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生生流転
#29 「あ、あの浮竹さん。いますか?」 なんで自分が…って今にして思う。 雨乾堂には恐らく足を運ぶことなどないだろうなと思っていたので。 思い切って中に声をかけたもののは酷く緊張していた。 浮竹が留守だったらいいのだが、生憎清音にいると言われた。 それにだ。 今、がここにいるのはその清音に頼まれたからだ。 先ほど一護と縁側で話していたのだが、清音がものすごいスピードで通り去ったと思ったら 急に反転して戻ってきた。 「ちょうど良かった!ちゃん!」 「は、はい!?」 ドサリと音がするほどの書類の束。 それをと一護の間に清音は置いた。 「これ、浮竹隊長に届けて!隊長、雨乾堂にいるから」 「は?」 「お願い〜人手が足りないの。隊長に届けるだけでいいから」 清音は両手を合わせてに頼み込む。 他にも行く所があるのに、先ほど急に他隊から浮竹へと回ってきた書類がきた。 「届けるだけでいいなら、俺が行くか?」 一護が書類に手をかけるが、清音は一護には別の書類を渡す。 「君にはこれを!十一番隊へ届けて」 「げっ、な、なんでよりによって十一番隊へ…」 「じゃあ総隊長の所へ行く?」 「十一番隊へ行きます」 一護はがくりと肩を落とす。 一護にしてみればどちらもあまり関わりたくないと思っているようだ。 十一番隊は隊長の更木に勝負を挑まれることが嫌で、総隊長にはこれといって何もないのだがなんとなく怖いおじいちゃんと言うイメージがあるらしい。 「しゃーね、とっとと終わらせるか。じゃあな、」 「う、うん…」 一護は面倒臭そうに書類を持って去って行った。 清音もが返事をする前に忙しいと言って駆けて行った。 二人の後姿を見ながらは軽く頬を指で掻く。 「…会わないようにするはずだったのに…」 京楽は待っていれば向こうがなどと言っていたが。 「まぁいいか。なんか忙しいそうだし」 は腰を上げて書類を抱える。 そして雨乾堂へと足を運んだのだ。 「………」 外から浮竹に声をかけたのだが反応がない。 いないのだろうか? 清音はいると言っていたのに。 いないなら仕方がない、書類を置いて立ち去ることにしよう。 ガタッ 音がした。 なんだいるじゃないか、は簾を上げて中を覗きこむ。 「……浮竹さん?…あ」 「や、やぁ。君」 浮竹は仰向けになっていた。 「ど、どうしたんですか?」 「ん……あ〜すッ転んでしまって」 「………」 浮竹はいそいそと身体を起こす。 が来たと思って慌てて出ようとしたのだが、死覇装の裾を踏んで後ろへ転んでしまった。 は苦笑しながら中へ進み、膝を曲げ文机のそばに書類を置く。 「清音さんに頼まれて書類持ってきました」 「あ、あぁありがとう」 「………」 「………」 互いに言葉が出てこない。 少し沈黙するが、はぺこりと頭を軽く下げた。 「あ、あの。色々ありがとうございました。浮竹さんのおかげで怪我もなく帰ることができます」 「い、いや。俺は別に…」 「お礼だけはちゃんと帰る前に言いたくて…ありがとうございました」 もう一度頭を、今度は深く下げた。 そして立ち上がる。 「それじゃあ、お仕事頑張ってください。あ、無理しない程度に…」 はそそくさと部屋から出ようとする。 浮竹は思わずの腕を掴んだ。 「待った!」 「な、なんですか?」 「あ………その………」 引き止めてどうしようと思ったのだろう。 いや、これは無意識だ。 これが浮竹にとって最後なのかもしれない。 …何の? それは自分でもわからない。 わからないけど、そう感じた。 だからを引き止めた。 「浮竹さん?」 「お。お茶でも飲まないか?豆大福もある」 「……えっと…お昼食べたばかりなんで、いいです」 「そ、そうか…」 「なので、手・・・放してもらえませんか?」 「嫌だ」 「……は?」 「手を放したら君、どっか行くだろう?だから嫌だ」 なんだ、急に。 「でも浮竹さんお仕事中でしょ?」 「仕事は後でもできる。でも君と話すことができるのは今だけだ」 浮竹はどこか拗ねたような顔をしている。 『そう、我がままだよ〜と言っても隊士たちにそんな顔は見せないけどね』 京楽が言っていたこと。 今まさに? ギュッとの腕を掴んでいる浮竹。 病弱だとか、細い腕だとかそんなこと関係ない。 男の人の腕だ。 力強く掴んでいる。 はその場に座る。 「とりあえず、どこにも行かないので手を放して下さい」 「嫌だ。君は俺が手を離した瞬間にを使って逃げるかもしれない」 「に、逃げませんよ。前、そんなことしましたけど」 逃げた所で浮竹が追いかけてくる気満々ならば逃げれない。 瞬歩と言うのですぐに捕まるのは目に見えている。 それに。 は今恋次と檜佐木と一緒でのそばにはいない。 呼べば戻ってくるが、は今恋次がお気に入りのようだ。 「なんか、変ですよ…浮竹さん」 「そうか、変か…俺は」 浮竹は後頭部を掻く。 きっとそうなってしまったのは京楽の所為だ。 京楽に言われなければ、普通にを帰したはずだ。 「あ、あのな君…そ、そうだ!前に君が言ったこと教えてくれないか?」 「前に?」 「俺が君を助けたと。ずっと聞こうとは思っていたんだ」 「あ…」 浮竹はゆっくりと掴んでいた手を離した。 は小さく頷いた。 「5年以上も前の話なのですが、はその頃に飼っていた子なんです。名前は祖父がつけて、朝の散歩は父が。夕方の散歩は私が行ってました。と言っても、小さい子どもだったからが散歩してくれている感じですけど」 昔から主人に忠実で賢かった。 あの頃のままの今の姿。 でも少しだけ違うのは自分が成長した分大きく見えたの身体が小さく見える。 「ある日、いつもの散歩コースから外れてしまったんです。早く帰らなきゃって思っていたら、突然が何かに向かって威嚇をして…私にも見えていたんです。その何かが」 「……虚か」 「はい。虚が私たちの前に現れて、私は怖くて逃げることもできなかった。は私を守ろうとして」 はキュッと目を閉じる。 一時期記憶を封じられていたとは言え、今でもその時の痛みは残っている。 少し俯いてしまうに浮竹は頭を撫でる。 「うん、その先はわかる。言わなくて良いよ」 「…それで自分もダメだと思った時に黒い着物に白い羽織を着た大人が私を助けてくれたんです」 「………」 「後姿がとても印象的で、白くて長い髪の人でした」 「…俺か…」 言われて浮竹は頭の中に風が通ったかのようにスッとした。 思いだした。 あの日は別に自分がいなくても良かったのだが、たまにはと気分転換のつもりで現世へ降りた。 巡回、視察、そんな目的だった気がする。 そんなのは早くに終わったので帰ろうとかとした時に虚の反応を捉えた。 今まさに子どもが襲われそうだったが、なんとか間に合った。 だが、ぐったりと倒れている、すでに事切れた犬がいた。 『大丈夫か?すまない、間に合わなくて』 話しかけても普通ならば死神など見えやしない。 でも浮竹は話かけ、泣きじゃくる子どもの頭を何度も撫でた。 『っく……ごめんね、ごめんね』 『自分の身を挺して主人を護る。良い犬だな』 『……でも、私』 『そんな犬の主人でキミは幸せ者だ。だからその子の分も君は生きなさい』 子どもは自分の声に反応した。 この姿が見えているようで自分を涙が溜まった目で見た。 「あの時の子どもは君だったのか……」 尸魂界の決まりごとでその時の記憶を封じて新しい記憶を植えた。 でもは覚えていた。 いや、思い出したのだ。 「なんとなく、君とは初めて会った気がしなかったが………そうか、あの時の子どもか」 忘れてしまったのは薄情かもしれないが、でも仕方ない。 あの時の小さな子どもが、すっかり成長しているのだから。 「だから、君に泣かれると困るのだな、俺は」 「そ、そうなんですか?」 「あぁ。確かに誰にでも泣かれたりすれば困るだろうけど、君の涙が苦手だ」 何度も泣いた。浮竹の前で。 「泣いてすっきりさせたい気持ちはある。でも君は泣き顔より断然笑顔の方がいい」 の頬に朱が走る。 「あ、ありがとうございます」 「なんかすっきりしたな」 「昔のことを知ってですか?」 「それもある」 先ほど見せた拗ねた子どものような浮竹は消えていた。 の前にいるのはいつもの浮竹だ。 「君と俺の違いってなんだ?京楽に言われた。持っているものが違うと」 「きょ、京楽さんに?…あの人は…」 余計な一言を言ったのだなとは知った。 言わないでくれと言ったのに、少しばかり恨めしく思う。 「それに気づかないうちは君に会ってはいけないと勝手に決められた。君も俺の前には来ないと言っていたし」 「………」 京楽が言ったと浮竹の持っているものの違い。 それはにはわかった。 自分に芽生えた想いのことだろう。 の好きと浮竹の好きは違う。 違うとしても好きだと思われているならばいいような気もする。 少なくともはそう思い始めていた。 浮竹の性格だ。 きっと誰に対しても優しい。そしてその分周りから好かれ愛されている。 自分もそこに含まれるならばいいではないかと… だから、瀞霊廷で世話になったことをちゃんと礼を言わねばと実行したのだから。 それで失恋したことになるだろうが、新たな気持ちで現世に戻れる。 「ただ一つだけわかったことがある」 「?」 「君のことを檜佐木君が名前で呼んだこと」 「あ、はい。気さくに呼んでくれます」 「それが俺には面白くなかった」 「え…」 「君の友だちは良いとして、なんとなくそう感じたんだ。京楽もそうだ」 彼は最初から“ちゃん”と呼んだ。 「しかも、俺より君のことに詳しい、理解しているような感じを見せ付けた」 「あ、あ〜それは私が京楽さんにお話したので…だと思いますけど…」 「それは京楽には言えて俺には言えないことなのか?」 言えるわけがない。 は微苦笑する。 「やっぱり、面白くないなぁ」 浮竹は小さく唸りながら腕を組んだ。 「それだけでも嬉しいです、私は」 「ん?」 今の浮竹にとって、自分が少しは特別なのかと思えて。 嫉妬とまでは行かないが、多少は妬いてくれているのかな? 「さてと。私はもう失礼しますね。本当、お仕事の邪魔はしたくないですから」 は立ち上がる。 最初から想いを告げようとは思っていなかったのだ。 あれはその場の勢い。 だから、今はこのままでいい。 いつか思い出になればいいと思って… が浮竹に背を向けた。 「君!」 二度目だ。 浮竹はの腕を掴んだ。 さっきよりも強く素早く。 「浮竹さん?」 「その。仕事やるから、行かないでほしい…駄目かな?」 振り返った時に見た浮竹の顔。 縋るような目をしている。 じわりと胸にしみこむ。 そんな顔されたら断れないし、自惚れてしまう。 「駄目じゃないです…手伝うことありますか?」 「手伝いなんてさせないさ。そばにいてくれればいい」 「う、うぅ浮竹さん、その台詞は反則です」 「そうか?そう思ったことだ。あぁ、そうか……」 浮竹は何かに気づくとそのまま腕を引いた。 「わぁ!」 は勢いで倒れそうになるが、浮竹がしっかりとを受け止めた。 浮竹はに笑みを見せ 「君を他の誰にも渡したくないんだ、俺は」 「………」 「俺は君を好きなんだ。今頃気づいた、馬鹿だな」 あの夜にが自分に向けた言葉と同じ意味。 少しばかり遠回りしたけど、今、君と同じ気持ちだ。 「遅いかな?」 は数回首を横に振り、ぎこちなくも浮竹の首にかじりついた。 「好きです、浮竹さん」 「あぁ、俺もだ」 浮竹はしっかりとを抱きとめた。 あの夜とは同じようで違う答えを出して。 06/04/??
12/05/05再UP
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