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お父さんといっしょ。
【其ノ十】 「悪いな、。俺も急に現世行きの任務入っちまってよ」 「いいよ、別に。一人でも俺平気だぞ」 「だけどよ〜檜佐木先輩に頼まれたわけだし……」 「平気だって。恋次も仕事ならば修兵も別に怒らないから」 それに修兵が知ることはないだろう、別に。 「吉良の奴もこの所忙しいみたいだし」 「もういいから、任務に行けよ」 「お前な〜」 「遅刻しても知らねーぞ」 は恋次を追い出すかのように彼の背中を押す。 「俺は平気。元々修兵が恋次やイヅルに無理を言ったんだから気にするなよ」 「」 「はい、いってらっしゃい。怪我しないようにな」 「俺は心配してんだぞ」 「大丈夫だって。何度も言わせるなよ。本当に遅刻するぞ」 「お、おう……じゃあな」 恋次は何度か振り返るが、本当に遅刻してしまうと駆け出して行った。 ようやく出かけた後姿には深く息を吐いた。 しょうがないなと。 「俺、心配されるほど子どもじゃないんだぞ…ったく」 連日、修兵が現世へ出張中とのことで、誰かしら檜佐木家を訪れる。 が心配でなんて言うのは建前で、もっぱらただ飯をもらえるからってのが多いだろう。 中にはちゃんと心配してくれる人もいるのだが。 それが、ここ最近になって減ってきた。 元々忙しい死神たちだ。 しかもほとんどが副隊長たち。 彼らが暇なんてのは滅多にないのだ。 イヅルは自分のところの隊長があまり仕事をしてくれない人のようで、毎日が残業。 たまった仕事をせっせと片付けているために泊まりの様だ。 日番谷は隊長で人一倍にその量も多い。 乱菊は性格上小まめにやらないために、今一番の忙しさのようだ。 やちるは仕事と言うより性格。 来る時と来ない時の差が激しい。 一緒にいる剣ちゃんと言う人物と今いるのだろう。 そして、恋次。 恋次は結構まめに仕事をこなすようだが、急に現世行きの仕事が入ったとのこと。 しかも隊長と一緒にだ。 そんなに難しい任務ではないようだが、何やら彼にしては珍しく顔が強張っていた。 今まで纏めて来ていたが、今日は久しぶりに一人で過ごすことになりそうだ。 なので夕食も簡単に済ませ寝るだけになった。 「戸締りはこれで良し」 玄関裏口窓全て。 二階の自室に向かう。 トントントンと階段を昇るときの音がやけに響いた。 いつも何気なくしている事の音が、今日に限って大きく聞こえる。 布団に入り、目を閉じる。 「………」 コチコチコチ… 時計の音。 ガタガタ… 風で揺れた窓の音。 「…………あれ?」 いつもは気にならない音が耳にまとわりつく。 掛け布団を頭からかぶり、ギュッと目を瞑る。 何も考えるな。 もう寝るのだ。 自分は子どもじゃないと恋次にも言った。 心配することはないと。 でも、眠れない。 何故だろう? じわりと迫り来る何か。 何度も寝返りをうつ。 時計を見れば大して時は過ぎていない。 寝たいのに、いつもみたいにぐっすりと。 なのにそれが叶わない。 寝返りをうつ。 周囲の音が気になる。 布団をかぶり直す。 時計を見る。 それの繰り返し。 そして、朝になった。 「………」 うとうとしていたような気はするが、しっかり寝た記憶がない。 はのそのそと起き上がり、着替える。 いつも通りの家事をこなし始める。 「誰もいないから眠れないのかな…」 怖くて、寂しくて? そんなに気にすることか? 普段昼間は一人だ。 夜は…… 「…いつも修兵がいた…」 どんなに遅くとも夜、彼はちゃんと帰ってくる。 先に寝ていることはあっても、朝起きれば修兵は必ずいる。 ここ数日、いつも以上に賑やかだったから、いつも以上に不安になったのかもしれない。 「たまたまだ。大丈夫」 でも、この日も一人の夜で、寝付けなかった。 *** ボーっといつもの公園のベンチに座っている。 シロさんはあれ以来顔を見せない。 毎日通っても、いつもの時間になってもだ。 もしかしたら、シロさんに会えば眠れるかもしれないと思ったのだが、残念だ。 「あれ、君?」 「……姉ちゃん」 が通りかかった。 「どうしたの?ボーっとしちゃって」 「別に…」 「なんか可笑しいよ?」 「昨日今日って眠れなかったから」 「やだ。大丈夫?なんかあったの?」 「…何もないよ」 「何もないのに、眠れないの?」 「子どもみたいで、俺…格好悪い…もう帰る」 ベンチから降りはそのまま駆けだした。 「あ!君!」 の呼ぶ声に止まることなく。 今夜こそはちゃんと眠らないと身体がもたない。 少しボーっとしていただけでに心配された。 他の人たちにも見られたら、修兵に伝わりでもしたら… 布団に潜ってただジッと目を閉じる。 今まで眠れない時はどうしていたかと思い返す。 ぼんやりと浮かぶ女性の顔。 そして聞こえる心地良い歌声。 子守唄だ。 誰かが歌ってくれた子守唄。 アレは誰だ? でも気持ちよかった。 何も考えることなく眠り続けていられた。 ……はずだった。 急に闇が辺りを覆い女性も飲み込まれる。 も逃げなくてはと走り出すが迫り来る闇のほうが早くそして大きい。 闇に足元をすくわれる。 もがき闇から逃げようとするが段々深みにはまっていく。 そして気づけば、同じように闇に捕まった友だちの姿…。 「ヒロ…陽太ぁ!」 そこで気がついた。 寝ていたようだ。 子守唄を思い出したおかげで眠ることができたようだが、同時に過去の記憶までも蘇る。 夢の内容がすべてではないが、共通するものはあった。 「………思い出しちゃった……」 身体を起こす。 窓の外から月明かりが差し込んでくる。 「………あ」 小刻みに震えている手。 ぽたりと落ちた涙。 「しゅうへ…怖いよ、俺…」 修兵と出会うきっかけになった出来事。 ここで出会った人たちの、修兵のおかげで随分楽になったのに。 なんで今思い出す? 独りだから? 少し前に陽太のことを思い出したから? 「…また独りになったら…」 それはこのまま修兵が帰ってこなかったらと言うことか? 「怖いよ…」 口元が振るえ涙がどんどん溢れ零れる。 もうあんな思いをするのは嫌だ。 ガタガタガタ。 「?」 玄関の方からだ。 ガンガンガン。 「なんだ?」 乱暴な音には肩を振るわせた。 ドンドンドン。 ガバッと布団に潜り込む。 夜中なのに、風にしては可笑しい。 ギュッと目を瞑る。 聞こえない、聞こえない。 早く朝になれ、そう念じ続ける。 ガタガタガタ。 でも音はやまない。 「----って」 「だから!」 「----せなぁ!」 声だ。 誰かが玄関前で騒いでいる。 は布団をかぶりながらゆっくりとだが部屋を出た。 誰かはわからないが相手に気づかれないように。 戸の前まで来ると声ははっきりと聞こえた。 「傍から見たら不審者ですよ!」 「なにが不審者だ、ここは俺んちだ」 「でも人相悪いから通報されるかもしれないっすよ?」 「てめーに言われたくねーな」 「とりあえず無理矢理は止めましょうよ。時間も時間ですし」 「大体先輩が鍵を副官室に忘れるからこんな目に遭うんすよ」 「しょうがねーだろ、急いでいたんだから…」 「君、寝てるようですし、隊舎に戻りませんか?」 ………。 「修兵だ…」 ずるずると布団を引きずりながら鍵を開けた。 「お、!」 外には修兵、恋次、イヅルの三人がいた。 開いた戸に修兵は顔を綻ばせる。 「「「………」」」 だが、三人とも開いた直後にを見て唖然とした。 いや、正確には恋次とイヅルだ。 修兵は目を細め、口を結ぶ。 「お前、なんだその恰好」 恋次はを指差す。 だがは答えない。 修兵は中に入り布団を剥いでを抱き抱える。 「え、檜佐木先輩?」 突然の修兵の行動に二人は首を傾げる。 「ただいま、」 「………」 「どこもいかねーよ、俺は」 「しゅへ…い」 「急いで戻って正解だ。やっぱお前を独りにするんじゃなかったな」 の背中を軽く摩る。 「寝ろ、ちゃんと」 それが呪文みたいには目を閉じた。 「おかえり、修兵…」 寝言みたいに聞こえたの呟き。 すぐに耳に入った寝息に修兵は安堵する。 「先輩?なんなんすか?」 「……昔の話だ…なんでもねーよ。それより俺も寝る。お前らどうする?」 すっかり寝入ってしまったを抱えた修兵。 二人に背中を向けたままだ。 「僕は帰りますよ。先輩がいるなら問題ないじゃないですか」 「…俺も帰ります」 「そうか。悪かったな、迷惑かけて」 「いえ。僕らの方こそあまり役に立てなかったようですし…」 「また明日飯でも食いに行くんで、に頼んでおいてくださいよ」 「おぅ」 二人は檜佐木家を後にする。 月明かりの下、何故だかしんみりしてしまう。 しばらく無言でいたが恋次が口を開いた。 「吉良。お前、先輩が引き取った理由って知ってるか?」 「……知らない。先輩も君も話さないよね」 「そうだな」 きっと二人にしかわからない、知らないことなのだろう。 修兵はを布団に寝かせた。 面倒臭いので自分もそのまま横になった。 天井を見つめ、今日戻ってきた時のことを思い出す。 「思ったより長引いたな……疲れた」 「あ、檜佐木副隊長。お戻りになられたのですね、お帰りなさい」 副官室に入ろうとした時にに声をかけられた。 沢山の書類を抱えている彼女。 久しぶりに見た彼女の笑みに思わず口元が緩む。 「。大変そうだな」 「いえ、もともと今日は夜番なので片付けておこうかなと思って」 「そうか。時間も時間だし、ここで寝てくかな…」 「………」 が少し目を伏せた。 「どうした?」 「あの、昼間君に会ったんですけど…」 「に?変わりないだろ?」 「……いつもと様子が違いました」 「な…」 「二日も眠れないとか」 「…阿散井と吉良に頼んであったんだけどな…のこと」 は自分が知っていることは修兵に伝えた。 普段から多くの者が檜佐木家を訪れたこととか。 修兵は少し考え込む様子を見せた。 「………副隊長?」 「あ、悪い。俺帰るな」 「は、はい」 修兵は副官室にも入らずに踵を返す。 途中で遅くなりながらも帰る所だった恋次たちを捕まえ家に戻ったのだ。 に言われなかったら、きっとあのまま副官室で寝て過ごしてしまう所だった。 もしそうしていたら、は今夜も眠れず悩んでいたかもしれない。 いや、帰宅後に見たの顔はすでに不安でいっぱいだった。 「まだ、消えねぇか…」 前に友だちに会いに行きたいと言ったときには、思った以上に回復しているのだなと 思って安心したのだが。 「そう簡単には消えねぇよな」 の顔を覗き見、軽く頭を撫でた。 「ま、焦らず行こうな。」 ここが今の君の家なのだから。 二人の出会いなどは知っている人はそこそこいますが、根っこの部分は二人しか知りません。
06/05/03UP
12/06/03再UP
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