お父さんといっしょ。




ドリーム小説
【其ノ拾七】





「敵討ち。自分の手でと思うだろうけど、俺がやる。下がっていろ」

修兵は抜刀し、構える。
調べていた事件の犯人はコイツだとわかりやすい結果に笑みを浮かべる。
だがそれは嬉しいという笑みではなく、自分に対しての嘲い。
もっと早く虚を・・・・野放しにしていた自分たち死神が腹立たしい。
いつだって弱い奴がやられてしまう。
死神はそんな弱い人たちを守れる力があるのに…。

「ソ…ソンなとこロにいた…」

「?」

姿を見せた巨大虚。人型になりかけという感じの見た目。
だからか、知能がさほど発達していないように見える。

「うまそうな…ニオイ…喰わセロ」

「てめー何いってやがる」

修兵の眉間に一層力が入る。
虚の周りには幾人もの斬魄刀を構えた死神がいるのに、その姿は目にはいっていない。
虚の目的は修兵の背後にいる子どもだと簡単にわかる。

「おとなは…マ…マズイ…コドモ…うまい。でも…おまえがイチバンうまい」

チラッと修兵は子どもに目を向ける。
子どもは目をいっぱいに見開いている。虚のいう意味がわかったらしい。

「うまいタマシイ喰う…オレ…になる」

後半はよく聞き取れなかった。聞いているのが嫌だった。
だから修兵は二度とその口から馬鹿なことを言わせないように飛んだ。
瞬歩で周りにも邪魔させないくらいの速さで虚の頭上から斬魄刀を振り落とした。
斬魄刀の解放なんかせずとも、高度な鬼道なんか使わずとも。たった一閃で虚を黙らせた。

「あ…ウ?…」

虚は自身に何が起こったのか気づかないまま滅した。

「副隊長!」

隊員たちが駆け寄ってくる。
修兵は斬魄刀を鞘へ収め一息つく。そして隊員たちに改めて場の収拾を命じた。

「……あ」

いつの間にか子どもは姿を消していた。
修兵は子どもを捜そうとするが、東仙や各所への報告などでそれもできなかった。



***



数日が過ぎた。
本当に流魂街で人々を襲っていた虚は奴だったようで、その日以来ピタッと事件は起きなくなった。
その後の調査であの虚が襲ったのは高度な霊力を持っていた者あるいは霊力が開花しそうな者だったらしい。
らしいというのは、襲われた者が存在しないから確認のしようがないのだ。
あとは虚からの直接証言。修兵以外の隊員も聞いた。

「美味い魂を喰らう」

から推測したのだ。
大人よりも子どもで霊力のある者が奴の好みだったようだが。
最後の事件は不憫としかいいようがない。言い方が悪いが虚はあの子どもを狙ってきたのだろう。
だが子どもの姿はなく空腹に耐えかねて周りにいた人々を襲ったというわけだ。

例外的にあの家族だけは近くに埋葬した。みんな一緒のほうがいい気がしたのだ。
修兵が勝手にやったことなので、東仙に咎められるかと思ったが、別にそんなことはなく。
東仙は優しく笑ってくれた。

「あ。そうだ…」

修兵は副官室で雑務に追われていたのだがふと筆を止めた。
霊力のある者が襲われたとわかった。
虚はあの子どもに向かって「美味そうだ」といった。
姿を消してしまった子どもは今、どうしているのだろうか?
修兵が子どもといた時、そんなに強い霊力は感じなかった。

「………」

「し、失礼します」

「おう」

緊張した面持ちで入ってくる部下の
俺ってそんなに怖いのかなといつも思ってしまうが、顔にある傷などを思えば仕方ないかと諦めている。
は書類の束を机に置く。

「これに目を通しておいてください。あ、こちらは東仙隊長からです」

「おう」

一枚の書類を手に取る。だが内容は頭に入らない。

「……

「は、はい!」

「これ、急ぎか?」

「い、いえ。明後日までにです」

「そうか……じゃああとで見る」

「はい」

修兵は書類を置き、席を立つ。

「少し出てくる。なんかあったらすぐに連絡くれ……あ、その前に一つ頼んでもいいか?」

「は、はい!」

修兵は副官室を出る。そして気になっていた子どもを捜すことにした。
といっても手がかりなんかないから必然的に子どもが住んでいた場所へ行くしかない。

「………」

人の気配がしない半壊の家。
あの人違うのは倒れている人がいないだけだ。

「花だ…」

自分たちが埋葬したここの家族。その墓の一つずつに花がそえられている。
ただすでに萎れている。あの子どもは一度来たきりでもういないのだろうか?
踵をかえし家の中へと進む。
まだ籠もっている臭いに顔を顰めるが、こんな所にあの子どもが今もいるのか疑問に思う。
そもそも、なんで子どもを捜しに来たのだろうか?
霊力がある子どもってだけならば、別に自分じゃなくても隠密などに捜索させればいいだけだ。

「俺、死神になって、み、皆のこと食わせてやるって言ったじゃんか。源二郎も楽させろって言ったじゃないか」

ああ、そうだ。そんな言葉を聞いたからだ。
家族の為にと思った子どもの心が修兵に響いたのだ。
死神になりたい理由なんて人それぞれだ。誰かの為になろうと思うのが珍しいと思った。
そういえば、自分は何で死神になりたいと思った?
難関だと言われる学院に一度落ちているのに、わざわざまた受けなおして。
六回生になる頃には卒業前に護廷十三隊への入隊が決まるほどの優秀者として見られて。
でも、同期の二人を突然の出来事で救えず亡くした。
そこまでして、死神になろうとしたのは何故だったのだろうか。

二階へ繋がる階段を昇るとミシミシと音がする。
古い作りの家だが、虚が暴れた為に少しばかり不安定なようだ。
用心しながら修兵は一歩ずつ進む。

「あーあ。ぐちゃぐちゃだな……」

無残に壊された家具ばかりが目に付く。
長いことここにいると気分が滅入ってしまいそうになる。

「おい。坊主、いねーのか?」

子ども一人ならばどこかに隠れていると思ったのだが。
修兵が呼びかけると、奥の襖からガタっと音がした。

「いるってことか」

襖を開けると数日前と同じように身を縮めて膝を抱えたあの子どもがいた。
手も服も泥だらけ。どこで何をしていたのだろかと思うくらいに。

「ずっとここにいたのか?ここ、危ねーぞ?」

「………」

「………あの花はお前か?よく見つけてきたな」

ピクリとわずかに身体が動き、顔が上がった。
修兵の顔をジッと見る。随分泣きはらしたのだろう、目が真っ赤で瞼が少し腫れている。

「腹減ってるんじゃねーか?」

修兵は握り飯を子どもの前に差し出した。
それはここに来る前にに頼んで握ってもらったものだ。
子どもはきっと腹を空かせているに違いないと思った。
どういう原理かは知らないが、霊力が宿ると空腹を感じるようになるのだ。
家族が亡くなり一人になってしまった以上、この子はずっと物を口にしていないような気がしたのだ。

「と。その前にここ出ようぜ。外で食うほうが美味いぞ」

「………」

「お前、死神になる気あるか?あるなら連れていってやる」

死神にと言う言葉で子どもの目の色が変わった。

「わ…わかんない……」

「そっか…まあ、霊力があるからって全員がなれるとも限らねーしな」

一度子どもから視線を外し修兵は頭を掻く。

「だけど、いつまでもここにいてもしょーがねーだろ?俺んとこ来い」

「………」

「お前一人ぐらい養えるぞ、俺は。副隊長だし」

自分でも驚いた。そんな台詞が出るとは思わなかった。
自分が養う理由なんてない。命じられたとはいえ事件調査の最中に出会っただけだ。
そこまでする理由がない。ないけど、何故だか放っておけなかった。

「出て来い。ずっとそこにいる気か?いるならやっぱ陽の当たる場所がいいぞ」

大きな手を差し伸べた。とるかとらないかは子どもの自由。

「………」

修兵の申し出に子どもが戸惑っているのがわかる。自分が何故?と思うくらいだ。
この子も同じように思ったのだろう。だがおずおずと手が伸びようとしているのがわかった。

「決まりだ。ほら、出ろ」

すぐにまた引っ込みそうだった小さな手を修兵は強引に掴んで引っ張った。
引っ張りそのままヒョイと抱えた。

「お前。名前は?」

…」

か。俺は修兵。檜佐木修兵だ。お前は今日から檜佐木。決まりだ、俺が決めた」

ニカっと笑った修兵に、子ども、も笑おうと口元を緩めるが、すぐさまこみ上げて来たものの所為でぐしゃぐしゃの顔になる。

「いいぞ。好きなだけ泣け」

「うっ…うっ……先生…源二郎…」

修兵の首にぎゅっとかじりつく。

「俺はお前を一人になんかしねーからな」

優しくの背中を撫でる。その行為が余計にを泣かせた。わんわん泣いた。
でも修兵がずっとを泣かせてあげた。
その日から二人は家族になった。

なったのに。

「…約束破っちまった…」

修兵は大の字になって天井を睨みつづけた。



***



「檜佐木先輩。滅茶苦茶機嫌悪ぃ」

「みたいだね。君は相変わらず留守なんだって?」

食堂で遅めの昼食をとっていた恋次とイヅル。
普段ならここに修兵が加わりの話なんかをしたりするのだが。
この所修兵は恋次たちと行動を共にしないし、も不在らしい。
恋次たちは単純にがどこか友だちの家にでも泊まりにいるのだろうと思っている。

「親馬鹿もここまでくるとなんつーか」

「でも檜佐木先輩変わったよね。君が来てからのほうがよく笑うし」

「まあな。金遣いの荒さも治ったよな」

「そうそう。おかげでこっちがたかられることもなくなったし」

逆に夕飯をご馳走になりにいっている。

君早く帰ってきてくれるといいんだけどね」

「だよな……の作ったコロッケ美味いし」

食堂には恋次たち以外に人の姿はなかった。はずなのだが、恋次は視線を感じた。
視線の送り主は恋次の良く知っている子で自然と顔が緩んだ。

「ルキアじゃねーか。お前も飯か?ならここ来い。一緒に食おうぜ」

幼馴染のルキアだ。彼女とはずっと一緒だったが朽木家に養子に入り殆ど接触することがなかった。
今は以前と同じように気軽に話しかけられるようになった。
理由は色々だが、ここではまあいいだろう。
恋次に呼ばれたルキアは何か考え込むような表情をしながら歩いてくる。
イヅルもルキアに挨拶をし、ルキアもそれに反応する。

「吉良殿もおかわりなく」

「朽木さんも」

「どうした、ルキア」

「あ、ああ…なあ恋次。先ほどお前が口にしていた名前だが」

ヤバイ。イヅルと二人だからと平気でのことを口にしていた。
は自分たち以外の者に修兵との関係を知られるのを好まないようで、日々それを修兵が愚痴っていた。
最近ではあまり気にすることもなくなったようだが。

「な、なんのことだ?」

「先ほどと言っただろう?」

「そう、だったか?言ったかもしんねーけど、どこにでもあるような名前じゃねーか」

修兵に叱られることはなくとも、に嫌われるのは嫌だと多少焦ってしまう。
恋次の焦りようにイヅルが助け舟を出す。

「朽木さん。その名前がどうかしたの?」

「……浮竹隊長が預かっている子がというのだが」

「「浮竹隊長?」」

何故そこに彼の名前が出てくるのだろうと恋次とイヅルは顔を見合わせた。

「ルキアその話詳しく聞かせろ」

「う?うむ」

ルキアは一通り話した。
数日前に浮竹が子どもを抱いて雨乾堂に戻ってきたこと。わけあって浮竹が預かっていること。
名前は。だが、本人が少しばかり情緒不安定なためにしばらく放っておいて欲しいと言われたそうだ。
一時期隊内では浮竹の子ではないかと騒然としたそうだが、浮竹のこととなると結束力が一段と増す十三番隊。
このことは他言無用と他に漏らさないようにしていた。
ルキアが今、食堂に来たのもその少年が何故か親子丼ばかりを好んで食うので食堂で作ってもらい食器を返しに来たのだ。

「毎日親子丼ばかり食ってな。親子丼をそこまで食す子も珍しいなと思った」

その時に恋次の姿を見かけたので声をかけようと思い近づいた所で少年と同じ名前が出たから思わず立ち止まってしまったそうだ。

「………俺、先輩の所に行ってくる」

恋次はイヅルの返事も行かずにさっさと席を立つ。

「うん。行ってきなよ。僕は君に会いに行くよ。いいかな、朽木さん」

「あ、ああかまわないと思うが」

ダメならきっと浮竹が断るだろう。
ルキアは何か余計なことを言ったのだろうかと少し困惑する。
恋次は口を一文字に結び眉間に皺を寄せて怒っているようだし、イヅルは少し悲しげな目をしているし。

「吉良殿、いったい」

「ん?ああ…気づかなかった自分たちが悔しいだけかもしれないから」

「はあ…」

恋次の姿はすでになく、イヅルはルキアに行こうと促した。








出逢いはこんな感じでした。
06/09/21UP
12/06/04再UP