お父さんといっしょ。




ドリーム小説
【其ノ五】





「ほら、土産」

そう言って修兵がに手渡したものから、甘い匂いがする。

「なに、菓子?」

「みてぇだな。甘ったるい感じするからお前が食え」

「ふーん。別にいいけど」

は修兵と違って甘いものは嫌ではない。
やちるや恋次と一緒によくタイヤキだ、おはぎだと餡子の入った菓子を食ったりする。

「でも、これどうしたの?」

はちゃぶ台の上に箱を置き、お茶を淹れ始める。
修兵はごろりと横になって新聞を読み始める。

「隊の子にもらった」

「ふーん。女の人だよね?」

「あぁ」

すぐには飲まないだろうが、一応と思って修兵の分のお茶も淹れて彼の近くに置いた。
が箱を開けると、少し大きめなチョコレートケーキが中から顔を出した。

「…すごい…」

食べ応えありそうな、色の所為か重厚間漂う感じがする。
これは修兵じゃ絶対に食べない。
そう思った。
修兵が甘いものをあまり好まないことをあげた相手は知らなかったのだろうか?

「なぁなぁ、ケーキって何日もつかな?」

「あ?2、3日ぐらじゃねーの?ちゃんと保存すればの話で」

「そうだよな…これ、俺一人じゃ食べきれない」

「俺は食わないぞ」

「なんでだよ、修兵がもらった奴だろ、一口くらい食えよ」

「嫌だ」

勝手だとは溜め息をつく。

「なら、なんでもらってくるんだよ。相手にも失礼じゃんか」

「押しが強くて」

「だせー。修兵だせーぞ」

「うるせー」

とりあえず、一切れを皿の上に乗せる。
あ〜すごいなぁ、何層かさねてあるんだろう、これは。
切った面には綺麗な茶色のグラデーションが。
修兵は見るのも嫌なのか、背を向けたままだ。

「なぁなぁ、恋次いつ来る?」

「知らねーよ、そんな事」

「恋次呼んでよ。修兵が食べないなら恋次にもこれ分ける」

「そのうち勝手に来るだろ」

「そのうちじゃ、これ腐る」

「冬獅郎も食べなさそうだし…あとはやちるが食うかな…」

すっかり最近では檜佐木家に客が来るようになっている。
最初は恋次やイヅルが来ていたが、友だちになったと言って他の死神たちも来る。

「菊ちゃんも食べそうかな…」

「………菊ちゃんって誰だ?」

修兵が身体を起こした。

「菊ちゃんは菊ちゃん」

「だから誰だよ、それ」

「冬獅郎とこの副隊長さん。確か、冬獅郎は松本って呼んでた」

「お、お前乱菊さんとも知り合いだったのか」

「そんなに会ったことないけど、街中で声かけてくれるし」

どんどん交友関係広がっていくなぁと修兵は思いながら頭を掻いた。

「菊ちゃんに最初に会った時に、修兵の隠し子じゃないかって言われたけどな」

「あ、あの人は……」

でも、が親戚の子だと言い張る限りあながち嘘ではないな。
そう感じる。
大体、恋次たちですら、は修兵がどこかで作った子どもだと思ったらしいし。
俺はそんなに軽い奴じゃねー。と叫んだことか。





「確かにこれは檜佐木先輩じゃ食わねーなー」

出されたケーキを目の前にして恋次が苦笑する。
恋次用にと大きめに切って出した。

「今日、イヅルは来ないのか?」

「あいつは仕事。隊長さんが逃げて今日の分が終わらないんだと」

「それは大変だな」

ケーキを貰って困っていた所、ちょうど運良くその日の晩に恋次が来てくれた。
待ってましたと言わんばかりには恋次を早くと家にあげたのだ。
修兵は風呂に入ってしまっている。

「食えないケーキをなんで貰ってくるんだろうな、修兵は」

食べるのはいつも俺だと、は頬を膨らます。

「いつもって事は初めてじゃねーんだな」

「週一で何かしら貰ってくるぞ。甘いものばっか」

どれも手作りらしいもの。
相手は必ず女の子たち。

「あ〜そりゃ檜佐木先輩を狙ってる女どもだな」

「修兵って人気あるの?」

「おーあるある。人相は多少悪くても、学院時代からの優秀な成績に今の実績。
んでもって、独り者。女どもはほっとかねーって。しかもあー見えても優しいところがあるしな」

それはなんとなくわかる。
時折見せる優しさってのに、女性は弱いのだろう。

「でも、こぶ付だってことは知らないんだよな、あいつらも」

「…そうだよな、俺のこと知ったら邪魔だよな…」

は自分の所為ではないのに、申し訳なさそうな顔をする。

「バーカ。お前が遠慮してどーすんだよ」

「でもさ…」

彼女たちは自分が養子であるとは言え、憧れている人が子持ちだと知ったらどうするだろう?

「……なぁ、先輩がこうやって週一に土産を持って帰るのっていつ頃からだ?」

「んー、いつって言われてもなぁ。気付けばって感じだし」

でも、最初はどこかの店で買ってきたものを土産だと言って手渡してくれた気がする。
いつからは知らないが、その土産は隊の子からもらったと言う菓子に変わっていた。

「気付けばねぇ〜は甘いもの好きだよな〜」

「え?うん。好きだよ」

「俺が来るから〜とは言いながらも自分も食うからっておはぎとか沢山作るし」

「うん」

「………気づけよ、馬鹿」

「え?何に?」

きょとんとした顔を見せる

「あ〜もう〜可愛い奴だな、お前は〜」

「な、なんだよー」

恋次は笑いながらにヘッドロックし、くしゃくしゃと頭を撫でる。

「檜佐木先輩、親馬鹿すぎだっての」

「恋次、意味わかんねーつーか、やめろ、痛い〜!」

止めない恋次に後ろから蹴りが飛んだ。

「お前は人の息子苛めて楽しいか」

「ぐわっ!」

後頭部に見事入った模様。
恋次はを解放し、蹴られた後頭部を摩りながら蹴った相手を軽く睨む。
湯上りで濡れた頭の修兵が仁王立ちしている。
肩にかけた白いタオルが良く似合いますね。

「痛いっすよ、檜佐木先輩。俺は単純に可愛がってただけっすよ」

「そうは見えねぇんだよ」

修兵はさらに一発恋次の頭を殴ってから隣に腰を下ろした。

「何するんですか〜俺は先輩が食わないつーからケーキを食べにきたんじゃないっすか」

「ケーキ食いにきたのかよ」

「あと、メシもらいに」

「食い物じゃねーか、どっちにしても」

恋次から解放されたは台所に向かってしまった。
夕食の準備をするために。

「阿散井……お前、今食うのか、それ?」

「食えますよ、普通に」

そう言って夕食前なのに、恋次はケーキを平然と食べていた。
出された夕食もちゃんと食べて。





「あら、君。こんにちは」

買い物の途中でに出会った。
彼女は死覇装ではなく淡い緑色の着物を着ていた。

姉ちゃん。こんちは。今日は姉ちゃん、休み?」

「うん。久しぶりの非番なんだよ」

「どこか行く所?それとも帰り?」

「帰り」

は他の隊所属の友だちと遊んできたそうだ。
友だちと休みが重なったのは久しぶりだからと。

君、暇なら私と餡蜜食べに行かない?」

「行く!」

まだ時間はあるし大丈夫だろう。

姉ちゃんは餡蜜好きだな。前にも一緒に食ったじゃん」

入った店ではそう言った。
は軽く顔を赤くする。

「うん、大好きなんだよね。甘いもの嫌いじゃないし」

「恋次もすごい好きだぞ、昨日も俺よりも沢山ケーキ食って帰って行ったし」

「へぇ阿散井副隊長は甘いものが好きなんだ」

たまにタイヤキを食べている姿を見るなとは思ったが。

「逆に修兵は甘いもの嫌いなんだ」

「え…副隊長甘いものダメなの?」

キョトンとする

「知らなかった?」

「う、うん…だって、皆逆に好きだと思ってたわよ」

「逆に?」

甘いものを出されると露骨に嫌な顔をする修兵がだぞ?

「私は見たことはないけど、副隊長がいつも和菓子屋さんでお菓子買って行くのを見た子がいてね」

見た子が修兵は甘いもの好きだと思ったようだ。
一度や二度程度ならばお客用とか土産とか思うのだが。
毎週って所を見たらそう思ったらしい。
その子は修兵の家にがいることを知らないし。

「そんなに甘いもの好きならばって、皆何かしら副隊長に渡しているみたいだけど」

「………」

君?」

思い出した。
修兵の養子となったばかりのある日のことを。
今のように軽口など言えなかったあの頃。
家の隅でちょこんと膝を抱えていた。

「なぁ、お前…の好きな食いものってなんだ?」

「……と、特にないです……」

「ないのか?なんでも良いんだぞ」

「……なんでもと言われても……」

そんなの気にして食べたことがない。
食べると言うことは生きることだと思っていたから。

「んな、硬くなるなよ。なんでも良いんだぞ」

「………」

膝を抱えながら俯く
修兵はかなり距離のあるこの状況にもどかしさや焦りをどこかに感じてしまう。
何を話しかけても一言くらいしか返事はもらえず。
自分を見る目が怯えているようで。
すぐに打ち解けるのは無理だと思っていても寂しい気もする。
修兵も黙ってしまうが、しばらくしてからが呟いた。

「……あ、甘いものは……食べると嬉しかった…です……」

「甘いものか!?そっか。わかった」

一つだけでも聞けた答えに修兵は破顔する。
そして、翌日帰宅した修兵の手には土産だと言ってウサギを模った上用饅頭を買ってきたのだ。

「どうしたの?君。顔真っ赤よ?うわ、耳まで」

昨夜の恋次とのやりとりも思い出される。

「気付けばねぇ〜は甘いもの好きだよな〜」

「檜佐木先輩、親馬鹿すぎだっての」

なんだ。
なんだ、それって。
修兵が毎回甘いお菓子を土産に持ってくるのは、自分のためじゃなくてのためじゃないか。
最初に好きだと言ったものを、修兵はいまだに用意して帰ってくる。
恋次が言っていた、修兵の気をひこうとしているお姉さん方には悪い気もするが。
約束ってわけじゃないが、いまだに自分のためにと思ってくれることが嬉しくてしょうがない。
本当は甘いものなんて嫌いで持って帰るのも嫌だろうに。

「修兵も馬鹿だなぁ」

君?」

じわりと涙が出そうになるが、は強めに拭ってに向かって笑った。

「あのさ、姉ちゃん。今度修兵に甘くない菓子でも食べ物あげてよ」

「わ、私が!?」

「誰でもいいけど、姉ちゃんからが俺はいいな。きっとアイツ甘いものにはうんざりしてるはずだし」

「う、うん。できたらね」

急ににお願いされては戸惑うが、まぁ良いかと返事をした。





翌日。

「ひ、檜佐木副隊長。おはようございます」

「おぅ、。おはよう」

朝一番で修兵と顔を合わせた。
といる時とは違う顔の修兵。
あんな顔見たら、大抵の子たちは更に惚れこむだろうなと思う。
何せ、唯一見たであろう、自分がそうなのだから。
でも、仕事中なので簡単には見れないが。

「どうした?」

「あ、いえ……あの。良かったら、これ食べてください」

袋詰めの煎餅を修兵の前に出す。

「煎餅?」

「あ……その。君が、その…。き、気が向いたらでいいので!」

強引に修兵に押し付けは駆け出し修兵の前から去っていく。

?」

意味がわからないが、とりあえず貰っておこう。
煎餅は嫌いじゃない。
休憩時間にでも食おうかなとか思いながら副官室へ入っていく修兵だった。








親バカw
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12/06/03再UP