お父さんといっしょ。




ドリーム小説
【其ノ拾四】





「修兵…遅い…」

現在隊長代行を務めているのだから以前よりも群と忙しくなったのはわかる。
ちゃぶ台に伏せておいてある茶碗。
きちんと並べておいてある箸。
修兵の茶碗はの茶碗と色違い。沢山食べるからと深めで大きいもの。
箸も色違いで修兵は黒の竹の模様のものでは青。
どれも修兵のものに比べたら一回りサイズが小さいのがのだ。
壁にかかった小さめの柱時計に目をやればすでに深夜を回った時間。
子どものが起きているのは遅すぎる時間だ。

「遅くなるならいつも連絡よこすのに…」

それに気が回らなくなるくらい忙しいのだろうか?

「………」

もう片付けて先に寝ようかと思い始めた矢先に玄関の方が騒がしくなった。

「ほら。着きましたよ、先輩。っと、しっかり歩いてくださいよ」

「恋次の声だ」

は玄関へと向かう。
急いで開けると恋次に肩を借りて歩いている修兵がいる。

「修兵?」

悪い!先輩飲みすぎでさ。もう最悪」

「飲みすぎ?」

「なんでこんなになるまで飲むんすか。まったく…」

呟くように煩いと恋次に言う修兵。
そのままあがりこむ。

「先輩の部屋に連れていくから。布団敷いておけよ」

「う、うん」

先に階段を昇り言われたとおりにする。
こんなのはたまにある光景だ。
修兵は客が来たときしか自宅では飲まないから、決まって恋次たちと飲んでくるとこうなる。
でもいつもと違う気がする。
飲むと煩いくらいに明るい修兵だけど、騒ぐことなく口を結んだままだ。

〜お父さんのお帰りだぞ〜」

と酔ったままに抱きつき、放せとなんとか逃げ出そうとする
それがよくあることなのに。

「先輩、ほら寝てくださいよ」

そのまま布団になだれ込んだ修兵。
恋次は重たい荷物がやっとなくなって大きく息を吐きながら腕を回している。

「んじゃ、俺はこれで」

「泊まっていかないの?いつもそうじゃん」

階段を降る恋次には後ろから話しかける。

「んーそうするつもりだったんだけどな。なんか先輩機嫌悪いから帰る」

「修兵……機嫌悪いのか?」

「あ!そ、そんな人をお前に押し付けるみたいで悪いけどよ。…・あーほら、こういう場合俺よりのほうが適任つーか……悪ぃ」

「いいよ、別に。ここに来るまでに恋次に沢山迷惑かけたっぽいし」

いつものことだと諦めた感じに答えるに恋次は苦笑した。

「じゃあな」

「おう。恋次も気をつけてな」

恋次を見送り、玄関の鍵を閉める。
家中戸締りをしたあとにちゃぶ台の上のものも片付ける。
残ったおかずは翌朝食べればいいかと考えながら。
風呂はすでに済ませた後だったのでそのまま二階へ向かう。
寝る前に修兵の様子を覗く。
飲みすぎたと恋次が言っていたのできっと熟睡しきっているに違いない。
だが。

「………修兵?」

先ほど布団に転がり込んだ修兵は窓を開けて窓枠に腰掛けて外を眺めていた。
修兵は顔を向けずに答える。

「なんだ?」

「寝ないのか?」

「それはこっちの台詞だ。もう寝ろよ、お前は」

「………」

「寝ろ」

「うん。おやすみ」

「……おやすみ」

そのままスーッと襖は閉まる。
隣の部屋へと消えた気配に修兵は静かに目を瞑った。



***



修兵が変だ。
何か隠しているのか何かあったのかまではわからないが、明らかにいつもと様子が違うのがわかる。
その証拠があまり目を合わせてくれないことだ。
自分は目つきが悪いから怖がられる。なんて言う事を修兵はよく言っていた。
でもは別に怖がることもなくいつも修兵の目を見て話していた。
最初の頃は修兵の方が少しそらし気味だったが、が気にしていないことに気づくと目を合わせてくれるようになった。

「修兵」

「ん」

「なんか変だぞ」

「そうか?」

「変だって。絶対変だ!なんだよ、いったい」

「………別に」

「修兵」

気になるから何度も修兵を問うが修兵は何も言わずに逃げてしまう。
は仕事のことならば聞いてもわからないが、仕事のことだからと言って逃げられる理由がわからない。
だから何度も聞く。
そして何度目かの問いにようやく修兵の口が開いた。

「お前さ」

「うん」

「ここにいて楽しいか?」

「へ?楽しいよ」

何言っているのだとはキョトンとした顔で答える。
でも修兵の声音は低くいつもと違うのがわかる。

「楽しいに決まっているじゃん。変だぞ修兵」

「本当はもっと別の所に行きたいとか思ってねーか?それか……無理やり連れてきやがってとか」

「な、何言うんだよ!俺そんなこと思ったことねーよ!」

修兵の言葉が胸に突き刺さる。
急にそんな事を言い出す意味がわからない。

「思っているから、俺と親子だっての人に知られたくないんじゃないのか!?」

淡々と言っていた修兵だが、最後には強く言い放ってしまう。

「何が檜佐木の親戚だ!他に理由があるのか?あるなら言ってみろ!」

「修兵…俺」

「いつまでもここにいないで浮竹隊長の所にでも行ったほうがいいんじゃないのか」

「だ、誰だよ。知らないよ、そんな人」

「あーそうだ。どうせなら浮竹隊長に拾ってもらえれば良かったな」

胸に感じる痛みが段々大きくなる。
知らない、そんな人。拾ってもらえればって言われても…。

「公園で会ってたシロさんってのがそうだ。仲良さげだったじゃないか、ちょうどいい俺から隊長に頼んでやらあ」

(シロさん……が、浮竹隊長?)

修兵の態度が可笑しくなった理由。
急にこんなことを言い出した理由。
シロさんが隊長だと言う話。
いろんなことがごちゃごちゃに混ざって何がなんだかわからない。
下の方からこみ上げてくる何か。
痛みとか気持ち悪さとか色んなもの。

「おれ…いらないの?ここから出て行けってことなのか?」

「………」

「修兵!」

「ああ。いらねーよ」

「っ………わかったよ、いいよ。もう修兵の方がそう思っているならいいよ」

くっと唇を強く噛む
修兵に背を向けてそのまま家から飛び出した。

シーンと静まり返った部屋に立ち尽くしてしまう修兵。
後になってから自分が酷い言葉を吐き捨てたことに気づく。
子ども相手に何を言った?
あれが俺の本心なのか?
どうして、抑えきれなかった?

「おれ…いらないの?」

血の繋がりはない親子だ、自分たちは。
それでもあんな言葉を子どもに言わせてしまったことに後悔してしまう。
悔しかった。
と親しげに話す浮竹を見て。
自分なんかより父親らしくて、浮竹の前では子どもらしい顔をするが。
前々から思っていたことだ、が自分と親子だと言う事をひた隠しにすることに疑問を抱いていたのは。
何度か頭を悩ませることもあったが、一つ一つ解決し納得したつもりだった。
には自分が必要なのだと改めて思ったりもした。
なのに。

駄目だった。
ここまで考えておきながら、を突き放し。追いかけることもできなかった。



***



家を出たは一人とぼとぼ歩いていた。
これからどうしよう?と。
シロさん、浮竹のところにでも行けばいいなどと言われても、自分はシロさんを大きな友だちとしか思っていないのに。
恋次やイヅルとは違う。
修兵を抜きにして出会った人だったから。

「………」

公園には行きたくない。
カツシロウの家にいっても泊まらせてもらうことに抵抗がある。
修兵に「いらない」と断言されてしまった以上家に戻ることはできないのだから。
日番谷のところにでも行ってみようか?
ああ、そうしよう。
日番谷ならば理由を聞かずとも置いてくれるかもしれない。
そう思い行き先を十番隊隊舎へと変更する。
だが。

「やあ。君」

ニコニコと笑み立っている浮竹に呼び止められた。
いつも公園で会う時間だったようだ。
は悪いと思いつつも踵を返す。

「おいおい。どうした?」

浮竹はの後を追う。

「………俺。今シロさんと会いたくない」

「なぜだい?」

子どもの早足でも大きい浮竹にはすぐに追いつかれてしまう。

「だって……シロさん……俺」

は立ち止まって俯いてしまう。
小さな拳をギュッと握り歯を食いしばっている。
浮竹はの前にしゃがみ顔を覗きこんだ。
食いしばっているのは目に溜まった涙を堪えているからだとわかる。

君。どうした?」

「シロさ、ん…おれ…いらない……って言われて」

「いらない?」

ボロっと涙が零れた。
それが引き金となってはボロボロ泣き出した。

「おれ、いらないから、でていけって、しゅ、へが」

「お義父さんと喧嘩したのかい?」

しゃくりあげながらも浮竹に話す

「シロさん。おれ、家、なく、なくなちゃった」

君……よし。じゃあシロさんちに行こうか。それからまた考えよう」

浮竹はをひょいと簡単に抱きかかえた。
小さな背中を優しく撫でながら歩き出す。
泣きながら何度も口にする「しゅう」と言う言葉。
これが彼の父親の名前だろう。
ただの売り言葉に買い言葉の喧嘩で済めばいいのだが。








ただの親子喧嘩だったらよかったのに…。けど、息子君が本音を言わないとダメなんだよね。
06/08/09UP
12/06/04再UP