生生流転




ドリーム小説
#28





「それじゃあさ、少しの間放っておいたら?」

京楽にそう言われた。

「それって何か効果があるんですか?」

「あるよ〜ついでにボクが余計な一言を言っておいてあげるから」

「よ!余計な一言なんて言わないでくださいよ!」

何を言うのだ、いったい。
はブツブツ文句を言いながらも京楽がご馳走してくれる寿司を食べる。
何が食べたい?と言われて沢山身体を動かしたのでご飯モノが良いと言ったら
瀞霊廷でも高級とされる寿司屋に連れて行かれた。
死神も寿司を食べるのだな〜としばらく握ってくれる板さんを見続けてしまった。

「あいつはね、その手の話に疎すぎるんだよ。その癖独占欲は強くて我がままなんだ」

「はあ?我がまま……浮竹さんが、ですか?」

「そう、我がままだよ〜と言っても隊士たちにそんな顔は見せないけどね」

と一緒にいるのと昼間だと言うことに気を使ってか京楽は酒には手を出さず茶を飲んでいる。

「じゃあ京楽さんしか知らないような感じですね」

「付き合い長いからね〜」

くつくつと笑う京楽。
本当に長いこと付き合ってきたものだと思い返してしまう。

「だからさ、ちゃんは何も動かなくていいよ。そのうち我慢しきれなくて浮竹のほうから近寄ってくるよ」

「………」

「ん?どうしたの?」

「えーと、その…私の方が我慢できるかわからないのですが」

少し困ったように笑う
京楽はそこまで浮竹に惚れこんだかと少し面食らう。

「正直だねぇ、ちゃんは」

「その、多分…私も我がままなんです」

「本当、浮竹が羨ましいねぇ」

こんなに純粋に想われてしまって。
立場なんか関係ない、いいじゃないかと思う。
色んな想いの形があるんだ、終わりだって様々だろう。
彼女が現世へ戻って終わるかどうか、そんなのはまだわかりはしない…



***



京楽とそんな話をしてから丸々一日が経った。
尸魂界での生活も残りわずかだろう。
自分たちが現世へ帰る為の穿界門も準備されている。

「………」

最後の最後でこんな風になろうとは思わなかった。
浮竹が過去の自分を助けてくれた死神だとわかっただけで良かったはずなのに。
勢いとはいえ告ってあっさり流された。

「本当。私ってば何しに来たんだか…」

こんなこと一護たちに言えないと苦笑する。
でも、浮竹がくれた言葉は嘘ではない。
悩んで落ち込んだ自分にくれた言葉だ。

『朽木を助けたいと思った気持ちは嘘ではないだろう?仲間を守ると決めたのも嘘ではないだろう?』

『それに君は何もしていないと自分では言うが、いつも誰かの為に何かしていたよ』

『何もしていないなんてことない。君は、十分誰かの為に何かをしている』

それが聞けただけでも、気持ちに整理ができたことだけは浮竹に感謝せねばならない。
もし、本当にこのまま浮竹と関わらずに現世に戻ることになったならば、お礼だけは何らかの形で浮竹に言いたい。
そう思った。

「お前はよ…」

「ひぃ!」

突然背後に聞こえた声には驚き顔を振り返った。
そこには呆れたように立っている一護がいた。

「く、黒崎……なによ、突然」

「ん〜忙しい奴だなって思って」

「はあ?」

一護はの隣にストンと腰を下ろした。
一護は縁側でボーっとしているを見つけてなんとなく声をかけた。
ルキア救出の為に一緒に尸魂界へ乗り込んだ時は、普通だった
そう、普通。
気張るわけでもなく、だらけるわけでもなく、普通にしていた
突入の際にの腕をつかめなく離れてしまったことに後悔をしていた。
自分に比べれば要領はいいからきっと無事でいるとは思ってはいたが。
再会した時からの様子は変わっていた。
何かに耐えながらも、仲間たちには心配をかけままいとしていた。

「ここに来る前のって単純にたつきのダチってことぐらいしか認識なかった」

「なに、突然」

「黙って聞けって。俺のこと見て怖がる奴突っかかってくる奴色々いたけど。
は別に俺の噂とか聞いても動じることもなくて普通に接してきてよ」

勝手に流れるどうでもいい噂。
一々説明、弁解するのも面倒だからそのままにしていた。
それで勝手な黒崎一護と言うイメージを植えつけられた。

「だって、噂は噂で。別に黒埼がどうってわけじゃないしさ」

「だからさ。いつも普通に笑ってるなって思っていたから、双極で再会した時驚いた」

「………」

「こんな顔したお前を見るの初めてだって。別にがまったく悩みのない能天気な奴だとは思ってねーけど」

「うわ、酷い」

「なんか、ずっと悩みっぱなしに見える。しかも気分が上昇したり下降したり忙しい奴だなって」

心配かけまいと思っていたのに、一護にはしっかり見られていたようだ。

「もうすぐ帰るんだぜ、俺たち。変にしこり残したままにするなよ」

「黒崎……うん、そうしたいけど……」

どんな結果に転んでも難しい気はする。
でも理由を聞かずにそう言ってくれる一護には感謝した。

「黒崎もいい男なんだけどな〜」

「な、なんだよ」

「織姫や朽木さんを相手にするつもりないし」

「はあ?」

「黒崎の友だちって地位で満足しとこう」

「意味わかんねーよ」

「あははは。ね、黒崎」

「ん?」

「私、役には立たなかっただろうけど、尸魂界に一緒に連れて行ってもらえて良かったよ」

悩んでいた顔は消えうせは言った。
一護はそうかと一言呟いた。

「向こうに帰ったら、まだ夏休み残ってるよね」

「思った以上に残ってねーか?」

「だったら、皆でどっか遊びに行こうよ。海でも遊園地でも、この際近所の公園でもいいや」

「花火するか?」

「やろう、やろう」

気持ちは自然と現世でのことに向かっていた。
思うようにしていたのかもしれない。
自分から動く気はなかった。
下手に突っ込んで浮竹を困らせたくないと思ったから。
いや、京楽に自分も我がままだと言った…我がままだから、これ以上傷つきたくないのかもしれない。



***



もやもやっとしたものが浮竹の中にあった。

なんだ、これは。

ずっと考えていたが、いまいちわからず。
悩み続けていたらいつまでも考えていそうだったが、生憎暇ではない。
三人もの隊長が抜けて、副隊長を含めて大分回復したとはいえ重傷者が多数いる。
ここ最近まで病気のためとは言え寝ていた浮竹。
今はいたって体の調子も良いので他隊の雑務なども十三番隊で引き受けていた。
もちろん、それは他の隊も同様だが。
おかげで仕事に没頭して余計なことは考えずにいられた。

「…よし。これはいいな。仙太郎持っていってくれ。清音はこっちを頼む」

「はい」

副隊長はいないが、十三番隊は有能な三席が二人もいる。
自分が寝込みがちなのをいつもカバーしてくれる。
二人に沢山の書類を託したあと、一息ついた。

「静かだな……」

今、雨乾堂には浮竹一人。
咽喉も渇いたので休憩をするつもりで茶を淹れる。
卯ノ花から豆大福をもらったのでそれをお茶請けにした。

「………」

一口食べるが、すぐに止めてしまう。

「………つまらん」

文机に片肘をつく。
雨乾堂は瀞霊廷内でも静かな場所だ。
学校でもないので、賑やかな声など聞こえない。

『君、当分ちゃんに近づくな』

『もっとも、ちゃんはもうお前の前には顔を出さないと思うけどね』

『持っているものが違うんだよ・・・抱いているものとでも言うのかな』

『浮竹も持っていて、気づいていないだけかもしれないけどねぇ』

あまり考えたくなかったことなのに、仕事も一息ついて誰もいない静かな場所の所為か
京楽の言葉が反復される。

「なんで京楽に言われるんだ、そんなこと」

思い出すだけでも腹立たしい。
と一緒にいた時間ならば京楽よりもずっと長いのに。
それでも、京楽は言った。

『彼女のためだよ。今のお前さんは酷だ』

自分は彼女を傷つけるようなことをしたと言う。
わからない。
何がいけないのか。

「美味くない……」

食べかけの豆大福に湯気が段々と消えていくお茶。
いつもと同じことをしているのに、いつもと同じ気分にはならない。

は本当に沢山食べるなぁ』

『あーもう!浮竹さん、に与えすぎです!』

『すまん。が美味そうに食うから、ついな』

も駄目でしょ。なんでもホイホイ食べちゃ駄目!』

ほんの少し前に見られた光景。
外では色んな騒ぎが起こっていたのに、不思議と雨乾堂だけは違った。

「……最近、も来ないな」

主人に忠実で利口な犬。
浮竹にも早くから警戒心を解いてくれて懐いてくれた。
その犬も主人同様、自分の前には姿を見せない。

『とにかくさ、このまま会わないでさよならしちゃった方がいいよ』

『どうせ、もうすぐ現世に帰るんだ、いいじゃないか』

そうだ、もう彼女たちがここにいる理由はない。
元々ここは彼女たちが住まう世界ではない。

一護とは今後も多少かかわりが起きそうだが、とは。
これでお別れと言う確率の方が高い。
藍染たちが現世でも何かを起こそうとするならば別だろうが。

なんとなく。
にはそれに関わって欲しくない。
彼女はまた戦いになったら悩むのだろうな…

その時、そばにいる誰かがを支えるのだろう。
それは自分ではない。

「ああ…まただ」

もやっとしたものが沸き立つ。
長く生きているだけに、このもやっとしたものが思い出せない。
いや、初めてか?

時間はさほど残っていない。
もう終わりだ。
浮竹が気づかないならこのままだ。
それは嫌だ。
せめて笑って見送りたい。
このままだと京楽に無理矢理引き離されてしまうかもしれない。

「なんだ、まだ気づいていないのかい?じゃあちゃんと会うのダメ〜」

とか言ってニヤニヤ笑って追い出されそうだ。

「あ。今すごく腹がたった」

相手はそこにいないのに思わずムッと顔を歪ませてしまう。

「ただ……このままってのは寂しいな」

浮竹は冷めてしまった茶を飲み干した。
休憩になったようなならなかったような、いまいちわからないが
仕事を再開しようとお茶請けの豆大福を文机から下ろし書類を置いた。
筆を握った時、外から声が聞こえた。

「あ、あの浮竹さん。いますか?」

それはの声だった。








06/04/13
12/05/05再UP