぞ」 やちるの様子から怒っているのはだとわかったが。 「いい。俺、十一番隊嫌いだ」 「おいおい」 やちるが直接やったわけじゃないが、の印象が十一番隊全体まで悪く伝わっているようだ。 「俺、帰るな。夕飯の支度あるし、修兵今日休みだから」 「そうか。気をつけて帰るんだぞ」 「はーい」 浮竹に別れを告げては走り去った。 *** 「ー!」 夕食時、修兵と二人で食べているとボロボロになった恋次が駆け込んできた。 「あ。恋次」 「なんだ、阿散井……埃っぽいから近づくな。飯が不味くなる」 シッシと手で恋次を追い払う真似をする修兵。 「檜佐木先輩!あんたコイツに何言ったんすか!俺、今の今まで隊長に酷い目に遭わされたんすよ!」 恋次は構わず修兵に迫る。 「知るかよ。俺が」 修兵はを見るが、彼は動じることなく答える。 「俺も知らなーい。恋次風呂入れば?それともご飯食う?」 「先に風呂に…って、お前なー!」 「何話したんだ?」 「大したことじゃないよ、ただ恋次に質問しただけだよ」 「阿散井?」 「……お、思い出したくないんで……もう、いいです…」 いったい白哉にどんな目に遭わされたというのだろうか。 「シロさんは普通に答えてくれたけどな」 「浮竹隊長にも聞いたのか、お前!」 「うん。でもシロさんは恋次みたいに慌てなかったぞ」 流石大人。年の功。 「姉ちゃんも慌てて墨零したけどな」 「?お前、中々帰ってこないと思ったらウチにいたのか」 「うん」 ウチとはこの場合九番隊隊舎を指す。 しょうがないな、コイツはと修兵は味噌汁へと手を伸ばす。 今日はジャガイモとワカメの味噌汁。 「姉ちゃんに彼氏いないのかーって聞いてみた。ついでに修兵じゃ駄目かって」 お約束どおり修兵は味噌汁を噴出した。 「ぶはっ!」 「うぉ!汚ね!先輩」 「あーあー。何やってんだよ、修兵」 ちゃぶ台の上に零れた味噌汁を布巾で拭く修兵。 ゆらりと修兵は立ち上がる。 「お前、何、に変なこと聞いてんだよ」 「変なこと?」 「あ。俺、今日はもう帰りまーす。お邪魔しましたー」 恋次はそそくさと出て行く。 「恋次?」 帰ってしまった恋次には小首を傾げるが直後に頭に痛みを感じた。 「い、痛い、痛い、いたたたた!」 「余計なこと聞いてんじゃねーよ」 「痛い!修兵痛い!」 教育的指導という名の八つ当たりというか、修兵はのこめかみ辺りをぐりぐりする。 あまりの痛みに脚をバタつかせる。 「を困らせるような真似すんなよ」 ようやくを解放した修兵。 は目に涙を浮かべている。 「まったくよ……」 「修兵のバーカ」 「お前、まだ言うか…あ」 結局、彼女の返事はどうだったのだろうか?ふとそれが気になり始めた修兵。 だが、にそれを聞けないだろう。 散々イジメまくった後だから。 (あまり、期待しないほうがいいな…) 修兵は肩を落とし嘆息した。 お父さんびっくりーw
07/05/02UP
12/07/15再UP
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