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生生流転
#21 雨乾堂 告げられたのはルキアの処刑時刻変更のこと。 まだなんとかなる。 まだ大丈夫だ。 昨晩浮竹とそんな話しをしたのに。 「……どうすればいいんだろ…黒崎、織姫…皆…」 方々に散ってしまった仲間たち。 最初から一緒に行動していたら違う結果になっていただろうか? ルキアを取り戻し自分たちの世界へ帰れただろうか? “もし”などと今更考えてもしょうがない。 今はこれからを考えるべきだ。 一護たちは知っているだろうか、この事を。 は部屋の中を見回す。 現在、雨乾堂にはとのみだ。 浮竹は変更の報告を聞いてどこかに行ってしまった。 「ふぅ…」 心配そうに自分を見つめる優しい目。 はに軽く抱きつく。 「、今の私にできることって何かな」 迷い不安はいっぱいある。 はそれを振り払うかのように、軽く自分の頬を叩く。 「浮竹さんが言ってくれた。私にしかできないこときっとある…手伝うって決めたんだから」 一護を守ると言った織姫。 そんな織姫を親友に代わって守ると誓って尸魂界へ来た。 でも、今はそれができない。 できない代わりに、今できることをしよう。 自分にしかできないこと。 何かきっとあるはずだから。 あの人と一緒にルキアを救う。 夜・某所。 月が綺麗に輝いている。 処刑前夜だが、瀞霊廷内は不気味なほど静かだった。 月が綺麗に見える場所で京楽は寝転びながら酒を飲んでいた。 「お〜や、おや。これはこれは。六番隊の朽木白哉隊長じゃあ〜りませんか」 そこを通りかかったのはルキアの兄白哉。 「春水…」 「いいお月さんだねぇ。この廊下は絶好の月見酒のポイントでな。あぁ俺に遠慮なくどうぞ踏み倒していってやってくださいよ」 「兄に用はない」 通り過ぎようとする白哉に向かって京楽は呟く。 「妹さん……お気の毒に」 それが耳に入り足を止める白哉。 「何が言いたい」 「いやいや他意はないさ。本当に気の毒だと思って」 「上が決めたことだ」 「そりゃあ、ちょっと杓子定規じゃないかい?まぁ俺が口を挟むようなことじゃないけど」 「秩序は守られるためにある」 「世界の秩序なんてもんは犬の糞以下だって言った奴もいるけどねぇ」 「失礼する」 京楽のことを一度も見もせずに再び歩き出す白哉。 京楽も別に白哉など見ずに月へと視線を移す。 「それにしても、いい月だねぇ」 京楽は一気に酒を飲み干す。 それから少ししてそこに浮竹が姿を現す。 京楽は先ほどの白哉との会話を聞かせる。 「白哉はそういう男だ。感情を表に出したのを見た事がない。当然そう言うさ」 座っている京楽の横で拱手している浮竹。 彼の視線も月へと向かっている。 「どうもきな臭いんだよなぁ…」 「あぁ」 「妹の処刑を眉一つ動かさず見届けようとする兄貴がいて、お山の天辺の奴が何かしでかそうとしてて月が綺麗で酒は美味いが、どうも嫌なにおいがプンプンで…さぁ、どうする?」 「どうもこうもない。朽木ルキアは俺の部下だ」 「そう言うと思ったよ、この二枚目。霊術院の頃からちっとも変わらないねぇアンタぁ」 軽く笑って旧友の顔を見る。 「やれやれ、しょうがないね」 「すまんな…」 「なぁに気にすんな、腐れ縁って奴だ」 二人は決意する。 「…それで、あの子はどうするんだい?」 「………」 「多分、ついてくるだろうねぇ」 短い時間しかあっていないが、京楽にもそれはわかる。 それに元々京楽が出会った旅禍の少年もそうだが、彼らの目的はルキア救出だ。 「…あぁ。できれば、大人しく雨乾堂で待っていてほしいのだが…」 「彼女の行動を勝手に決めちゃあいけないよ、浮竹」 「………」 「好きなようにやらせてあげなさいな。それでも心配なら君が守ってやればいい」 「京楽…」 「いい子だよねぇ、ちゃん。僕が一戦交えた旅禍の坊やも中々いい子だったよ」 旅禍だからとかは関係なく、思ったこと。 力強く自分に向かって言った。 浅い付き合い、命をかけるのは可笑しいのではと言う問いに。 『浅いかどうかは周りじゃなくて自分で決めます』 と。 「そんな事はお前に言われなくても知ってるさ」 「あららぁ、しまりのない顔しちゃってさぁ〜聞いてみたいことあるんだけどいい?」 「な、なんだ」 くくくっと咽喉の奥で笑いながら京楽の目は玩具を得て喜んでいるように見える。 たじろく浮竹。 長い付き合いなだけにわかる。 自分をからかおうとしているんだ、この男は。 「ずっと雨乾堂で寝起きを共にしていたんだよね?ちゃんと」 「そ、そうだが。しょうがないだろ?他の奴らに見つかったらまずいし」 「そうなんだけどさぁ。浮竹、ちゃんに手、出したりしなかった?」 息を飲み込む浮竹。 薄っすらと頬が赤く染まる。 「なっ!何馬鹿なことを言うんだ!お前はっ!ふ、不謹慎だぞ」 「あー出してないんだ。なんだ、つまらないなぁ」 「つまらないってお前……今の状況で言うか、普通…」 「あ〜ごめんごめん」 とは言うものの、京楽の顔は笑っている。 反省の色など全く見えない。 「じゃあ、今みたいな状況じゃなかったらお手つきしてたのかな〜?」 「……その前に出会うこともなかっただろ…」 「ふーん」 酒瓶を持って京楽は立ち上がる。 「とりあえず、明日。処刑を止めようじゃないの」 「あぁ」 「行くか?」 「あぁ」 二人は月を背にして奥へと消えて行った。 *** 「石田くん、茶渡くん、岩鷲くん!!みんな無事だったんだね!よかった!」 四番隊総合救護詰所の牢にて、十一番隊の隊長更木が石田たちの前に現れた。 石田、茶渡、岩鷲は負傷し今までここにいたのだ。 突然の出来事に驚くも、織姫が更木の背中から顔を出したのだ。 「い…井上さん!?」 更木の他に副隊長の草鹿やちるに一護と戦った斑目一角、岩鷲と戦った綾瀬川弓親、それと石田と面識のある荒巻もいた。 織姫はこれまでの経緯を三人に話す。 三人は適当に置いてあった死覇装に着替えながら話しを聞く。 三人も牢にいる間に情報を纏めていたのでそれを話す。 「…じゃあちゃんと夜一さんだけどこにいるのかわからないんだ」 彼女が皆と一緒にいるかもと言う期待が外れて織姫は少し俯いてしまう。 「夜一さんは大丈夫だと思う。俺たちよりここに詳しいからな」 「さんも要領いいし、好戦的じゃないから逃げ切れていると思うよ」 現に旅禍に関する騒ぎがまったく起きていない。 ただ茶渡には京楽が他の隊長も動いていると言っていたのが気にかかったのだが。 「うん…だといいなぁ」 「さんにはもついているし」 「おい、お前らそろそろ行くぞ」 一角に言われる。 織姫たちは頷いて彼らの後に続いた。 「じゃあ…俺は行くぜ」 「…ああ」 処刑が行われる双極の地下深くで一護は更なる強さを得る為に卍解修行を行っていた。 昨日から六番隊副隊長、阿散井恋次がそこで同様に卍解修行を行い、一護よりいち早く会得しここから出ようとしていた。 「夜一さんよォ。あいつは…本当に大丈夫なのか?」 「…案ずるな」 そう答えられても別に恋次は案じてはいない。 単純に死なないだろうか、卍解までたどり着けるのかと思っていたのだ。 でも夜一はきっと一護が卍解を会得できると信じていた。 各隊の隊長たちも動き出していた。 双極への出立していた。 一護たちは知らないが、中には処刑を止めようとしている者もいるようだ。 それぞれ思惑が双極へと注がれる。 *** 朝から空気がピリピリしていた。 処刑まで時間がないと言う時にあちこちから感じる霊圧のぶつかり合い。 一護たちがと思ったのだが、の知らない霊圧だ。 は浮竹を待っていた。 ある部屋の入口で同様に仙太郎と清音も。 待たされている時間が酷く長く感じる。 「大丈夫、まだ大丈夫…」 は祈るような気持ちで天井を見つめる。 すると突然とてつもない力を感じた。 空気が震え強い光が遠くから差し込んでくる。 「ィやべェぞ、清音!!処刑始まったクせぇ!!隊長まだかよ!?」 「うるっさい!!聞こえているわよ!!いちいち怒鳴んないでよ、ワキクサアゴヒゲ猿!!隊長!!!!」 煩いと怒鳴っておきながら清音は部屋の中にいる浮竹に向かって大声をかける。 そして扉の前で処刑開始を伝える。 「隊長!まだですか!?朽木さんの処刑が始まりました!!急がないと…」 は踵を返す。 「朽木さん…」 そのまま一歩踏み出すが、仙太郎に腕を捉れる。 「コラ、勝手に行くな。隊長がもうすぐ出てくる」 「………」 は伏せ目がちになる。 「皆おめーと同じ気持ちだ、だが待ってろ」 「はい」 一人先走っても意味はない。 浮竹には処刑を止める手立てがあるのだから、待とう。 の様子を確認してから仙太郎も掴んでいた手を離した。 清音は扉を叩きながら中へ呼びかける。 少しして扉が開き、浮竹が姿を見せる。 「…待たせてすまない……ちょっとばかり封印の解除に手間取っちまってな…だが…これでいける…!」 大きな盾の様なものを手にして出てきた。 「中央四十六室への進言も通らなかった今…最早手段はこれしかない…」 仙太郎と清音は浮竹の前に片膝をつきまっすぐに見つめる。 「行くぞ。双極を破壊する」 「「はい!!」」 浮竹は少し離れて立っているに目を向ける。 「君…君は」 「私も当然一緒に行きますから」 「君」 の目は少し前の辛そうな不安でいっぱいだったものではなくなっていた。 「浮竹さんがダメだって言っても、こればかりは私聞けませんから」 強い目でニッコリと笑う。 「置いていかれても、私は私で勝手に着いて行きます」 最初からわかっていたことだ。 彼女はそのために来たのだ。 京楽にも言われた。 彼女を止める権利は自分にはない。 『好きなようにやらせてあげなさいな。それでも心配なら君が守ってやればいい』 浮竹は小さく頷く。 「行こう、君」 「はい!」 処刑開始まであとわずか…… 京楽さんと兄。京楽さんと浮竹さんの会話はドラマCDからですよー。
06/02/11
12/05/05再UP
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