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お父さんといっしょ。
【其ノ拾九】 副隊長同士の睨み合いが続き、は怖くて動けなかった。 自分が少しでも動けば取っ組み合いの引き金になりそうで。 だからジッと堪えている。 誰か、他の誰かがここへ来ればなんとかなるだろうに。 止められるのは限られるが。 「お前には関係ねーだろうがっ」 「関係なくはないっすよ。俺はの味方でもあるんで」 「だったらアイツの所にでも行けば良いだろう。俺からは言うことなんか何もねーよ」 「先輩は意地っ張りっすからね。本当はがいなくて困ってるんじゃないっすか?」 「困ってねーよ。前の生活に戻っただけだ。忙しいんだよ、変なこと持ちかけるな」 修兵は強がってはいるが内心戸惑っている。 に余計な話を聞かせたくないのと、本心をさらけ出すのが嫌なのだ。 格好悪い俺を見ないで欲しい…と。 だからもう恋次に付き合いきれないと修兵の方から目をそらす。 「。あと頼む。ほかの用件片付けてくる」 「…は、はい!」 恋次の横を通り過ぎる。 「檜佐木先輩!」 「うるせーよ。お前も隊舎戻れ。朽木隊長に叱られてもしらねーぞ」 「大きなお世話ッすよ。逃げるんすか、先輩」 扉に手をかけ修兵は恋次に背中を見せたままだ。 恋次に何を言われようとも修兵は無視を決め込み副官室を出る。 「………」 「檜佐木先輩。どこ行くのですか?」 副官室を出たところで吉良が待ち構えていた。 口元に笑みを浮かべていても目が怒っている。 彼ものことで来たのだろう。先ほども恋次がそう言っていたわけだし。 なんて間の悪いと修兵は舌打ちする。 「仕事だ。まだあんだよ。お前も忙しいだろ、戻れ」 「僕の仕事は彼を連れてくることですから」 「は?」 ヒョコッとイヅルの足元から顔を覗かせた子がいた。 イヅルの死覇装を軽く握り申し訳なさそうにおずおずといつもの彼らしくない顔をして。 「…」 ああ、こんな顔をさせたのは自分だ。 それはわかっている。わかっているけど、何故ここに来た? 修兵はあえてを見ずに歩きだす。 自分から突き放したのだ、今更何をという気持ちが強い。 「修兵」 呼び止める声に不安の色が感じ取れる。 子どもをそんな風に怯えさせて自分は駄目すぎる。 修兵は止まることなく進む。 副官室からは恋次も飛び出し、修兵を呼び止める。 「先輩!」 「ほら、君。言わなきゃ駄目だよ」 「イヅル…」 はイヅルに後押しされて修兵の後を追う。 「修兵、待ってよ」 「………」 「なあ、修兵ってば」 手を伸ばし彼の死覇装を掴む。 掴まれたことで修兵は顔をのほうにチラっと向ける。 無表情。 怖いと初めて感じた。 「放せ」 「しゅ…へい」 低い声にビクリと肩を震わせた。 子どもにそんな声出すなと恋次とイヅルは威圧してくる。 何事かとも顔を出す。 ここは九番隊隊舎内、昼過ぎようやく午後の仕事を始める時間。 忙しなく動き始めた隊士たちも何事かと足を止める。 副隊長が子どもに呼び止められている。 「あれ。あの子」 数人はに見覚えがあると足を止め、他は興味津々で足を止める。 「俺は仕事なんだよ。お前は浮竹隊長のところに行けばいいだろ。実際居たようだし」 「嫌だよ、俺…」 突き放す修兵に必死で留まろうとする。 それを見守る恋次とイヅル。 「なあ、いいのか。俺らなんとかしなくて」 かと言って何をすればいいのか迷うわけだが、恋次の問いにイヅルはきっぱり言い切る。 「僕らにはすること何もないよ。それに君がちゃんと先輩に本心を言わないと駄目だからね」 「の本心?お前知っているのか?」 「まあね。さっき聞いたところだし。君らしいとは思ったけど…本当似ているよ、あの二人」 「へぇ」 ここから見守っていればその本心が聞けるだろう。 恋次はイヅルが落ち着いていられるのも、その本心を修兵が聞けば変わると確信があるからに違いないとわかる。 「…話、聞いてよ」 「………」 「俺、シロさんちに居たけど、やっぱり家に帰りたい」 ギュッと死覇装を更に強く掴む、握り締める。 「家ってどこだよ。お前の言う家って」 「修兵のいる家に決まっているだろ。俺にはそこしかもうないんだぞ」 家族だった大好きな人たちはもういない。 いなくなってから修兵と出会った。そして家族になった。 「………」 かなりのギャラリーが集まってきた。 みんな何事かとこそこそしだし始める。 よく見ると他の隊の者まで混ざっている。 こんな所余計に見られたくないと修兵が強引に歩き出した。 強引に歩き出したことでは躓き、手を放してしまう。 「あ…いてっ」 そのまま転ぶ。咄嗟に手が出て大事には至らなかったが、体を庇った時に打ち付けた腕が少しばかり痛む。 それでも今は関係ない。このまま修兵と引き離されたら終わってしまう。 「修兵!」 「………」 止まらない修兵。遠ざかる大きな背中。は大きく息を吸い込んだ。 「………はぁ…おとうさん!」 見ていた者たちから何と言ったとどよめきが起こる。 修兵自身もそんなことを言われるとは思わず歩みをやめ振り返ってしまう。 振り返れば真っ赤な顔をしたが腕で目元を乱暴に拭っていた。 真っ赤になった原因は恥ずかしいからじゃなく、泣きそうになっていたから。 その更に後ろではがきょとんとした顔をし、イヅルと恋次がニヤッと笑みを浮かべているのが目に入る。 「…お前…」 「俺のことちゃんと最後まで面倒見ろよな!俺一人ぐらい養えるって言ったの、修兵なんだぞ… 俺にはもう先生も、源二郎も、弘幸も陽太もいなくて…一人になったのを修兵が拾ったんだぞ」 いまだに一人の夜は心細い。 大丈夫だなんて言ったのに、修兵が長期出張で留守をして誰もいない晩、不安で怖くて眠れなくて。 修兵が帰宅したのを見てホッとした。 嫌いじゃない、最初からずっと頼りにしていた。家族だって認めていた。 でも、それを面と向かって人に言えなかったのは…。 「俺みたいなガキ拾って、修兵に迷惑かかるの嫌だったから。修兵が悪く言われるのが嫌だったから」 だから、親戚の子で通した。義理とはいえデキの悪い息子だと思われるのが嫌だった。 それに修兵はまだ若い。 自分みたいなこぶ付の所為で、修兵の好きな人などに嫌われでもしたら。 いつか邪魔者になる、お荷物になってしまったならなどと考えると。はっきり親子ですと言えなかった。 本当は大きな声で自慢したい義父なのに…。 「俺、修兵に…おとうさんにき、嫌われたくないから…」 「………」 ぐすっと鼻を啜る。最近恥ずかしいくらいに泣いてばかりいる。 「お、俺が死神になったら、おとうさんのことを楽させるって決めたんだ」 最初に約束した父親のような存在だったあの人との約束を、叶える為に、今度は父親になってくれた人の為に。 「…」 周りのざわめきなど耳にも入らない。 「だから……その……ごめんなさい」 は俯く。ポタリポタリと廊下に涙が落ちていく。 これが本心。もうこれ以上は言える言葉がない。 修兵がそれでも自分を突き放したならと考えると怖くてしょうがない。 だから修兵がどんな顔をしているのかまともに見れない、顔をあげるのが怖い。 「なんで、お前が謝るんだよ。バーカ」 足元に影ができた。顔をあげようと思ったとき、頭を乱暴に撫でられた。 「俺が悪かった」 の言葉に不覚にもジーンとしてしまった。 周りに人がいなきゃ泣いてしまったかもしれないと。 何度も何度もの頭を撫でる。 「お前は俺にとって自慢の馬鹿息子だよ」 「自慢してねーじゃねーか」 「違った、泣き虫息子だな」 「う、うるさい」 「よっ…と……。今日の夕飯何食わしてくれる?」 を抱きかかえる修兵。 帰ってきていいのだとわかりまたも涙腺が緩む。 散々泣いたのにまだ涙が出てくる。これは嬉し泣きだ。 は修兵の首にかじりつく。 「泣き虫。ま、最初から知っていたけどな」 「う、うるさい。馬鹿親父」 「おう、何度でも言え」 「おー泣いてらぁ」 ニタニタと笑って近づいてきた恋次にニッコリと微笑んでいるイヅル。 事情が飲み込めているのはこの二人のみだ。 二人も周りの騒ぎなど気にもとめていない。 「うるさい、恋次」 「良かったね。君。あとで浮竹隊長に報告に行こうね。馬鹿な義父連れて行きますって約束したしね」 「な、なんだ、そりゃ。吉良!」 「君がお世話になったんですから、父親としてお礼をしに行くのは当然でしょう?先輩」 「うっ」 自分で巻いた種なのだから。 改めて浮竹に会いに行くのかと思うと気が思い。 一時期勝手に嫉妬していたのだから。 *** 副官室で仕事を片付けていた修兵。 あの騒ぎのおかげで長いこと色々噂されてしまった。 は騒ぎを聞きつけた乱菊とやちるによって連行されてしまった。 連れ去る際に乱菊が修兵に。 「やっぱり隠し子だったのね」 「別に隠し子じゃないんですけど…」 なんてことを話した。 どんな風に話が広まるのか恐ろしい。 だが、別にそんなことはどうでも良かった。 の本心がちゃんと聞けただけでも良かったわけで。 「ただいま戻りました。急ぎの書類は全て提出してきましたから」 が副官室に戻ってきた。 修兵が隊長代行をし始めてからにその補佐を頼むのが自然となっていた。 「おう。悪いな」 「いえ。本日の分は全て完了です。副隊長も早く家に帰れますよ」 この所忙しかったですからね。とは微笑む。 「…そうだな…あ、ああ」 「はい?」 「……その……お前はさ……の話聞いてどう思った?」 周りがどんなに噂しようが気にならなかったが、彼女にだけはどう思われたか気になった。 義理とはいえ、は息子。子どもがいると知って一部の女性死神たちみたいに悲鳴をあげられてしまうか? 幻滅だとか言われてしまうか? 「どう…と言われましても…」 は腕組み首を傾げる。 あ、その顔可愛いなと暢気に考えてしまう。 「不思議と、納得しちゃいました」 「は?」 「前にも言ったじゃないですか。お二人は似ているなって。血の繋がりはないのが不思議なくらいですよ」 そう言えば、少し前にに言われた。 会うたびにと修兵は似ていると。 その言葉を聞いて照れたが嬉しく思った。 「そっか。ならいい」 「?」 とりあえず、君に幻滅されていないのならばいい。 それだけで十分だ。 「修兵!」 もうコソコソとせずには堂々と副官室に入ってきた。 「終わったか?」 「ああ。終わった。けどよ…」 「なに?」 「お父さんと呼べないのか、お前は」 うっと言葉を詰まらせたに修兵は眉を顰める。 はそれを見てくすくすと笑っている。 「さっきのは特別だ。いいから早く帰ろうぜ、夕飯の準備しなきゃならねーんだから」 「はいはい」 「恋次たち食べに来るって言ってた。だから沢山用意しねーと。買い物するんだからしっかり荷物持てよ」 「俺が持つのかよ」 「当然だろ。あ、姉ちゃん。姉ちゃんも食べに来いよ」 「え。私も?でも…せっかくの家族水入らずって感じするけど…」 はの左手、修兵の右手を取り引っ張る。 「恋次たちも来るし、大勢の方がいいじゃん。買い物も付き合ってよ」 「え、あの」 「暇だろ?付き合ってやってくれよ、」 決まりだとは二人を引っ張りながら歩きだす。 修兵にも言われてしまうとなんとなく断りづらい。 でも悪い気はしないので遠慮せずにご馳走になることにした。 大勢来るのならも大変だろうから料理の腕前が未熟な自分でも手伝いをしてあげようと。 ようやく仲直り。でもバカップルですなw
息子君が頑なに親戚だと言い張ったのはこういう理由でした。
拾われた自分が修兵にとってお荷物になりたくなかった、いつか邪魔者になるのではないか?
修兵と付き合う子たちがこぶ付きなのをどう思うか?などと子どもだから思う不安の所為だったつーわけです。
06/10/20UP
12/06/04再UP
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