お父さんといっしょ。




ドリーム小説
元々、そんなに怒る方ではないと知っている。
自分のとこの隊士たち以外にも尊敬され慕われているのも知っている。
だからだ。
今、その人の笑顔がとても怖いんですけど…。





【其ノ弐拾】





「隊長ぉ。浮竹隊長ー」

「どうした、仙太郎」

昨日、九番隊では何やら大騒ぎの出来事があったと後から聞かされた浮竹。
大騒ぎの元はきっと暫く自分が預かっていた子のことだろうと想像はついた。
そうか、あの子の義父は九番隊所属なんだなとぼんやりしながら思った。
まあ、イヅルがその義父と一緒に挨拶に来るなんて言っていたのでそのうち会うだろうなと。

「檜佐木副隊長が隊長にお目通りしたいと」

「檜佐木君が?」

今月の瀞霊廷通信はもうすでに貰っているのにと小さく呟きながら。
とりあえず、ここに通してくれと仙太郎に頼んだ。
修兵は東仙を尊敬していた。派手な顔つきとは逆にしっかりと東仙を補佐し仕事振りも真面目で評判もいい。
少なくとも浮竹から見れば「毎日頑張っているね」と褒めたくなる。
その修兵は最近、隊長代行を務め日々忙しく働いているようだ。
仕事の一つといえるのかわからないが、彼は毎月発行される雑誌を自分のところに届けにくる。
だから今日も?と思ったのだが、今月分はすでに届いている。

「急にすみません。浮竹隊長」

「いや、いいよ。俺に何か用なのかい?」

仙太郎に案内されて雨乾堂へと通された修兵。
浮竹を前にかしこまり少し緊張した面持ちを見せている。

「隊長の仕事で何かわからないことでもあったかな?俺で良ければ教えるけど」

「ありがとうございます。助かります…あの、今日はその…仕事のことではなくて…」

「ん?」

向かい合って座り、浮竹は腕を組んでいる。
修兵は何度か唾を飲みこんだあと浮竹に向かって頭を下げた。

「ひ、檜佐木君?」

「……ご迷惑をおかけしました」

「え……っと。俺は別に君に迷惑をかけられた覚えはないのだが…」

「いえ。おかけしました。沢山」

修兵の土下座に驚き、更に言葉に困惑してしまう。

「ん〜覚えはないな、やっぱり」

「あの…浮竹隊長は昨日のこと知らないんすか?」

恐る恐るというような感じで修兵は顔をあげ浮竹を覗き見る。

「昨日?昨日のこと?ああ、仙太郎から九番隊で騒ぎがあったとは聞いたよ。それのことか」

でも自分に直接迷惑がかかったわけでもないし。
それは預かっていたの義父のことだろうと。
副隊長の修兵がその義父の代わりに詫びにきたのか?

君のお義父さんの代わりに来たのかい?」

「え…あの、浮竹隊長」

「俺は別に迷惑だなんて思っていないぞ。君がお義父さんと仲直りしただけでも一安心だと思ったしな」

「………」

修兵の口元が引きつっている。

「浮竹隊長…その、の義父ってのは……俺なんですけど…」

「へぇ、檜佐木君が…へぇ…え。そうなのか?」

「そ、そうです」

「吉良君が言っていた馬鹿な義父って。檜佐木君なのか…あーそうか、だから俺も知っていると言っていたのか」

浮竹はさらっとキツイことを言いつつ、イヅルの言葉に納得しているようである。
修兵は事が事なだけに、目の前にいる人は上官なので口答えなどできずに、ただただイヅルを恨むばかりだ。
再び修兵は姿勢を戻し、浮竹にこれまでのことを話しだした。



***



「ごめんな。嘘ついてて」

「んー別にいいよ、気にしていないよ、あたし」

は十番隊の隊首室にいた。
ソファに腰掛け日番谷が仕事をしているのを待っていた。
その向かいには同じように座りがこさえた菓子を食べているやちる。

の気持ち、あたしにもわかるよ」

「え」

「だって、もし。剣ちゃんに嫌われたらあたし泣いちゃうよ」

剣ちゃんと言う人にはいまだに会ったことはない。
だが、やちるの口ぶりからその人はやちるにとって家族同然の大切な人なのだとわかる。

「修ちゃんの親戚だとか子どもだとかで別にあたしは変わらないよ。今までと同じ」

「ありがとう。やちる」

「もしかして、はそれをわざわざみんなに言いにまわっているの?」

「別に言いまわってなんかいないよ。ただ、嘘ついていたって思ったから、冬獅郎とかやちるにはちゃんと言おうって」

照れ臭いのかは唇を尖らせ俯く。
やちるはそれを見てにんまりと微笑む。

「シロちゃんも別に気にしていないよね?」

「ああ…」

書類にスラスラと書き込んでいる日番谷は目も向けずに答える。
二人が親子だと聞かされても別にどうと思わなかった。
寧ろ、のほうがしっかりしているじゃないかと思ったくらいだ。

「今回のことも騒いでいるの一部の奴らだけだろ?あとは皆普通じゃないか」

噂好きの者とか、修兵に憧れていた子とか。

「うん。かもしれない。さっきここ来る時に卯ノ花隊長に会ったけど、別になんも言われなかった」

卯ノ花はすでに知っていたような顔をしていた。
以前病気になった時に、修兵から聞かされていたようだ。
医術を心得ている者として、決して秘密を口外することもない。

「恋次とイヅルだけは知っていたし、知り合いで騒いでいるの菊ちゃんだけだよ」

「松本……」

日番谷は今もどこかへ行ってしまっている副官を思うと頭が痛くなる。

「それで。お前は死神になりたいのか?」

「え。あーうん」

素質はあるのだろうと前々から日番谷は思っていた。
それは出会った頃からだ。誰も何も言わないし、本人も言わなかったので黙っていた。

「とりあえず、勉強しないと駄目だよな。学院に入るために」

死神になって楽をさせてやる。
それが家族だった人たちとの約束だから。

「冬獅郎、教えてよ」

「はあ?何で俺が俺は忙しいんだよ」

「だよなぁ。やちるは…無理だよな」

あっさり除外されたことにやちるは頬を膨らませ反抗する。

「酷い、。あたしにだって教えてあげられるよ」

「まあ副隊長だもんな、やちるも」

「そうだよーあたし、副隊長なんだから、いっぱい頼ってくれていいんだからね」

えっへんと胸を張るやちる。

「そうだな、いつか頼る」

「いつかじゃダメー」

すぐにではないが、少しずつ勉強は始めようと決めた。



***



「そうか…そういう経緯があったのか。それは辛かっただろうね」

淹れてもらった茶にも手をつけずに修兵が語ったことに浮竹は数回頷いた。

「俺、あいつがそんな風に俺のこと思っていたの知らなくて、わかってなくて」

だから浮竹と一緒にいる姿を見て嫉妬した。
女じゃあるまいし女々しいと自嘲してしまう。

君はね。俺に言ったよ。お義父さんに拾ってもらえただけで、ここにいるだけでも良いとね。だから余計なことは些細なことでも望むつもりはなかったようだよ」

「………」

「それでも、いつもお義父さんのことを考えてはいたみたいだよ。誕生日とか七夕とか」

「………」

「俺が君と出会ったのも、きっかけはお義父さんだったな」

何やら公園のベンチで落ち込んでいた少年。
年に似合わず溜め息をついていたので思わず声をかけてしまった。
そんなに時間は経っていないのに、懐かしいと思ってしまうのは、自分にとっても少年と過ごした時間がとても楽しい、心地良いものだったのだろう。

「俺、恥ずかしいです」

「そうかい?」

「ちっとも父親らしいことできていなくて、浮竹隊長の方がよっぽど父親らしいと…」

修兵の言葉に浮竹は微苦笑する。

「おいおい。俺はそんなんじゃないぞ。俺と君は友だちだ。
友だちだから彼の悩んでいることなどを聞いて、俺で答えてあげられることを伝えただけだよ」

よりも遥かに長く生きているから。
彼よりも知識も経験の量も多いから答えられる。
浮竹は新たに茶を注ぎ一口飲んだ。

「父親らしいってなんだろうね。俺も父親になったことがないからわからないよ」

「………」

「俺みたいのが父親と言われてもな。俺は我がままで自分勝手だぞ。俺から見たら君の方が良くできた父親に見えるよ」

どこがと言い返しそうになる。
単に浮竹が自分を持ち上げてくれているのかもしれないと思いながらも、少しばかり頬が緩む。

「すぐにはそう思えなくても、いつのまにかしっくりくることもあるよ」

「は、はい」

「焦らない焦らない。ああ、お茶冷めちゃったね、淹れなおそうか」

「あ、いえ。いいです」

「お茶請けも沢山あるから食べていってくれ」

どこから出したのか、お饅頭やらお煎餅やらたくさんの菓子を浮竹は修兵の前に出した。



***



「お。じゃねーか。どうした?」

「あ。本当だ。どうしたんだい?」

十番隊隊舎から出てきた時に恋次とイヅルに出くわした。
二人は久しぶりのの元気な姿に笑みが出てしまう。
も二人の姿を見つけ駆け寄ってきた。

「恋次ーイヅルー。ちょっと冬獅郎のとこ言ってた。二人は仕事だろ?」

「まあな。でもこれから昼飯食いに行くんだ。お前も来るか?」

いつもの食堂だと目立つからどこかに食べに行ってもいいなと考える。
だがが別の提案をしてきた。

「あんな。九番隊の副官室で食おうよ。俺弁当作って置いてあるんだ」

「弁当?珍しいことしたな。いつも先輩昼飯は食堂で食ってたじゃん」

「今日だけだよ」

愛妻弁当ならぬ愛息弁当らしい。本当にこの親子は…。
が息子だから良いものを娘だったらかなり溺愛しただろうなと想像がつく。
嫁になど行かせん!どうせなら俺の嫁にしてやるーぐらいになりそうだ。
いや、笑えない。

「それはいいけど、僕たちの分もあるの?」

「うん。沢山作った。最初から二人のこと誘おうと思ったし」

「ありがと、嬉しいよ。じゃあ行く?阿散井君」

「そうだな。行くか」

三人並んで歩き出す。
自分が一番小さいから二人を見上げながら。
なんとなく二人と一緒にいると錯覚することが多々ある。

「そういやよ。お前死神になりてーんだってな」

二人は昨日最後まで話しを聞いていたから知っているのは当然だろう。

「あ、うん。できれば。それが俺の夢で約束だから」

「約束って先輩と?」

は少し迷ってから首を横に振った。

「もう一つの俺の家族。家族だった人たちとの約束。俺が死神になったら皆を楽させてやるんだって」

「へぇ」

「でも、それはもう叶うことはないけど…」

いつになるかわからないけど、いつかそれを修兵の為にと思うようになった。
修兵が隠居した時、本当にいつの話かわからないけど、その時は自分がしっかり稼いでやるんだ。

「ついでに恋次とイヅルも楽させてやるぞ」

「お。生意気〜」

くしゃっと少し強めにの頭を撫でぐり回す恋次。
痛いけど嫌じゃなくて、はへへと笑い、小さく呟いた。

「二人は似てたんだよな…」

「ん?なに?」

「なんでもない!」

早く行こうとは二人よりも一歩早く駆けだした。
恋次とイヅルは似ていた。自分の一番の友だちに。
修兵は似ていた。自分の父親代わりだった人に。
後からそうかな?と勝手に自分が思っただけだと。
もう会えなくなった大切な人たちだけど、代わりに新たに出会えた大切な人できた。



「檜佐木副隊長。お疲れ様です」

「おぅ、か…」

「どうかしました?」

雨乾堂から隊舎に戻ってきて廊下でとばったりあった。

「ああ〜なんつーか、菓子食いすぎた」

「あら」

少し時間だけお邪魔して詫びと礼を述べるだけのつもりだったのに、途中から浮竹との世間話になり菓子を沢山もてなされてしまった。
おかげで今日の仕事はまったく手付かずになっている。

「悪い、仕事溜まっているんだろ?」

「少しだけです。急ぎのものはありませんし。だから少し休まれても問題ありませんよ」

「あ〜でももう昼だよな」

「はい」

「………どーすっかな」

「はい?」

この後と一緒に昼飯を食う約束をした。
沢山の弁当を。恋次たちの分もあるから彼らも呼ばねばならないだろうし。
でも、正直今飯のことはあまり考えたくない。

「修兵!」

「あん?…。なんだ阿散井たちも一緒か」

呼ばれて振り向けば息子が後輩たちとやってくる。
は笑って駆けつけてくる。
なんだ、可愛い所あるなぁ。そんなに俺がいいのか?などと思わず口元が緩む。
だが。

姉ちゃーん」

「うわ」

は修兵ではなく、に抱きついた。子どもだからできる出来事だ。

「びっくりした、君」

「ごめん。でもなんか急に嬉しくなった」

「なんで?」

「へへ、内緒だ…いてっ」

ゴツッと音がした。

「いつまで抱きついてんだ。も困るだろうが」

修兵が拳を握り締めて、もう一発殴る準備をしている。
はイヅルの後ろに隠れた。

「檜佐木先輩、大人気ないですよ」

「うるせー」

自分に飛びついて来なかったから面白くないのか。
に抱きついたのが面白くないのか。
………。

きっと両方だろうな。

姉ちゃんもお昼一緒に食べよう。俺沢山作ってきたから」

イヅルの後ろからひょこっと顔を出す。

「え。でも…昨日もご馳走になっちゃったし…」

「いいの。俺が姉ちゃんと一緒に食いたいの」

「行こう。姉ちゃん」

の手を引いては歩き出す。

が気に入っているんすねぇ。どうします、先輩。将来、の嫁になったら」

「なっ!」

「ま。軽い冗談っすよ」

修兵の気持ちを知ってか知らずか恋次は豪快に笑い飛ばす。
洒落にならんと歯がゆく思いながら修兵も副官室へと向かった。



姉ちゃんのこと見て、ううん。修兵と一緒にいる姉ちゃんを見てなんだか嬉しくなった。
先生と源二郎が一緒にいたところみたいだったから。

あ。そう言えば姉ちゃんと先生同じ名前だ。
何かの偶然かな。

俺。二人が一緒にいる姿見るのすごく好きだ。






戻る

騒ぎの翌日。でも、主に息子君の周りでのこと。浮竹さんじゃあ、こんな反応ですよね、きっとw
06/10/24UP
12/06/04再UP