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生生流転
#25 「黒崎、もう起きて大丈夫なの?」 は一護が収容された四番隊の総合救護詰所に顔を出すと、彼は起きて死覇装に着替えていた。 「。あぁもう平気だ。傷も塞がってる」 「嘘。だって、同じように怪我した朽木さんのお兄さん、まだ起きられないよ?」 と言うより、黒崎の方が重症でしょ?とは言う。 一護は少し口先を尖らせながらも、ぶんぶんと腕を振り回す。 「ほら、なんともねーよ」 「えー寝てなよ」 「嫌だ。どこも悪くねーよ」 「もう……」 折角見舞い品としてお菓子を山のように持ってきたのに。 主に、浮竹に持たされた物ばかりだが。 「ところで、お前一人か?チャドたちは?」 「皆、あちこち連れ回されているよ」 は軽く笑う。 敵対していた筈なのに、一変して妙に気に入られた。 死神たちの性格ってのもあるのだろうが。 「私は浮竹さんから黒崎にって見舞い品預かってきたからね、なんとか逃げれた」 「逃げるって、どんなだよ…」 「あはは。ってことで、浮竹さんから」 見舞いでよく見かける果物の詰め合わせのカゴ。 でも、が一護に渡したのには、お菓子いっぱいのカゴ。 たらっと汗が流れる一護。 「こ、こんなにどうしろって言うんだよ」 「食べればいいじゃん」 「食えるかっ!」 「だったら、診てくれた四番隊の人にでも渡せば?みんなで食べてくださいって」 「あぁ、そうする」 一護は渋々ながらもそれを受け取り、適当に置く。 「今日ぐらい大人しくしていたら?昨日の今日だし」 「ん?本当にもう大丈夫なんだよ」 「それでも、だよ。黒崎が一番頑張ったようだし、しっかり身体休めなよ」 半ば強引にベッドに一護を座らせ、自分も椅子を持ってきて座る。 天気が良いので開けた窓から、心地よい風が入ってくる。 一護が口を開く。 「浮竹さんから色々聞いた」 「そうなんだ」 「あぁ。昨夜な……一応、お前のこと心配してたんだけどよ」 「……ありがと」 「いや、かえって浮竹さんと一緒で良かったじゃねーか。危険なことなくてさ」 「……うん」 は一護から目線をそらす。 「どうした?」 「……うん、その……」 上手く言葉にできないで悩む。 素直に言っても良いものか。 俯き加減で口をキュッと結んでいるに一護は少し考えてから、彼女の額を軽く叩いた。 「なに?」 「お前、あの時もそんな顔していたぞ」 「あの時?」 「双極で、倒れてる俺んとこ駆けつけた時」 「……うん、そうかもしれない」 「俺は治療中だったし、よく覚えてねーけど、お前一人だけ様子も変だった」 石田に声をかけられるまでずっと心はここにあらず。 そんな感じだった。 「言ってみろよ、聞いてやるから」 「あーその……」 昨晩石田にも聞かれたが答えられなかった。 でも、今言えそうだと思った。 聞いてやると、一護ははっきり言ったわけだし。 「私ね」 は思い切って口を開く。 だが、運悪く邪魔者が訪れた。 「一護ー調子どう?」 「黒崎君!」 織姫と、十番隊の副隊長だと言う松本乱菊だ。 その後ろに茶渡も石田もいるのだが。 は言いかけた言葉を飲み込み、織姫たちに顔を向ける。 「こんにちは、乱菊さん」 「もいたのね」 「はい、浮竹さんからお見舞いの品を預かってましたから…じゃあ私は行くね」 「え、おい、」 「乱菊さん、ごゆっくり〜」 一護の呼び止める声には振り返りもせずに出て行ってしまった。 「お前ら、タイミング悪い…」 「あら、なに?告白でもする所だったの?」 「ち、違うっ!」 少し顔を赤くし、一護は乱菊に枕を投げつけた。 でも乱菊は簡単に避けて、それは石田に当たるのだった。 *** あれから時間だけが過ぎていく。 でも、誰にも何も言い出せない。 誰かにちゃんと言いたい気持ちと言えない気持ちがぶつかっている。 そして、自然と雨乾堂に足を向けるが、中に入ろうとまでは行かずに戻ってしまう。 それの繰り返しだ。 浮竹に話を聞いてもらいたいのか、会いたいのか。 イマイチ自分の中では定かではない。 隊長が三人抜けて、更に隊長二人、副隊長一人が重傷。 浮竹も毎日忙しいだろうなと思う。 でも、気持ちは自然に向いてしまう。 今日も、遅くに雨乾堂の近くまで来てしまった。 「………って、馬鹿だな、自分」 手すりに背をつけてずるずると座り込んでしまう。 「誰に言ってもしょうがないことなのに……」 誰かにそれを言って、違うと言ってもらいたい。 でも言われた所で、そんなことないと否定する自分が必ず出てくる。 ギュッと膝を抱えて顔を埋める。 (私って前からこんな奴だったっけ?) 以前は悩みがあっても、深く考えずに一人で解決していた気がする。 誰かを求めることもなく。いつも自分で。 寧ろ、誰かがに頼る事のほうが多かった気がする。 部活であったり、日常であったり。 でも、頼られることはあっても、頼ることになれていないから だから、ぐずぐずしてしまうのだ。 早くすっきりしたい気持ち、でも頼るのは自分のプライドが許せない。 単純に素直になれない、天邪鬼だ。 「こんな自分……嫌いだ」 一護たちに、どうした?って心配ばかりされて。 そのくせ、なんでもないと話そうとしない。 そんな、自分… 「俺は嫌いじゃないぞ」 頭上から聞こえた声には顔をあげた。 浮竹がニコニコしながら立っているではないか。 「浮…竹さん……」 「毎日、ここまで来てくれるのに、中々声をかけてくれないからな。今日は帰られる前に俺から君に声をかけてみた」 「あ、私」 「また溜め込んでいるようだな。大体想像はつくけど」 浮竹は膝を曲げての頭を軽く撫でる。 「君は一護君たちと再会できて喜んでいるようだけど、時折寂しそうにしていた。それと関係がありそうだな」 浮竹を見上げるの顔。 口元が少し震えてきている。 「俺にならば話せると思ったんじゃないか?だからいつもここまで来てくれた」 長い付き合いの友人たちより、自分を頼ってくれたことが嬉しく思う。 はポツリポツリと話し出す。 「私、前にも…浮竹さんに言ったけど、何もできてない自分が嫌で」 「あぁ、聞いた。でも、戦うだけが人の役に立つわけではないと俺は答えた」 「私にしかできないことがあるって、言ってくれました。でも、それが何か思いつかなくて」 「………」 「黒崎たちは皆ボロボロになるまで頑張って、織姫は傷を癒すことができて…でも、私は」 何もできない。 何も役に立たない。 戦うこともなく。 傷を癒すこともできない。 ずっと。 守られていた。 「一護君たちはそんな風には思っていないと思うな、俺は」 「そうでしょうか?尸魂界に来る前に大きなこと言ったとか、思われても」 「君は納得しないかもしれないけど、君がそこにいるだけでもいいって俺には感じる」 「……?」 「気づいていたかい?君がいると、自然と皆が笑顔になるんだ。俺も君がそばにいると楽しいよ」 に笑いかけられると、恥ずかしく思いながらも嬉しくなる。 に泣かれると、どうして良いか迷うが、心苦しく自分も悲しくなる。 単純にそう感じる。 「浮竹さん…私、今まで自分でなんとかしてきて、誰かを頼ることもなくて…でも…」 胸の奥からこみ上げてくる何か。 鼻の奥がツーンとして、じわりと涙が滲む。 泣きたい。 思いっきり。 恥ずかしさとか、バツの悪さとか色々思うところはあるけど。 浮竹の前でなら、素直に泣ける。 泣いてすっきりしてしまいたい。 意外にも弱く小さかった自分。 そんな自分を否定せずに浮竹は見てくれる。 こんな自分でも良いのですか? 「ここに何しに来たのだろう。何のために来たのだろう、いる意味がないって思って…」 「朽木を助けたいと思った気持ちは嘘ではないだろう?仲間を守ると決めたのも嘘ではないだろう?」 「………」 「それに君は何もしていないと自分では言うが、いつも誰かの為に何かしていたよ」 「え……」 そんな記憶、取った行動はない。 だが、浮竹はあると言う。 「一護君が抛った朽木をで受け止めてくれた。倒れた七緒君を看てくれた」 浮竹はの手を取る。 「それに、俺のこと、心配して庇ってくれた」 京楽に聞いた。 自分のことより旅禍を匿っている浮竹のことを心配していたと。 山本と戦った後にも、軽く怪我した浮竹の傷を看てくれたりもした。 いつも、何かしら心配してくれる。 「何もしていないなんてことない。君は、十分誰かの為に何かをしている」 そんな風に思ってもみなかった。 きっと浮竹のことだ、前向きな言葉をくれるだろうなって考えていた。 これからだとか、そんなに気にすることはないとか。 でも、それだけではなかった。 「本当…ですか?」 「あぁ本当だ」 「うっ……ふっ………」 もう抑えられなかった。 溢れてくる想いと涙。 嬉しかった、浮竹の言葉が。 は浮竹に抱きつき思いきり泣いた。 浮竹は咎めることも、止めることもなく受け止める。 「浮竹さんが、くれる言葉は…私を安心させてくれます…前を向いて歩ける…」 この人だ。 絶対、この人が、昔、虚から自分を助けてくれた人だ。 生きろと言ってくれた、死神は。 絶対、浮竹だ。 「浮竹さんにまた会えて良かった…私…浮竹さんが、好きです」 「あぁ、俺も君が好きだよ」 06/03/12
12/05/05再UP
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