お父さんといっしょ。




ドリーム小説
予感ではないが。
初めて会った時になんとなく…思ったんだ。
この人は俺の…。





【其ノ拾六】





俺はそこで最初の家族と暮らしていた。
流魂街にいる人たちの大半は現世で死にここへたどり着いた魂魄だという。
一定期間そこで過ごした後に再び現世への転生果たす…んだって。

っていうのはそう教えてもらった。
教えてくれたのは俺たちを育ててくれている先生。
先生は優しくて綺麗で物静かな人ってのはたまにで、いつもぷりぷり怒っている。
それは俺たちが言う事を聞かない悪ガキだからだろうな。

流魂街はとても広い。
広いから治安の差が激しいらしい。
俺らの住むここは比較的安心して暮らせる場所だ。
だいたいが流魂街に来た時に勝手に振り分けられて他人を家族として暮らすんだと。
俺はよくわからない。
覚えていないというのが正しい。
赤ん坊の頃に先生と源二郎が拾ってくれた。
だから現世で自分がどうしたってのは知らない。
もしかしたら流魂街で生まれたかもしれないとは言われたけど。そんなのどっちでもいい。
先生と源二郎が親代わりで十分だ。

この家には俺以外の子どもも沢山いた。
同じように先生が拾ってくれたり、いつの間にか住み着いたり。
元々流魂街の住人は腹を空かせることがないから人が増えたところで困ることはないらしい。
先生たちも賑やかになって楽しいって言っていたし。

だけど。俺だけ少し違った。
皆が感じない空腹をごくたまに感じた。
最初はそれが空腹だとは気づかずなんか悪い病気にでもなったのかもと一人で随分悩んだ。
他の皆と違うというのが俺にはすごく嫌だったらか。

その事を話せたのは弘幸と陽太だけだった。
弘幸は俺より少し年上で皆の頼れる兄貴みたいな奴で陽太はいつもニコニコ笑っていて俺と同じくらいの年だ。
最初は二人にも言うのが嫌だった。
嫌われたくないってのもあったし。
でもそんなのは杞憂って奴で。
弘幸には「本当に病気だったらどーするんだよ、馬鹿!」って怒られた。
幸い病気じゃなくて腹が減っていただけだってわかった時すごく二人には笑われたけど。

「きっとには霊力があるんだよ」

「霊力?」

「すげーじゃん。そしたら死神になれるぞ、は」

「死神になんかなりたくないよ、別に…」

「なんで?死神になるってすごいんだよ」

「そんなことしたら、ここから俺出て行かなくちゃならないじゃん」

…」

「俺だけ仲間はずれは嫌だよ」

弘幸と陽太はニシシって歯を見せて笑った。

「わ。なんだよ!」

すこり乱暴にくしゃくしゃと頭を思いっきり撫でられた。
兄貴みたいだとは思ったけど、そこまでガキ扱いされる覚えはないぞ!

「仲間はずれになんかするかよ」

「そうだよ。死神って誰でもなれるわけじゃないんだよ。だからすごいねってきっと僕たち喜んじゃうよ」

「………」

「そうそう。先生と源も驚くぞ。つーか驚かせてやろうぜ」

「その為にはお腹が空くってことちゃんと先生たちに言わなきゃ」

じゃないとが倒れちゃうよって陽太が言うから仕方なく頷いた。
二人は俺がもし死神になっても変わらないって言ってくれた。
今だって逆に俺の体のことを心配してくれる。
だから正直に先生に話した。源二郎は弘幸以上に俺の頭をすげー撫で回した。
源二郎の手は弘幸より大きくて大人だったから痛かった。

元々食事のしたくなんてのはしなくてもいい場所だったから
ちょっとしたものを食えればいいかなって思っていた。
でも翌日から先生たちは畑を作ろうとか言い出して裏庭にそんなに作ってもしょうがないってくらいに
苗木や野菜の種を植えてくれた。
俺以外の人が食べれなくてもできたものは街で売ればいいって話になって。
それで先生たち以外のやつらにも俺の霊力のことがわかった。

やっぱり杞憂なんだ。

皆俺を仲間はずれにするどころか、すごいって俺以上に興奮してた。
それから野菜の売上げで飴などの菓子を買って皆で食べることが俺の小さな楽しみだった。
俺が料理を覚えたのもこの頃からだ。
霊力がなく食事の意味のない先生に教わった。
と言うより何でも作れた先生がすごかった。

「来年はお米作りにでも挑戦してみっか?」

楽しそうに収穫された野菜を見て源二郎がいう。

「源、米なんか作れるんか?」

弘幸が収穫したじゃがいもを籠に詰め込みながらいった。

「おう。俺は元々農民の出だからな。それくらい軽いぞ」

「ふーん。源さんただの暴れん坊じゃないんだね」

「なんだと、陽太」

源二郎は先生と呼ばれるのを嫌う。俺はそんな偉い人じゃないからと。
だったら私もそうよ。って先生も言うけど源二郎は「さんは皆の先生だからいいんだ」って笑う。
先生を「お母さん」みたいだと思うけど源二郎を「お父さん」とは思えなかった。
どちらかと言うと源二郎は大人だけど、俺らと変わらない「悪がき」みたいだったからかもしれない。
大人としてしっかり先生を守っているらしいけど、俺らの前じゃいっつも笑顔見せて一緒にあちこちで遊んでくれたから。

。沢山食って大きくなれよ。んで俺を楽させてくれ」

「なんで源二郎を楽させるんだよ。そんなの一番に優先するのは先生だろ」

「おう。それはもっともだ。でも死神になるってのは大変だからな」

「え」

「楽しいだけじゃやっていけないらしい。でもお前ならなれるって俺は思うから、頑張れ」

「源二郎……なんだよ、急に」

「まあいいじゃないか。んでさ、疲れたらたまにここに帰ってきて愚痴でもなんでも零せばいいんだよ」

「俺、まだここ出て行かないぞ」

「そうだなあ。お前の今の頭じゃ学院にも入れないだろうし。しっかり勉強しろよ?」

わしわしと撫でる大きな手。
痛いけど、嫌いじゃない。源二郎は俺にとって大きな友だち。でもやっぱり「お父さん」なのかもしれない。





その日は特にこれといってなにもなかった。
いや、毎日そうだ。皆と楽しく仲良く過ごしたから。
先生にちょっとイタズラしたのがバレて怒られそうになったから弘幸たちと逃げ回って。
逃げ切れると思った時に先生の助っ人として源二郎が変わりに追いかけてきてあっさり捕まった。
弘幸、俺、陽太と一発ずつゲンコツを貰った。源二郎にそれでチャラだって言われた。

「くっそ。源のやつ容赦ねーんだから」

先生のことになると怖いもんね、源さんは」

「それがわかってて先生にイタズラ仕掛けるのやめろよな」

「だって先生の反応面白いんだもん」

「だよね。それは僕も少し思っちゃう。だってそうでしょ?」

「……実は」

「ほーら、も同じだろが」

「って、懲りねー奴等だな、本当お前らは」

背後で指を鳴らす音がした。

「げっ、源!」

「源さんちょっと待ってよ」

「うるせー。毎回くだらねーイタズラしやがって。ゲンコツ一発で勘弁してやったのにまったく」

「もうイタズラしてないだろ。先生の反応が面白いって話をしただけじゃんか」

「懲りてねーってことだろうが。罰として農具の片付けだ」

「「「えー!!」」」

「おやつ抜きとどっちがいい?」

「……片付け」

「よーし。さっさと片付けて置けよ」

源二郎に言われて三人で地下室兼物置へと鍬などの農具を片付けた。
今日は源二郎が片付けの番だったのに美味い具合に押し付けられたと俺らは文句を言ったりしてた。
でもおやつ抜きとどっちがいい?と言われて農具の片づけを選択したのはきっと俺のためだろうって思った。
二人は別に食事をしなくても平気だけど、俺は違うから。
二人がおやつを食うのも楽しみにしているのはわかるけど、食べられなければ「また明日でいいか」ぐらいで済むから。
俺はここ最近特に空腹が酷い。
でも一人だけバクバクと食うというのが嫌で我慢している。
それを言えばきっと先生も源二郎も弘幸も陽太も俺を優先してくれるだろう。
食事もおやつも。
だが同時にここでの生活が困難になっていくのを感じていた。
死神になれば空腹を感じることもなく暮らせる。
瀞霊廷という俺たちの想像もつかない場所での生活が。
飢えに困ることもなくいい服を着れて。

でも。一人は嫌なんだ。

俺だけがそんな暮らしは嫌だ。今の所死神になれる保証なんてのはどこにもないけど…。

「よし。終わった。源も文句は言わないだろ」

「うん。時間かかったけど使いやすいように他も片付けたもんね」

大丈夫か?なんか顔色悪いぞ」

「え?別に悪くないよ。ここ薄暗いからそう見えただけじゃないの?」

「そっかあ?でもなあ」

「………」

「陽太?」

「……なんかさ……」

「え?」

俺たちがいる場所は地下室になっている。
元々お酒とかを置いてあったらしいけど住んでいるのが子どもばかりだったからただの物置小屋と化していた。
陽太がくんくんと鼻を鳴らす。

「どうしたの?陽太」

「変な臭いがする」

「変?」

「俺が様子見てくる。火事じゃなきゃいいけど」

弘幸が梯子を上り地下室から出た。
陽太はずっと鼻に感じる臭いが嫌みたいで何度も鼻をこすっている。

「…弘幸遅いね。もし家事だったら俺らも行ったほうがいいんじゃないのか?」

「そうだよね。うん行こうか」

陽太が先に梯子を上る。

「……あ」

「陽太?うわ!」

梯子を途中まで上った俺だけど、陽太が勢いよく扉を閉めた。
急いでもう一度登って扉を開けようとしたけど開かなかった。
俺はこんな時に限って腹が減って力が出なかったのだ。

「陽太!陽太なんだよ!」

陽太が気づいたという変な臭いが俺の鼻を掠めた。

「陽太!陽太!弘幸!先生!源二郎!誰か、ねえ!誰か!」

一生懸命扉を開けようとしたけど声も届かなくて。
なんで今なんだろうって思いながら。

それからしばらく地下室から出られず、隅で蹲っていた。
変な臭いが。
俺の想像通りなら、きっと外は酷いことになっている。
外に出なくちゃと思いながらも足が動かない。
先生が、源二郎が心配した俺を探しに着てくれるのをどこかで期待していて。
先に外に出た弘幸と陽太が俺を置いて行ったことを謝りながら手を差し伸べてくれるだろうって思って。



でも。待っても待っても。誰も来なかった。



どのくらい時間が経ったのかわからない。
でも地下室の重たい扉が開き、光が差し込んだことで思わず笑みが零れた。
人影からして大人だったから源二郎かなと思った。

「誰かいるか?」

誰だ?

「おい。出て来い。何もしねーから」

知らない大人の声だ。俺は咄嗟に身を縮めるが大人は勝手に中に入ってきた。
誰だこの人?先生でもまして源二郎でもない大人。
町で会う知っている大人じゃない。
怖くて。なんで迎えに来てくれるのが二人じゃないのだろうとか弘幸たちはどうしたの?って思いながら
必死で体を隠してみせる。
でも大人には俺のことがすぐにばれた。

「……いるじゃねーか」

怖い。
知らない大人がこんなに怖いと思わなかった。思わず身震いしてしまう。

「わ、悪かった。別に脅かすつもりはなかったんだ。なあ、お前ここんちの子か?」

すぐ目の前にいた大人の声に俺は顔をあげた。
なんだか不思議な感じがした。




大人の手に引かれて俺は地下室を出た。
でも出なきゃ良かったって思った。
陽太が気づいた変な臭いの正体は、やっぱりそれで。
それらは俺の大切な人たちから出ていた。

「………」

声にならないとはこのことだろう。
家は半壊。太陽の光をいっぱいに浴びて乾いていただろう洗濯物は地面に落ちて汚れていて。
せっかく皆で作った畑も滅茶苦茶だった。

「……何が起こったか、お前は知らないのか?」

「………」

「俺らもさっきここに到着したばかりでな…非常に言いにくいんだけど、お前以外の人は皆死んでた」

非常に言いにくいってなんだよ、この大人。
すげーはっきり言ってるじゃないか。
俺以外ってなんだよ。

「あ!おい」

俺は先生たちを探したくて。大人の言った言葉なんか信用できなくて庭、家の中、それぞれの部屋に向かった。

「こら。一人で行くな」

大人は簡単に俺に着いて来た。
部屋のアチコチで倒れていた家族と呼んだ人たち。
陽太は俺を助ける為に地下室の扉を閉めたんだ。
弘幸と一緒に他の子たちと一緒に部屋の隅で倒れていた。
先生は源二郎と一緒に二階に上がる階段で。

本当に。俺以外の家族が。皆死んでた。

「……先生………源…二郎」

何かあったのかわからないけど最後まで先生は皆を。
源二郎は先生を守ろうとしていたらしい。

「ねえ。起きろよ。源二郎」

動かないとわかっていても源二郎の体を俺は何度も揺すった。
朝中々起きない源二郎をいつも起こす時みたいに。

「源二郎。なんだよ、起きろってば」

「おい。お前」

先生も。こんな所で寝るなんて行儀悪いぞ」

先生の体はいつもみたいな温かさがなかった。
それでも俺は必死で起こそうとして。

「もうイタズラしないから。いい子にしているから。先生。先生!起きてよ!」

呟いたときに、ボロッと涙が零れた。
泣いてしまったら認めてしまう。
先生たちが死んでしまったことに。俺が一人になったことを。
でも涙は止まらなくて。

「俺、死神になって、み、皆のこと食わせてやるって言ったじゃんか。源二郎も楽させろって言ったじゃないか」

「どけ。邪魔だ」

急に俺は先生たちから引き離された。
大人が俺の体を引っ張った。
他にも大人はいたようで、先生たちはそいつらに運ばれていく。
先生だけじゃない。弘幸も陽太も、皆…。

「なんだよ。先生たちどこに連れて行くだんよ!離せよ!」

「馬鹿野郎。あの人たちはお前の大事な人たちなんだろ?いつまでもあのままにしておいていいのかよ」

「…だからって……なんだよ…」

知っている。わかっている。でも。そんなの。そんなこと言われても俺は。

「敵はとってやるよ」

くしゃっと大人に頭を撫でられた。
なんだよ、こいつ。源二郎みたいで嫌だ。
思い出して余計に涙が出る。

「檜佐木副隊長!」

「どうした!」

「虚がいました!恐らくここら一帯を襲った奴だと思われます」

「わかった。お前はこいつを」

虚?虚って死神が戦う相手とか言うやつか?
そいつが皆を襲ったのか?何の為に?
俺のそばにいた大人は死神で檜佐木副隊長って呼ばれていた。
他の死神に偉そうにあれこれ命令していて。

「敵討ち、思ったより早くに討てそうだな」

バサバサバサと近くの木から鳥が一斉に飛び立った。
さっきまでそこには何もいなかったのに。
すごく大きな変な奴がいた。


ああ。こいつだ。変な臭いがする。









息子君視点の過去。女先生も源さん、弘幸、陽太オリキャラですけど、ちょっとしたことありですw
早く仲直りしてくれよ〜
06/08/30UP
12/06/04再UP