お父さんといっしょ。




ドリーム小説
【其ノ三】





「ただいま」

ガラリと引き戸を開けて中に入る。

「今日の飯はなんだろうな〜」

この前食ったコロッケは美味かった。
美味かったけど、恋次が沢山食って腹がたったから、今日もコロッケでもいいな〜
などと考えながら修兵は廊下を歩いていた。
居間の障子を開けると、部屋が散らかっていた。

「な、なんだこりゃ」

「あ、おかえり修兵…あー今、片付けるから…」

が少し疲れた表情をしている。

「どうした、…」

「あ、うん……後で話す。とりあえず…あ、風呂…まだいれてねーや、ごめん」

何があった一体?

「夕飯はさ、あれで我慢してくれよ」

「あれ?」

が台所の鍋を指差す。

「作ってあるなら我慢もねーだろ?なんだよ…あ」

片付けているの横を通り過ぎて台所へ。
言われた鍋の蓋を開けると朝の残りの豆腐とわかめの味噌汁が。

「これ、朝の残りじゃねーか」

「悪いと思ってるけど…しょうがねーじゃん。作れなかったんだから」

「ご飯は?」

「……炊いてない」

「なんだよ…仕事終わって腹減ってるのによ」

あ〜あ……
そんな事をボヤキながら鍋に蓋を戻す。
ただ、ぼやかない方が良かった。

「飯、食いに行くか?」

と振り返ると頬を膨らませ唇を尖らせたの姿がある。

?」

「わかったよ、作るよ。作ればいーんだろ!」

「あ、いいって」

「作る!ご飯も炊くし、味噌汁も作り直す!」

ヘソを曲げてしまった。
自分の一言で。

は台所にズカズカと入り米を研ぎ始める。

「おい、いいって言ってるだろ?食いに行けばいいじゃねーか」

「やだ」

「お前なぁ」

修兵は頭を掻く。
今から作っていたらえらく時間がかかる。
そんなのは待っていられないし、も腹を空かせているだろう。
だから感情的なんだ。

「おら、いくぞ」

修兵はをヒョイと小脇に抱える。

「いーやーだー!修兵の馬鹿!」

「うるせー!行くったら行くぞ!」

「下ろせ、馬鹿」

「誰が下ろすか!このまま外に連れ出すからな」

「止めろよ!」

ジタバタ暴れる
たまに肘が顔や腹に当たって痛い。

「大人しくしやがれ!」

玄関に出て戸を開けた瞬間に声がした。

「キャ!」

急に目の前に家主が現れたから驚いたのだろう。
相手は一歩下がっている。

「………」

「離せ、修兵ー」

「あ、あの檜佐木副隊長……どうも……」

…うぐっ」

暴れ続けるに顎を殴られた。
修兵は思わず膝をついてしまう。

「ふ、副隊長!?」

「あ」

、てめー」

静かにできねーのか!
にゲンコツを喰らわせた。

「……修兵が悪いんじゃんか〜」

「うるせー」

修兵は顎を摩りながら、は頭を摩りながら互いを睨んでいる。
困ったのはたまたま修兵の忘れ物を届けにきたと言うだ。
すぐさま渡して帰るはずだったのに。

気がつけば檜佐木家の居間にちゃっかり腰を下ろしていた。

(私、なんでいるの?)

「悪かったな、

「い、いえ。隊長に頼まれたものでもありますし…」

姉ちゃん、はい」

「?」

がお茶と一緒に出してきたのは出前のメニューだった。

君?」

「姉ちゃんも食ってけって。修兵のおごりだから大丈夫だ」

「え、そんな悪いよ」

「気にするな、。ついでだ、食ってけ」

「は、はぁ…」

姉ちゃんが一緒じゃないと俺飯食わないからな」

君!?」

「馬鹿修兵なんかと今日二人で飯食いたくないもん」

先ほどの出来事をよほど根に持っているのだろう。

「俺の台詞だ、馬鹿」

修兵はお茶をぐいっと飲む。
はせっせと片づけをしている。
何やら大変そうなのでは手伝おうかと言う。

「いいよ。姉ちゃんはお客さんだし。それより決まった?決まったら修兵に電話させるから」

「う、うん……あ、じゃあ親子丼で」

「親子丼だな」

修兵は立ち上がって電話をしに居間を出た。
檜佐木家の電話は玄関にある。

「姉ちゃん、ごめんな。部屋が汚くて。いつもはこんなんじゃないんだ」

「そうなの?別に気にしないよ、私は」

「俺は気にするの!男二人暮しだからって部屋が汚いとは思われたくなくて掃除もちゃんとしてるんだぞ」

「すご〜い」

確かに手馴れているのだろう、の片付け方は無駄がない。
もしかしたら自分より家事は上手なのかもしれない…

「30分くらいで来るってよ」

「修兵、その間に風呂いれてきてよ」

「あ?俺が?」

「それぐらい手伝ってくれてもいいだろ」

「…わかった」

「ちゃんと洗えよ」

「おー」

さっきまでは睨みあっていたのに。
修兵は言われたとおりに風呂場に行ってしまった。

「す、すごいね。君。副隊長に指図しちゃうなんて」

「九番隊では副隊長でもウチではそんなに偉くないもん、アイツ」

「へぇ…仕事中の副隊長は怖そうだなとか思ってたけど…君といると表情柔らかいよね」

「………」

はプイッと顔を背けてしまう。
気に障ることでも言ったかな?とは思うも、の耳が少し赤いのがわかる。
単純に照れているだけのようだ。

「あ、あのさ、姉ちゃん」

「ん?なーに?」

背中をに向けたままだが、がポツリと呟いた。

「仕事中の修兵ってどんな感じ?」

「仕事中の副隊長?そうねぇ…副官室に行くといつも私は緊張しちゃうかな?
仕事の鬼!とまでは行かないけど厳しいかな?東仙隊長が少し甘く見てくれる分ね」

はくすりと笑う。

「でも、虚討伐の時とか格好いいよ。頼りになるし、強いし」

「………それは知ってる」

「そう?」

「………」

君?」

「あ、あのさ!さっきみたいな修兵見て本当は幻滅したとか言わね?」

は急に振り向いた。

「別にそんな事ないよ」

「本当?」

「そっか。なら良かった」

ホッとしたようでは軽く笑んでいる。

「私もさっき言ったよ?君といると副隊長の表情が柔らかいって。私はそれが見られて嬉しいかな?」

「嬉しいの?」

「うん。あー副隊長でもこんな顔するんだ〜って知ったわけだし…あ、内緒ね?」

は人差し指を唇にあてる。
の前にちょこりとしゃがんで耳打ちする。

「仕事中の修兵より、俺も家での修兵の方が好きだ」

「あら」

「でも内緒な、姉ちゃん」

「うん、内緒。私と君の秘密ってことにしよう」

に小指を出す。
も自然とそれに自分の小指を絡め指きりをした。
指を離した後に二人は顔を見合わせて笑う。

そこに風呂掃除を終えた修兵が入ってくる。
手には盆を持っている。
出前がちょうど届いたのだろう。

「なにやってんだ?お前ら」

「修兵には内緒だ」

「そうなんです、副隊長には内緒です〜」

「あ?なんだよ、気になるじゃねーか…」

修兵はちゃぶ台の上に盆を乗せる。
三人分の丼物がある。
は立ち上がって台所に向かう。

「俺、茶淹れ直してくる!」

「……なんだよ」

自分だけのけ者にされたと思った修兵はつまらなそうな顔をする。
それを見てしまったは軽く笑む。

(本当だ。家での副隊長の方がいいかも)

?」

「なんでもありません」

だってこれはとの内緒話なのだから。



「あれ?二人も親子丼なんですね」

三人で遅めの夕食となったわけだが、丼の蓋をあけてが驚いた。
三人同じメニューだったから。
そう言えば二人は出前のメニューを見ていなかった。
自分に合わせてくれたのかな?とか思ったのだが。

「俺ら出前と言ってもいつもこればっかりなんだよな」

「そうなんですか。好きなんですね親子丼」

「あぁ」

ならば気にする事もないか。

「ところで

「ん?なに?」

最初から気になっていた事を修兵は訊ねる。

「あそこまで部屋を汚した理由って、結局なんだよ」

「……あれね」

どんな遊び方をすれば部屋があそこまで汚くなるのだろうか?
基本的には家に友だちを呼んでも大騒ぎするような子ではない。

「やちるが昼間来たんだ」

「?あのチビっことお前いつの間に?」

「この前修兵の忘れ物を届けに行った時にだよ。たまに遊びに来るよ、やちる」

「草鹿副隊長、結構君のこと気にいってるみたいですよ」

それは正直あまり嬉しくないとか修兵は思った。
やちるが嫌いとかじゃなくて、やちるの後ろに控えている男を考えるとだ。
大丈夫だとは思うが難癖つけてこないだろうなぁと…

(あの人、あー見えて結構親馬鹿っぽいところあるよな…)

「でも草鹿副隊長が来たからって散らかして帰るような人じゃないでしょ?」

「うん。行儀いい方だよ、やちるは。恋次とかの方が行儀悪いし」

「阿散井副隊長…」

「ガキに言われてお終いだな、あいつ」

大人二人は苦笑しかでない。
の話だとやちるが遊びに来てから、いつものようにおやつを食べていたそうだ。
やちるが来てもの生活のリズムは代わらず普通に洗濯物を取り込んだり
夕飯の下ごしらえもしているのだが、今日に限って乱入者が他にもいた。

「猫?」

「うん。猫が庭に入ってきてさ。やちるが猫と遊ぶって言って捕まえたら猫が暴れてさ」

なんとなくその様子が目に浮かぶ。
その暴れた猫が家に逃げ込みやちるが追いかける。
家の中は散らかり放題。
と言うわけらしい。

「猫は逃げちゃって、やちるも隊舎に戻らなきゃいけなくてさ」

やちるも片付けるとは言ったが、が遅くなるといけないからいいと断ったそうだ。

「障子が破られなかっただけ良かったと俺は思う」

うんうんと何度も頷く
片付けた本人がそうならば別に修兵としては文句もない。
にしてみればいつもよりちょっと騒がしい日だったとの程度のようだ。




「副隊長、ご馳走様でした」

「少しだけで悪かったな、

「いえ。短い時間でしたが楽しかったですし…君もありがとうね」

が帰ると言うので二人で外に出て見送りをする。

姉ちゃん、今度は遊びに来てよ」

「うん、行くね」

「それじゃあ、失礼します!」

「おぅ、気をつけて帰れよ」

は修兵に頭を下げてには手を振って歩き出した。
の姿が見えなくなるまで二人で見ていたのた。

「修兵…男として家まで送ってやるのが普通じゃねーのか?ダメじゃんか」

「う、うるせーな」

そうしようとは修兵は思ったのだが、に断られたのだ。
にしてみれば恐れ多いって所だろうが。
でも、少しだけど距離が短くなったようには見えるわけだ。

「もう中入るぞ」

修兵はの背中を押した。

「風呂入って寝ろ」

「まだ丼洗ってないから、修兵が先入れば?」

「んじゃ、一緒に入るか?お父さんの大きな背中を洗わせてあげようじゃないか」

「……別にいい。馬鹿言ってないでさっさと風呂入れ」

はさっさと家に入ってしまう。

「うわ、すっげー寂しいじゃんか…にしても…」

いつの間にお前はとあんなに仲良しになったんだ?
本当はそれが一番聞きたかった修兵だった。








息子は本当に出来過ぎな子ですw
05/12/12UP
12/06/03再UP