生生流転




ドリーム小説
#16 雨乾堂・夕方。





は部屋に隅っこで体育座りをしていた。
壁に頭をつけて。
身体は斜めに傾いている。
が心配そうにの背中に前足でかくが反応が悪い。

「…………」

浮竹は自分の側に座り込んだの背中を軽く撫でた。

君。どうかしたのか?」

「………なんでもないです…」

「い、いや…そうは見えないのだが?」

「なんでもないです、本当に…」

昼間、少しだけ揉めたがはわかってくれたようで謝ってくれた。
それに関して浮竹自身は怒ってもいないから別にいい。
じゃあなんだ?

君、具合悪いのか?」

「悪くないです」

「そ、そうか」

「あのな、君」

「………なんですか?」

「その…なんでこっちを向かないんだ?」

ずっと背中を見せたままだ。

「………」

(原因は俺か?)

浮竹は頭を掻く。
ただ思い当たる節がない。
だから素直に言う。

「俺がなんかしたのか?だとしても理由がわからないのだが…」

の肩がびくりと揺れた。
そして顔だけ振り向ける。

君…あ、いや。ほ、本当なんだけどな…」

は唇をキツク結んで上目で浮竹を見る。
参ったと浮竹は再び頭を掻いた。

「別に……なんでもないですから」

「そうは見えないぞ、君」

「ほ、本当になんでもない…です…」

とか言いながらもの目から涙が溢れている。

「お、おいおい。なんだ?」

は強く涙を拭う。

「あーそんなに強くこすらないほうがいい」

「うっ…」

「ちゃんと言ってくれないか?じゃないと俺にはわからない」

しゃくりあげて、鼻を啜る
は先ほどの出来事を思い出し、ゆっくり話し出した。
それを聞き終えて、浮竹は唖然としてしまうのだが。

「………いや、確かにそう言ったが、別に俺はそんなつもりじゃないぞ?」

「だ、だって」

君。人の話はちゃんと最後まで聴こうな?」

「…え?」

昼間、浮竹の元から脱走を図った
その時、浮竹から。

「浮竹隊長って呼ぶの止めてくれないか?」

君はウチの隊士ってわけでもないし」

と言われた。
にはそれがショックだったようだ。
だが話は続いていた。

「あーちょっと言い方が悪いな。普通に呼んでくれてかまわないから。浮竹さんでも十四郎でもいいぞ」

「まぁ、呼び方には別にこだわらないけどな」

はははと笑ったのだ、浮竹は。

「…………」

「って俺は言ったのだけど」

「…………」

顔から火が出るとはこの事だ。
勝手に一人で落ち込んでいました。
それどころか、好きに呼べと浮竹は言っていた。
は両手で顔を覆う。

「す、すみません!わ、私勘違いしてて…な、なんか仲間はずれにされたような気分で…」

「はは、いいよ。俺の言い方も悪かったしな」

「う、浮竹さん…は悪くないですから」

「そうか?……でもなぁ…なんだか」

「は、はい?」

浮竹は顎に手をやり軽くなぞる。

君は俺に壁を作らないんだな」

「……壁、ですか?」

「そう、壁。会って間もないしな。まぁ俺もそうなんだろうけど、そんなに時間が経っているわけでもないのにな」

「…お、可笑しいですよね?」

「ん?いや。どちらかと言えば嬉しいかな」

「そ、そうですか?嫌じゃないですか?」

「別に」

ニコリと笑む浮竹にはホッとする。
ソレを見て浮竹は目を細める。

「なんだか、君とは始めて会った気がしないんだよな」

「え?」

「なんとなくな」

「………」

は俯く。

(覚えてないか…そうだよね。死神にとってあれはお仕事だろうし…)

あの頃の自分はもっと幼かったわけだし。

「ただ、君に泣かれるとどうしていいかわからなくて困るな」

「あ、その…ど、努力します。最近涙腺が弱いみたいで」

「そうなのか」

「色んな出来事がいっぺんに起きたから…ね、

を軽く抱きしめる。

「またに会えたし」

「………」

浮竹は頭を掻く。
この男、どうもそれが癖らしい。
何かを考えている時など自然とそうしていることがある。

君、もしかして」

「………あ」

を解放する。

「ん?どうかしたか?」

「…い、いえ。なんでもないです」

は笑って顔を横に振る。

(………これって黒崎だ…)

突然だったが、なんとなくわかった。
黒崎一護の霊圧だ。
どこかで戦っているようで、かなりでかい。

(近いのかな?………でも)

勝手な事はしないと浮竹とは約束したわけだし。

(浮竹さんは気付いているのかな?)

隊長クラスともなればこの程度気にも留めないのだろうか?

(謎だなぁ…)

はくすりと軽く笑んだ。



***



夕食も美味しかった。
お風呂も頂いた。
まったりのんびりしてしまう。
これを仲間たちが知ったらどうするだろう?
一護たちは身を隠して行動しているはずだし。

(そうなんだけど、考え方によっては隊長一人を味方につけたと考えればいいわけだし)

明日からどうなるだろう。
浮竹の方でも動いてくれといっていたし。
とりあえず明日の事は明日になって考えよう。

今日は色々あったからゆっくり寝てしまおう。
……寝る?

「あ、あ、あの!私ここで寝るんですか?」

「あぁ、そうだが?」

「……浮竹さんはご自宅に帰らないのですか?」

と言うか、ここから出るのをほとんど見ていない。
食事などすべてこの雨乾堂で済んでしまっている。
清音たちに話を聞けば、他の隊士たちが仕事をしている隊舎が少し離れた場所にあるとのことだ。

「大抵はここで寝起きしてるなぁ」

一応自宅ってのはあるらしいが。

「それがどうした?」

「……えっと、同じ部屋で寝るんですか?私」

「……あぁ。そうか。うーん、そうなるなぁ、別に俺は気にしないが?」

「してほしいです、少しぐらい」

「寝付けないなら一緒にねてやるぞ?」

「!?」

は力いっぱい首を横に振る。

(この人は私のこと子どもとでも思ってるのかな?)

「別に遠慮しなくていいのになぁ」

「……あ、あーと一緒に寝るので結構です」

「…………」

「な、なんですか?」

「それいいなぁ。俺もと寝てみたい。、最中あげるから俺と一緒に寝よう」

サッと取り出した菓子には尻尾を振る。

「食べ物で釣るのはダメです、浮竹さん」

「だそうだ、。でも見せてしまったから、コレだけはあげるな」

浮竹はに最中を与えた。





「浮竹さんはまだお仕事ですか?」

浮竹は筆を持って文机に向かっている。

「あと少しで終わるから、先に寝てていいぞ」

「………まだ眠くないから平気です」

は敷かれた布団の上に座っている。
しょうがないから同じ部屋で寝ることにした。

「そうか」

思えば浮竹の背中ばかり見ているなって思った。
初めて会った時も大きな背中が印象的だった。
たった数年だが、あの頃と変わらないように見えた。

(本当だったら出会うはずのない人、だよね…)

浮竹は死神。
は人間。

まして、本当だったら敵同士なのに。

(浮竹さんはあの日のことを覚えていない…思い出してもさほど変わらないよね)

助けてくれた。
にとって命の恩人。
記憶を封じられ思い出したのは最近だが、には根強く引っかかっている。
今目の前にいるから、余計に強く考えて思ってしまうのかもしれない。





「………」

「よし、これで終わりだ。君、すまなかったなぁ、灯りを……やれやれ」

筆を置いて振り返ればは座ったままうとうとしている。
は少し離れた所で丸くなっている。

「色々大変だな、君も」

浮竹はを横に寝かす。

「明日からまた大変だな、きっと」








人の話はちゃんと聞こう。と言う話。
05/12/02
12/03/21再UP