ドリーム小説
【嫌い】





姜維の馬鹿、馬鹿、馬鹿ぁ!

何度そう思っただろうか。
は布団に包まり悔し涙を何度も流した。

『か、からかうのよしてくれないか』

『君の好きな人が僕?そんなわけないだろう?』

『それとも、友だちだから、だから友だちの好きな人ってのに興味あるの?』

の好きな人は僕じゃなくて、趙雲殿か馬超殿だろう?』

吐き捨てるかのように姜維はそう言った。

勢いとはいえ告白したのに信じてもらえなくて。
返ってきた答えは自分が別の人のことを好きだと思われていた。

「姜維のバ〜カ……」

確かに趙雲も馬超も好きだ。
でもその『好き』は姜維に対する『好き』とは違う別物だ。
二人は異性としてみれば確かに素敵で憧れてしまう部分もある。
何かあると頼ってしまうし。

でもそれはどちらかと言えば『お兄ちゃん』みたいな存在で。

姜維に対する『好き』とは違うのだ。

姜維とは一番仲の良い友だちで。
でも出会った頃から彼に惹かれている自分がいて。
段々とその気持ちが大きくなっていったけど、隣に並んで軽口を言い合える時間も好きだったから
想いは表に出さずにいた。

それでも、今が楽しいから。壊したくないからって…

姜維自身に恋愛に興味がないってのを知ったときは、少しショックだったけど、それも彼らしい気もしたし、自分も今は焦らずに行こうって決めたし。

「でも、姜維は嘘ついた」

「好きな人いないって言ったのに…」

姜維にとってはすでに諦めてしまった人。
でも、きっと諦めきれずに今でもその人を想っているんだって。
その想いを、姜維の顔を見たら胸が酷く締め付けられて、痛くて痛くて。

「もういい、姜維なんて嫌いだ…」

はしばらく一人で泣き続けた。



***



「姜維くーん、聞いたぞ〜と大喧嘩したんだってな」

「………」

馬超がニヤニヤ笑いながら座っている姜維の頭を撫でる。
姜維はその手を払いのけるわけでもなく黙って作業をしている。

と思ったのだが、に叩かれた箇所を濡らした布で冷やしていた。

「姜維?」

「ほっといてくださいませんか」

反応のない姜維の顔を覗きこむもじろりと睨みつけられてしまった。
馬超は微苦笑しながら頭から手を離す。

「おー怖いね〜普段大人しい奴が切れると怖いって言うしな。
趙雲なんか怒らしてみ?もっと怖いぜ、あいつ笑顔で人のこと刺すんじゃないかって感じだしな」

なぜにそこに趙雲の名前が出るのか知らんが、姜維を笑わせようとしているのだろうか?

「喧嘩の中身はよく知らんが、結構広まってるぜ」

「そうですか、別にどうでもいいです」

「おいおい、投槍だな」

「いいんです、別に」

「ふーん」

「僕より、の所に行けばいいじゃないですか、ほっといてください」

「かわいくねー」

姜維が噛み付きそうな勢いでも、馬超はケラケラと余裕を持って笑っている。
それを見ると余計に姜維は子ども扱いされたようで、からかわれたようで苛立ってくる。

「ま、自分で蒔いた種だからな、自分で何とかしろよ?」

「誰も馬超殿に手伝ってもらうとか思ってません」

「うわー本当可愛くないね。少しぐらい頼ってくれてもいいじゃん」

「嫌です」

「なんでそんなに固いかな」

頼れるわけないだろうがと毒づきたくなる。
自分はの好きな人がこの人か趙雲かと思っているのだから。



でもは自分の事が好きって言った。



好きって言われたのに、嬉しさとかより疑問の方が募っていた。
にしてみれば一番の友だちが他の女性に取られてしまうのが面白くないのかもとか
彼女ができれば、過ごす時間も減るからとかなんか独占欲みたいのがあってあんなこと言ったのかぐらいにしか思えなかった。

だって、どこをどうしたら、自分がの好きな人になるのだろうか?
目の前にいる馬超を見るといつも自信に満ち溢れていて、誰からも慕われ頼られているような人だ。
そんな人から見て自分はまだまだ未熟でガキだと思っているのに。

馬超と趙雲をと比べられたら自分は器が小さい未熟者の判子を押されてしまうのだ。

だから、の好きな人は自分じゃないって思った…

「…………」

思ったのに、に打たれた頬より胸が痛かった。

「ちくしょー」

「姜維?」

馬超が覗き込むと、姜維は頬を押さえた手に力を込めて歯を食いしばり少し身体を曲げていた。
そして薄っすらと彼の目から涙が見えた。

「………早く仲直りしろよ、姜維」

ポンポンと姜維の肩を軽く叩く。

「こんな自分嫌いだ」

「………」

馬超は二人の喧嘩の原因を知らない。
基本的に知ってる者はいないらしい。
ただ去り際にが姜維に罵声を浴びせ頬を叩いたって所を目撃したものがいたのだ。
目撃者は単に普段仲の良い二人が喧嘩なんて珍しいね。程度にしか思わず話のネタとして軽く言ったようだ。
それが、へーそうなのかと広まったのだが、馬超は軽くからかうつもりで姜維の様子を見に行ったのだ。

けど、思ったより深刻そうで、こんな姜維を見るのは初めてだなと少し嬉しくなった。
喧嘩が深刻なのが嬉しいのではなく、なんだ年頃の青年らしいじゃないかって。
いつもニコニコ笑顔で素直な優等生なイメージが強かった。
けど、ちゃんとこいつにも悔しいとか反抗心とかあるんだなって。

馬超は実の弟を曹操に殺されて、家族と言えるのは従兄弟の馬岱しかいない。
馬岱は自分より年下だが、あれはどちらかと言えば自分の世話役みたいだ。
年下なのに、妙に兄みたいな貫禄があるし。
実際馬岱にキツク言われると反論できない自分がいるし。

だからどうしても姜維をかまってしまうのだろうな。

「……自分が嫌いだと、相手はもっと好いてくれねーぞ」

「………」

馬超は適当にその場にある本を手に取りめくる。
最初はほっとくつもりだったが、なんとなくこのままにしておけないなと。

「言いたいこと吐いちまえ、姜維」

「………」

「くくっ、意外に頑固だったんだな、お前」

「………」

「趙雲みてー」

「は?」

姜維は思わず顔をあげて馬超を見てしまった。

「趙雲殿?」

「似てるって言ったんだよ。アイツにお前が」

「ど、どこがですが!」

「容姿とかじゃないぜ?性格がよ。アイツも結構頑固でさ。一度首を縦に振ると頑として考え方変えないしな」

似てる似てると馬超は笑う。

「そんな似てるわけないじゃないですか、僕はまだまだ未熟でお二人に敵わないと思っていて」

「そうか?俺はお前みたいに頭良くないぞ」

「完璧ですよ、馬超殿は」

「いや?全然」

「?」

「だって、戦になると俺、真正面ばかり見ちゃってよく怒られるぜ?突出しすぎるとかさ」

「………」

「いっつも趙雲や岱に小言ばかり言われてるしよ」

「………」

「お前の方がよっぽど完璧だと思ったぞ、俺は」

「う、嘘だぁ……痛っ」

馬超は姜維の頭を軽く小突いた。

「こんなの嘘ついてどーすんだよ。褒めてやってるんだぞ」

小突かれた箇所を軽くさすり馬超を見る姜維。
自分は今までこの人には敵わないと思っていたのに、そんな人から逆に言われてしまうとは。
なんとなく照れくさく感じる。

「ま、完璧な人間なんてそうそういやしねーだろ。だから面白いんじゃねーの?」

「面白い、ですか?」

「上手く言えねーけどな。そういう方が味があっていいだろ?」

「………」

「俺はお前みたいな奴、嫌いじゃないし、今回の事でもっと面白いもん見れたからさらに気に入ったね。だから、自分が嫌いとかもう言うなよ。自分で思うほど周りは思ってないしな」

結局……
馬超は自分を浮上させてくれたじゃないか。
頼りになる人だよな、この人は…

上手く乗せられたと言うべきか。

「お、信じてないか?完璧な奴なんて本当いないって。趙雲見てみ?」

「馬超殿…」

「あいつ、頑固な一面もあるけど結構抜けてるぜ?女どもはかっこいいとか言うが
隠居したじじいみたいに庭先でボーっと茶ァ飲んでるし、箸の使い方悪いし……」

「あの、馬超殿…」

「普通、こう持つだろ?あいつ、こうだぜ?ガキの持ち方だよな」

「………知りませんよ、本当に」

馬超が姜維に向かって笑いながら『趙雲が完璧じゃない所』を熱く?語っているが
姜維は馬超の背後にいるソレを見ていて、苦笑いしてしまう。
早く気づけよ、と。

「悪かったですね、ガキの持ち方で」

「うぉ!ちょ、趙雲」

「あなたに言われる筋合いないのですがね…」

馬超の背後には口元が引きつった趙雲が立っていた。
しかも姜維に色々話されたことで恥ずかしいのか少し頬が赤い。

「い、いやね。完璧な人間はいないって話をしてたんだよ。姜維がお前は完璧だーて言うからさ」

「ほぉ完璧な人間ですか」

「ちょっと、馬超殿!人の所為にしないでくださいよ!って、あー!」

馬超は無理やり姜維を趙雲の前に押し出し壁にしたようだ。

「馬超殿、ずるいです!」

「な?見てみ?お前の目の前にいる奴、ぜーんぜん完璧じゃないだろ〜?
これくらいのことで怒ってるしな、完璧な人間はこんなことじゃ揺らがないっての」

「馬超殿…あなたも懲りない人ですね」

嘆息する趙雲。

「わかりましたから、馬超殿、僕を巻き込まないでくださいよ〜」

「では完璧な馬超殿はわかりますよね?私が何故ここに来たのか?」

にこりと笑む趙雲になんだか寒気を感じた。

「さ、さぁ?俺だって完璧な人間じゃないからね、わからんな」

「馬岱殿が探してましたよ?あなたがいないと仕事にならないと。私もね、あなた待ちの仕事がいくつか残っているのですよね」

「そ、そうか。じゃあ戻るかな…よし、姜維、お前も来い」

「は?」

「俺の仕事が遅れたのは姜維にも責任はある。手伝え、姜維」

「い、嫌ですよ。僕は別に」

「どっちでもいいですよ。行きましょうか、二人とも」

「「え!?」」

ぐいっと二人の襟首を掴んで趙雲は歩き出す。

「ちょ、ちょっと待て、趙雲!」

「嫌ですってば!僕は関係ないです〜」

「煩いですよ、二人とも」

ずるずる引きずられて行く馬超に姜維。

いつも自分から見て完璧で敵わないと思っていた二人にこんな一面があろうとは。
大人で余裕を持っている姿しか見たことなかったから…
趙雲に逆らえない馬超に、少し大人気ない行動を取る趙雲。
姜維は可笑しくなって口元が緩んでしまう。

「何、笑ってんだよ、お前」

「え、いや、別に」

小声で姜維に話しかける馬超。

「なんとかして逃げるぞ」

「え?そんなことできるわけないじゃないですか」

「見てろって」

「?」

「あー!趙雲大変だ!あそこで御子が泣いてるぞ!」

「え?」

馬超が声をあげた瞬間に趙雲の手が緩んだ。

「よっしゃ、今だ。行くぞ姜維!」

「は、はい!」

「……って!馬超殿!姜維!」

隙を突いて馬超と姜維は走り出した。
逃げられた趙雲は慌てて反転し二人を追いかける。

「なんで僕まで逃げなきゃいけないのですか!」

「なんでって、お前はと仲直りするのが先だろ?」

「あ…無理ですよ、多分」

「無理じゃねーよ、頑張れ」



こんな僕を許してくれるだろうか?は。








完璧じゃない趙雲を伝えたかったのに、箸の持ち方が悪いって…
04/11/24