生生流転




ドリーム小説
#20 雨乾堂





「肌が少し黒い背の高い子だったね」

「茶渡と会ったんですか?…あの、それで茶渡は…」

「………」

京楽はそれ以上言わない。
ただのんびりと茶を啜りながら持ってきた人形焼を食べている。
最初に京楽が言った事を聞き返してようやく聞けた答え。

「あ、あの?」

「いやぁ、さっきのちゃん中々様になっていたよ」

あからさまに話題を変える京楽。

「茶渡、やられちゃったんですか?…」

「なんか浮竹のお嫁さんみたーい」

「きょ、京楽さん!はぐらかさないでください!そ、それと、お茶淹れただけですから」

真っ赤になって否定する

「そうかい?」

「そうです」

少しきつめに京楽を睨む

「そんなに怖い顔しなさんなって。可愛い顔が台無しだよ〜」

「話、ちゃんとしてください」

「そうだね。うん、彼と一戦交えたけど、今は四番隊の救護牢にいるよ」

「救護…牢…」

「まあ、色々聞かなきゃならないこともあったしね」

「……そうですか…」

捕まってはいるものの、茶渡も無事らしい。
後は石田と織姫だが…

「彼にも言ったんだけどね、君らはルキアちゃんとは短い付き合いなのに命かけるほどなのかい?」

「可笑しいですか?」

「浅い付き合いじゃないか」

「浅いかどうかは周りじゃなくて自分で決めます」

「おや」

「私は朽木さんに命を助けてもらいました。だから、今度は私が助ける番…なんですけど……」

瀞霊廷に突入してからずっと雨乾堂にいる。
大して動けもせず、浮竹を巻きこんで。

「どうしたの?」

「浮竹さんにご迷惑をかけているんで、なんか…」

浮竹は気にするなと言いはしたが、はそうは思えない。
こうして京楽が来て、彼が何を考えているのかはよくわからないが、簡単に見つかってしまったわけだし。
他の隊長たちならば、どうなってしまうのか心配でもある。

はギュッと袴を握る。

「浮竹が良いって言うなら良いんじゃないの?」

「でも……」

ドタドタドタドタ!!

何やら外が騒がしい。

「あー帰ってきちゃったみたいだなぁ」

「え?」

君!無事か!?」

勢いよく飛び込んできた浮竹には目を丸くする。
京楽は軽く笑みを浮かべている。

「無事って、酷いなぁ浮竹。ボクがちゃんに危害を加えるわけないだろう?」

「きょ、京楽…お前」

「お早いお帰りだな、浮竹。人形焼あるぞ」

「……俺がいないと知っていてここに来たな」

「さあ?どうだろうねぇ。でも本当早いな」

浮竹はの近くに腰を下ろす。
京楽から守るかのように。
同じようには浮竹の側に座り込んだ。

が教えてくれたんだ。は本当に賢いな」

浮竹は人形焼を一つ手に取り、そのままに与える。

「偉かったぞ、

「随分懐かれてるじゃないの。ボクには威嚇してきたんだぞ」

「俺とは仲良しなんだ」

なぁ。とに問い、は尻尾を振った。
そして、の顔を見ると、何やら浮かない表情の彼女に気付く。

「やっぱり、君に何かしたな、京楽」

「何もしてないよ、酷いな〜」

浮竹は長い付き合いの男を凝視する。
京楽は単純に笑っているだけだ。

「それよりさー。ボクに黙ってるなんて酷いじゃないのさ。こんな可愛い子隠しておくなんてさ」

「仕方ないだろ、君は…その旅禍なんだから」

「だから、ちょっとどんな子か見にきただけだよ、ボクは」

やはり、自分が不在の時を狙ってきたじゃないか。

「まさか、他にばれているのか!?」

「いいや、気付いたのはボクだけだと思うよ。誰も思わないだろうしね」

隊長の一人が旅禍を匿っているなど。
周りはその旅禍を捕まえようと躍起になっていると言うのに。
ついでに言うならば、総隊長がかなりご立腹なのだ。

君は悪くないぞ。俺がここにいろと言った。だから」

「君たちはお互いでそんな事言って〜こっちが恥ずかしくなるじゃないか」

「は?」

「あ、あの!」

余計なことは言わないでくれとの目が訴えている。
わかったと京楽は軽く頷く。

「さてと、ボクはそろそろ行こうかな」

「京楽」

「言わないよ。誰にも」

よっこいしょと京楽は立ち上がる。

「またね、ちゃん」

は京楽に頭を下げる。
堅苦しい態度のままなのが少し残念だと思いながら、少し怖がらせてしまったかもと言うことを思えば
仕方ないと苦笑する。
京楽は雨乾堂から出て行く。

「いい子じゃないのさ〜まったく…」

自分の立場を考えて浮竹を心配している姿が。
ちょっと羨ましい〜とか思いながら気持ち良さげに歌を口ずさみながら歩いて行った。



京楽が去った雨乾堂では浮竹がに向かって謝り始めた。

君、すまない。大丈夫だと思ったのだが、京楽が」

「い、いえ!浮竹さんが謝るのは可笑しいです。京楽さんとは普通に話しをしただけです」

浮竹にはそのように見えない。
京楽が彼女に害をなしたとは思いはしないが、何かきっかけがあっただろうとは予想がつく。
何を一体言われたのだろうか?
京楽本人はなんてことはない一言なのだが、彼女にとっては気になる一言だったのだろう。

君」

はなんでもないと首を横に振る。

「あ、どうでした?朽木さんのこと」

「ん、あぁ…すぐには上手く行かないようだ」

「そうですよね」

旅禍の出現で余計に周りはピリピリしているだろうし。
は納得したように頷く。
浮竹はが誤魔化し話しを摩り替えてしまったことに息を吐いた。
本人が言わない以上仕方ないし。



***



よほど引きずっているのか、はずっと大人しかった。
何をそこまで気にしているのだろうか?
問いかけても、は答えず笑うだけだ。

一晩経ってもそれは変わらず、更には一日が簡単に過ぎた。
日中、浮竹は中央四十六室へルキアの処刑取り消しを求めてたりして忙しかった。
は必ず仙太郎か清音のどちらかと行動していた。
二人の話では、黙々と自分なりに鍛錬をしていたようだ。

そして、夜になりはさっさと寝てしまった。
も大人しく丸くなっている。
浮竹も早めに床についた。
一緒にいる時間が多かった昨日までと違って、今日は会話らしい会話がなく終わった。
それがなんとなく寂しく感じる。

それから数時間後…

小さな物音に気がついた。
一瞬漏れた月の光。
身体を起こすと隣で寝ているはずのの姿がない。
今のうちにと逃げ出したのだろうか?
いや、それならば連れて行くであろうも一緒だ。

「……君…」

は身体を丸めたまま伏せているが、目は浮竹に向けている。
を心配しているようだ。
はどこに行ったのかと霊圧を探るが、すぐ側。
雨乾堂の外にいることがわかった。
浮竹は心配そうに見るの頭を軽く撫でてから、自分も外に出た。

「…………」

「眠れないのか?」

ジッと月を眺めていたに浮竹が声をかける。
は肩をびくりとさせて振り返る。

「浮竹さん…あ、起こしちゃいました?」

「いや……」

「……す、すみません。また勝手なことして」

「謝るほどのことでもないさ……ただ」

「?」

君が心配だ。何度聞いても君は話してくれないから」

「………」

は視線をそらした。

「俺に、話してはもらえないのか?あー頼れるようには見えないだろうけどな」

中央四十六室への進言はいまだに通らない。
何とかすると言っても、何も変わらず時間だけが過ぎる。
そんなのを見ていればもがっかりしてしまうだろうと。
だが、はそんな事はないと首を振る。

「浮竹さんは頼りになります。すごく強い人だし」

「そうか?」

浮竹は頭を掻く。
強いと言われてピンと来ない。
確かに能力的な問題ならば自分は隊長だし、強い部類には入るだろう。
だが、ここ最近戦闘などしていないから。

「覚えていないですよね…と言うより、私が一方的にそうだと思っていたから…」

君?何の話だ?」

「私、一度浮竹さんに命を助けてもらっているんですよ?私の記憶に間違いがなければ」

「俺が、君を?」

やはり覚えていないか、は少し寂しそうに笑う。

「とりあえず、浮竹さんが頼れる人だと私は思っていますから」

はそれ以上言うつもりがないようだ。
数日だが、を見ていてわかる。
彼女は聞かれたくないことは有無を言わさず話題を変えたり、終わらせたりする。
そしてこれ以上は聞くなと、見えない壁を作り出している。
会ったばかりで簡単に仲良くはなれたが、踏み込むにはまだ時間が必要なようだ。
だが、浮竹はあえて踏み込む。

「だったら、話してくれ」

「何を、ですか…?」

君が今、悩んでいることだ」

「悩みなんかありませんよ」

「嘘だ。君は京楽と会ってから様子が違う」

「違いますか?そんなに……」

「俺が見てもわかるくらいに、もずっと心配そうに見ている」

は俯き、右手で浮竹の夜着を軽く掴んだ。

「私……何もしていないんです。何しにここに来たのかって……皆、朽木さんのためにって戦って…」

何もできない自分。
尸魂界へ行くと決めた日、織姫は一護を守るために行くと言った。
だったら、自分はたつきに変わって、織姫を守ると決めた。
でも、はぐれてしまってそれは果たされていない。
それどころか、安全な場所で日が過ぎるのを待っている。

「浮竹さんにも沢山迷惑をかけてしまって…」

「俺は迷惑だなんて思っていない。君は俺の部下を助けようとしてくれる。それだけでも俺は嬉しく思うよ」

「それでも、私は…」

「戦うだけが人の役に立つわけではない。今は何もできなくても、君にしかできないことが後できっとでてくるさ」

浮竹はの頭を優しく撫でる。
が考え込んでしまうのは、自分にも責任はある。
仲間の下へ行きたいだろうに、ずっと雨乾堂に留まらせているのだから。

君を悩ませてしまったのは俺の所為だな、すまん」

は小さく呟く。

「浮竹さんは悪くないです」

それどころか、旅禍である自分に良くしてくれる。
同じようにルキアを助けようとしていることで目的は同じなのだろうが、リスクを背負っている。

「浮竹さんは優しすぎます。私のことにまで気を使って」

「そんなことはないさ」

どうしたらこの子が塞ぎこむことがなくなるのだろうか?

どうしたらこの人に心配をかけずに済むだろうか?


笑ってくれるのが一番嬉しく思うのに…


「処刑まで日はある。まだ大丈夫だ、きっとなんとかなる、いや、してみせるさ」

「浮竹さん。私も、役に立てるよう頑張りますから、だから…なんでもいいから手伝わせてください」

「あぁ、頼むよ」

浮竹はの肩を抱く。

「身体が大分冷えてしまっただろ?もう寝たほうがいい、風邪をひくぞ」

「わ、私は平気です。浮竹さんこそお身体が弱いって…」

身体のことを言われると反論はできない。

「お茶でも飲んでから寝るとしようか」

少し温まってから。
そして明日、また考えよう。



だが、翌朝になって告げられたのは、ルキアの処刑時刻が変更になり早まったことだった。







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