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お父さんといっしょ。
【其ノ拾八】 十三番隊の隊首室とも言われる雨乾堂。 ここで隊長の浮竹十四郎が毎日生活している。 イヅルはルキアとともに訪れ、全てではないが、浮竹が預かっている子を知っていると伝え 面会させてもらうことができた。 「君。久しぶり…かな?」 いつも檜佐木家を訪れた時に見せてくる笑顔はなく。 膝を抱えて部屋の隅に座り込んでいる。 イヅルの声を聞いて一瞬表情が明るくなるがすぐさま塞ぎこんでしまった。 ちなみに今雨乾堂には二人きりだ。 ルキアにも、浮竹にも席を外してもらった。 浮竹には話すべきだと思ったが、の性格上全部を彼に話しているとは思えなかったから。 「最近、君が留守しているって檜佐木先輩から聞いてね。先輩も機嫌が悪いし」 「………」 イヅルはのそばに腰を下ろす。 「先輩の機嫌が悪いのは君が不在でつまらないって拗ねているからだと思っていたよ」 「………」 「何があったの?僕に教えてもらえるかな?」 「………」 「君…今、浮竹隊長もいないし、誰かに聴かれることはないよ?」 「別に…シロさんに聞かれてもいいよ。どうせもう関係ないし…」 「?」 ようやく口を開いたかと思えばの機嫌もよろしくないらしい。 「先輩となにがあったの?」 「……出てけって言われた」 「はあ!?」 何故?とイヅルは声を出してしまう。 あんなに仲の良い二人だったのに、が来てからの修兵は本当に楽しそうで。 女性死神たちからはクールで格好いいなんて言われている裏で実際はただの親馬鹿で 同性の死神たちからは厳しく尊敬できる人だなんて言われている裏ではただのだらしのない男で。 この人に親なんか到底務まるわけがないと思っていたが、親子という枠では納まらないくらい仲が良くて。 親子であり、兄弟みたいで、親友のような。そんな形に見えていたのに。 「詳しく聞かせて。ううん。聞きたいよ」 見た事のない顔を見せられてイヅルは少々腹がたった。 は頷きそうなってしまった理由をポツリポツリと話しだした。 *** 「檜佐木先輩!」 「阿散井副隊長?どうかされました?」 「あ…えっと…。そうだ、だったよな」 一度檜佐木家で夕食を一緒に食べた修兵の部下だという女性死神。 が姉のように慕っているなとその時思った。 恋次は九番隊の副官室に顔を出した。 その時、その彼女が恋次の声に驚きの眼差しを向けていた。 「……あれ?檜佐木先輩…檜佐木副隊長は?」 室内には修兵の姿がない。 のみで、彼女は書類の整理をしていたところだった。 「副隊長なら隊長代行の執務で席を外しています。でも、もうすぐ戻ってくるかと思いますが」 東仙がいなくなったことで修兵にかかる負担が一気に増えた。 それはイヅルも同じなのだが、イヅルの場合は逆にスムーズに執務がこなせると前よりは楽になったと言っていた。 「そっか……待たせてもらってもいいか?」 「はい。ではお茶をお淹れします」 は手馴れた感じで茶を淹れてくれた。 恋次は湯飲みをじっと見つめながら、修兵が来たらなんて問い詰めようかと考える。 はまた自分の仕事へと戻っている。 「なあ。お前もと仲良かったよな?」 「え?君ですか?……そうですね」 仲が良いと言われればそうなのかもしれない。 会えば「姉ちゃん」と声をかけてくれる。 「あいつからなんか先輩のこと聞いていないか?」 「副隊長のことですか?いえ、特には。あ、副隊長は甘いものが苦手だと聞きましたけど」 「…なんか違うな、そういうのじゃなくて……」 「はあ」 「あーほら、二人の関係とか」 この事に関しては、知っているのはごく小数。 東仙に修兵が自ら伝えたのと、恋次、イヅルのみだ。といくら仲が良いとはいえ彼女にも言ってはいなさそうだ。 「副隊長のご親戚だとか」 やはりそうかと恋次は肩を落とす。 「最近。檜佐木副隊長の様子はどうだ?機嫌悪いだろ?」 「お忙しいようですが、機嫌はそんなに悪くはないと……ただ、無口になられたような気はしますけど」 部下に八つ当たりはしていないようだ。 それはそうだろう。 修兵は結構部下との間に一線を引いている。 親しい間柄には色々容赦はないが、単なる部下にならば表面上は特に変わらないのだ。 まして女性にひどいことをするなどもっとないだろう。 「……あの。副隊長がどうかされたのですか?」 「あーいや、別に」 余計なことは言えないだろう。事が事なだけに。 早く修兵が戻ってくるのを待つだけだと、恋次は少し冷めた茶を一気に飲み干した。 修兵が戻ってきたのは、1時間もあとのことだった。 本来ならば自分も隊舎に戻り仕事をせねばならない恋次だったが、修兵と一度ちゃんと話したいと思ったので 上司の説教、嫌味その他諸々後の事を考えること怖いがあえて副官室に居残った。 修兵は恋次がくつろいでいる姿を見てあからさまに嫌な顔をしていたが。 「遅いっすよ、先輩。俺何杯茶を飲んだと思っているんすか」 「知るか。そんな事」 「茶で腹がたぷたぷっすよ。でも、美味い団子も食えたんでいいっすけどね」 「どっちだ。馬鹿」 少し乱暴に机の上に書類などを放り投げた修兵。そのままどっかり椅子へと座る。 自分がいて機嫌が悪いのか、ずっと前から引きずっているのかはわからないがその両方のような気もする。 「お疲れ様です」 「……ああ。悪いな」 は何も言わずに淹れた茶を修兵に出す。 少しばかり表情が和らいだ修兵に恋次の口元が緩んだ。 「先輩。俺が何聞きたいかわかっているんじゃないっすか?」 の前だが。あえて突っ込んでみる。 「さぁな」 「吉良が今、十三番隊に行っていますよ」 「……吉良が?なんだ、そりゃ」 そんな話聞いてもと修兵は茶を啜る。 「」 「………」 「今、浮竹隊長が預かっているようですよ」 その言葉に修兵が一瞬動きを止めた。 の手も止まる。だがこちらは意味がわからず首を傾げている。 それよりも自分がここにいてもいいのかと困惑してしまう。 「なんでも浮竹隊長が泣いている子どもを抱いて戻ってきたそうで」 「………」 「すっげー情緒不安定なんだそうっすよ」 「………」 「あんた。いったいに何したんすか!」 ずっと家にいなかった。 少し前に檜佐木家に行ったとき、はいないと答えた。 来ても意味はないと。 あの時の意味はわからなかったが。 「」 「は、はい!」 「悪ぃけど、しばらく席を「いーや。出る必要ねーぞ」 「阿散井」 「先輩、こいつ出したら上手いこと言って逃げるでしょ。逃がす気ないっすよ、俺は」 「………」 「どうせ、もうじき理由を知った吉良も乗り込んでくると思いますけどね」 いつもの爽やかな嫌味程度じゃすまないであろうと想像できる。 「は関係ねーだろうが」 「無関係だから聞いてもらえばいいんすよ」 「何勝手なこと言ってんだ、馬鹿野郎が」 少しばかり手厳しい副隊長の顔ではない修兵。 怒気、殺気みたいなピリピリした空気が漂う。 二人とも副隊長だ、互いの睨みなどに怯む様子もなく真っ向から対峙している。 剣呑な様子へと変わっていく二人にはどうすればいいのかうろたえた。 *** 一通り話を聞き終えたイヅルは大きな溜め息をつく。 「い、イヅル」 「本ッ当に…先輩も馬鹿だよね」 思わず畳に拳を叩きつけたくなる。 だがここは仮にも他所の隊の隊首室変なことはできないだろう。 「で、でも一番悪いのは俺だし…」 「そうだね。君も馬鹿だよ」 キュッとの鼻をつまむイヅル。 「い、いてぇ」 「君が思ったこと。ちゃんと先輩に…お義父さんに言わなきゃ駄目だよ」 フッと和らぐイヅルの眼差し。 「イヅル」 「僕が伝えてもいいけど、やっぱり君が自分の口で言わないと信じてもらえないと思うよ」 手を離しイヅルはの頭を撫でた。 「大体ね。君は考えすぎだよ。あの人そんな事絶対考えていないから」 「そ、そうなのか?」 「今回のことも単純に先輩が浮竹隊長に嫉妬したようなものだろ?」 「…嫉妬?」 「君を浮竹隊長に取られたーとでも思ったんじゃないの?それにプラスして色々悪いこと考えたんだろうね」 呆れたとイヅルは肩をすかす。 「この際。隠すのもうやめた方がいいよ」 「………」 「そりゃあ君が、先輩より浮竹隊長の家の子になりたいっていうなら別にいいけど」 「嫌だ!俺…うちに帰りたい!」 小さく縮こまっていただが顔をあげて立ち上がった。 ちゃんとは修兵と暮らしたあの家を自分の家だと思っている。 イヅルはそうだねといい、立ち上がる。 「君。お義父さん好きかい?」 「………うん。馬鹿でどうしようもねーけど、放っておけない」 「あはははは」 しっかり愛されていますよ、檜佐木先輩。 イヅルは雨乾堂を出る。振り返ってにも行こうと促す。 「そのお馬鹿なお義父さんにビシっと言ってあげなきゃね」 「うん!」 ここに来て。初めて自分の足で外に出た。 「君」 「シロさん!」 すっかり晴れ晴れとした顔になっていたに浮竹は少し驚く。 イヅルが浮竹に頭を下げる。 「シロさん。色々迷惑かけてごめんなさい。ありがとうございました。俺もう大丈夫だから」 「そうか」 「またさ。公園で話しよう…あ…してくれる?」 浮竹は面くらいがすぐさまいつもみたいに笑い袖の中から菓子を取り出した。 「俺の方こそ楽しみにしているよ。これ、お義父さんと一緒に食べなさい」 「ありがとう!」 他の隊士さんたちにも迷惑をかけたとはいう。 本当にしっかりした子だと浮竹は思いながらイヅルに問いかける。 「すごいな。吉良君は。いったいどうやって元気づけてやったんだ?」 「ただ。君の義父が馬鹿だったってことを話しただけですよ」 「君はお義父さんが誰か知っているんだね」 「知っていますよ。浮竹隊長もご存知です」 「へぇ。誰だろうな、気になるな〜」 「今度、その馬鹿な義父つれてきますよ。浮竹隊長に土下座するべきですからね」 笑顔でキツいこというイヅルに浮竹は苦笑し、そこまで馬鹿を連呼されてしまう義父が哀れでしょうがない。 「その馬鹿な義父は君ではないよね?」 聞いた後に後悔してしまう内容だった。 イヅルは爽やかな笑顔で否定した。 「まさか。あんなにいい子を平気で泣かすようなだらしのない義父に見えますか?」 「…見えないな…はは」 さあ。修兵に思っていることを伝えに行こう。 また元通りに親子に戻りたいのだから。 パパはくすぶっているから、後輩たちが頑張りますw
その中でもイヅル最強。
06/10/14
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