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生生流転
#30 「明日?……うん、わかった」 準備していた穿界門が明日には使用可能だと言うので、出立時間を決めた。 今日は尸魂界での最後の日だ。 「」 「なに?」 「その、いいのか?」 一護は後頭部を掻く。 「お前、ここの所色々悩んでいたし、結局どうした?」 心配をしてくれている一護。 もうすぐ帰るからしこりは残したままにするなよと言ってくれたのも一護だ。 は笑顔で答える。 「うん。もう大丈夫」 「そうか」 ポンとの肩に触れ一護は去っていく。 彼は残りの時間と言っても前と変わらず十一番隊の道場に顔を出すのだという。 「さてと、私はどうしようかな」 めいっぱい伸びをする。 浮竹への想いが通じたが、それはそれ。 悲しいけど、だからってどうなるわけでもない。 嬉しさと寂しさが入り混じっている。 だって明日にはもう、浮竹とは別れてしまうのだから。 「あ、ここにいたね。ちゃん」 「?…京楽さん」 軽やかに上機嫌でやってきた京楽。 「京楽さん。どうしました?」 「聞いたよ、旅禍の坊やに。明日帰るって?」 「あ、はい。京楽さんにも沢山お世話になりました。ありがとうございました」 は京楽に頭を下げる。 「いいよ、別に。色々あったけど楽しかったよ。さて、行こうか」 「は?」 京楽はの手を取り歩き出す。 行き先も告げられず京楽に連れて行かれる。 *** しばらく歩き着いた場所は一軒の大きなお屋敷。 こんなお屋敷見たことない。とは目を丸くする。 京楽は全く動じずに屋敷に足を踏み入れる。 何人かの綺麗な女性が京楽に頭を下げている。 そして通された一室。 「どれがいいかな〜うん、ちゃんには明るすぎない方がいいかな〜」 広げられた女性用の着物に小物。 「あ、これにしよう。ちゃんどうかな?」 「え、あの。京楽さん?」 「早くしないと煩いのが来るからね。早く支度をしてしまおう」 「なんのことだか、意味がわかりません」 「大丈夫、あいつ好みにしてあげるから。あ、着付けできる?」 「で、できないです」 京楽が呼ぶと入ってくる女性。 は女性たちによって抵抗する間もなく死覇装を脱がされてしまう。 しばらくして出来上がったを見て京楽は手を叩く。 「うん。似合うね、ちゃん。さすがボクの見立てたとおりだな〜」 「京楽さん、そろそろ教えてくださいよ〜そりゃあ滅多にこんな恰好しないので嬉しいですけど」 「ごめんね、無理矢理。でももうすぐ来るから意味はわかるよ」 「来る?」 が小首を傾げると同時に部屋の障子がスッと開いた。 「春水様。浮竹様がお越しです」 「はいよ、通してちょうだいな」 「浮竹さん?」 改めて気づいたのだが、ここは京楽の住む屋敷のようだ。 この女性たちは使用人と言うか、女中さんと言うか、お世話する人のようだ。 「京楽、何の用だ。来ないと後悔するとか言って…」 女性に案内されて入ってきた浮竹。 開口一番が京楽への文句だったがの姿を見て閉口してしまう。 「君?」 「ね。来ないと後悔するところだったでしょ?」 「京楽」 「とりあえず、時間の許す限り楽しんできなさいな」 京楽はそう言って二人を屋敷から見送った。 *** 「京楽の奴…俺だってちゃんと考えていたのに。まったく…」 明日には帰ってしまう。 だから残り一日をどうしようかと浮竹なりに考えていたのだが 行動を起こすのは京楽のほうが早かったようだ。 でも自分の隣を歩くの姿を見て小さく笑んでしまう。 「似合っているな。君」 「ほ、本当ですか?あまりって言うか、殆ど着物なんて着たことなくて。 どちらかと言うと剣道着の方に馴染みがありましたし」 は照れ臭そうに笑う。 京楽が選んだだけある。 蘇芳色で格子に梅の柄の正絹小紋。小紋の柄に合わせて一輪の梅の簪。 手には小さめの巾着カゴを持っている。 死覇装姿を見慣れていたのでいつも以上に新鮮に、に合わせたのだろうとても似合っている。 派手すぎず、地味すぎず。 浮竹は後頭部を掻きぽつりと呟く。 「確かに後悔するところだったな」 「え?」 「いや、なんでもない。どこへ行こうか。どこでもいいぞ」 「あ、でも浮竹さんお仕事は?」 昨日沢山あったのをは覚えている。 「終わったよ。だから心配することはないさ」 行こう。と浮竹はの手をとる。 「どこでもいい、君の好きなところへ行こう」 「どこでも…私の好きなところ…うーん」 そうは言われても瀞霊廷内のことはあまり知らない。 が行った場所など限られているし、それは普通に死神たちが使用する施設だ。 「私の好きなところは雨乾堂かな」 浮竹と多くを過ごした場所だし。 「嬉しいことを言ってくれるな。でも、流石にあそこはなぁ」 浮竹は微苦笑してしまう。 今日ぐらいはどこかへと思ったのだし。 「浮竹さんと一緒ならどこでもいいですよ、私は」 「じゃあ、しばらくこうして歩こうか。瀞霊廷は広いからな」 「はい」 天気もいい。 ただ、一緒にいるのが嬉しいのだ。 *** 「そう言えば、最近は一緒じゃないようだな」 「あ〜なんと言うか、六番隊の副隊長さんを気に入ってしまったようで」 「阿散井君を?」 二人はのどかな雰囲気のする公園に着ていた。 今日は仕事が休みなのだろう、親子連れやお年寄りの姿がある。 ちょっと休憩しようとベンチに座る。 「恋次君からタイヤキを分けてもらったことに味を占めてしまったみたいで」 「甘いもの好きなんだな、は」 「浮竹さんの所為ですよ」 「俺の?そうなのか?」 キョトンとする浮竹にはくすりと笑みを零す。 浮竹が最初に最中を与えたのがきっかけだ。 「浮竹さんがばかばかに最中与えるから〜」 「そ、そんなにあげてないぞ」 「あげました〜って止めなかった私にも問題があるのですけどね」 「じゃあ二人の責任ってことだな。お、ちょっと待っててくれ」 浮竹は何かを見つけてベンチを離れる。 はその後姿を見送りながら先ほどのやり取りを思い返してしまう。 「二人の責任か。なんだかなぁ〜」 ここにも一緒があった。 単純にそれだけが嬉しい。 もう時間が限られているから、ほんの小さなことでも。 「君、ただいま」 「お、おかえりなさい」 浮竹が戻ってきての隣に座る。 そしてにタイヤキを差し出した。 「屋台を見つけたから、つい」 ここのタイヤキがも気にいってしまったタイヤキかはわからないが。 はタイヤキを受け取り口にする。 「あつ」 「焼きたてだから、気をつけないとな」 「はい」 でもタイヤキは美味かった。 よく食べるようであまり食べないものだったし。 たまに食べるのもいい気がする。 「美味しいです」 「そうだな」 「あ。浮竹さん、アンコついてますよ」 「ん?」 「ほら…あ、す、すみません」 顎についている餡子。 思わずは手を伸ばしてそれを軽く拭う。 だが浮竹は子どもじゃないのだ。 自分のとった行動に恥ずかしくなる。 「いや、俺がだらしないから」 浮竹はそのまま気にもせずに行き場を失くしたの指についた餡子をパクリと食べてしまう。 「食べた、食べた。さぁ次はどこへ行こうか」 顔から火が出るとはこういう事だろう。 の顔は真っ赤かだった。 *** とある小物屋さんに入ろうとした時、聞きなれた声が耳に入り立ち止まった。 「黒崎くん!ちゃんと浮竹さんがいるよ。二人には聞かなくていいかな?」 「さっき言ったろ?恋次が知らないなら…」 向こうは何やら急いでいる様子だったが、の姿を見て思わず立ち止まった。 「織姫、黒崎?」 「うっわぁ〜ちゃんかわいい〜似合ってるよ、その着物〜」 織姫はぐるぐるとの周りを回る。 「あ、ありがとう」 「どうしたんだ、その恰好」 「京楽さんに着せられました」 「何してんだ、あの人」 「いいな、いいな〜」 「織姫のTシャツも可愛いじゃん。どうしたの、それ」 レースや小さなコサージュまでついている。 「石田くんが帰るときのためにって作ってくれたの」 「あ、そんなこと言ってたね」 「ちゃんは?石田くんにもう見せてもらった?」 「私はちゃんと自分のがあるから断ったんだ」 最初に来ていた黒のTシャツにお気に入りのジーパン。 死覇装で過ごすようになってから、着なくなったがちゃんと保管してある。 「君たちはどこかに用があるのかい?急いでいるみたいだけど」 浮竹が一護に訊ねる。 「ちょっと、向かう所があって。大したことじゃないッすよ」 「そうか」 「と、そろそろ行くぞ、井上」 「あ、うん。じゃあ後でね、ちゃん。浮竹さんも」 再び忙しく駆け出す一護に織姫。 「でも、浮竹さんと何していたのかな、ちゃん」 「…………」 一護は答えなかった。 だがなんとなくわかった気がする。 「あれがあいつの悩み事だったのか」 とてつもなく大きな悩みだなと苦笑した。 *** 「ありがとうございました、京楽さん」 「どういたしまして〜楽しかったかい?」 日も暮れ始めた頃、と浮竹が再び京楽の屋敷を訪れた。 は死覇装に着替え小紋や小物を京楽に返す。 「はい」 別室でお茶を飲んで待っている浮竹。 この後を隊舎まで送るつもりなのだろう。 「小紋も簪もちゃんのために、なんだから持って帰ってもいいんだよ?」 「え、遠慮します。高価なものじゃないですか」 「気にしなくてもいいのなぁ。小紋が無理なら巾着と簪だけでも持っていきなさいな」 は首を横に振る。 「お気持ちは嬉しいです。でも現世に持って帰るわけには」 「別に平気だと思うけどね。あ。わかった浮竹に何かもらったんでしょ?」 は寂しそうに再び首を横に振る。 「もらいませんでした。浮竹さんも何か一つくらいって言ってくれましたけど…」 「ちゃん考えすぎだよ、色々と」 京楽はの頭をくしゃりと撫でた。 「さ、ウチでご飯でも食べていってよ。浮竹もいるし、沢山用意したよ」 京楽が言うだけあって頂いた夕食は豪華だった。 前に高そうな寿司をご馳走になった。 今回は着物など…。 月が真上で輝く中を浮竹とは歩いていた。 沢山食べたとか、今日は楽しかったとか、他愛のない話をしながら。 隊舎まであと少しと言うところで浮竹が歩みを止めた。 「君」 浮竹はを優しく抱きしめる。 少し悲しそうな声音。 「俺は君に何もできないのか?」 今日の思い出にとに似合いそうなもの、好きそうなものを贈ろうと何度もしたのに、は受け取らなかった。 現世に持って帰れないと言うばかりで。 「そんなことないです。私は一緒にいられただけで」 「でも…な」 時間が足りなさ過ぎた。 もっと早くに自分の気持ちに気づけばよかった。 浮竹は悔やむ。 すぐそこまで出掛かっている言葉がいくつもある。 あるが、それは言えない。 言ってしまったらお互いに困るだろうと言う気がする。 「浮竹さん」 「なんだ?」 「色々ありがとうございました。私、浮竹さんにもう一度会えて良かったです」 「………」 すでに過去系のようなの言葉に浮竹はつまる。 だからグッとを抱く腕に力を込める。 黙っていようと思ったが、吐き出してしまいたい。 「俺は君をこのまま現世に帰したくない…これは俺の我がままなのだろうか」 「………我がまま…ですよ」 「そうか」 の顔が見えない。 がすでに線を引いてしまっているのならば無理はダメだと変に諦めが出てきた。 同時にやはり失言だったと後悔する。 浮竹はゆっくりとを解放する。 「それでも、俺が好きなのは君だよ」 浮竹は静かにに口付けた。 *** 「…これが正式な穿界門だ。無論君たちのために霊子変換機も組み込んでおいた」 尸魂界へ来る時に浦原たちが用意したものより大きく、見ていて圧倒されてしまう。 「…一護君」 「浮竹さん」 一護が浮竹に呼ばれた。 その近くでたちはルキアと言葉を交わしていた。 「それじゃあ、朽木さん。元気で…」 「ああ。チャドも石田も井上もも…皆元気でな」 「無理しないでゆっくり養生してね、朽木さん」 「大丈夫だ」 「海とか花火とか、いっぱい一緒にやりたいことあったんだけど残念だな」 「すまぬ…」 「謝らないでよ。こうして朽木さんが元気ならばいいし、でも約束は約束だからいつかね」 「ああ」 「あ!そ…そうだ!!」 織姫が手を叩きどこから出したのか、何かをルキアに押し付けていた。 「君」 「浮竹さん…あの」 「無茶はダメだぞ。あと何でも考え込まないこと。君には頼れる仲間がちゃんといる」 これからまだ色々起こるだろう。 それは自分だけでなく一護たちも、死神たちもだ。 「はい。浮竹さんも無理はダメですからね」 「ああ。肝に銘じよう」 ニッコリ笑ったかと思うと浮竹は袖の中から何かを取り出しに持たせた。 「浮竹さん?」 「やっぱり俺は我がままだからな。一つくらいいいだろ」 薄い桃色をした花の髪飾り。 「う、浮竹さん」 「君に受け取ってもらわないと、これの行き場が困るんだ」 「………本当我がままな人ですね」 は苦笑する。 「ああ。我がままだぞ、俺は」 軽い嫌味など通じるはずもなく。 は髪飾りを大事に握り締めた。 お互い笑顔を交わす。 そして、穿界門を潜った。 *** 正式な穿界門だと言うのに、行きと変わらず断界を全力で走った。 正式なものと雖も、死神しか扱うことのできない地獄蝶がいないと正規のルートを通れないらしい。 それでもなんとか断界を抜け現世に戻ってきた。 空に放りだされたものの、浦原たちが出迎えてくれたのに問題はなかった。 そこでも少しばかり色々あったが。 石田、織姫、茶渡に続いても自宅近くで一護たちに別れを告げる。 「浦原さん、ここでいいですよ」 「はいは〜い」 ヒョイッと妖怪一反木綿のようなものから飛び降りる。 「じゃあまたね、黒崎!」 「おう。も色々ありがとな」 「ううん。お礼を言うのは私のほうだよ。だから、まぁ…これからもよろしくね」 「おう」 一護たちを見送り、は家まで駆けた。 見慣れた我が家。 ほんの数週間留守にしていたけど、帰ってこれたことに嬉しく感じる。 は軽く深呼吸する。 「ただいま!」 夏休みに起こった、誰も知らない、たちしか知らない旅行は終わりを告げた。 「それでも、俺が好きなのは君だよ」 私も。 同じ気持ちです、浮竹さん。 生生流転終了。
途中まで公開していた第二部は撤去済み。再開あるかは未定です。
06/05/08
12/05/05再UP
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