お父さんといっしょ。




ドリーム小説
【其ノ拾三】





一護たちが現世へと帰っていった。
折角知り合えたのにもうお別れとは。
は寂しく思いつつも、以前と同じように恋次やイヅルが顔を見せてくれるのが嬉しかった。
それに会うこともなかった日番谷とも話すことができたし。

「そっか。桃ちゃん入院中なんだ」

「ああ」

「冬獅郎も大変なんだな」

「俺は別に大変じゃねーよ」

「そっか」

「おう」

「また今度うち来いよ。ちゃんと飯食わしてあげるから」

「俺がちゃんと食べていないみてーじゃん」

「冬獅郎は真面目だから誰かが止めないとずっと仕事していそうだから」

それはどうかと思った。
本来ならば副官である乱菊がその役目を負うのだろうが、ここ十番隊は逆だ。
副官はあまり仕事をしない。
いつも日番谷が真面目にやっている。
止めてくれるどころか沢山仕事が回ってきそうだと苦笑してしまう。

「俺より、檜佐木は?あそこはもっと大変だからな」

「……修兵。何も言わないから」

「……」

「恋次もイヅルも皆忙しくて大変なのに笑っているし」

冬獅郎も同じだとは呟く。
また前のように話せるのが嬉しい。
嬉しいけど、子どものには気を使わせないようにとしている周りの心遣いが逆に嫌になる。
子どもだからお前には関係ないと言われているようで。

「ニラ玉」

ブスッとした表情で髪を掻きながら日番谷が言った。

「は?」

「ニラ玉食いたい。あと肉団子の入った汁物」

「………」

「今晩食いに行っていいか?」

唇を軽く尖らせそっぽを向く日番谷には口の端をあげてにぃっと笑う。

「わかった。ニラ玉に肉団子の入った汁物な。カボチャの煮付けもあるからちゃんと食えよ」

「ああ」

仕事を終わらせて夕方には向かうと日番谷が言ったので、そこで別れた。
は例の裏道を使って十番隊隊舎から抜け出す。
今日の献立は決まった。
確実に乱菊も来るだろうと予想して酒のつまみも用意しようかと考える。

家に向かって走り出すと、途中で見知った女性の後姿を見つけた。
彼女とも久しぶりだとの頬が緩み駆け寄る。

姉ちゃん!」

「ん?君。こんにちは」

沢山の書類の束を持って歩く
疲れていると見てわかる顔つきだ。
それでもの前ではそんな顔を見せないようにとニッコリと笑う。

姉ちゃんも忙しいのか?」

「うーん。少し忙しいかな」

「ふーん。あまり無理するなよ?姉ちゃん細いからすぐ倒れちゃいそうだから」

「あら、見た目ほど軟じゃないわよ、私は。それに私は大したことできないから」

疲れて大変なのに、大人は笑ってなんでもないと無理をする。
子どもの前では弱音は吐けないのだろうか?

「姉ちゃん。少し屈んで」

右手を上下に振る

「こう?」

は言われたとおりに屈んだ。
するとが持っていた書類の上に飴を数個置いた。

「甘くて美味しいよ、それ。さっき卯ノ花隊長に貰った。姉ちゃんにもおすそ分け」

「いいの?」

「うん。姉ちゃんは自分じゃ大したことできないって言ってたけど、俺も同じ」

ううんとは首を振る。

「俺の方が何もできないから。」

君」

「じゃあな。俺買い物あるし行くな」

姉ちゃんも無理するなよと手を振っては駆けだした。
は姿勢を戻し小さな背中を見送り笑んだ。



***



が九番隊隊舎に戻ると、どの隊員も忙しく動いていた。
東仙の裏切りは隊員たちに衝撃を与えた。
でも残された自分たちはのんびりと傷を癒す時間はない。
やることが山のようにあるのだ。
ただ、一生懸命動いていることで少しでもその傷を広げないようにしているだけなのかもしれない。

「あ。檜佐木副隊長!」

か。どうした?」

先ほどまで会っていた男の子とは対照的の育ちきった長身の男性の姿。
でもどことなく雰囲気が似ているような気がする。
親戚っていうだけで似るものなのだろうか?

「副官室に行く所でした。目を通していただく書類です、また増えちゃいましたけど」

「そっか」

と言ったところでその副官室の前に着いた。
修兵は戸を開けを中へ促す。

「失礼します」

はそのまままっすぐ進み修兵の机の上に書類を置いた。

「悪いな。最後まで運ばせちまって」

「いいえ。大丈夫です」

力はあるほうなんでと修兵に笑いかける

「あ。副隊長もどうですか?」

書類の上にいまだ置いたままだった飴を修兵に見せる

「飴?」

「はい。さっき君に貰ったんです」

「あいつ、また十番隊に入り浸っていたな…」

「ふふ。君は他所に迷惑かける子じゃないから大丈夫じゃないですか?」

「まあ、ガキにしちゃしっかりしすぎているけどな」

「はい、副隊長も食べてくださいね。甘くて美味しいそうですよ。あ。副隊長は甘いもの苦手でしたね」

は修兵飴を渡そうとするが手を止めてしまう。
だが修兵はこのくらい平気だと飴をから受け取り、包みを取って口へと運んだ。

君は優しい子ですね」

「なんだ急に」

「会うたびにそう思うんです。似ていますね、副隊長に」

「え」

「副隊長を呼び止めた時に思いました」

背中が似ている。
背丈とか全然違うが雰囲気が似ている。
は柔らかく笑ったかと思うとすぐに表情を曇らせる。

「副隊長。あまり無理をなさらないでくださいね。副隊長が倒れでもしたら皆心配します。きっと君が一番に」

には自分との本当の関係を言ってはいない。
に「親戚の子」だとしか言っていない。
なのに、似ているなどと言われて少し照れる。
実際に血の繋がりもないのに。

。ありがと」

「九番隊隊員の全員が思っていることですから」

はそう言って副官室を出た。
一人になった修兵は飴を舌の上で転がし、が持ってきた書類に手を伸ばす。
今現在、修兵が九番隊の隊長代行をしている。
東仙は全てを部下に任す人ではなかったようだ。
やることが多いのに、いつもそれを何事もなかったような顔をして済ませてしまう。
今の自分ではいっぱいいっぱいだ。

「優しい子か……そんな優しい子の暮らしをあの人は奪うような真似をしたのかよ」

東仙がどこからどこまで関わっていたのかは知る術もない。
直接本人に聞くしかないのだ。
くしゃりと音がし慌てる。思わず手にしていた書類を握り締めてしまった。
元に戻そうと皺を伸ばす。

皮肉なものだ。
の生活を一変させてしまった出来事が自分との出会いになろうとは。

「くそっ」

そう簡単には消えない傷。
自分にもある。
大人の自分が元通りになるまで、いや戻っていないかもしれないが、さらに一歩新しく踏み出すまでに時間がかかった。
自分がこうなのだ、もっと幼いはどうなのだ。
たった一人にしただけで夜も眠れなくなるような子だ。
気長に行こうと決めたのに、心が揺らぐ。
は今の自分と一緒にいてもいいのだろうかと。


***


忙しいはずなのに、今日の仕事はそんなに忙しくないからと隊員たちに無理矢理帰宅させられた。
働きづめの修兵を気遣ってのことだろう。
火急の用件が入ったならば呼んでくれと伝え隊員たちの厚意に甘えることにした。
昼過ぎなのだが、はもう食事を済ませてしまっただろうか?
どこかに食いに行ってもいいよな。などとぼんやり思いながら自宅へ向かう。
すると、珍しい人に会った。

「浮竹隊長?」

「やあ、檜佐木君」

公園のベンチでゆったりと腰掛けていた十三番隊隊長浮竹十四郎だ。
彼の人柄の良さは修兵にも心地良かった。
隊長と言うと、副隊長の自分から見ても遥か上の尊敬でき、力がまだまだ及ばない遠い存在と思えてしまう。
壁のようなものがあり、たった一枚だろうが中々破れないそんな感じがする。
その中で浮竹は比較的気さくに話しかけることができた人だ。
隊長全てが話しかけづらいわけではないが、どこか一歩引いてしまう。
浮竹はヒラヒラと手を振ってくれる。

「どうしたんすか?こんな所で」

「ん。散歩だよ。俺はこの時間に散歩をするのが日課なんだ。と言ってもこのところ忙しかったからね」

久しぶりの散歩だと頬を緩ませ笑んでいる浮竹。
反乱の所為で浮竹も他隊の仕事を請け負ったり破面の動向を探る為に情報収集をしたりと忙しかった。
それは現在進行形なのだが。

「檜佐木君も休んでいくかい?お茶はないけど菓子ならあるぞ」

「遠慮しますよ。俺は家で昼寝でもしますから」

ゆっくり休んで明日からまた頑張ろう。
せっかく隊員たちが気遣ってくれたのだ。

「そうか。まあ君もあまり無理しちゃダメだぞ」

「はい。それじゃあ」

浮竹に会釈し修兵は歩き出す。
公園を出たところで良く知る霊圧を見つけた。
こんな所で出会うとはと修兵は踵を返す。
子どもらしく公園で遊んでいるのかと、その霊圧。に声をかけようと思った。

「あ。シロさん!シロさーん!」

「やあ、君」

は修兵には気づかず、ベンチに腰掛けていた浮竹の姿を見てそっちに向かって駆けていた。
浮竹は立ち上がりを見て笑んでいる。

「久しぶりだな」

「それはこっちの台詞だ、シロさん急に来なくなるから」

は浮竹に会えて嬉しいのか浮竹に抱きついた。

「うん。色々あってな。しばらく寝ていたし」

パッと顔を上げ心配そうに浮竹へと視線を送る

「病気だったのか?シロさん」

「もう大丈夫だよ。そのあと寝てもいられないくらい忙しかったし」

「シロさんも無理するなよ。大人は無理ばっかする」

浮竹から離れはベンチへと腰掛ける。
浮竹も隣に座りくしゃりとの頭を撫でた。

「すまんすまん。俺は普段楽をしているから、たまに忙しく働かないとバチが当たるからな」

「だからってそれでまた無理をしたら体を壊すじゃないかー」

子どもが拗ねたとわかる仕草。
修兵は呆然としてしまう。これ以上見たくなくてそのまま歩き出した。

「なんだ、あの態度…あの顔」

知らない顔だ。
子どもらしい顔だ。
お前はまだガキなんだよ。そんな事を言ってもどこか大人びていてあまり子どもらしくない。
いつも自分の前で見せる顔じゃない。
それが悔しくて寂しくて。
浮竹のほうが断然父親らしく見えた。








息子君は友達と再会できたけど、パパはぐるぐる悩み中。
06/07/23UP
12/06/04再UP