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お父さんといっしょ。
「……はっ…格好悪ぃ。こんな所、には見せられねーな」 瀞霊廷内は揺れていた。 旅禍の出現。 それにより多大な被害。 各隊隊長までが戦いに出るまでに。 ただ、予想していた最後とは違った。 裏切りが出たのだ。 隊長三人。 それも内一人は自分が尊敬していた人、直属の上司だ。 裏切りが発覚して駆けつけた時、刃を彼の咽喉元に当てたときなんともいえない気持ちだった。 「嘘だろ」 ずっと信じてこの人の下にいたのに。 全てが終わった時、脱力感しか残らなかった。 「東仙隊長……」 今まで一緒いた時間は嘘だったのだろうか? 「虚の死神化…か」 主犯格の隊長がいっていたことらしい。 そんな事の為にと沸々と怒りが湧く。 過去についた傷へと手を伸ばす。 あの時からもう始まっていたのだ。 大事な友が死んだ。自分も消えない傷を追った。 彼らがしてきたことでいくつかの犠牲がでていた。 ただ特殊な虚に襲われたとしか当時は思わなかったのに。 そしてほんの少し前にもあったこと。 「あれも…その一つかよ」 これをあの子が知ったらどう思うのか、急に怖くなった。 【其ノ拾弐】 「なんかすげぇ…」 は空をジッと見ていた。 さっきまで異様なものが姿を現していた方向を。 噂の大罪人の処刑が行われるとかいっていたが、どかんどかんとアチコチで戦いの音がしていた。 そしてしばらくしてから一筋の光が落ち空は裂けた。 大きな手が現れたと思ったら、鼻の長い白い仮面をつけたようなものまで姿を見せた。 外に出ていた子どもたちは皆、親に家の中へと連れ戻された。 だが、だけは連れ戻す親がそばにいないために、その場を動かずにいた。 更に光は2つ増えて、裂け目へと吸い込まれるように消えていた。 何もなかったように空は元に戻った。 「なんで、あんなのがいるんだろ」 背中がぶるりと震えた。 首を振って先ほどのあれを忘れようとする。 「なんか夢に出てきそうで嫌だな」 そしたら怖くて眠れなくなるだろうか? 修兵に言ったら、そんな自分を子どもだといって笑うだろうか? 「怖ぇーうぉー剣八の野郎。まだ追っかけてきやがる」 オレンジ色の髪が走るたびに揺れる。 死覇装を着ているから死神であろう、この青年。 何かから逃げるかのように必死になって走っていた。 捕まったら最後、どんな目に合うかわからない。 なんとしてでも逃げ切らねば。 「…これで何回目だよ…ったくよ」 後ろをチラッと振り返りながら器用に走る。 相手が自分と同じように霊圧を探知するのが不得意なのが幸いだ。 だが、安心した所為で気が緩み前を歩く少年に思いっきりぶつかってしまった。 「うぉ!」 「うわ」 バシャ! 二人は勢いよく頭から転んでしまう。少年は不幸なことに彼の下敷きとなって。 「って〜…あ、悪い。大丈夫か?」 「………は、鼻すりむいた……なんだよ、もう…」 ゆっくりと身体を起こす二人。 青年は少年に気づき声をかけるが少年の耳には入っていないようだ。 擦りむいたという鼻先を軽くさするが、手になにももっていないことに気づく。 慌てて辺りを見回すと無残な姿になったものがそこに。 「…と、豆腐ぐちゃぐちゃ…」 青年は後ろから覗き込み、やってしまったと顔を歪める。 「あ、の…悪かったな。その前を見てなかった俺が悪くて。弁償、してやりたいのは山々なんだけど…」 手持ちの金がない。 ここへ来るのに金などと言う概念はなかった。 少年は仕方なく無残な姿になった豆腐を片付ける。 たまたま見ていたおばさんがゴミとして処理をしてくれるというので素直にその好意を受けた。 「あーあ。今日の味噌汁は絶対油揚げと豆腐の味噌汁にしようと思ったのにな」 片付け終えてからようやく服の埃を掃った少年。 「だから、すまないって」 「でも弁償できねーの?兄ちゃん死神なのに金ないのかよ…」 青年の姿を見て不満そうに口を尖らせる。 「給料日前に使っちまうなんて、修兵と恋次と一緒だな。あーあんな大人にだけはなりたくないな」 「恋次?恋次の知り合いか?」 「兄ちゃんこそ」 決まった。 恋次に豆腐代を借りようと青年は思った。 恋次に豆腐代を肩代わりさせようと少年は思った。 「とりあえずさ、兄ちゃんちょっと付き合ってよ。豆腐買いなおしにいかなきゃ」 「おう」 二人は来た道を戻っていった。 *** 「ただいま…」 ようやくひと段落着き我が家に戻れた修兵。 とりあえず隊長代行を命じられた。 玄関で草履を脱ぐと他にも同じような履物があったので恋次かイヅルが来たのか?ぐらいにしか思わなかった。 「。飯あるかー」 障子を開け居間に入ると死神たちの間で最近有名になったオレンジ頭の青年がいた。 「お、お前…」 「……ども。お邪魔してまーす」 青年は黒崎一護といい、瀞霊廷内を騒がせた旅禍の一人だ。 極囚の処刑を阻止し、色々あり警戒していたのだが、今ではそれが嘘のように馴染んでしまっている。 そう、ここでも。 「ーサヤエンドウの筋全部取ったぞ」 「持ってきてよ」 のんびりしている一護に、台所から聞こえる息子の声に拍子抜けしてしまう。 一護と入れ替わるように修兵は腰を下ろした。 「どぞ」 戻ってきた一護は修兵に茶を淹れた。 「……ああ、悪いな」 客のはずの一護に何故茶を淹れさすのだろうかと修兵は思うが、淹れてもらって文句はないので黙って啜る。 「でさ。なんで俺んちにいるの?お前」 「えーと。夕飯作りの手伝いで引っ張られてきたんで」 「はあ?」 一護はと出会った先ほどの話をする。 「恋次のこと知っているってことで、豆腐代チャラになったつーか」 夕食の仕度を手伝えといわれた。 それを素直にこの男はやっていたのかと修兵は呆れる。 「ここ……えと」 チラリと修兵の顔を窺う一護。 修兵は一護のことは知っていても、一護は修兵のことは知らない。 それに気づく修兵は一拍置いてから言った。 「九番隊副隊長、檜佐木修兵」 「檜佐木さんっすね。が家事やるんすね、ご両親いないみたいだし」 「……が言ったのか?」 「いえ。俺がそう思っただけで。俺んちも母親いないんで、妹が家のことしてくれるし」 いつもなら檜佐木の親戚!などとが言っているようだが、今回はまだないらしい。 なので先手を打ってみることにした。 「親父ならいるぞ」 「あ、そうっすか?」 「おう。ここに」 「へぇ…ここに…?」 修兵は自分を指差す。 「随分大きいお子さんなんっすね…あ、死神は見た目より長生きだから関係ないか」 「はは。つっても養子だよ。血の繋がりはない」 「そうっすか」 「普通自慢しねぇ?こんな格好いい親父がいてさ」 「は。はあ、そうっすね……(自分でいうか?)」 「なのに、アイツはいっつも周りに親戚の子だとか言いやがる。 俺らが親子だってのも知っているのも阿散井と吉良、あとは……東仙隊長くらいか」 東仙と名を出したことで修兵は一護から顔をそらした。 すぐさま会話を変える。 修兵は今、思い出したくなかった。 東仙が裏切ったこと、虚の死神化などという話。それに関する事件の数々を思い出すのが嫌だった。 まして、に聞かせたくないと思ったから。 「お前さ、今日泊まっていくのか?今、十三番隊で世話になっているんだっけ?」 「泊まるとかまでは考えていないっすよ。ただ夕飯作りの手伝いに来ただけだし」 「手伝いってさっきの筋取り?」 「一応」 修兵はくっと笑う。 「飯も食ってけよ。どうせはそのつもりだろうし。もしかしたら阿散井の奴も来るかもしれねーからな」 「あーその」 「食ってけ。ただ手伝いさせて追い返すなんて真似しねーよ」 「修兵ー」 奥から自分を呼ぶ声がする。 「なんだ?」 修兵は立ち上がり台所へと向かう。 の中ではすでに一護はお客さんのようで、先ほどまでは手伝わせていたが。 修兵を呼んで揚げ物などとさせていた。 一護が居間でのんびりしていると、修兵が言ったように恋次が顔を出した。 まるで自分の家のように当然の顔をして。 なので一護がいることに驚き、どうでもいいような小競り合いをしてしまった。 それがギャーギャーと子どもの喧嘩のような煩さだったので、二人して 「うるせー!」 と修兵にゲンコツを貰うはめになった。 夕食時、イヅルは?とに聞かれたが、彼は忙しいとだけ修兵が答えた。 「ふーん。それって怖い旅禍ってのが暴れたのと関係あるのか?」 言われて、修兵と恋次の視線は一護へと注がれる。 一護は答えるべきか返答につまる。 「怖いつーか、お馬鹿な旅禍なら知っているぞ、俺」 「恋次が?」 「ああ」 自信たっぷりな恋次に一護の口元が震える。 「お馬鹿な旅禍が俺の想像通りなら、そのお馬鹿な旅禍に負けてピーピー泣いた死神を俺は知ってるぜ」 「あはは、誰それ」 「誰がピーピー泣いたって!?」 「お馬鹿つーのはなんだよ!」 ガツンと額と額を合わせて押し合いをしている恋次に一護。 「あんだと!」 「うるせーやんのか!」 「何してんだ、あの二人」 「さあな。どっちもどっちだ。似たもの同士なんだよ」 修兵は一人味噌汁を啜っている。 「旅禍といっても、お前が怖がるような奴じゃなかったぞ」 修兵がにいった。 はニ、三瞬きをする。 「修兵見たのか!?」 「お前も見ただろ」 「どこで」 「今、目の前で阿呆な小競り合いしているだろ」 「…へ。え、兄ちゃんが?」 「あとな、ゴツイのと神経質そうなのと可愛い女の子がいた」 「可愛いって姉ちゃんとどっちが可愛い?」 「は?なんで急にが出て来るんだよ」 「なんとなく。でどっち?」 「って言われてなあ〜は可愛いつーより綺麗って感じで。いや、可愛いところもあるけどよ…って何言わせるんだよ」 の額を軽く叩く修兵。その顔はどことなく赤い。 は反論することもなくへらっと笑んでいる。 「とにかく。あーカツシロウだっけか?お前のダチ。そいつらにも言っておけ、もう平気だからって」 「うん」 修兵はお皿に残ったコロッケをパクリと頬張った。 「……なんだ。普通に親子してるじゃん」 「あ?」 修兵のいう阿呆な小競り合いをしていた恋次と一護だが、一護がポツリと呟いたので恋次が反応してしまった。 「一護。が先輩の息子だって知っているのか?」 「ああ。さっき聞いた」 「誰から!?」 「…檜佐木さんから。っていうか、本当には親戚の子だとか言っているのか?」 「ああ。知っているのはごく一部だし…んで、なんでお前が気にするんだ?」 「ちょっとそこら辺の話を聞いたから。親子仲悪いのかとか少し心配になっただけだ」 修兵ともとも今日始めて会ったからあまり詳しくは知らないのだが 修兵のボヤキのような一言が少しだけ一護には気になったのだ。 「俺んちに比べたらいい親子関係だとは思うけどな」 自分の父親は子どもすぎる行動が大きい。 おかげで身体を張ったようなやり取りが多くて一護は多少滅入っている。 それに比べたらと思うと…一護は小さく笑った。 一護との出会い。これは未来で影響するのさ。原作無関係のIF設定ですけどね。
06/06/27UP
12/06/04再UP
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