お父さんといっしょ。




ドリーム小説
【其ノ六】





「なーなんか修兵顔赤くないか?」

朝食をとっている時にが修兵に言った。
少しばかり頬が赤くなっているのが気になる。

「あー?別に」

「風邪ひいたんじゃないか?」

「別に」

「本当かぁ?熱測ってみろよ」

は引き出しにしまってある体温計を取り出す。
だが、修兵は受けとらない。

「いい」

「修兵」

「いいって言ってるだろ。ごちそうさん、俺、もう行くわ」

立ち上がってそのまま玄関に向かってしまう修兵を慌てては追いかける。

「修兵ーちゃんと熱測れよー」

「熱なんてねーよ。心配すんな」

「ぜってー嘘だ。熱ある!休めよ、仕事」

「阿呆。今、忙しいから休めるか。んじゃあな」

くしゃりとの頭を撫でてから修兵は出かけてしまった。
は触られた頭を軽く自分でも触れる。

「修兵のバーカ。手が熱いじゃないかー」

忙しいと仕事を優先させてしまったので、せめて帰ってから寝込まないように夕食は温かいものと精のつくものにしてあげようとは思うのだった。



昼過ぎ。

ー」

玄関の引き戸が開いた。
この声は恋次だと気づき、は玄関に向かう。

「恋次?……あ、修兵!」

朝よりも酷い顔をした修兵が恋次に担がれて戻ってきた。
この風景は過去何度も見ている。
酒に酔った修兵を恋次が連れて帰ってくる時だ。

「おーいて良かったぜ。先輩仕事中にぶっ倒れたんだよ」

「やっぱり…」

「やっぱりって?」

「朝、熱っぽかったから休めばって言ったんだぞ、俺」

「しょーがねーなー檜佐木先輩も。で、いつものように運ぶか?」

「うん。頼むよ。俺布団ひくから!」

パタパタと階段を昇っていく
修兵の草履を逃せて上がる恋次。

「………阿散井…」

「あ、気がついたっすか?檜佐木先輩」

「ウチか?ここ」

「そうっすよ。今、が先輩の布団ひいてますからね」

「………怒ってるか?」

「は?怒ってないっすよ。どっちかと言うと呆れてるっすね」

赤い顔してこの男何を聞くのだと恋次は思った。
に父と呼んで欲しいという割には頭が上がらないっていうのはどうだろうか?

「恋次ー修兵連れてきてー」

「おう。先輩一人で歩けますか?」

「歩ける」

恋次から離れて這い蹲るように階段をあがる修兵。

「修兵。布団も温かいぞ。さっきまで干してあったから」

「…おぅ」

「何食いたい?…やっぱ粥がいいのか?」

……阿散井、呼んで来い」

「恋次?うん」

修兵は少しぜーぜー言いながら部屋までたどり着く。
そのまま夜着に着替えて布団に入り込む。
ぬくぬくする布団が気持ちいいが、今はそんな事を考える余裕がない。

「なんすか?先輩」

空いていた襖から顔を覗かせる恋次を手招きする修兵。
なんだと思いながら近づく恋次。

「……しばらくウチに泊まっていけ」

「は?なんすか、いきなり」

「で、俺の世話をしろ」

思わず後ずさりする恋次。

「な、い、嫌っすよ!気持ち悪ぃ!がいるじゃないっすか!」

「アイツをこの部屋に一歩も入れるな」

「はあ?」

「うつしたくないんだよ」

「うつるとは限らないじゃないッすか」

「うるせータダでメシが食えると思えばいいだろうが……1週間くらいでいいんだよ」

「はあ」

「面倒なら吉良と交代でいいから」

そんな事したら、後で文句言われるってわかってないのだろうなと恋次は口元が引きつる。
でも、食事付きならばいいかと思った。

「別にいいっすけど、先輩」

「あん?」

すでに布団に包まっている修兵。

「昼間は俺仕事じゃないっすか、結局が世話すると思うんすけどね」

「……その時はその時だ」

「意味わかんないっすねーあと、もう一つ」

「なんだよ…」

「そう言う事頼める女いないんすね」

「……お前もそうだろうが……」

と側においてあった雑誌を投げつけられた恋次。
そろそろ寝かせておこうと恋次は部屋を出る。

「おわっ!!?」

階段に座り込んでいる
唇を尖らせて。

「話聞いてた?」

「うん。俺入っちゃいけないの?修兵って風邪だろ?」

「だと思うけどな〜まぁ、いいじゃん。先輩もお前のこと思ってだからさ」

「………」

は恋次に言われても頷きもせずにそのまま階段を降りた。

「拗ねた。先輩も馬鹿だねぇ」





結局、昼間は部屋の前に食事を置いておくだけでいいと言われた。
絶対にそれ以外は二階にあがるなと言われた。
おかげで、恋次と下で寝る羽目になった

「恋次はうつったりしないのか?俺だって簡単にうつるとは思わないけど」

「だよな。先輩も気にしすぎだよな〜まあ俺はこうして美味いメシにありつけるからいいけどな」

「恋次、今晩何がいい?」

「なんでもいいぞーあ、でも鍋とかいいよな〜今日は吉良も様子見に来るつってたし」

「イヅル来てくれるんだ。じゃあ鍋な」

「材料は俺と吉良で買ってくるからよ。買い物行かなくていいからな」

恋次を見送った後いつも通りのことをする。
洗濯して、掃除して。
二階で修兵が寝ているのに、ちっとも顔を見れないのが変な感じだ。

昼近くになって、修兵の昼食を二階へと運ぶ。

「修兵。ご飯持ってきたぞ…修兵?」

入るなと言われても気になるものは気になる。
音を立てないように襖を開ける。
こっそり覘くと修兵は寝ているが、熱があるようで辛そうに見える。

「修兵…」

汗をかいて着替えたのだろう夜着が部屋の隅で丸まっている。
洗濯に出そうと夜着を拾う。

「ん〜〜っ〜」

寝返りをうつ修兵の口から漏れる痛みを堪えるような声。

「修兵?」

風邪なのになんで?
そう思って思わず修兵のそばに行ってしまう

「修兵、お医者さん呼ぶ?」

掛け布団を揺らされ修兵は目を覚ます。

「……あ??…馬鹿、なにやってんだよ。入るなって言ったろ」

「だって、修兵痛そうな声出した」

「俺はいいんだよ、いいから出てけ」

「……修兵」

部屋を出ろという意味なのに。
は胸の辺りにキュッと痛みを感じた。

「ほら、行け」

掛け布団から伸びた手がの頭を押した。
あっち行けと拒絶された。

は口をギュッと噤み俯きながら部屋から出て行った。

「あ……」

言い方が悪かった。
それは修兵にもわかった。
滅多に見せない顔。
少し泣きそうな。
そんな顔をしていたに修兵は舌打ちをしてしまう。

「しょうがねーだろーが……お前にうつったら大変なんだからよ……」

運が悪いことは続くもので。
が夜着を洗濯かごの中に放り込むと玄関の方で声がした。

「ごめんくださーい」

お客が来たと思っては玄関に向かう。

「檜佐木副隊長…あら?」

「あ…あの」

来たのは若い女性死神が2人。

「ここ檜佐木副隊長のお宅だよね?君は?」

「お、俺は…その…お姉さんたちは?」

「私たちは檜佐木副隊長の部下でーす。副隊長病欠でしょ?お世話できたらいいなと思ってきたんだけど」

「……上で寝てるよ。副隊長さん」

「そうなんだ〜」

前に恋次から聞いた。
修兵は女性たちから慕われていると。
この二人もそうで、寝込んでいる修兵を見舞うと同時に世話をしに来たのだろう。
別にそんな世話をする人なんかいらない。

でも。
苦しそうだったさっきの修兵。
いても邪魔な自分。
だったら、この二人に頼んだ方がいい気がする。

「じゃあ、俺帰る。お姉さんたちがいたほうがいいでしょ?」

「そうなの?うん、任せてね」

はそのまま外に出た。
お邪魔しましたーなんて他人みたいな言葉を言って。





家を飛び出してしまった以上、簡単には戻れない。
意地になっている自分。
あの時、女性たちにもいつも通りに『檜佐木の親戚です。一緒に暮らしているんですよ』って言えば済むことだった。
だから、修兵の世話は自分ができますと。
でも言えなかった。
風邪をひいたくらいならば、気にせず頼ってくれればいいのに。
のためだと言われても嬉しくなかった。

「はぁ……」

どうしようかなと考えてしまう。
飛び出してきたようなものだから、財布も当然持っていない。
恋次が戻ってくる時間までは帰れない気もする。

公園のベンチに腰掛けて下を向いては溜め息ばかりでてしまう。

「どうしたんだい、溜め息ばかりだな、君は」

「へ?」

顔をあげるといつの間にかの隣に男性が一人座っている。

「お母さんと喧嘩でもしたか?」

は首を横に振る。

「母親いないし」

「そうか。悪いことを聞いたか?」

「別に。一応父親はいるし」

「あはははっ。一応なのか?なんだ、その父親と喧嘩したみたいだな」

「別に喧嘩なんかしてないよ…つーか、おじさん誰?」

知らない人とは口を利いてはいけません。
と一応修兵に言われてはいるが、平気で話してしまった。

「おじさん?俺はおじさんに見えるのか?まぁしょうがないと言えばしょうがないか…」

苦笑しながらぽりぽりと頬を指で掻く男性。
は男性をマジマジ見てしまう。
身なりはとても良い。
海老茶色の和服と長い白髪が少し年配者のように感じてしまう。
でも若緑の羽織は年寄りじゃ着ないよな〜とは思う。

「とりあえず、おじさんはここで休憩中だ。毎日この時間に散歩しているんだ」

「へぇ」

皆が働いている時間に散歩。
この人貴族かな?そんな考えが浮かぶ。
なんか妙に落ち着いているし、どこかの若旦那っぽくも見える。

「よし、君にお菓子をあげよう。おじさんは沢山持っているんだ」

ごそごそと袖から菓子を取り出しの手に置く。
煎餅だったり、クッキーだったり色々だ。

「なんで袖からこんなに沢山…?」

「うん。いつもお菓子をあげる子がいるんだ。だからだな」

「ふーん。でも、ありがとう貰う」

は飴玉を一つ口に放り込んだ。

「君…じゃ悪いな。名前は?」



「格好いい名前だな」

「おじさんは?」

「十四郎だ」

名前を教えてもらってポンとやちるが浮かんだ。
やちるは色んな人にあだ名をつけて呼んでいる。
きっと、やちるならこう呼ぶかなと思って。

「じゃあ、シロさんだ」

「シロさん?俺のことか?」

「そう。俺の友だちだったら、おじさんのことそう呼びそうだから」

「そうか。うん、別にいいぞ」

シロさんはニコリと笑んだ。
知らない人でも隣にいて、話をしているだけでも少しは落ち着く。
心寂しいと思ったから。

少しだけのつもりだったが、気がつけば陽が沈み始めていた。
シロさんとは沢山話し込んでしまったようだ。
だから、また明日。
同じ時間に会おうってことになった。
シロさんといるのは嫌じゃなかったから、は頷いた。





が帰ってこねー」

枕に顔を押し付けている修兵。
その側で林檎の皮をむいているイヅル。

「知らないですよ、先輩が悪いんじゃないですか?」

にうつしたくないからーって俺らにはいいのかって話っすよね」

恋次はそのむいた林檎を食べていた。

「馬鹿にはうつらないから安心しろ」

「それは僕も含まれているのですか?心外ですね」

ー」

「ダメ親父っすね」

さて、どうなることやら?








パパは病欠。息子は家出中…。
06/01/14UP
12/06/03再UP